野口百合子のレビュー一覧
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ネタバレスゴ腕の警官としてかつてブイブイ言わせていたバック・シャッツ。しかし、腕を鳴らしていたのも遠い昔、退職した今は現役時代のような動きのキレもすっかりなく妻と近くに住む孫と余生を過ごす毎日。そんなバックの元にある日、旧友が死の間際に最後の願いを口にします。その依頼とは、かつての大戦の際に収容所で2人を凄惨な目に合わせたナチスの将校の行方を突き止め、大戦終了時に持ち出したという金塊を手に入れて欲しいと言うものでした。最期の依頼を託した旧友はほどなく息を引き取り、バックは弱った足腰に鞭打って、宿敵ともいえる件の人物を追跡を決意します。しかし、お宝の噂をどこから聞きつけたのか、金塊を狙う複数の人間達が現れ、バックの調査はいきなり困難を極めることになりました。
主人公のかつての宿敵に対する因縁と200ポンドの金塊という財宝を追跡するという、ある意味分かりやすい王道のストーリーですが、本書を際立たせている設定は、『加齢』 すなわち、タイトルの「もう年はとれないDon’t Ever Get Old」という年を取る事への恐怖にあります。中年や初老を主役に据えた作品はいくつかありますが、今作の主人公のバックは第2次大戦のナチスの収容所を生き延びた(主人公はユダヤ人、宿敵はナチスの将校という設定)なんと87歳。後期高齢者どころかもうすぐ米寿のお祝いです。老いの恐怖をコミカルに描くという意味では、ジョン・スコルジーのSF「老人と宇宙」と共通する印象がある感じです。
とにかく、いまやすっかり足腰の弱った主人公は事あるごとに身体機能の低下を訴えつつ、ダーティーハリーはクリントイーストウッドばり活躍をする本書は、ユーモラスなミステリーでありながら、バックの老いていく恐怖を説得力を持って表現している点で、本当に楽しくも魅力あるストーリーでした。
惜しむらくは中盤に入ってからの展開。主人公を付け狙う関係者の連続殺人が発生し、こっちの捜査に軸足が移ります。「罪を犯す手段と同期を持っている人間が何人もいるにも関わらず、一人も殺人者として直感的にしっくりこないことだ」
のセリフ通り、終盤まで全く予想できないフーダニットとして良い出来ではあるのですが、老いの恐怖という本作の魅力が隠れてしまう感じがして、個人的には微妙なところではあります。 -
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アメリカのど田舎、ウィスコンシンの猟区管理官を主人公にしたシリーズ。ハヤカワ文庫から創元推理文庫に版元移してのこれはもう何作目だろう...かなり長寿のシリーズとなっている。アメリカの地方都市は州の独立性もあってか元気な街がまだ多い印象で今日的には環境問題や資源の問題など地方の方が新しい問題を物語に取り込みやすいのでは、と思うとそこにいち早く目をつけて活かしている作者はものすごく上手い作家だと改めて思った。本作品では環境保護局が悪役。日頃は密猟者を取り締まるのが主な仕事の主人公は管轄外のあらゆる事件に好むと好まざるとにかかわらず関わってしまう才能を持っているのだが、本作では環境保護局の捜査官を射殺し山中に逃げ込んだと思われる人物の知り合い、最終目撃者、山岳ガイド、として事件に巻き込まれる。なけなしの金でやっと手に入れた山中の土地の開発を環境保護局に理不尽に妨害され殺人に及んだと目された容疑者を厳しい自然の中で追うかなりスリリングな描写がとにかく見事。推理のストーリーも素晴らしくやはり上手い作家。まだまだ続く感じで次作以降もすごく楽しみ。素晴らしかった。
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コロラド州デンヴァ―にある環境保護局第八地区本部から、二人の特別捜査官が、ある件に関わる裁定文書をワイオミングまで届けに行くところから話は始まる。途中シャイアンの町で、陸軍工兵隊員の男と待ち合わせるが、男は二人が銃を携行していることに驚き、途中で姿をくらます。二人の特別捜査官は待ち合わせ場所に出向き、誰かに撃たれて死ぬ。この二人が主人公かと思っていたので、冒頭でさっさと死んでしまうことに驚いた。実は主人公は別にいた。
猟区管理官のジョー・ピケットを主人公とする、シリーズ物の最新作である。二人を殺して埋めた容疑者はブッチ・ロバートソンという男で、死体の埋まっていた分譲地の持ち主だ。ブッチは、ジョーの娘ルーシーの親友ハナの父親で、その日の朝、ジョーは仕事中、森の中でコーヒーのために火を焚いていた彼と話をしたばかりだった。森の木はマツクイムシにやられ、地表には枯葉が積もっていて、マッチ一本の火で山火事が起きる危険があった。
