森本正史のレビュー一覧
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ネタバレ「所得」だけを見ていると、富の構造を見誤る
本書を読みながら最も大きく変わったのは、経済を見るときの視点だった。これまでは「いくら稼いでいるか」という所得のフローを中心に考えがちだったが、本書はその背後にある資本ストック、そこから生まれる所得、さらにそれが世代を越えて蓄積されていく構造を見せてくれる。
GDPや所得が「一年間にどれだけ生み出したか」というフローだとすれば、資産は過去から積み上がったストックである。この違いを意識すると、同じ「お金」の話でも見えてくる世界がまったく違ってくる。
資産は「持っているもの」ではなく「生み出すもの」として見る
本書を読み進めて、資産についても見方が変わった。資産とは単に現金、株式、不動産などを所有していることではなく、そこから将来の所得や便益を生み出すストックとして捉えられる。
金融資産なら配当や利息、不動産なら賃料、事業なら利益を生み出す。そして、さらに広げれば、知識、技能、経験、人脈、信用など、将来の所得を生み出す能力そのものも、人的資本という別の形のストックとして考えることができる。
「お金を持っているか」だけではなく、「将来の価値を生み出すものを持っているか」という視点が重要なのだと思った。
コップからあふれた水を使う
このことを考えていて、映画『マルサの女』に出てくる「コップから水があふれるまでは我慢し、あふれた分だけを使う」という資産家の話を思い出した。
これは単なる節約術ではない。資産ストックから生まれる収益が生活費を上回る状態をつくり、その余剰を再び資産に戻していくという、資本蓄積の構造そのものに見える。
資産をA、収益率をr、生活費をCとすれば、A×r>Cになったところから、資産収益だけではなく、その余剰まで次の資産形成に回せる。すると「働いて稼いで貯める」という段階から、「資産が生んだ余剰がさらに資産を生む」という段階へ移っていく。
お金が「お金を呼ぶ」という言い方も、こう考えれば神秘的な話ではない。
資産形成はお金だけの問題ではない
ただし、最初から大きな金融資産を持っている人ばかりではない。むしろ重要なのは、資産を形成するための原資をどこから作るかという問題だろう。
そこで人的資本という考え方が効いてくる。学習、経験、技能、信用、人脈などへの投資によって所得を生み出す能力が高まれば、その所得の一部を金融資産へ変換できる。
つまり、
能力を育てる
↓
所得を増やす
↓
余剰をつくる
↓
資産に変える
↓
資産が所得を生む
↓
さらに資産を増やす
という循環が考えられる。
「ある分使う」ことと「将来の自由度を買う」こと
もちろん、所得をすべて使わずに貯めればよいという単純な話でもない。現在の消費には現在の価値があり、経験や生活そのものも重要な便益を生む。
問題は、所得をすべて現在の消費に変えるのか、それとも一部を将来の所得や自由度を生むストックに変換するのか、という配分にある。
ここで本書の「資本」という視点が効いてくる。所得だけを見れば、毎年いくら入ってくるかが問題になる。しかし資産ストックまで見ると、「誰が何を所有しているのか」「その所有物はどんな所得を生むのか」「それは次の世代へどう移るのか」という別の問題が現れてくる。
格差を「所得差」だけで見ない
本書の意義は、格差を単なる年収の差としてではなく、資本の所有構造と、その資本が生み出す所得、さらに相続による世代間移転まで含めた長期的な現象として捉え直したところにあると思う。
r>gという有名な関係も、それだけを覚えて終わるものではない。重要なのは、資本から得られる収益が再投資され、資産ストックが拡大し、それを所有する人が次の世代へ資産を渡すという循環が、どのように社会の分布を形づくるかということだ。
そして読後に残ったのは、「どうすれば金持ちになれるか」という問いよりも、「人は所得だけでなく、どのようなストックを形成し、それをどのように次の価値創出につなげているのか」という問いだった。
『21世紀の資本』は、経済格差について書かれた本であると同時に、「フローだけを見るのではなく、ストックを見る」という認知フレームを与えてくれる本でもある。その視点を持つと、個人の家計から企業、国家、世代間の資産移転まで、これまでとは違った景色が見えてくる。 -
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19世紀から20世紀にかけての世界のお金の流れを、今までにない規模でのデータから集約、分析し、資本主義のなかで拡大する格差に歯止めが必要であると訴える書。
