高野優のレビュー一覧
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上巻とは打って変わってミステリー要素の濃い内容になってきます。娘の事故の真相が徐々にわかってくるにつれてヴァイオレットがフィリップへのことを理解していきます。
「あの人はちっとも恵まれてはいませんでした。いつも孤独で不幸だったんですもの・・・。そんなに不幸にならなくてもいいと思うくらいに・・・。」
最後にフィリップはなんかかっこいい描かれ方をしていますが、クズらしく女性とバイクのうちバイクを選びます。彼の役割は何だったのか。女性を不幸にするのが役割だったのですが、ヴァイオレットに新しい人生を始めるためのきっかけを与えるのが本当の役割だったのではないでしょうか。
ヴァイオレットは娘の事故の真相をなんとなくつかみことで過去と決別し、イレーヌ・ファヨールの日記で人を愛することの意味を知ります。さらに、サーシャの導きで墓場の管理人という天職を見つけます。サーシャはこの指輪物語でいえばガンダルフのような、ヴァイオレットを助けるためだけに生まれてきた男は役目を終えたら舞台からいなくなりました。あとはヴァイオレットが自分の人生を生きるだけになりました。
踏切の管理人から墓場の管理人に転職するというとんでもない物語であり、フランス人の考え方にびっくりして、さらにフレンチジョークで笑ってしまうという小説でした。いくらなんでも悲惨すぎる人生からの復活、そこにはかなりの偶然と強い意志があるのだということでしょう。 -
Posted by ブクログ
「たったひとりで墓地を管理するヴァイオレット」という紹介文を読んですぐに読みたいと思いました。ここ半年で3冊墓暴きの小説を読みました、墓地には人生を変えるなにかがあるのでしょう。ちなみにその3冊とはスティーヴン・キング『ダーク・ハーフ』、チャド・ハーバック『守備の極意』、チャック・パラニョーク『インベンション・オブ・サウンド』になります。この小説には墓暴きシーンはありませんが、墓を掘り起こすときの注意事項が語られています。
「墓を掘り起こすときには、墓堀り人が両隣の墓を壊さないように、見張ってほしいということだ。」
ということで墓暴きは複数人で行うことを推奨しています。
私は本の表紙をしらずに予約したのですが、手にとって見て驚きました。かわいらいいパステル画で装飾されているのです、この小説はハートフル・ヒューマンストーリー的なものなのかと、予想と違うなというのが最初の感想です。普段読まない小説だと困ったなと思ったのですが、思いっきり予想を越えてくれました。これは表紙と内容のギャップで驚かそうとする戦略なのでしょうか。
上巻はヴァイオレット・トゥーサンの悲惨な半生と墓地での暮らしが交互に語られていきます。生い立ちも可哀想なのですが、フィリップ・トゥーサンというクズと結婚したのが決定打となっていくのです。
フィリップがどのぐらいクズかというと仕事はしない、自宅にいるときはゲーム三昧、毎日浮気をする、母親の言うことには絶対従う、でも朝食にはバリッと焼いたバケットを要求する徹底ぶりです。
ですが、クズを徹底すると色気というのが出てくるのでしょうか。女性にはもてまくります。下巻から登場するマニャンという女性の第一印象がそれをズバリ言い当てています。
「格好も素敵だった。革ジャンの下にいつのぴちっとしたTシャツを着ていて、長い脚にジーンズが似合った。百メートル離れていたって、セックスが上手なのがわかった。女好きで精力絶倫な男だ。冷たい青い瞳でチラっと見ただけで、女なら誰でも服を脱がせることができた。」
マニャンは結局《小さな岩》のそばで毎週同じ時間にフィリップとセックスをすることになり、かなりざつに扱われます。そんな扱いを受けたのに忘れられない人となっています、その考えは数年後に再開したときも残っています。
「あの人はすぐ手の届くところにいた。ほんの1メートルのところに。ああ、触りたい。あたしは思った。服を脱がせたい。あたしも服を脱いで、うしろからやってほしい。前みたいに・・・。あたしはテーブルに手をついて、あえぎ声をあげる。あの時、岩に手をついたみたいに・・・。そんなこと考えていたら、自分が嫌になった。」
愛とは何なんだと思ってしまうのですが、フランス人と日本人という人種の違いでしょうか。でも、心の奥底に眠っている感情を表に出すか隠しておくかの違いで、同じような考えは私の中にもあるのかも知れません。
