あらすじ
正規労働者であることが要件の、現在の日本型雇用システム。その不合理と綻びはもはや覆うべくもない。正規、非正規の別をこえ、合意形成の礎をいかに築き直すか。問われているのは民主主義の本分だ。独自の労働政策論で注目される著者が、混迷する雇用論議に一石を投じる。
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Posted by ブクログ
日本型雇用慣行の成り立ちと、労働法からみた現代の雇用にまつわる諸課題を丁寧に解説してあり、非常に分かりやすい。
終身雇用、年功的職能給制度、企業別組合、ホワイトカラーの長時間サービス労働などはすべて’日本型雇用システム’を支える重要なパーツであり、すべてつながっている。従ってどれか一つだけ変えようとしてもうまく行かないことがよく理解できた。これらはある意味日本文化の本質とでも言うものであり、一朝一夕には変わらないだろうが、いずれグローバルスタンダードに収れんしていくように思われる。
いまは非正規労働者というカースト外の身分を作ってそこにしわ寄せすることで何とか外国勢と戦っているが、今後若年労働者が減少し、多くの老人を支えるべき高生産性を実現していくにはサステナブルなシステムではない。
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日本の労働の現状を分析しつつ、どのような政策を取るべきかを論じた本。
・三六規定(労働基準法第36条の時間外労働規制)は1週間の労働時間の上限(原則40時間)と定めているが、時間外労働を含めた上限を定める必要がある。
・日本は整理解雇(リストラ)の条件が非常に厳しく、個別解雇の条件が非常に緩い。そこで企業から退出を迫られることなく使用者に対して発言できる担保としての解雇規制を考えるべき。
・日本では均衡処遇=同一賃金同一労働の原則が適用されていない。これは同じ内容の労働に同時間従事しても、正規労働者か非正規労働者で賃金に格差が出ることである。
・2000年代に入ってもフリーターはバブル期と変わらない「夢見る若者」として扱われた。その中で非正規雇用問題も、アルバイトは「若者の就労意識の欠如」、パートタイマーは「夫婦間のアンペイドワークの問題」といった言葉で片付けられてきた。
・労働組合=正社員組合になっているのは危うい。非正規労働者を含めた集団的合意形成と共に、特定の人の利害のみを代表しない、使用者から独立した労働者代表組織が望まれる。
この他にも、生活保護制度を救貧という観点でなく、就業促進を図れるものにするよう主張するなど、単なる人道主義に陥らないバランスの良さも評価できる点。
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濱口圭一郎さんは、今や世の中に一般用語として受け入れられた「メンバーシップ型雇用」「ジョブ型雇用」という用語を初めて使われた方で、キャリア官僚、大学教授などを経て、今は独立行政法人労働政策研究・研修機構の研究員。
本書は、2009年発行であり、私の記憶が間違っていなければ、濱口さんが、「メンバーシップ型」「ジョブ型」という用語を使われるようになる前の著作だ。
職務を特定しないまま労働契約を締結することが、日本型雇用の本質である、と筆者はまず主張されている。数十年前、大学を卒業し入社した会社では、入社研修が終わり、「配属式」と呼ばれる式で配属先の発表を受けるまで、自分はどこで、どんな仕事をするのか分からなかった。今でも、新卒として比較的規模の大きな会社に入るとそういう状態のはずだ。説明の詳細は省くが、この日本型雇用システムにより、ある意味で、労働者がしわ寄せを受けているのではないか、というのが、本書の主張のメインの部分だ。
それは、色々ある。
日本的な長期雇用(終身雇用)を社会の仕組みとしてキープするために、労働者は、会社の決定により勤務場所や職務が決められる。それは、望まない転勤を招いたりする。特に家族持ちの場合には生活に対しての影響は大きい。しかし、判例では、相当な部分まで、労働者は会社の命じる転勤に従うべきであるという判断がくだされたりしている。そのようなことは数多い。