ふとしたきっかけから手にした、ピケティ『21世紀の資本』。
本文、およそ600ページ。
経済の話、苦手だし……、読んでもわからないかもしれないし……。
読まない理由はいくつもあったけれど、2010年代を代表するベストセラー、せっかくならどんな本か知りたい!と1ページ目から体当たりしていくことにしました。
さいしょは「資本」とか「所得」の用語が出てくるたびに、意味が頭に定着していないから、いちいち立ち止まっていました。
ノートにメモをとって、付箋をはって見返して。
くりかえしていくごとに、少しずつ定着して、第2部あたりからは、わからないなりにもなんとなく本のリズムにのって目を動かせるように。
基本的に、集約したデータの結果をグラフで示して、その内容を解説していく形式なので、経済に詳しくなくても案外(?)読めるな、というのが途中からの感想。
けっきょく、議論の詳細や深みを追うことはできなかったけれど、世界を流れているお金の量や、階層ごとの格差の規模感は、なんとなく肌で感じることができました。
とくに、上位1%の人々が所持している資産って、莫大だなあ。
これだけ資産があったら、好きな本を値段を気にせずいくらでも買えるかしら。
本書(5500円+税)をネットで注文したとき、クリックする手がふるえた本読みとしては、うらやましいかぎりです。
「あらゆる市民たちは、お金やその計測、それを取り巻く事実とその歴史に、真剣な興味を抱くべきだと思うのだ。お金を大量に持つ人々は、必ず自分の利益をしっかり守ろうとする。数字との取り組みを拒絶したところで、それが最も恵まれない人の利益にかなうことなど、まずあり得ないのだ。」
最後を締めくくるこの言葉が身に沁みる。
とりあえず、私は経済のもう少し基礎的な部分を学べる本をまた探して読んでみよう。 -
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この本の3分の1は、「21世紀の資本」という本の代名詞のようになっている r > g(資本利益は経済利益を上まわる)という式の解説である。残りの3分の2は、格差と資本集中の解消に資本に対する累進課税と、相続税への課税の有効性、政治と経済の関係についての考察である。とくに終わりにちかい50ページについては、EUの抱える問題点に言及がある。経済というと、様々な数式や、理論があるが、現実はどうだったのか。資料を集め精査し、経済理論の様々な色眼鏡を外してみると、事実が見えてきた。というかんじなのだ。いくつか、象徴的だと感じる瞬間が読んでいてある。たとえば、累進課税方式が格差をなくすための知恵の産物かと思いきや、大戦の戦費の穴埋めの目的で導入された事実などは、そう考えるとその結果は、偶然に近いものなのではないか。中間層があるのは、なにも、社会が進歩したというわけではない。放っておけば、いつかはもとの格差にもどるということなのか。考えることは、たくさんある。この本は、あまりに厚い。ここに書ききれないほどたくさん興味深いことが書かれているし、それぞれについて考えるとおもしろそうだ。私は、一回に読む量を小項目2こまでとし、一冊よみあげるまでに、ガイド本を2冊読んだ。途中で読んだ内容が、書かれている内容を読み取れているか、不安になったからだ。今、ウクライナとロシアの戦争は、経済に打撃と影響を与えているけれども、ピケテイは、どんなふうに考えるのだろう。
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歴史上、新たな技術などの”異質なもの”に対して「オープン」な姿勢で接した国家が成功してきた反面、それらの国々がいつしか「クローズ」になり、没落していったのはなぜか。人間の進化の過程を遡ってその要因を明らかにし、現代社会に影を落としつつある「クローズ」の脅威に立ち向かう方策を提唱する啓発書。
著者は、かつての古代ギリシャやローマ帝国から、8世紀以降のイスラム諸国、宋代の中国や近代オランダ帝国に至るまで、歴史上「帝国」と呼ばれた国々に共通する成功の根本要因は、”他所者”たちと能動的に交流する社交性や、それらがもたらす異文化や新技術などを認める寛容性と、既存の価値観に捉われずに新たなものを積極的に学び、模倣して取り入れる柔軟な精神にあったと分析する。
しかしそれらの国々が様々な要因で政治的・経済的に行き詰まると、社会生活が「ゼロサムゲーム」であった旧石器時代以来の人間の本能が呼び覚まされ、人々は”仲間”(オレたち)と”他所者”(ヤツら)を区別して後者を敵視し排外的になるとともに、未来の不確実性を嫌う一方で過去を美化し、古い安定的な価値観に執着するようになり、最終的には国全体が衰退することになるという。
