柴田勝家のレビュー一覧
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実在の植物学者、南方熊楠を主人公に据えた、粘菌コンピュータ搭載の自動人形「天皇機関」をめぐるSF伝奇小説。
江戸川乱歩に宮沢賢治、孫文など、名だたる歴史上の人物がこれでもかと登場しながらテンポよく描かれる物語はとにかく面白く、600P近い長編でありながら、全くだれることなく読み切ることができました。かなり荒唐無稽な大ホラ話ではあるんですが、実際にあった功績や事件をしっかりなぞっているので、ある意味リアリティも感じられるのが、作者の力量の高さを感じますね。
SFとしては、粘菌コンピュータという核となる設定はちょっと腑に落ちないところもあったのですが、それはそれとして量子論、仏教論、哲学、さま -
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柴田勝家…柴田勝家?!
戦国武将の?となるけど、もちろんペンネーム。
評判が良かったから読んだけど、凝ったSFだった。
私は「鏡石異譚」が好き。
未来の自分が時々「警告」をしに来てくれる少女。
人生で出会うはずの事故を回避して成長し、大人になった時に今度は幼い自分に会える。
遠野物語とSFを絡めるってアイデアが凄いし、首元のアザを見つけた時のゾッとする感じも最高!
タイトルになった「アメリカンブッダ」も面白いけど、バーチャル世界から現実に戻った時に、世界的有名人のミラクルマンが主人公を「待っていたよ」と受け入れたのがよくわからなかった。
あと、巻末の解説を有名声優の池澤春菜さんが書いていて -
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ネタバレ短篇集、ざっくり信仰が全体的なテーマかな。、
推しは宗教、推し活は信仰、オタクがよく言うそれをSF要素も入れつつ考察した感じがして面白い。
クライツマンの秘宝の、信仰は質量を持つ、普通に考えればエセ科学でオカルトに取り憑かれた思想って感じなんだけど、文章の"ちゃんとした"感じと、オタク強さに通じる信仰の持つエネルギーの莫大さを知ってる現代人の感覚としてはホラ話だけどどっかにこういう学者いるんじゃないかなって気もしてくる。
論文、エッセイ、小説、色んなジャンルっぽい文章が詰まってて面白かったし、そのどれもが虚構と現実が入り混じって混乱する感じが面白い。自分の無知故にちょ -
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ネタバレ表題作の『走馬灯のセトリは考えておいて』がとても面白かった。
人が死んだ後にライフログをもとに自分の分身を残せるようになった未来の話。
2023年時点においてすでに故人の生前のライフログやアーカイブを元に、あたかも亡くなった人が目の前にいるかのように再現できる技術が生まれていることから、そう遠くない未来に、終活に向けて自分のアーカイブを整理するという行為が当たり前になるのかなと思った。
自然言語処理のAIの台頭により、故人の受け答えの癖を再現できるAIのような存在も現実味が増してきていると感じる。
本書においても、技術の進化と共に死との向き合い方が変化してきていることの説明や、ライフログから -
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ネタバレ――
大霊界である…!
柴田勝家満喫セット。これ程バラエティ豊かな短編集をひとりで組めるなんて恐ろしいことである。名前以上にすごいひとだ…
壁、や境界、が文学のテーマになって久しいけれど、純文学がその境界を越えようとするのに対し、SFはその境界を曖昧にしようとする独特の死生観がある。そのあたり、所謂「非科学的」な幽霊や妖怪変化と通じるところがあるというのも不思議なもの。
技術で死を克服しようとする、という形は万国共通でも、例えば造り物の生命を繋いで克服するのと、死後もコミュニケーションを取れるようにすることで克服するのとではアプローチが違っていて。
それって死後の世界が身近な -
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すっかりはまってしまった柴田勝家。短編集は「アメリカン・ブッダ」。
すべての村人がVRの中で生きている世界を描く「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」、ブラッドペリの名作(華氏451度)にインスパイアされたであろう、物語というものがすべて禁止された世界を描いた「検疫官」など尖った設定の数々で楽しませてくれた。
中でも表題作「アメリカン・ブッダ」。アメリカを襲った大厄災に際し、肉体をコールドスリープし、脳から意識だけが取り出されバーチャルの世界で生き続ける人々に対し、ある日突然大災害後の世界に取り残された仏教徒のインディアンがコンタクトを取り、仏教の教えを述べる。バーチャルでほぼ不死の何不自由 -
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先日の柴田勝家の短編が思った以上に良かったので、長編も手に取ってみる。柴田勝家「ヒト夜の永い夢」。
明治から昭和にかけて活躍した、実在の博物学者南方熊楠(みなかたくまぐす)を主人公にした歴史改変SF。
希望の動きをパンチカードとして表し、それを手動で読み込ませて機会を動かす人形が開発されたのに対し、パンチカードの代わりに彼が研究していた粘菌をパンチカードに模して構成し人形に搭載。
すると粘菌がAIのようになりただのからくり人形が意思をもった自動人形になってしまったという私好みの実にベタなSF的な展開から、国家や天皇まで巻き込んだ大騒動へ。
ひいては史実として実在する二・二六事件へと虚実がマージ -
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安定のおもしろさ。壮大なホラ話を読んだような何とも言えない爽快感がある。だからといって荒唐無稽に過ぎることはなく、精緻で細かい舞台設定がリアリティにもつながって、少しも陳腐な感じがしない。
コロナ禍で福男の神事がオンラインで行われ、どんどんエスカレートしていく近未来を描いた「オンライン福男」、信仰には質量があるという自らの学説に取り憑かれた男の顛末を描いた「クランツマンの秘仏」の2本は特に印象的。
だが何と言っても、書き下ろしの表題作「走馬灯のセトリは考えておいて」は傑作である。生前のライフログからAIが生成した分身を残せるようになった世界。この世とあの世の境界が曖昧になりつつある世界で、