【196冊目】中国そのものの分析というよりも、戦略論の観点から中国をとらえ、日本に提言を行うもの。
中国1.0は、平和的台頭。
→リーマンショック等を見て、米国一強の時代は終わったと理解。
→中国2.0は、対外強硬路線。
→周囲を見渡すと、日本や東南アジア、インド等がアンチ中国で連携していたことに気がつく。
→中国3.0は、選択的攻撃。
※なお、中国4.0は筆者の中国に対する提言でしかない…。
中国2.0の失敗の原因は、中国が陥った3つの錯誤にある。
1. 金は力なり。
2. 中国の発展は直線的に続く。
3. 大国は二国間関係を持ち得ないのに、G2論に依拠したこと。
特に三点目は、筆者の戦略論の真骨頂。「逆説的論理」=小国が大国に攻撃されると、その小国を守ろうと他国が支援する。日露戦争でロシアが、ベトナム戦争でアメリカが敗北したのもこの論理が働いていると筆者は分析する。
その他。
・習近平は圧倒的な権力を持っているが故に、不都合な真実を伝えてくれる人がいない。これは彼の戦略を誤らせる。しかし、こうした内向きさは中国の文化である。
・ルトワック氏は本書で何度も尖閣に言及している。これは、日中間の戦争の最も現実的な火種が尖閣諸島にあるという彼の認識ん裏返しであろう。
・中国はsea powerではあるが、maritime powerではない。前者は艦船の建造など資源を投入すれば構築可能だが、後者は違う。日露戦争のときのロシアもmaritime powerを持っていなかった。そのため、アフリカ大陸を迂回して日本海に到達したとき、ロシアの艦船は既に疲弊していた。maritime powerとは、外交関係等の要素も含めた総合力である。ロシアの艦船は食料や燃料を補給させてくれる寄港地が少なかった、その意味で、イギリスは真のmaritime powerであった。→この点、「一帯一路」構想に賛同する国が増えればこの点は克服できそう。
筆者のルトワック氏から日本政府への提言は、次のとおり。ただし、文脈から言って、そのほとんどが尖閣対処に向けられたものに聞こえるのは、私の認知のゆがみだろうか…。
◯米国が島を守ることまで日本は期待すべきではない。米国は核の傘は提供するし、大筋の戦略でも合意するが、島ぐらいは自国で防衛してくれよと思っている。
◯対処すべき相手国である中国は、巨大でありながら不確実性を抱えた国である。
◯したがって、日本は「封じ込め」という受動的対処方針のもと、米国に頼らずに独力で島を奪還する多元的能力を身につけるべきである。「受動的」とすべきなのは、不確実な大国相手には積極的戦略が意味をなさないことの裏返し。「多元的能力」については、海保、海自、陸自、空自のほか、外務省にも言及あり(有事の際には中国製品の税関手続を遅らせるなどの措置を各国が実施するよう、事前に働きかけるなど。)。