このシリーズは初めて読んだが、山に生きる主人公が魅力的だ。広大なワイオミングの山岳地帯に分け入り、森の生き物の暮らしや環境を守り、違法な狩人から動物たちを守る、今の仕事が気に入っているが、体の方は若い頃のように無理がきかなくなった。家族のことを考えると、現場を離れてデスクワークをすることも視野に入れる必要がある。どうやらこれまで、上や周囲との間に様々なトラブルを抱え込んでいるようで、なかなか腹を括れない。
ブッチの妻パムの話によれば、夫妻は金を貯めて湖を臨む土地を買い、そこに家を建てる気でいた。基礎工事のためにトラクターを動かして三日目、環境保護局から三人の女性がやってきて、夫妻の土地は湿地帯に属しており、形状を変えると莫大な罰金を払うことになる、と警告された。何度電話しても責任者と話ができず、一年経ち、何かの間違いだったのだと思い、トラクターを動かし始めたら、書類を渡すから待つようにと連絡があったという。その話には引っかかるものがあった。サケット事件に酷似していたからだ。
環境保護局から来たファン・フリオ・バティスタという男は権力を笠に着て、強引にブッチを逮捕しようと焦っていた。犯人の首に賞金を懸けるとまで言い出すので、ブッチに危険が及ばぬよう、ジョーは捜査員を案内して山に入ることにする。どちらが指揮を取るかで、州知事ルーロンと環境保護局地区本部長のフリオとの間で一波乱あるが、フリオはヒスパニック系というマイノリティの出自を盾に、白人による差別だと言い立て、逆に知事を抑え込んでしまう。鼻持ちならない男だが、悪知恵だけは働くようだ。
一方、賞金の一件を聞きつけた元保安官マクラナハンは、以前ブッチの店で働いていて、一緒に狩りをしたことのあるファーカスを道案内人として雇い、ソリオという狙撃手を引き連れ、反対側から山に入る。マクラナハンはブッチを射殺して賞金を射止めるだけでなく、選挙で自分を追い落した新保安官リードの鼻を明かし、次の選挙での返り咲きを目論でいた。
慣れない山中を馬で行く捜査員を率いるのはアンダーウッドという環境保護局管理特別捜査官だ。探索行の中で言葉を交わすうちに、ジョーは、プロとして仕事を果たそうとするこの男に親近感を覚えるようになる。話をするうちにフリオという名が新しい名で旧名がジョンだと知ったジョーは妻に電話してフリオについて調べさせる。すぐに圏外になる電話が人物や読者を焦らし、サスペンスを盛り上げる。さらにGPSが思わぬ悪さをすることに。
時が経つにつれ現場を知る者と机上で命令を下す者との対立が募っていく。食料その他、野営の準備もせずに山に入った捜査員に対し、山での狩りに慣れているブッチには準備に遺漏はなかった。マクラナハン一行はターゲットを捕捉し、ソリオは千六百メートル向こうの迷彩服の男を仕留めるが。相手は一枚上だった。逆に襲撃され、人質にとられてしまう。ブッチはフリオを電話に呼び出し、人質の命と交換に脱出用のヘリを要求する。
後半は、現場を知らない男の愚行が原因で山火事が起きる。ジョーは、急いで山を下りるアンダーウッドたちと別れて、ブッチを探すために、炎の迫る山にあえて残る。ジョーはブッチを見つけるが、山火事からどう逃れるかを考えねばならなかった。昔、シャイアン族が凶暴なポーニー族に追われ、切り立った絶壁の渓谷を渡った言い伝えがある。ジョーは以前、その跡をたどったことがあった。今はそれに賭けるしかなかった。
ジョーとブッチは手足纏いの二人を連れ、背後に迫りくるオレンジの炎を避けながら、サヴェッジ・ランを行く。この山火事からの脱出行が、ただならぬ迫力だ。まさに冒険サスペンス。ひとつ急場を乗り越えると更なる難関が待ち受けている。自分一人でも厄介なのに、山に不慣れな腹の出たマクラナハンまで連れて逃げなければならない。しかも、ずっと敵対してきた相手だ。それでも、最後まで命を守ろうと猟区管理官は最善を尽くす。
ようやく、渓谷の底を流れる川に降り、火傷を負った体を冷やす。ジョーは漂流物の中から丸太を掘り出し、今度はそれを舟代わりにして急流下りだ。左右に岩が突き出た激流を乗り切るため、右に左に舵を切る二人。息もつかせぬ急展開の連続。最後には誰も見たことのない大滝が待っていた。打ち身と切り傷だらけになりながらも、ジョーはこの川下りを満喫し、無事生還したら、いつか戻ってこよう、と思うのだった。
ミステリによくある汚れた裏街ではなく、山の美しさと怖さを描き切っているところがいい。環境を守る立場にありながら、法を悪用して私欲を満たす男がいる一方、命を賭して自分の仕事を完遂する男がいる。持つべきでない人間に権力を持たせることの愚かしさ、恐ろしさに改めて思い及び、エピグラフにある「悪の凡庸さ」が腑に落ちた。読者は、持てる知力と体力をフル活用して危機的状況を克服する主人公の活躍をたっぷりと堪能されたい。山岳小説好きとしては、シリーズの過去の作品を読みたくなった。作中ちらっと姿を見せる凶悪な印象の鷹匠ネイトが活躍するスピン・オフまであるというから楽しみだ。 -
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ネタバレ猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズを読み始めて何年になるだろう?