著者は、17世紀以降のヨーロッパ啓蒙主義とイギリスの産業革命、それに続くアメリカを中心とした現代社会の繁栄が、今のところ歴史上「唯一の例外」であるが、それが今後も継続するかどうかは、「保守 vs リベラル」ではなく、「オープン vs クローズ」の対立軸を乗り越えられるかにかかっており、我々一人ひとりが本能的なクローズの誘惑を克服する必要があると説く。
誰もが頭では理解しているオープンさの重要性、それでも時にクローズになってしまう要因を、人類の歴史や人間の本能といった観点から丁寧に紐解き、説得力のある理論を展開しており、翻訳者のあと書きも含めて、「オープン」を読者一人ひとりが自分事としてより深く考えるきっかけとなる良書。 -
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ネタバレ「オープンな社会の方がクローズな社会よりも望ましい」という直感的にも納得感のある主張を、歴史を振り返りながら検証していくと同時に、なぜ人類はオープンな社会を維持できないのか/維持するにはどうすればいいのかについても考察された本。
人は、共感しやすい内集団と攻撃的に振る舞いがちな外集団をつくりだすが、内集団を広げて、多様性をどこまで取り込めるかが、オープン性にかかっているような気がした。
この内集団と外集団の境界は簡単に変化するもので、外集団と接して共通点を見つけるだけでも内集団は広がるし、逆に内集団内で疑心暗鬼が広がるだけでも内集団は狭まる。
オープン性を維持する方法は、シンプルに、外集団との接点を持つことと、内集団内での風通しをよくすることかもしれない。(もちろん、組織が大きくなればなるほど、このシンプルなことをやる/やり続けることは難しくなるが。。。)
あとは、ゼロサム思考が蔓延らないようにするということかもしれない。外集団の得は内集団の損というゼロサム思考は、なんとなく正しい気がしがちだが、必ずしもそうではない。(移民という外集団によって、仕事が奪われる/犯罪が増えるといった話は、数字を見ると必ずしも正しくない)
自由貿易や感染症に対するグローバルな対応等、オープン性を追求することで非ゼロサムの実現に繋がることに注目する必要がある気がした。 -
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トマ・ピケティ(1971年~)は、フランスの経済学者。2002年にフランス最優秀若手経済学者賞を受賞。パリ経済学院設立の中心人物、教授。社会科学高等研究院の研究部門代表者。
本書は、2013年にフランス語で発表され、2014年4月に英語版が発売されるやベストセラーとなり、同年12月には日本語版が出版されブームとなった。30ヶ国以上で翻訳され、経済学書では異例の300万部以上を売り上げている。また、2019年には、ピケティ本人が出演するドキュメンタリー映画が公開された。
私は従前より、世界中で格差を広げる資本主義に問題意識を持っており、これまでも、ジョセフ・スティグリッツ、水野和夫、広井良典(社会学者)らの本を読んできたが、近年の斎藤幸平のベストセラー『人新世の「資本論」』を読むに至り、あまりの大部であるがために敬遠していた本書を手に取ってみた。実際には、予めネットで本書のポイントを押さえ、その部分を中心に飛ばし読みをしたが、著者の言いたいことは極めて明確なので十分だったように思う。
論旨は概ね以下である。
◆長期的なデータによると、資本収益率(r)は概ね4~5%、先進国の国民所得の成長率(g)は1.5%程度であり、r>gである。これは、資本(不動産や金融商品)の増加率は所得の増加率を上回っている、即ち、資本で稼ぐ人と所得で稼ぐ人の格差は広がっていることを示し、これが資本主義の根本的矛盾である。また、<資本主義の第1基本法則>資本分配率(α)=r×資本ストック(β)なので、先進国のβを概ね国民所得の6倍程度であり、r=5%とすると、α=30%となり、国民所得の分配は、労働による所得:資本による所得=70%:30%となる。
◆また、<資本主義の第2基本法則>β=貯蓄率(s)/gなので、国民所得の成長率(g)が低くなるほど資本ストック(β)は増え、資本分配率が上がり、格差が拡大する。
◆格差の拡大という矛盾を解消するためには、(ユートピア的提案ではあるが)保有資産の透明化や、巨額の資産への世界共通の累進資本課税が必要である。
本書の特徴は、著者が15年をかけて収集した20ヶ国/300年分のビッグデータ(このデータだけでノーベル賞の価値があるという研究者すらいる)に基づく分析にある。理論的ではないとの批判もあるようだが、著者は、経済学者の多くが数理的な理論の研究に偏りがちであることに疑問を呈し、「(歴史的に)実際の数値はどうだったのか」を知ることに立ち戻るべきと語っており、まさにその点が本書の狙いだったのだ。
