濱口桂一郎のレビュー一覧
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著者の新しい労働社会を読んだ際も思ったが、現在問題となっている様々な労働関係の問題を考えるに際して、メンバーシップ型雇用システムという概念は、補助線として抜群の切れ味を有している。本書は、その概念をもとに、働く女子について考察が加えられている。ただ、メンバーシップ型雇用システムという観点から考えると、女性労働の問題は、必ずしも女性労働に原因があるのではなく、雇用システムの問題が女性にしわ寄せされているということがよくわかる。これは、東京医大の入試不正操作の際に起こった議論でも感じたことと相似形であった。さて、切れ味鋭い女性労働問題の解説の後、では果たして、どのような道を今後女性の労働は、また、日本の労働社会は、進んでいくべきなのか、そこに至って初めて、この問題は解きほぐしがたい、錯綜したものであると気づかされたのだった。
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労働問題の専門家による、女性の労働環境を中心に日本の雇用システムについて論じた本。精緻な調査に基づく学術的な内容となっている。特に、女性の雇用のあり方について、明治から現代に到るまでの経緯についての記述が興味深かった。
「(女工の出発点 富岡製糸場)当時の女工たちは誇り高い士族の子女で、十台半ばの若さながら、その賃金は校長並みで、食事や住居など福利厚生も手厚く、まさにエリート女工でした」p32
「1870年代末には女工の出身は主として農村や都市の貧しい平民層に移行し、生家の家計を助けるために口減らしとして労働力を売る出稼ぎ女工が主になりました」p33
「(1932年 社会局監督課)男子労働者の賃金は自己及び家族の生活を支持すべきものでありますが、婦人労働者の賃金は家計を補助するにすぎないものと一般世間が考え、婦人労働者自身もそんなものと考えて居る事が婦人労働者低賃金の最大の理由であります」p43
「(市川房枝、山高しげり)大政翼賛会で、「むしろ女子を徴用せよ、躊躇はご無用、未婚女子は待っている」と、女子労務動員を積極的に求めました」p47
「(上坂冬子 BG論)女子社員は職場の花といわれるのが常識でした。花は枯れたら生けかえるべし。女子社員は25歳をすぎると、はっきり冷遇されたものです。たとえば入社3年目くらいまでは給料も順調に上がります。が、25~29歳の女性の給料は少しも上がらなくなり、35歳をすぎると若い頃より減ってしまうのです」p56
「業務計画立案等の高度の判断力を必要とする業務は逐次昇進して幹部従業員となる男子職員のみに行わせ、結婚までの腰掛とみなされた女子職員には高度の判断力を必要としない補助的業務のみを行わせるという男女差別的労務管理を前提とします」p66
「20世紀初頭の日本では年功的な賃金制度など存在せず、基本的に技能評価に基づく職種別賃金でした。しかし第一次大戦後、大企業に子飼い職工を中心とする雇用システムが確立するとともに、長期勤続を前提に定期昇給制が導入され、これが年功賃金制の出発点になります」p72
「(小池理論)守勢に回らざるを得なかった年功制を、欧米の職務給と同じように合理性のあるものとして、いやむしろ産業資本主義段階にとどまっている古臭い職務給に比べて独占資本主義段階にふさわしい新しい仕組みとして打ち出すことを可能にした」p128
「終身雇用的原理のもとでは、長期勤続を期待できる男子労働者と比べて、結婚、家庭責任等のために短期に退職する可能性及び確率の高い婦人労働者は、企業にとっては不安定な労働力とみなされる。日本ではこのことは致命的なハンディキャップとなる。そこで経営者は、彼女等に男子と同じ訓練費用を投資することや責任あるポストに登用することをためらう。一方、女子側は、本格的な仕事を与えられない挫折感から、結婚や出産を好機として未練なく退職することになる。こうして悪循環が繰り返される」p139
「(女子の長期勤続は歓迎されない)女子の従事する仕事の内容と賃金額との乖離が年とともに大きくなるからである。経営者は、女子にいつまでもいすわられてはソロバンに合わないと計算するし、同僚の男子労働者は、女子はワリが良すぎると嫉妬し、白眼視する。そこから、わが国特有の、女子の若年定年制、なるものも生まれる(労組は支持)」p140
「(女子の再就職)資格やかつての就業実績は活かされないまま、パートという名の臨時的労働者としての生活に甘んじなくてはならないのが実態である」p142
「もともと欧米は男女平等で日本は差別的だったなどということは全くありません」p144
「女性は、男性並みに働くことを条件に総合職、基幹職として活躍していきますが、それができない多くの女性は、一般職という安住の地から非正規労働という下界に追いやられていきます」p246 -
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ネタバレとっても面白かった。