子供たちも成長してシェリダンなんか大学生だよ。
ワイオミングの大自然の中で過ごす猟区管理官という職業をこよなく愛し、家族を大事にし、正義と誠実を貫く馬鹿正直な男。
いつもいつも貧乏籤と言うか災厄が身に降りかかってくる(小説だからね)
官僚組織を利用した陰湿な陰謀に翻弄され絶望の淵に立たされた家族、ブッチがブチ切れて連邦特別捜査官2名を殺害して逃走。
彼の所有地からは2人の男の射殺体が発見されていた。
そして単身山中に逃走、それを追う連邦捜査官と協力させられるジョー。
主人公や妻のメアリーベスが善良な一方、ヤな奴も結構な割合で出てくるのがお約束。
宿敵ともいえるマクナラハン元保安官、新局長、曲者ルーロン知事、さらにその上を行くパティスタ、部下のアンダーウッド。
最後は溜飲が下がる展開なんだが、最後の5ページでまたホロ苦い真相が出てくる。
個人的にはメアリーベスのビジネスの行方がどうなるかが気になる。
金欠家庭としては、まだまだ頑張らないといけないしね。
ジョーは、知事の口利きかなんかで、次作も猟区管理官になってるよ(たぶんね)
またはガイドかな。 -
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ジョー・ピケットシリーズ。射殺された二人の捜査官。容疑者として浮かぶブッチは姿を消した。そしてジョーの捜索が始まる。ジョーの真っ直ぐな目線とブッチやその家族を思う気持ち。自分の家族や自然を守ろうとする想いが今作も伝わってくる。行政に翻弄され理不尽な扱いを受けてきたブッチの目的は。犯人は。そして森林火災に巻き込まれたジョーたち。そこの描写や自然の大きさの描写がとてもいい。今回の事件を受けてジョーのこれからも変わっていきそうだし次作も楽しみ。これまで講談社文庫から発売されていたのが今作から創元推理文庫に変わった。途中で途切れてしまうシリーズも多いなか版元が変わっても継続になって嬉しい。
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元刑事バック・シャッツのシリーズ2作目。
88歳になったバックをまだ事件はほうっておかない!?
前作の事件でさらに身体は衰え、とうとう妻とともに介護つきのアパートに移ったバック。
若い頃にはダーティ・ハリーばりの力づくで行動するタイプの刑事だった。
前に取り逃がした因縁のある、銀行強盗イライジャが訪ねて来る。こちらももはや78歳だが、何者かに命を狙われているから、助けてほしいというのだ。
何かをたくらんでいると怪しむバックだが‥?
50年前(!)の事件と、現在が交錯。
プロの犯罪者との対決だけでなく、警察組織の闇も描かれます。
ユダヤ系を排斥するような層が、警察の上層部に多かったとは。
とても良い妻だったローズにも、知らないことがあったのですね。
バックもメンフィス署では伝説的だけど、冗談めいて語られるような存在。実際の身近な人間には迷惑がかかることもあっただろう。
幼かった息子に誤解されてしまうのは哀しい。
そのあたりのことが1作目より深みを増して語られ、老いてもまだまだ語りつくせそうにない勢い。
長く生きているのも伊達じゃない!
バックならではの良さと味わいを発揮して欲しいです☆ -
Posted by ブクログ
高齢の元刑事が孫と一緒に活躍するミステリ。
テンポよく、けっこう大きな事件が展開します。
バック・シャッツは87歳。
元メンフィス署殺人課の刑事で、荒っぽい捜査で伝説的な存在だった。
かっての戦友が死に際に言い残した言葉から、騒動に巻き込まれます。
死んだと思われていた元ナチス親衛隊の将校ジーグラーがじつは生きていて、金塊を持って逃亡したというのだ。
バックとは、浅からぬ因縁のある将校。
逃亡犯と金塊という組み合わせに、戦友の孫や牧師、調査官やイスラエルの職員など、さまざまな人物が絡んできます。
息子をなくしてるバックは、孫息子(あだ名がテキーラ)と共に、真相を探りに出かけます。
口が悪く、今も大胆なバック・シャッツ。
退職後のブランクが長すぎで、既に身体は老いて腕力がびっくりするほどなくなっていたり、時には認知症ではないかと怯えたり。
表はともかく内心では妻は最愛の存在だし、じつは情が深い様子。
バックの活躍が、ネットでジョークになったりするのが楽しい。
作者自身は孫に似たところがあるようで、バックは祖父がモデルらしい。
面白く読めました☆