また、『資本論』を想起させる題名にもかかわらず、マルクスの主張とは大きく異なる(資本主義には不平等が内在しているという点のみ共通している)ものであるし、資本主義システム自体を否定してもいない。しかし、格差の拡大という資本主義の抱える最大の問題のひとつをデータで明らかにしており、ジョセフ・スティグリッツ、ポール・クルーグマンらニューケインジアン左派の経済学者の主張に近く(実際に本書は彼らからも称賛されている)、延いては『人新世の「資本論」』とも親和性があると言えるだろう。
資本主義の矛盾・限界と、修正のアプローチの一つとして、概要だけでも知っておく意味はある。 -
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才能ある人に大きな報酬を与えて才能を開花してもらえば、社会の生産性が高まり経済が発展して、結果として最下層の人々にも恩恵がある(クズネッツ)というわけではない。80年代以降、先進国の経済成長率は低下している。賃金は経済成長率と同じくらいしか増加しない。一方、金融や不動産など、資産を投資して得られる収益率は増大している。経済成長率が、資産からの収益率よりも低ければ、収入格差は広がっていく。労働者が経済成長によって得る所得の増加幅よりも、資本家土地や株式で得る利益の方が常に大きいので、不平等が拡大した。資本の格差は相続によって固定されている。所得(フローへの課税だけでなく、資本(ストック)への課税を増やすべき。トマス・ピケティ『21世紀の資本』2013
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日本と米国は、1900年~1940年まで、上位0.1%の所得シェアは8%前後と高かった。その後、1950年~1970年まで、日本と米国の上位0.1%の所得シェアは2%前後になった。その後、1980年~2012年まで日本の上位0.1%の所得シェアは2%前後を維持している。一方、米国では1980年~2012年まで、上位0.1%の所得シェアは急上昇を始め、9%を越えた。森口千晶 -
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ようやく読み終わりました・・・注釈含めると700Pの大作・・・読破するには覚悟が要ります・・・
自由な資本主義の行きすぎにより留まるところを知らず拡大した格差。ピケティの主義主張は一貫して、「累進課税」。資本税の導入だという。不労所得にも税をかけること。確かに。寝かせられるだけのお金をたくさん持っていればいるほど、その人は働かなくても食っていける。そうすると富めるものはより富み、持たないものはより細る。ただし、資本税が有効に働くのは、すべての国の銀行口座情報がガラス張りになっていること、これがないと、今横行している税金逃れが続いてしまう。
コロナで世界中で景気が停滞し、失業者が出る一方で、今までの生活を続けられるものがいる。コロナ中に本著を読むと、同意する点が多い。NHKでたまに報道する資本や経済の特集でいろんな学者が登場するけど概ね同じようなこと言ってるように思う。
また、気づいたことの一つとして、ピケティはかなりの文学の読書家でもあるということだ。経済学者だから経済の本ばかり読んでいるのかという先入観は持ってはならない。この本にはゴリオ爺さんや、pride and prejudicsといった文学作品が多々登場し、その生活ぶりから当時の貧富の差、貴族の所得等が説明されている。こういう人は多くの間口から学ぶし、実際に「終わりに」では、経済学者は計算ばっかりしてないで、社会や政治にも関わって考えるべきということを述べている。
結局私はこの本の600pで経済のことはちょっとしか学習できなかったかもしれないが、少しは見識が広まったかな。そうであれば良いな。 -
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提案の方向性はおそらく正しいものだと思う。ただし、膨大な項目にそれを引用する上での留保。理解する上での前提の多さ、この留保や前提は数字のことではあるものの、どこか宗教的感性が必要だ。これは、この人の物言いがそうなんじゃなくて経済学の話全般に言える胡散臭さや問題点だと思う。テレビでの解説は概ね簡略化されている。コメンテーターもわかりやすく言うが実相が見えている人は表に出てこないで金を稼いでいると思う。そういう人たちの野心の強度に比べて学者の言論は心許ないなというのが正直な印象。合意を形成して目指すにしてはもっと別の枠組みも必要になると感じた。