特筆すべき箇所はp87のいかにして日本の社会が年功賃金制となったかについて記載されている箇所。それは第二次世界大戦中の呉海軍の伍堂卓雄の『生活給思想』という考え方。生計費の要素のない賃金が労働者の思想悪化(=共産主義化)の原因だと批判し、家族を扶養する必要のない若年期には高給を与えても本人のためにならず、逆に家族を扶養する壮年期以降には家族を扶養するのに十分な額の賃金を払うべきだという主張。戦後になってこうした賃金制度が廃止されたが労働組合によってこの生活給思想が受け継がれて現在に至っている。
日本以外のジョブ型雇用契約に基づく職務給(一つ一つの職業について、その職上を遂行する知識・経験・能力を兼ね備えた一人前の労働力に対する職種別の賃金が決まっていること)と、日本のメンバーシップ型雇用契約に基づく職能給(実際に従事している業務とは切り離された、いかなる職務をも遂行しうる潜在能力に基づいて払われる給料)の対比
終身雇用・年功序列・企業別組合
日本の労働法はジョブ型を基準にして作られているが、判例法理によってメンバーシップ型の法律 -
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本書は女性・職場・社会との連関を、近現代史、特に法令・政策の観点でまとめられている。自分自身は均等法施行後に就職したことと業界の関係もあり、日々の仕事の中でジェンダーギャップをこれまで感じる機会はほとんどなかった。しかしそれは、社会一般から見ればかなりレアな例だということが一読してわかった。そうした背景もあり、女性と労働のレリバンスは課題意識になかった。本書では女性にまつわる現行の制度が先人たち(特に女性)の労苦の上に成立していることが、史的に説明されている。まだまだ問題が山積している現代社会に、こうした諸問題に取り組める人材が、各所で求められる。とすれば大学教育が果たせる役割はまだまだ大きい。
本書の題名がやや本文と距離感がある。やはり編集部側の意向なのだろう。 -
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今なおなぜ”女子”が働きづらいのか、明治期からの女子の働き方、日本の雇用(男性の)の歴史を概観することで、今の”女子”の置かれた状況をあぶりだす。
欧米では日本より女性が働きやすくなっており、M字型も台形型になっているが、それはそう昔のことではなく60年代になってからだという。その源泉は賃金に対する考え方で、欧米では企業の中の労働をその種類ごとに職務(ジョブ)として切り出し、その各職務を遂行する技能(スキル)のある労働者をはめこみ、それに対して賃金を払う。経理のできる人、旋盤のできる人といったように。なので女性の労働問題は、女性の多い職種はおおむね賃金が安く、男性の多い職種(管理職とか)に女性も進出する、ということであったという。
それに対し日本は、会社のメンバーを募りメンバーはどんな職務内容でもやるというやり方。しかも賃金は労働者の生活を保障するべきものである、という生活給思想が根本にある。それは大正11年に呉海軍工廠の伍堂卓雄の発表した「職工給与標準の要」であるという。それは第二次大戦中、戦後の労働運動の中でも継承された。扶養手当の思想はここから始まっていたのだ。
そして85年に均等法ができるが、それは世界的に男女平等が進められた時代で、欧米はジョブ型に立脚して女性の雇用を進めたのに対し、日本は生活給という日本型雇用・会社のメンバーとして一丸で働くという立脚点で進められた点にねじれがある、というのだ。
日本型の女性労働の平等化は会社のためなら深夜でも外国でもいとわず、どんな仕事でもやります、という男性の土俵に女性も乗せるもの。均等法から30年、ワークライフバランスという言葉がむなしく響く。 -
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①女性の労働史・日本型雇用の生成史に関する歴史的記述、②日本型雇用がいかに女性の活躍を難しくしているかという現状の分析、の両点につき興味深い分析がなされている本だと思います。
①まず、第一点について。日本のメンバーシップ型の雇用が、戦時中の皇国勤労観を基礎として、戦後の労働運動の成果として受け継がれたという記述など、さまざまな面白い歴史的記述がなされていました。
②第二点について。日本のメンバーシップ型雇用は、銃後の女性によって支えられた男性をモデルに組み立てられたものであるがゆえに、男女平等も、女性がそうした男性のように働くことができる平等とされており、育児や家事などの負担を負う女性の活躍を難しくしていることが指摘されています。
育介法での労働時間規制(17・18条)への言及などを通して、無限定な労働義務を課す日本型メンバーシップ雇用の異常性が炙り出されていく過程が非常に面白い記述となっていました。あとがきで「本書の特徴」として、女性労働を「徹頭徹尾日本型雇用という補助線を引いて、そこから論じたところにある」としていますが(250頁)、むしろ、女性労働を補助線にして日本型雇用を論じた本といった印象があります。
本書で指摘されているとおり、ジョブ型雇用にはスキルのない若者の雇用問題もあるので、問題は簡単ではないと思います。 -
