創元推理文庫のブランドで、“必読の現代本格ミステリ!”という惹句がある以上、コレは!と期待して読むのは当然だが、この小説は本格ミステリではない。確かに犯人探しの側面はあるし、創元推理文庫にも入っているエラリー・クイーンの某作と似た趣向も垣間見えるから、そこを本格ミステリ的!と捉えることは可能。だが、あまりに無能でろくに手掛かりも検証しない警察の描かれ方はサスペンスを高めることに寄与していても、本格ミステリとしては完全にアウト。『誰かが嘘をついている』(原題『ONE OF US IS LYING』)というタイトルもアンフェアぎりぎり。
むしろこの作品は敢えてジャンル分けするなら、殺人の容疑者と...続きを読む 目される男女4人の高校生の視点が順繰りにリレー形式で切り替わっていく点も含めて、サスペンスフルなYA小説というのが正しいように思う。いかにもYA小説らしく、甘酸っぱい恋愛も大きな要素を占めているし。
創元推理文庫の海外作品でYA作品、もしくは青春ミステリとは意外な気もするが、例えば自分は未読ながらバリー・ライガの『さよなら、シリアルキラー』シリーズ3部作があった。現代のアメリカの高校生にとって、ミステリの要素を取り入れて青春の苦悩を描くスタイルは広く支持されているのだろう。本書も〈ニューヨーク・タイムズ〉のYAベストセラーリストに49週連続でランクインしたそうだが、分けてもNetflix発の『13の理由』に代表される配信オリジナルドラマの世界においては、こうしたジャンルの作品が人気を確立しているのではなかろうか?
ちなみに本書にもNetflixで映画を観るシーンが登場する。もしかしたらアメリカの高校生にとっては、映画館で映画を観る以上に、互いの離れた家に居ながらにして、スマホを片手に一緒にNetflixで映画を観る方がリアルなのかもしれない。日本の読者にとっては作中で彼らが観ている映画が『ザ・リング』だったり、『バトル・ロワイアル』だったりするのが不思議な感じだけれど。
そのNetflixを始め、tumblr、twitterなど、本書には現代的なデジタルアイテムが色々登場するが、iPod nanoが出て来たのには、いささか面食らった。もはや販売が終了しているアイテムではないか。ところが日付と曜日の関係を追っていくと、この物語の年代設定はどうやら2012年であることが分かるから、そんなところに作者の抜かりはないのだ。
これがデビュー作らしい作者のカレン・M・マクマナスという女性の手腕はなかなか巧みで、容疑者と目される4人の高校生のキャラクターを見事に書き分け、彼らの不安や葛藤や成長を描いている。語り手の名前と日付と時間を記して章を進める構成は、ドキュメンタリー的な効果があり、まるで彼らの脳内日記を読んでいるかのよう。ただし、せっかく日付を書いているのに、その日付をまたいでサラッと違う日になっている箇所が何箇所かあり、読者を混乱に招くのはいただけない。それがトリックとつながっているならまだしも、そうではないから、そこは修正してしかるべきだろう。
それにしても、死亡したサイモンが立ち上げたという学内のゴシップをイニシャルトークで晒すアプリや、SNSに取り囲まれた現代の高校生は、何と息苦しい世界で暮らしていることだろう? 学業優秀な秀才のブロンウィン、野球部のエースでイケメンのクーパー、美人でイケてる集団に属しているアディ、札付きの不良で保護観察中のネイト、と4人の主人公は、各々に課されたペルソナと本当の自分との乖離に苦しんでいる。なーんてところにMGMTの「キッズ」が流れたりするのもご愛嬌。
結局彼らはサイモンに握られた秘密を暴露された途端にたちまちスクールカーストの上位から失墜し、信頼していた友人や親からも、まるで魔女狩りのように叩かれる。アメリカの高校でもここまで同調圧力が強いとは少々驚きだが、読んでいてヒリヒリするような地獄に置かれた彼ら4人は、次第に互いを助け合うようになり、思わぬところから救いの手を差し伸べる者も現れる。若い彼らが人間としてありうべき姿に悩むさまはYA小説の王道だろう。
ミステリ的などんでん返しは終盤に用意されているが、実のところそれは、その意外性に感嘆するという類のものではない。自分の理想像と現実の自分との落差に悩んでいたのは4人だけではなかった、という事実が突き付けられるのだが、人はそれを青春の蹉跌と呼ぶのかもしれない。…などと書くと何やら古めかしいが、TVシリーズを観ている感覚に近い読書体験だから、アメリカの青春ドラマが好きな人は読むべき。