エドワード・ルトワックのレビュー一覧
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ネタバレ2015年に習近平が訪米の時にオバマに提案した「新型大国関係」つまり「G2」提案は、日本のマスコミでは、日本は米中の挟間に取り残されるような取り上げ方をした。
本書によると、この習近平の「G2」提案は、キッシンジャーのアイデアで、しかも彼はアメリカの中で「G2」を信じている唯一のアメリカ人と喝破している。
別の本でも、中国はキッシンジャーへ莫大な資金援助をしているとのこと。
また、キッシンジャーの著書の中で、彼はドイツと日本は必ずアメリカを脅かす存在になると警告しているほどの日本嫌いなのだ。
しかし日本のマスコミは、中国問題になると、直ぐにキッシンジャーのインタビューを掲載したりして、中国寄りの論調が目につくし、中国報道に関して、中国の主張を受け入れなければ、日本はすぐにでも中国から締め出されるか、尖閣に攻め入られそうなヒステリックな論調で、政府批判をする。
そういう意味で、本書は目先だけではなく、もう少し長い目で戦略的に中国を見ているし、日本のマスコミや評論家には見られない別の視点で中国を見ているのがよく分かる。
以下、この本の概略を紹介します。
中国はこの15年間に三度の大きな外交政策の転換をしている。
チャイナ1.0:1970~2008:平和的台頭
1972年以降のアメリカの対中政策は、中国を助けてソ連に対抗させる政策であったが、2000年以降アメリカは中国が余りに豊かになりすぎる事を恐れ始めた。
しかし江沢民に指導された中国は、GATT・WTO・IMFへの加盟をし、私的財産権や知的財産権など国際法を順守し、国際秩序を脅かすようなことはしなかった。
チャイナ2.0:2009~2014:対外強硬路線
リーマンショックの発生とそれを克服した中国の自信が、政策を大きく変えていく。荒唐無稽な「九段線」に代表される南シナ海や尖閣の問題を次々と起こす。
これに対して周辺の民主主義国では、親中派のリーダーを選ばなくなり、インドのナレンドラ首相や日本の安倍首相のように中国との摩擦も厭わないタフな人物が選ばれるようになった。またフィリピン、マレーシア、ミャンマー、ベトナムなどが、反中国包囲網を形成し始めた。
ここで中国は「力の論理」に対抗する「逆説的論理」を理解できていない失敗を犯した。中国の最初の一手に対して、それに対する反応が周囲から起き、相手も動くし、情況も変わるダイナミックな相互作用が動きだすということが、理解されていなかった。
この時期の中国は、日米同盟の2つの弱点を突こうとしていた。
1つ目は、アメリカは尖閣の領有権争いでは中立を貫く。2つ目は靖国参拝問題。
特に中国は日本に対して強硬姿勢を貫いた。彼らの読みは、中国市場に魅力を感じる日本企業が政府に圧力を掛け、言いなりに成るはずであった。
それに対して安倍内閣は、靖国府不参拝の約束も尖閣が係争地であることの認定もしなかった。
チャイナ3.0:2014~ :選択的攻撃
太平洋を中心に反中国包囲網が形成され、2014年秋に中国は「チャイナ2.0」の間違いに気づいた。
そこで「選択的攻撃」と呼べる「チャイナ3.0」に移行したが、成功していない。
この「チャイナ3.0」は2つの要素から成り立っている。
①反撃をしてきた側への攻撃を止める。ベトナムと日本との関係がその例。
②キッシンジャーの提案する「G2」つまり「新型大国関係」を構築する。
ここでも、中国は壁に突き当たっている。
ここで著者はプーチンと習近平の違いを次のよう述べている。