本書は、どちらかと言えば、そういった問題を、労働「行政」「法制」「政策」の視点で論じたものであり、割合と実際的・実務的な話が多い。人事管理の仕事等に関係している人にとっては、頭の整理にもなる。
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日本型雇用システム(長期雇用、過度な年功賃金、企業別組合)が適用されるのは正社員のみであり、その背後には多くの非正規労働者が存在する。その格差是正のアイデアの一つに、EU等で採用されている同一労働同一賃金(長期雇用を前提とした過度な年功賃金制度からの脱却)がある。本書の中で関心を持ったのはその部分で、本書では、賃金制度にメスを入れる時に整備されておくべき社会的条件を考察している。EUにおける非正規労働規約の焦点は均等待遇原則(基本的労働条件について差別されない)にあり、ベースには男女平等があるらしい。一方男女均等の観点で日本は、男女を等しく長期雇用に組み込んでいく慣行が出来上がり、これは正社員の総合職と一般職に代表されるようなコースの平等と言える。基本的労働条件においては日本は、パートに対して賃金の均衡処遇の努力義務を課しているものの、非正規労働者(派遣労働者)には均衡処遇も否定している(賃金は外部労働市場で決定されるという整理)。同一労働同一賃金を導入する場合の社会的条件の一つに、年功賃金が担っている生活給の側面(正社員への長期的な安心の提供)を誰がどのようにカバーするのかという問題がある。本書では市場経済の交換の正義と、福祉社会の分配の正義が相容れないことを指摘し、公的な仕組みで負担していくことを説いている。企業の福利厚生の一環である住宅手当や家族手当などは企業の魅力を高めることもできるが、労働の対価という観点では不正義になる(同じ技能を持った社員でも、扶養する家族が多いほど給与が多くなる等)。本来政府がやるべきところを長年企業がやってくれてたもので、著者は早速、生活保護の一部雇用保険化などのアイデアを出している。年功賃金には中高年層への過剰な対価の提供というデメリットがあり、イノベーションの阻害要因にもなるから、日本でも長く見直しの機運があるが、現実には技術革新による配置転換が難しくなったり、今の制度に甘んじてる人たちがたくさんいるため(非正規では組合として交渉できない)、現在でも大きな変化はないように思える。生産性の低い組織となり利益が出なくなれば、また非正規が増える悪循環になる。となると、まず正社員がいつ辞めても大丈夫と思えるくらいの制度が用意される必要があるだろう。
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労働関係法規が「こうなっているんだよ」と解説する本は多いですが、それらの法規がなぜ、どのような議論を経て(または議論を棚上げされたまま)今存在しているのか。行政、経営、労働者三者の視点を踏まえて本質へと切り込む一冊です。表面的なマスコミのあおりやバッシング、議論のすり替え、曖昧に決着をつけられてきた雇用課題がいかに多いのかがリアルにわかります。出版から時間を経てもなお、雇用問題の本質は一つも変わっていないことを感じます。決して古い本ではありません。
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2009年に書かれた本のため、内容が少々古いかもしれない。しかし、日本や欧米諸国における労働関連法の歴史的経緯からそれぞれの功罪が非常にわかりやすく書かれている。
私が知る2013年以後の労働法や大きいところでは派遣法改正でかんじた違和感の背景が手にとるようにわかる。そして、これからの日本の在り方を濱口氏の主張を軸にしながら深く思考することができる。法律及びその運用や実務において、その主旨や哲学を理解することがいかに重要であるか、再認識した。濱口氏の主張の中には現実的でないものや違和感を感じるものも読む人によってはあるかもしれない。
Posted by ブクログ
・日本型雇用システムの三種の神器→長期雇用制度(終身雇用制度)、年功賃金制度(年功序列制度)、企業別労働組合
の3つだそうだ。
・男性正社員の過重労働の原因とは→彼らに課せられている過重責任。
