■なぜこの本を手に取ったのか
AI時代を迎え、「自分が支払うべき努力とは何か?」を再定義する必要性を感じていた。最近は何でも「無駄な努力」と決めつけて楽な方法ばかり探す風潮があるが、「支払うべき努力」を明確にしておこうと思い、本書を手に取った。
■9つの努力の型
著者の荒木博行さんは、努力と報酬の関係性を「縦軸:努力と報酬の相関の強さ」(1量、2質、3設計、4選択)と「横軸:不確実性の大きさ」(即達成、即たなぼた、ゆっくり達成、ゆっくりたなぼた)という2軸で整理し、3×3のマトリクスで9パターンの「努力の型」を提示している。『構造化思考のレッスン』の著者らしい、見事な切り分けだ。
1. 自動販売機型神話
努力すれば確実に報酬が得られるというモデル。現実にはこれほど単純な環境は少なく、期待通りにいかないと「努力不足」と自己責任を感じてしまうリスクがある。
2. ガチャガチャ型神話
努力と報酬はある程度比例するが「何が出るか」は不確実。「親ガチャ」「配属ガチャ」のように、自分の努力だけではコントロールできない運要素が絡む。
3. 農業型神話
「種を撒き、水をやれば育つ」という相関関係がありつつ、台風や日照りなど外部要因に大きく左右される。「人事を尽くして天命を待つ」謙虚さと、不条理を受け入れる強さが求められる。
4. 階段型神話
努力してもすぐに結果が出ず、停滞期が続くが、ある時急に成長する。踊り場で「努力が裏切られた」と諦めないことが重要。
5. ホッケースティック型神話
長い潜伏期間の後、閾値を超えると急激に跳ね上がる。スタートアップや学習曲線に見られる形状だが、「引くに引けない心理」に陥るリスクもある。
6. 予選・本選型神話
努力が反映されやすい「予選」と、才能や運が絡む「本選」という異なるステージが存在。ステージが変わったことに気づかず、同じ努力を続けると行き詰まる。
7. 空(くう)型神話
努力と報酬の因果関係を求めない、仏教的な世界観。結果への執着を手放し、プロセスそのものや「今ここ」に没頭することに価値を置く。
8. 職人型神話
外部評価ではなく、「自分が納得できるか」という内面的基準を報酬とする。行為そのものに喜びを見出すが、外部環境の変化に弱いリスクがある。
9. 宝くじ型神話
努力と報酬に相関関係がなく、結果は完全に運で決まる。理不尽で倫理観が通用しない世界観。
■フロー体験のデザインへの応用
チクセントミハイのフロー体験デザインにも活用できそうだ。「努力する天才」も「夢中」には敵わない。しかし夢中な人の脳内ドーパミンも、何かの拍子に止まってしまうことがある(アンダーマイニング効果など)。だからこそ、夢中になれる状況を意図的にデザインする必要がある。
新しい挑戦は自己成長が見えやすいため「自動販売機型神話」が最適だ。しかし都合よく最適な難易度の新しい挑戦が連続して現れてくれるとは限らない。中長期的には「職人型神話」や無心で取り組む「空型神話」を志向していくのが良いだろう。
■「支払うべき努力」とは
努力とは、端的に言えば「山」に似ている。この山は汗をかいて危険を犯してまで登る価値があるかどうか、という問題だ。これに決着をつけよう。
まず前提として、世の中には努力ではどうにもならないこともたくさんある。戦争などの外的要因に対しては努力では止めようがない。自分にできることは身の安全の確保と、その働きかけを親しい人に伝えることくらいだ。このアプローチは、リスクマネジメントに似ている。リスクと不確実性を区別することが重要だ。リスクには対処のしようがあるが、ブラックスワンのような不確実性は確率で推し量れないため、「心を落ち着かせて受け入れる」しかない。
もうひとつの前提は、”自分のスキルレベルに応じて”という条件付きになるが、僕は経営者なので仕事に関しては「AIが得意なことをどんどん業務から切り離して移管する”餅は餅屋”のアンラーニングに関する努力」もすべきだ。
その上で事例をあげると、例えば才能のあるライバルとの戦いがあるとして、自分のこの努力は報われるのか?と立ち尽くすこともある。そこが努力量で勝負できる「予選」ではなく、才能や運も絡む「本選」の戦いなのであれば、「勝つのは勝利の女神が微笑んた方であり、自分でどうこうできることではない」と割り切って(課題の分離)、自分の力を出しれることだけに努力のエネルギーを投下しよう。
子どもから「テスト勉強は自分の人生に意味あるの?」と問われたら、僕はこう答える。AIは即座に最適解を出してくれるが、質問の難易度が上がるほど、回答を読み解き理解すること自体も難しくなる(技術的負債)。つまり必要に応じて、その都度やはり勉強することになる。学校の勉強はその辛抱強さを鍛える筋トレだ。また5教科は、最低限身につけるべき教養としてバランスがとれている。努力のコスパは最高レベル。
■まとめ
努力についても初動の段階で構造を見極め、支払うべき努力かどうかを認識・判断し、その努力という山を登りきるまでの最適な道筋を自分で選んでいきたい。