「大国というのは、ある要求をする前に、それが成功するか否かを見極めるものだ。ロシアがそうであるように、いったん要求を表明すれば、そこから動きを止めることはない」「中国の場合は、尖閣について大騒ぎをする割には何も起こさない。中国はただ騒ぐだけなのだ。これはロシアと中国の大きな違いだ」
「ロシアは戦略を除いてすべてダメで、中国は戦略以外はすべてうまい」と皮肉っている。
別途、著者は韓国と日本の謝罪問題についても述べている。
ここでは、本題から外れるので簡単に留める。
日本は韓国に対して既に十分過ぎるほど謝罪したし、今後もそれは続くであろうが、無駄である。なぜなら、韓国が憎んでいるのは、日本人でなく、日本の統治に抵抗せずに従った自分達の祖父だから。韓国人は自分たちの祖父を恥じている。その怨みが日本人に向けられている。だから彼らは決して日本人を許せないのだ。
また日米関係についても、以下のように述べている。
「アメリカが戦略面で日本を守ることは、何ら問題はない。ただ日本に取って中国の脅威というのは、その性質が異なる。日本本土への侵攻というより、離島の占拠だからだ。率直に言って、アメリカは現状では日本の離島の防衛までは面倒を見きれない。ここから、日本が自国の安全保障を全てアメリカに依存することから生じるマイナス面が明らかになる。自国の小さな島すら自分で守れないことが、むしろ日米関係を悪化させる方向に向かわせる。これは日本政府が自分で担うべき問題なのだ」
チャイナ4.0:著者からの中国への提案
ここまで書くと書き過ぎるので、これは省略する。
日本政府への提言
結論として、中国は戦略の下手な、極めて不安定な国なのである。それに対して周辺国は、全ての国に当てはまる「戦略の論理」を見極め、それに冷静に対処していくことが、求められる。
巨大で不安定で予測不可能な中国に対し、あえて積極的な計画を持って対抗しようとするのは、そもそも馬鹿げているし、成功するはずがない。
真珠湾攻撃のようなアタックや、逆に平和的イニシアチブなども進めずに、日本はひたすら受動的な「封じ込め政策」に徹するべきなのだ。
全編を通じて、現在の中国の分析に関して、日本のマスコミが避けているような視点からのものであり、現状分析~提案に至るまで「目から鱗」の新鮮な論述である。
是非お勧めの一冊である。 -
Posted by ブクログ
中国を戦略的な視点から視ていることで、
中国の違った姿が 浮き彫りになる。
このルトワックという人は、スゴイな。
【エドワードルトワックの戦略論】
習近平が 『核心的リーダー』として登場している。
その意味を知るものはなく、
それを決めることができるのは、
習近平だけと言う中国の現実。
2000年以降、中国は三度、その戦略を転換してきた。
「チャイナ1.0」 =平和的台頭
『中国の国際舞台の台頭、経済は日本を超え、アメリカに迫る』
国際舞台には、戦略のロジックがあるが、それを抑えた。
「チャイナ2.0」 =対外強硬路線;胡錦濤時代
戦略ロジックを発動させた。大国の錯覚。
『胡錦濤は権力を充分に行使していない弱腰政権リーダー』
2014年秋に 間違いに気がついた。反中同盟ができた。
「チャイナ3.0」 =選択的攻撃
フィリピンに対する攻撃。
フィリピンのエリートは中華系。そして文化的に反米である。
→しかし、反発された。
インドに対する攻撃。
2009年から2014年まで、インドとの国境侵入事件を起こした。
そして、中国は スリランカに基地をつくろうとしている。
金はチカラなり という錯覚。
国力と経済力はちがうことを 強調。
イギリスもフランスも いまだに国力がある。
経済力が先行し、国力がおくれてやってくる。
経済力でごり押しすればなんとかなる。
2008年から2009年
線的な予測をすることで、中国はさらに伸びて行く。
アメリカは沈み、中国は昇る。
China Up,US down.