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似た趣向の「雇用身分社会」と異なり、多角的に雇用を捉え、問題点を抽出している。
企業が人件費の掛かる中高年層をリストラし、終身雇用制度が、崩壊した現在は、生活給制度は、崩壊しており、それら企業が負担していた育児、教育、住宅費については、政府が負担する必要がある。
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現在の労働法政と実態のギャップを挙げるだけでなく、解決策、今後の方向性も示している。歴史的背景から論じている点も私には納得性の高まる要素となり良かった。非常に充実した内容で勉強になる一冊。
Posted by ブクログ
岩波だけあって油断してると字面を撫でるだけになってしまうが、それだけ内容の濃い本だった。
労働に関する諸問題として、労働時間や賃金、生活給制度、非正規労働、労働紛争など幅広くカバーしている。
著者が冒頭に述べている通り、国際比較と歴史的パースペクティブを軸に論を展開しているので、歴史や法律、欧米の事例といった話が主。
とりあえず幅広い現状が知りたい人にはオススメ。
Posted by ブクログ
日本における労働社会が、世界のそれと比較されることで俯瞰的に見えてくる。
良く目にする報道のように、残業にかかわる使用者・労働者の裁判を未払賃金の問題としてフォーカスすると、長時間にわたる(健康維持が難しくなる)労働時間という問題から視点がずらされてしまう。
確かに!
問題は、しかし、使用者だけでなく、労働者も長時間労働を容認していることにもあり。
民間企業に勤めていた際は残業に抵抗なかったしな…
理由として、もちろん残業代が得られる事もあるけど、やるべき仕事に時間を注ぎ込みたいという思いからもあり。
それからもし長時間労働の少数人員に替えて、短時間労働人員を多数にした場合、その企業の競争力ってどうなんだろう。
少数精鋭の方が情報伝達も管理もやりやすいし、仕事にたいする意識や情熱も共有しやすいように思う。
職種によるけど。
企業としての競争力が落ちたらそもそも人を雇うことすら出来なくならないか?
って考えてしまったけど、この考えがもう日本の経営陣の思想に毒されてるんだろうか。
Posted by ブクログ
この本は……難しいです(笑)
目新しいと感じたのは、最低賃金の成立背景つまり、家計を補助する学生や主婦が主だったためにその低賃金で良かった(所得主筋は男性である)が、もはやその性格は過去のものとなり、フリーター等はその補完的性格である最低賃金で生活を営まなければならない状況にあり、これは現実社会と醋齬をきたしている。
それともう一つ。労使の団体交渉について、労働組合への加入は管理職を除く正社員であり、利害関係者として管理職や非正規社員は排除されている点。
これだと労使間協議の際、利害を主張できない非正規社員が真っ先に不利益を被ることになる。
しかも、一企業では非正規社員数と正規社員数の比率が逆転しているところもあり、そのような少数の(正規社員の)主張が労働組合全体の主張といえるだろうか、疑問を禁じ得ない。
もちろんその他、主にEU諸国の取り組み事例を紹介し、それをEU礼賛主義ではなく、模倣する際の注意点や批判もあり、丁寧に書かれているにも関わらず読解力の無い(労働問題は全くの門外漢な)僕には理解の難しい点が多く感じました。
偽装請負問題も分かったようで分からない、一知半解の状態で、もう少し社会勉強をしてから読むと面白いのではないかと思いました。
キャバ嬢の労組結成がタイムリーな話題となってるので、これから数年に労働問題のパラダイムを迎えるのは間違い無いと思います。
Posted by ブクログ
[ 内容 ]
正規労働者であることが要件の、現在の日本型雇用システム。
その不合理と綻びはもはや覆うべくもない。
正規、非正規の別をこえ、合意形成の礎をいかに築き直すか。
問われているのは民主主義の本分だ。
独自の労働政策論で注目される著者が、混迷する雇用論議に一石を投じる。
[ 目次 ]
序 章 問題の根源はどこにあるか―日本型雇用システムを考える
第1章 働きすぎの正社員にワークライフバランスを
第2章 非正規労働者の本当の問題は何か?