墓地での暮らしは一転して楽しく描かれています。これらがフレンチジョークというものなのでしょうか。墓地に妻をなくした男やもめをねらってた女性が現れること、墓地でキャンプするヒッピーを白いドレスを着た幽霊に紛争して追っ払うところは笑ってしましまいました。その他にもくすっと笑えるジョーク集が続きます。自分が好きなところを2点上げます。
・「私の墓に新しい住人が来る。五十六歳の男性で、死因は肺癌。医者によると、煙草の吸いすぎが原因だという。だが医者の言うことだ。五十六歳の男性が誰かに愛されなかったせいで死んだとは、医者は言わないからだ。話を聞いてくれない人がいなかったせいだとか、請求書が多すぎたせいだとか、借金がたまっていたせいだとかは。あるいは、苦労して育てた子供たちが、さよならも言わずに出ていってしまったせいだとかは・・・。」
・埋葬された個人に詩を朗読するのです、ジャック・プレヴェール「猫と小鳥」という詩を。猫が小鳥を半分食べたことで村人が悲しんだ、悲しませないために全部たべればよかったと後悔する内容です。このかわいらしいのにブラックな詩が実際にあるものなのか作者の創作なのか。後者であれば作者は本当に天才だと思います。
ヴァイオレットの半生と墓地での暮らしが淡々と語られていき上巻が終わります、下巻でどのようにヴァイオレットが変わっていったのかがわかってくるのでしょう。 -
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ネタバレ2段組で760ページ!
読む前に圧倒されるボリュームだが、読み始めると引き込まれる。
オープニングは猟奇的な殺人事件でサイコ的な味付けが強いが、容疑者が浮き上がってからの話しの展開が上手い。そのたびに話の風景まで変わっていく。
「セブン」のようなサイコ犯と刑事の追いつ追われつの闘いかと思えば、法廷モノに姿を変え、そこからは贋作犯の話しになりつつ…。
話しが起承転結と動くたびに形を変えながら、最後にタイトル「死者の国」に繋がる余韻が残るラストまで、プロット展開の巧さは見事の一言。
登場する異形のキャラも濃厚で、そこに展開される個々のドラマの味付けも強烈だし、映画や美術、文学に対する作者の造詣の深さもあって散りばめられたガジェットの数も多い。
プロットの巧さ、しっかりとしたキャラ立ちゆえに、グランジェの作品は映像化向きではあるが、この作品はこのままでは映画化は無理だろうから、大人向けのテレビシリーズにしてほしい。 -
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ネタバレポケミス史上最長、最厚!というこのレンガに取り組むために、積読を片付け、今年のサイクルロードレースの録画全てを見終わって、一気に読める時間を作り、いざ!
『パリ警視庁迷宮捜査班』のど変態版か?と始めの頃は思った。有能で個性的なメンバーによる捜査。
しかし、トップである主人公が規格外の生い立ち、経歴を持ち、泥沼の離婚争議中で、あぁその妻ときたらスーパーエリートで超ど変態…
鬱屈具合の半端ない人びとがわんさか。
物語のかなり初期にいきなり、日本の文化である「緊縛」「縄師」という言葉が登場して驚くが、かなりグロいSMの描写が続くので、そちらに嫌悪感を強く持たれる方にはおすすめできない。
あぁ、まだこんなのは序の口。
長さに怯んで手にされる方が少ないのかもしれないが、本当に面白い。
ベタに言うとジェットコースター。目まぐるしく事件が起こり、二転三転四転。
法廷場面、絵画贋作の世界、フランスからスペイン、イギリス、大陸へと舞台も移動。
重要人物がかなり後の方で登場。まだまだ先は長い。
残り100ページまで来て、ぎゃーっ!と叫んでしまう衝撃。
そして…ラスト。
超ド級と言わせていただきます。
でもそこはフレンチミステリ、合う合わないは好みでしょう。
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パリでストリッパーが連続して殺害される。被害者の下着で縛られ、唇の両端は耳まで切り裂かれていた。担当はコルソ警視。パリで最も優秀だが、強引な捜査を行う男。捜査が行き詰まったとき、昔同様の事件があったことを知る。その犯人はフィリップ・ソビエスキ。強盗殺人で刑務所にいたが、出所してから画家として成功していた。ソビエスキにとって不利な証拠や有利な証拠が出て来て・・・