これは、ゴールドマンサックスの予測だった。
中国の主張した 九段線。
蒋介石の主張した 十一段線をベースにしている。
大国は 二国間の関係を保てず、
第三国が 支援する構造があり、想いのままにならない。
パラドキシカルロジック 逆説的論理。
2013年 ベトナムの反発。
中国のベトナム沖の石油プラットホームに対するベトナムの対応。
中国は 海のゲームでは勝ったが 地のゲームでは苦戦した。
最初の一手があれば 当然それに対する反応があることを
理解していなかったこと。
日米同盟の弱点
アメリカが領有権争いでは、中立の立ち場を貫く。
靖国神社参拝に対してアメリカは距離をもっている。
『ロシアは戦略をのぞいてすべてダメだが、
中国は戦略以外はすべてうまい。』
『中国が失敗したのは、自分たちの都合の良い日本を勝手にでっち上げたことによる。』
中国の主張をおしつけようとしたが、
自分たちの主張をおしつけることができなかった。
おなじように 『都合の良いアメリカ』もつくることになる。
『大国というのは、ある要求をする前に、それが成功するかどうかを見極めるものだ。
そしてロシアがそうであるように、一旦要求を表明すれば、そこから動きを止めることはない。
成功するまで行動しつづけるからだ。』
習近平のリスクは 党や軍を敵に回しかねない。
2015年9月の習近平の訪米は 失敗だった。
アメリカに対して 対等になったと言うイメージアップ。
G2 中国とアメリカの『新型大国関係』
これは、キッシンジャーが 中国に売り込んだ。
中国は 内向きであり 『自分たちに都合の良い外の世界』を
『発明』する。この『発明』は、日々更新され、強化される。
『百年国恥』の借りを返したやりたい。
『人類の歴史は、長きにわたる犯行と愚行の歴史』
冷静な判断をすべき時にできないという愚行。
中国という国の性質 『国体』
習近平を一体誰が選んだのだ?
習近平は 共産党支配を破壊しつつある。
反腐敗運動は どこに進むのか?
共産党が つくりあげてきたものは 腐敗にまみれていても
今の中国をつくりあげたことは 確かなのだ。
毛沢東のエンジンは イデオロギーだった。
共産主義を求心力とした。
鄧小平は マネーを求心力とした。
『イデオロギー志向』『権力志向』『マネー志向』
の共産党に、優秀な若者が 入らなくなっている現実がある。
習近平は 美しい妻をもち、共産党 政府 軍隊の権力を持っている。
当然、お金は 余るほどある。
しかし、もっていないものがある。
『真実を伝えてくれる人材』がいない。
情報のフィードバックシステムがない。
韓国がなぜ日本嫌いなのか?
それは、自分たちの祖父たちを恥じているからだ。
そのうらみが、現在の日本人にむけられている。
変数とは 政府の決定により変化する政策
パラメータとは 国体 である。
習近平は 中国と言う国体 を守ることができるのか?
中国4.0
1 九段線を引っ込める
2 空母の建造をやめること
中国の問題は 外国を理解できず、それゆえまともな外国との交渉もできない。
中国の戦略的な文化は 内的なコンセンサスの欠如。外的な理解の欠如。
『シーパワー』;海における軍事力。
『海洋パワー』;他国との関係で生まれるもの。
『大国は小国にかてない。』
日本は『慎重で忍耐強い対応』は 中国には逆効果である。
重要なキイワード
1 パラドックス
『今日成功した戦略は、明日は必ず失敗する。なぜなら それは今日成功したからだ。』
2 大国論
『大国は小国に勝てない。』
『国が大きいほど外国への理解度は低くなる』
3 感情論
4 戦略文化というパラメータ
『文化決定論』
『戦略文化』『戦略も文化に馴染みがない』
→内向きの権力闘争の戦略はあっても、外向きな戦略はなく
外は 内むけように『都合のいいように』編集する。
戦略を論じる場合に どこに足場をおくかで
かなり違ってくる。この戦略論は アメリカを軸にしながら
日本を足場にして考察していることで、かなり違った風景が生まれてくるのである。
もちろん 仮想敵国の 中国を 主なターゲットとする。 -
Posted by ブクログ
現代の戦略研究の第一人者の一人である著者の和訳本で2014年に発行されているが、もともとは1987年原本出版であり、和訳が遅すぎよう。内容が難しいこともあるが、欧州各国はもちろん中国韓国よりも遅いのは、このような戦略研究者が防衛省や自衛隊に限られているというお寒い状況のせいだと思う。