第3章 賃金と社会保障のベストミックス―働くことが得になる社会へ
第4章 職場からの産業民主主義の再構築
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
Posted by ブクログ
これは面白かったなー
先輩に勧められて読んだ。
やっぱり、ものを知ってる人はどれがいい本かも知っているようだ。
日本の労働問題を、労働市場の観点からぶった切る本です。
あ、別に過度に左とかいうことはないので。笑
ずっと行政制度とか法律の問題として捉えてた問題を、違う観点から論じられてびっくりした。
一つの観点に偏りすぎると、見えるはずのものも見逃してしまう。
とりま、労働問題やるなら一回読むべき本かと思います。(´∀`)
Posted by ブクログ
「ルポ 雇用劣化不況」を読んで、労働問題についてもうちょっと考えてみようと思って読んだ本。こっちの本は労働問題について基本的には制度(法律)を切り口にしている。
一言でいえば、ボリューム満点。そして、労働関係の書物に慣れてなかったり、労働法jについての知識がなければ完全に理解することはできない。そんなわけで、大体の内容しかわからなかった。以下、一部分のまとめ
日本型雇用システムをメンバーシップ契約(職務のない雇用契約)という点から説明しているのは興味深い。そして、この観点から、正規・非正規雇用者の間に均等待遇を論じ得るような共通の物差しがあり得るかどうかを問題とする。
他にも、現実に適合しない制度であったり、社会保障、ワークライブバランス、現行の労働組合に非正規社員も加入できるよう主張するなどとにかくボリューム満点。
読むなら気合入れて読まないといけないけど、それなりのものは得られるだろう。
Posted by ブクログ
「ジョブ型雇用」みたいな関心で、著者の本を読み始めて、3冊目。
内容的にはこれまで読んだものとの被りはあるものの、あらためて日本の労働の現状を理解できた。
著者の他の本とも共通することだが、本のタイトルと内容が今ひとつフィットしない感じがある。
未来にむけての提言部分よりも、現状の問題点の分析というほうに力が入っていると思う。
著者は、空想的なビジョンではなく、現実に根ざした取り組みを主張しているようなので、それは仕方がないといえば、仕方がないのだが、なにかもう一つなにかがほしい気がしてしまう。
Posted by ブクログ
日本を中心に、労働者の処遇や生活また社会の構造について、労働者、経営者、行政それぞれの視点に立って、これまでの日本の社会の出来事や議論を振り返っている。
歴史をひもといて解説してもらう、と言う目的ならば良書。
一方で提案、例えば折衷案や妥協は、こういったものの提案は少ない。
どうすれば良いのかと言う議論はあまり尽くされていない。
Posted by ブクログ
第三章賃金と社会保障のベストミックス、この章が良かった。やはり、労働政策×社会保障論を同時に論ずるのは鉄則。労働マーケットから離れてしまった人は一時的に社会保障で支え、労働法による環境整備でまたマーケットに戻れるような施策を にとても同意。 また学校と労働の乖離の問題点指摘の部分もとても納得できた。
1つ残念なのは、非正規という言葉を使っていること。労働法界では非典型雇用労働者と使うのがスタンダード。
Posted by ブクログ
世界に類を見ない日本型雇用システム。これら日本独特の労働社会問題をどのように解決させるか、諸制度や機能の歴史的背景、欧州との比較などを含めて詳細に説く。ワーキングプア、非正規労働者など近年の労働諸問題解決に繋がるヒントも多いが、具体的な手法や提案をさらに訊きたいところ。
Posted by ブクログ
日本の労働社会の、本当の問題点は何かということを論じ挙げ、そのうえでの解決策を提示といったスタイル。
日本の現状については、良く分析されていると思う。ただその解決策として述べられているのが、非正規雇用者も含めた新しい労働組合結成らしいが、はたして本当だろうか。もっとダイナミックな方策が求められると感じる。
官僚出身者らしい、手堅い慎重な策ばかり述べられている印象。細かい法律論も多く、そのあたりはよくわからなかった。