長い。果てしなく長い。ポケミス上下二段組で700頁強、定価3千円。しかし、物凄く面白い。
コルソの無茶苦茶なキャラがいい。ムシャクシャしたから、自分の担当でない銃撃戦に参加したりする。
ゴヤの絵画が重要な場面で使われているのだけれど、その辺も物凄く巧い。
一番は、ソビエスキがやったのか、そうではないのか。凄腕の美人弁護士が頑張るのだが、とにかくどんでん返しに次ぐどんでん返しの行き先は、想像だにしないものだった。
あとそうそう。SMやら変態性交の話が出まくるのでその辺苦手な人には薦められないけれど、大丈夫な人ならぜひオススメしておきたい。
※ネタバレ
弁護士のクローディア・ミュレールが全て仕組んでいた。レイプ魔ソビエスキが犯した女性が産んだのがクローディアや、他の被害者だった。彼に復讐するために、ソビエスキの仕業だと思われるように、彼が描いたゴヤの贋作のモチーフを使って死体に細工をした。ソビエスキに最大限の苦痛を与えるため、事件の担当弁護士になり、一度無罪にしてから後に有罪にしてやろうと計画。しかし彼は獄中で自殺。しかし、同様の事件がまた起こる。被害者はなんとクローディア。ソビエスキは無実だと見せかけての自殺。コルソが彼女の墓に行くと、告白の手紙と、コルソの名が書かれた棺が。実はコルソもソビエスキの子供だとあった。そして、自分のいる「死者の国」でコルソを待っていると。 -
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ポケミスの愛称で知られるハヤカワ・ポケット・ミステリだが、年々ポケットという名が似つかわしくない厚手の本が増えている。もともとポケミスは、海外のペーパーバックを真似た洒落たオトナのデザインを身に纏っている。ペーパーバックは、海外ではハードカバーよりは下に見られていて、安い原稿料でノワールやアクションを書いて糊口を凌いでいた三文作家のことはペーパーバック・ライターと呼ばれて一段下に置かれていた時代があったと言う。ところがペーパーバックから多くのエンターテインメントの巨匠や天才が生まれ育つにつれ、世界の読者はペーパーバックこそが、名作の卵であったり雛であったりすること、そして何よりも面白く読めること、大衆小説としてのエンターテインメント性の確立という意味で、文学史に大役を果たしてきたこと等々、評価される部分も今の評価に繋がっている。
現在でも、日本では、ハヤカワ・ポケミスは翻訳も早く、日本の読者への永くベストなトランスポーターとしてのその役割は、誰もが認めるところとなっている。無論、ポケミスは装丁を真似るだけではなく、ペーパーバックにこだわらぬ良質な作品選びをやって来て、これは現在も続いている。今や古書店で小説という商品価値が事実上ゼロと帰している中、ハヤカワのポケミスだけは値段が付くそうである。そのくらい希少な出版価値、作品への拘りを見せてくれているのがポケミスと言えよう。
しかし最近は、ポケットに入らないポケミスが増え、ポケット・ミステリではなく、バッグ・ミステリとでも愛称を変えるべきではないかと個人的には思ったりしていると、いうところで、さて話は本題に戻りましょう。そのバッグ・ミスと言いたくなるのが、二段組で760ページ強の、弁当箱のような厚みを誇る本書。ポケミス史上最厚ではないだろうか? そしてその厚みに値する壮大な仕掛けに満ちた大掛かりなミステリであることから、こいつは今年の翻訳ミステリ界の注目を集めるに違いないとも予感させる、いわゆる「大物」なのだ。作者も、フレンチ・ミステリの巨匠である。グランジェの名を聞いても実はピンと来ない人にはあの『クリムゾン・リバー』の原作者であると言うと、おわかりだろうか。
全盛期の少し忘れかけていた作家というイメージであろうが、邦訳作品が少ないだけで、実は今も世界では30ヶ国で翻訳され作品を世に出し続けている現役作家として活躍を続けているらしいのである。昨夏『通過者』(このミス17位)という実に13年ぶりの邦訳作品がTAC出版から出ているらしいが、ぼくは見逃している。機会があれば是非読んでみたい。