副題の戦争と平和の論理こそが、内容を的確に示している。通常生活における合理的な直線思考とは異なり、逆説の論理が技術や戦術から戦略まであらゆる場面で支配している、という。それをこれでもか、という膨大な実例で解説する。
おおいに感心したが、難しい表現や複雑な説明も多々あり、一度読んだくらいでは理解したとは言いがたい。戦略論や戦略知識の乏しい私には再読することが必要のようだ。 -
Posted by ブクログ
国連などが戦争に中途半端に介入して止めることはマイナスしかない。当事者同士が最後まで戦って完全な勝者と敗者ができるか、双方がもうこれ以上戦いたくないと思うまでやってやっと平和が生まれ、復興が始まる。
この主張は理解できる。中途半端な正義感や覚悟のない介入では負の連鎖は止まらないし、筆者の言うようにやらない方が良い。
ただ自然に任せるのがベストだと言うような主張はダーウィニズムや新自由主義のニオイが感じられ、人間の知恵を軽視する方向になる。
人類の歴史は戦争の歴史であり、今も続いている通り根絶は困難である。だからと言って止める努力を放棄してはいけない。その手段が哲学や宗教などの思想であり、政治である。
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Posted by ブクログ
旧帝国海軍が先の大戦で真珠湾攻撃を成功させながら、戦争自体に敗れたのは言うまでもなく、戦術面で勝利しながら戦略面で負けていたからである。日本側は希望的観測で真珠湾で大打撃を与えれば、当面はアメリカは太平洋に進出できず、あわよくばアメリカ国民の感情を挫き、早期和平に持ち込めると読んだからに他ならない。歴史が示す通り、これは全く逆効果で、そもそも中国進出を狙っていたアメリカが日本側に最初の一手を打たせ、国民に復讐心による戦争参加を促す目的だった事が明らかになっている。これはアメリカが大局的には日本より遥かに先を読み、展開を予測できていたからに他ならない。アメリカの国力を知っていた山本五十六ですら、日本国民感情に押され前面に立たなければならなかった事、更には海軍の腕試し的な要素、そして一撃論の中でそれらが複雑に絡み合う状況及び潮流には逆らう事が出来なかった。
一つの例ではあるが、戦術よりも戦略が重要なのは言うまでもなく、本書はそのような戦略論において世の中を席巻するエドワード・ルトワック氏の著書である。氏の提唱した「逆説的論理(パラドキシカル・ロジック)」は戦略理論の議論に革命を起こしたと言われ、様々な戦略理論の教材としても用いられているとの事である。また各国を訪問し国家的戦略のアドバイスをするなど、精力的に世界を駆け回っている。逆説的論理とは「大国は小国に勝てない」の考えの下、大国が小国を攻めれば、必ず小国に味方・支援する他の大国が現れ敵対するため、結果的には始めに攻めた大国の方が不利益を被るといった例が代表的だ。戦力や資源に豊富な国であればあるほど、勝てる見込みは線形(リニア)に増加するだろうが、実際の世の中は、それに対抗する他国との関係性により成り立っている事をよく表している。簡単な例で言うなら、攻め込めば攻め込むほど兵站が伸びて、いつか息切れすると言ったものもこれに含まれる。人的・兵器・食料全てにおいて限界点があるからだ。
氏は本書において、近年の中国の戦略面の変化を例に述べており、それを「中国(チャイナ)1.0〜4.0」のフェーズに分けて論じている。中でも平和路線から拡大路線(強大な経済力を背景に力を外へ向け始めた)へ変化した2.0については、今でも諸外国から敵視され続ける中国戦略の大失敗と見ているようだ。実際には民主政治でトップが選ばれる西側諸国から見たときに、習近平氏が国家の上にある共産党からの指名により選ばれる体制であるから、何やら得体の知れない政治的な違いなども原因であるとは思うが。その様な中国も本書が記された2016年以降も引き続き経済は拡大し、習氏もかれこれ3選を果たして健在である。