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ネタバレ全ての会社員、とくに就活中の学生や転職を考えている人には必読。組合活動に携わっている人にもおすすめ。
批判したいのは、「ジョブ」とは何かということの定義が曖昧なまま議論が進むこと。そこが曖昧だと、最終的に著者が提示する「ジョブ型正社員」にしても、それが何を目的とした提言なのかがわからない。
世の中にはいろんな種類のジョブがある。医師や弁護士のようにわかりやすいものもあれば、必ずしも目に見えないものもある。また、極論と思われるかもしれないが、世の中には知的に障害がある等の理由で、いわゆる「ジョブ」を習得できない人もたくさんいる。そこに目を向けていないことを批判するつもりはないが、ではどこに目を向けているのかを示してくれないと、いいも悪いも言いようがない。 -
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日本における若年層の雇用・労働と、そこへ辿り着くまでの教育について、欧米と比較しながら戦後から現在にかけて労働法的な側面と政策を辿っていく。
まず指摘されるのは、若年者の失業問題は国際的には以前からずっと存在し、むしろ日本でバブル期以前に若年失業問題がほとんど存在しなかったことのほうが特殊であるということ。その要因として、日本特有の「ゼロからの企業内育成」を前提としたメンバーシップ型の雇用を挙げ、それが「誰もがどこかへは入社できる新卒一括採用」を生み出して若者の雇用安定をもたらした一方で、家庭を含んだ社会全体での職業教育の必要性の希薄化を生み出したと指摘されている。
ところがバブル崩壊以降、新卒採用の縮小により、「誰もが新卒(=実務スキルゼロ)でどこかへ入社できる」とは限らなくなったことにより、日本でも若年失業の問題が顕在化した。しかし当初は「自主的なフリーター」「就労意欲の低下」といった若者自身の問題と認識されていたため、日本が本格的に若年失業対策に乗り出したのは2000年以降になってからで、いまだに試行錯誤中であることが書かれている。
本書では新卒にメリットのあるメンバーシップ型を維持しながら、そこで抱えきれない部分に対しては欧米に近い「ジョブ型正社員」の導入が提唱されているが、これは中小企業の中途採用ではかなり近い状態にある気がする。なのでネックなのは中小企業経営にあるのではないか、という気がする。
また、政策の観点が詳しい一方で、民間企業による職業斡旋がどのような影響を与えてきたかについて書かれていないので、そこが少し物足りない感じ。 -
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日本における労働社会が、世界のそれと比較されることで俯瞰的に見えてくる。
良く目にする報道のように、残業にかかわる使用者・労働者の裁判を未払賃金の問題としてフォーカスすると、長時間にわたる(健康維持が難しくなる)労働時間という問題から視点がずらされてしまう。
確かに!
問題は、しかし、使用者だけでなく、労働者も長時間労働を容認していることにもあり。
民間企業に勤めていた際は残業に抵抗なかったしな…
理由として、もちろん残業代が得られる事もあるけど、やるべき仕事に時間を注ぎ込みたいという思いからもあり。
それからもし長時間労働の少数人員に替えて、短時間労働人員を多数にした場合、その企業の競争力ってどうなんだろう。
少数精鋭の方が情報伝達も管理もやりやすいし、仕事にたいする意識や情熱も共有しやすいように思う。
職種によるけど。
企業としての競争力が落ちたらそもそも人を雇うことすら出来なくならないか?
って考えてしまったけど、この考えがもう日本の経営陣の思想に毒されてるんだろうか。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの本は……難しいです(笑)
目新しいと感じたのは、最低賃金の成立背景つまり、家計を補助する学生や主婦が主だったためにその低賃金で良かった(所得主筋は男性である)が、もはやその性格は過去のものとなり、フリーター等はその補完的性格である最低賃金で生活を営まなければならない状況にあり、これは現実社会と醋齬をきたしている。
それともう一つ。労使の団体交渉について、労働組合への加入は管理職を除く正社員であり、利害関係者として管理職や非正規社員は排除されている点。
これだと労使間協議の際、利害を主張できない非正規社員が真っ先に不利益を被ることになる。
しかも、一企業では非正規社員数と正規社員数の比率が逆転しているところもあり、そのような少数の(正規社員の)主張が労働組合全体の主張といえるだろうか、疑問を禁じ得ない。
もちろんその他、主にEU諸国の取り組み事例を紹介し、それをEU礼賛主義ではなく、模倣する際の注意点や批判もあり、丁寧に書かれているにも関わらず読解力の無い(労働問題は全くの門外漢な)僕には理解の難しい点が多く感じました。
偽装請負問題も分かったようで分からない、一知半解の状態で、もう少し社会勉強をしてから読むと面白いのではないかと思いました。
キャバ嬢の労組結成がタイムリーな話題となってるので、これから数年に労働問題のパラダイムを迎えるのは間違い無いと思います。