さて、本作。主人公は、出生不明の孤児から、数奇の運命を経て、現在の上司に拾い上げられ、今はパリ市警の最優秀捜査官として名を馳せているステファン・コルソ。彼の存在自体が、不幸とサバイバルと暴力に育てられた、いわゆるノワールな存在なのである。キャロル・オコンネルのキャシー・マロリーに類似した境遇だが、よりエキセントリックに、状況をぴりぴりに尖らせたようなダーティ・ヒーローと言えば、少し想像しやすいだろうか。
一歩間違えれば犯罪者の側に回っていたであろうこの警視コルソの超弩級の動物的勘に、圧倒的な行動力を加え、時間軸を揺さぶりつつ、ヨーロッパ中を走り回らせると、この単独捜査が、狂気に満ちたこの連続殺人事件を真相に近づけてゆくことが何とか叶いそうに見えてくる。それ以外のどんな捜査でも不可能だろうと言えるほど、二重三重の間違った皮相に覆われた、とにかく仕掛けだらけの難事件が相手である。そして複雑な主要人物たちの中に犯人像が浮かび上がるかと思えば、さらに想像を絶する仕掛けで裏をかかれる。あるいは裏をかかれたと思えばそれも怪しい。さらなる想像力を掻き立てられつつ、警視コルソとともに読者は暗闇の危険水域へとめくるめく旅を強いられる。
圧倒的なプロットに、幾重もの想像力と罠に満ちた執筆力との闘いが期待される本書。分厚さに納得のゆくだけの質感を与えられる超大型ミステリである。簡易な言葉で綴られるページターナーでもあるゆえに、冗長さはまず無いのでご安心を。
推理、アクション、リーガルサスペンス、コンゲーム、サイコ、画家ゴヤとその作品群に纏わる歴史ゴシック、宗教と科学のぶつかり合い。あまりに多くの面白要素で溢れかえるこの作品は、分厚いお弁当箱というには、おそらく煮え滾り過ぎている。ミステリ好きの少年が持つ探求心や冒険心を満足させてくれるおもちゃ箱のような存在と言った方が適切であろうか。
現在フレンチ・ミステリをリードするピエール・ルメートルに比肩するこのグランジェ。この作家の復活に、心臓がばくばくするほど興奮を覚えつつ、是非最後まで挑んで頂きたいと思うほどの大作登場なのである。 -
Posted by ブクログ
秀逸で分かりやすく面白い。
物語としても素晴らしく、翻訳も本当に素晴らしい。
ただ語学的にただしく訳しただけでは作品にならない。音符通りに正確に弾いただけでは音楽にならないのと同様に、という言葉に痺れた。
そこに、翻訳の「美学」を感じる。
物語に登場する博士に対して、不安や恐怖からそんなことはあり得ないと批判を繰り返していた博士の甥が、そんなあり得ないことが現に自分の目の前に起こってしまった時の頭の中の感情と思考のメーターの振り切れようが半端ではない。
否定していた人間が今度は打って変わって、先陣をとって博士をも置き去りにする勢いで突き進む人間になってしまった。
反動で余計に勢いがつく。
その変わりようと言えば滑稽で仕方がない。
それまでひたすらビビりまくっていたその甥が言う。
「叔父にしては生ぬるい」と。
人間というのは、
頭の中の思い込みである常識を断固として譲らないが、目の前にそれに反する事実が露わになった瞬間に、こうも態度がガラリと180度変わるのかというのを作者のヴェルヌは面白く描き出してくれている。
科学というのは、コロコロと更新されて変わる。
ニュートンは地球の年齢を5万年と見積もっていたが、現在では45.5億年とされている。
空想科学小説であり、その科学の論理の元に書かれた小説の中で、科学などの合理主義を本質的には否定しているという、ただの文学でもなく、ただのSF小説でもない、何層にも深みが感じられる秀逸な物語。 -
Posted by ブクログ
1886年(和暦にすると明治19年)に書かれたアンドロイドSFモノの祖。初めてこの作品を読みましたが、訳者さんの訳文も読みやすくてとても面白かった!
今読んでもいろいろ刺さるエジソンの言葉の数々や、ハダリーを構成する機構の科学的な説明など(顔の表情の作り方とか、今のCGでやってるモーションキャプチャーそのものじゃないかとか)130年前の作品なのに全く古くささのない世界観。そして贅を尽くした『地底の楽園』の美しさ。
『神の領域』への挑戦というテーマで繰り広げられたドラマ、ラストの展開まで含めて余韻まで楽しめる作品でした。
読んでて「おや?」と思ったところは巻末の解説や訳者さんのあとがきで触れていたので納得できたし。訳者あとがきで訳文にかけるスタンスとかこの作品の翻訳にあたってのあれこれまで知れたのがさらによかった。先達の歴史的仮名遣い版とかも読んでみたくなります。