中国を始めとして各国が戦略を見誤るのは、他国を100%正確に理解する事が難しく、社会のすべての要素に対して政治で最大効果を発揮する事が不可能だからだ。税をとれば国民は不満を言うが、病気や怪我で社会的な弱者になった時には助けられる。自衛隊に反対しながら、万が一中国が尖閣を奪いに来た時には必要性を感じる。沖縄の基地や米軍に憤りながら、いざ無くなれば中国の格好の餌食になる。世の中はそれら様々なバランスで成り立つし、そこに登場する各国の文化や主義が絡み合うから、誰にもはっきりとした事がわからない。だからと言ってそれを考えずに過ごすことも出来ない。様々なケースを考慮しながら、確率的に高いものをベースにして方向性(戦略)を見出せなければ、国は簡単に衰退してしまう。だから政治家を称賛するつもりはないが、その苦労は解る。
氏は本書最後に日本が採るべき戦略について述べる。隣に中国という大国と向き合い、尖閣だけでなく沖縄までをも奪い合う日が来るかもしれない。台湾については言うまでもない。更にその先にはプーチン率いるロシア、そして長年日本を支配しながらもかつての勢いが減速し、迫り来る中国やインドなどの超人口大国に追われるアメリカ。イギリスが撤退し団結力の試されるEUヨーロッパ連合。世界は今やネットも移動手段も遥かに高速になり繋がりを強めている。四海を海に守られている日本という幻想も最早無いに等しい。仮に尖閣諸島を中国が奪いに来たならアメリカは手助けはしないだろう。何故ならアメリカが動けば世界大戦になる事は明白だし、そもそもアメリカの国家戦略上、他国の領土紛争には(ウクライナを見ても解る通り)前面に出て戦う様な事はしない。であれば島嶼防衛は日本自らが解決しなければならない問題であり、流石に今の世の中、中国だって他国の領土を攻めたりしないだろう、というのは過去の日本が犯した戦略ミスと同じ事だ。日本人と中国人では言葉も文化も考え方も違う。先ずは我々一人一人が自分事として、各人の戦略を描かなければならない事を本書は教えてくれているのかもしれない。果たして自分の人生にさえ戦略などあったであろうか。反省に繋がる一冊である。 -
Posted by ブクログ
タイトルが気になり本書を手に取ってみた。一見すると戦争する事で生み出される利益に注目する様な刺激的な内容を想像するタイトルだが、戦争は極力避けるべきという考え方に基づいて書かれている。
筆者エドワード・ルトワックが1999年に記した同タイトルの論文について訳者のインタビュー形式にて日本語化されたもののようだ。全編にわたってベースとなる考え方は「パラドキシカル・ロジック(逆説的理論)」で、私の理解ではある一方向からみた正しさはその影響を受ける他方から見た場合、誤った見方になっているという点だろうか。良かれと思ってしている事が、実は物事の根本解決にはなっておらず、逆に本来望んでいる姿とは真逆の結果を引き起こしているという事だ。例に挙げられているものの一つに、一方的に攻撃を受けて、難民化した人々の難民キャンプを支援するNGOのケースである。食糧支援や過度の保護が、却ってキャンプ内の反撃者を増加させ、結果的に「一時的な停戦状態」を作れても、攻撃者に対する憎しみは「永久に消えない」といったものだ。こうしたパラドキシカル・ロジックを国家の戦略レベルに適用する必要性を説く。太平洋戦争での日本の真珠湾攻撃も部分的な戦術では勝利したが、最終的に日本への原子爆弾投下によって敗戦に繋がった。日本に足りなかったのは長期視点に基づく戦略があまりに甘い予想だった事もあるが、期待する同盟関係が全く役に立たなかった事が最終的な敗北に繋がった。当時同盟を結んでいたドイツ・イタリアは遥かに遠い存在であり、戦力的な面でも軍需支援もほぼ期待できない。ソ連との不可侵条約も中身が無く強固なものではないから(何より相手は簡単に裏切るソ連)、最後の最後で北方領土まで失った。日本は決定的に同盟の存在が足りてなかったと言える。ならば外交力であろうか。筆者は何より周辺諸国の情報を重視するが、これも我が国では耳が痛いインテリジェンスの話だから、当時のレーダー能力が示す様に、また現代においても期待は薄い。ならば対外的には意思をはっきり表示せよ、これは尖閣問題での中国に対する態度をはっきり示す必要性へと繋がる。
いずれにしても、日本の周辺は北朝鮮に代表される危険な国、アジア最大の経済国となったが大国として安定性に欠ける中国、そして態度を明確にせずに安全に慢心しつつ自国経済最優先する韓国と、同盟相手になり得ない国家から、同盟関係を築いてもさして得られる利益の無い国家ばかり。当面はアメリカの軍事力頼みになるのは間違いないし、その結果戦後の高度成長の恩恵が得られたのも事実だ。
