シュレーディンガーの悪魔
すばらしい。ここのところ、映画や書籍でタイムパラドックス関係に触れていたもので、ハードSFの作者がこれをどう描くのか興味があって手にとって見た。
タイムパラドックスについては、アニメを題材にした簡単な解説がある。しかし、ノベライズとなるとこれが難しい。
ノベライズ(小説化)する場合、それが特にSFである場合には、ストーリーの楽しさとタイムパラドックスに関する帳尻あわせが必要になる。このバランスをどの辺に取るかが作者の技量によるところだろう。
「未来からのホットライン」は、まさに熱狂的ファンが多いホーガンがこのバランスに挑戦した作品だろうと思う。私も「星を継ぐもの」以来、ホーガンのファンである。どこがいいかというと簡単である。「あっと驚く結末」であり、「破綻のない帳尻合わせ」である。
こっちのコメントが冗長になる前に今回の感想を書いておこう。まず最初から一気にのめりこんでしまった。いきなりマックスウェルという名前の猫が登場するのである。シュレーディンガーの悪魔が出てきてもおかしくない。このしょっぱなでホーガンの読者に対する挑戦が見て取れた。
(シュレーディンガーについて簡単な解説はこっち)
相変わらずホーガンらしく冗長さは残るし、小説としてのストーリーはきわめて単純。ウィルスや核融合を持ち出してはいるものの、その部分は薄っぺらい。飽くまでテーマはタイムパラドックスである。読者はどんな結末を用意しているのかを楽しみにひたすら読み進めることになる。
後半に入ったところで結末(小説としての結末という意味ではなく帳尻あわせの結末)が読めてくる。その手があったか!と気づくのである。タイムトラベルに関して、私の経験ではこの手法を用いたものはない。
過去を変えることで未来が変わる手法(これはあまりにアニメっぽいが映画で考えると「オーロラの彼方へ」はこの例だろう)、未来はやはり変わらない手法(これが多い)、そして過去を変えることでもうひとつ別の未来ができるという手法(これも多い)でパラドックスを克服しているものがほとんどだろう。
「未来からのホットライン」で使われたのは、これらの手法のいずれでもない。考えようによっては未来は変わるし、変わらないと考えても正しい。登場人物に感情移入する必要はない。これまで誰も気がつかなかった超観察者の手法を用いているのだから。賛否両論あるだろうがこれは傑作である。