筆者は日本の読者のためにか、戦国武将の武田信玄や徳川家康、織田信長も引き合いに出し、それらの戦い方や戦略における凄さにも着目している。遥か歴史上には優れたリーダーが多くいたが、再び世界に目を向け、今日本がとるべき戦略(大戦略)を真剣に考える時が来ていると、読みながら強く感じた。
現在の敵は将来の味方、その逆、今の味方は将来の敵といった様に必ずしも近視眼的に相手を選ぶのでは無く同盟国は長期視点で選ぶべきであり、また仮に不安定で先読みの難しい状況では、一時的な利用と割り切る事も必要だ。そのベースには相手を知る深い情報と、グローバル化によって距離に関係なく地球規模で影響し合う国家間の力関係を見誤らない事が重要だと感じた。 -
Posted by ブクログ
無料の不妊治療とチャイルドケアで子どもの数を増やせ、から入る。少子化と戦争の密接な結びつきを主張、クレフェルトを引用し、男たちの戦争忌避で女は愛する戦士を失い子どもが生まれなくなったという。
オランダ人やスウェーデン人の反独感情と韓国の反日感情との比較が面白い。積極的に協力した臆病な父祖を持つ国ほど、後で憎しみを増す。韓国が苦悩しながら自国の歴史と向き合わない限り、日韓関係の発展はない。
シーパワーとマリタイムパワーを理解していない中国。経済が停滞すれば、自由の代わりに経済成長を約束してきた共産党への不満が膨れ上がり、目を国外にそらせるために冒険的な行動に出ることがありうる。日本が他国に装備品を輸出するのであれば、高度な整備技術のいらないものにすべき。
北朝鮮の核武装は確実なので、日本は真剣に独力で自らを守ることを考えなければならない。北朝鮮は防空体制を欠いているので、空対地ミサイルを購入すべき。
自衛隊は本格的なウォーゲームを実施すべし。そして日本は本格的な情報機関を設置すべし。 -
Posted by ブクログ
訳者の奥山さんが著者のルトワックさんにインタビューなどをしたものをまとめた、ということなので半分くらいは共著に近いのかもしれない。実際、いつものルトワック節論文よりかなり柔らかい感じの習近平論考になっていると思う。
中国は確かに豊かになり強くなったが、それが災いして戦略的には弱くなる一方である、例えば、という論考がいくつも披露される。曰く、チャイナ4.0になって内も外も全方位に喧嘩を売って回る戦狼外交があらゆる他者を反中国同盟に駆り立てる。ジャックマーはじめ国内の起業家を叩いて回るから中国経済の行方に暗雲が立ち込める。お前たちは小国だから黙っていうことを聞けと明言するほどの外交音痴。
毛沢東になりたい習近平がラストエンペラーだというのは説得力があると思う。そのメンツを潰す小さな不同意を小国が積み重ねれば習近平は倒れるだろうとの予測もそうだろう。しかし、最末期の彼が乾坤一擲の台湾侵攻に賭ける恐れが増すのではないか。そうなれば米軍は沖縄その他日本の基地から出撃するから日本は必ず当事国になる。それが嫌で基地利用を認めなければ日米同盟が破綻するから選択の余地はない。そんな選択をせずに済む軟着陸を考えたいがそうは問屋が下さぬかもしれないね。 -
Posted by ブクログ
前著『戦争にチャンスを与えよ』同様、通常は口にするのを憚れる内容も空気を読まずズバズバ指摘してて小気味いい。皆が心底では何となく感じている矛盾を、堂々と言語化するその姿勢は、勇気や信念に起因するというより、市井の人と視点と感覚が異なる…というか、そもそもこういう人なんだろうw。賛否あると思うが、世界の潮流の中で日本がどういう立ち位置にあるかをイメージする為に、一読の価値あると思う。基本的に「日本」について語っているが、その文脈での米国・中国・韓国・北朝鮮に対する考察は非常に興味深い。彼の日本に対するSuggestionは一言でいうと
”Si vis pacem, para bellum(汝、平和を欲さば戦いに備えよ)”
ということだろう。『戦略論』→『中国4.0』→『戦争にチャンスを与えよ』→『日本改造論』の順番で読むとルトワックが徐々に先鋭化していると感じる。いや、世界が益々カオス化しているということか…。