谷垣暁美のレビュー一覧
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作品紹介・あらすじ
かつて野良仕事に駆り出された子どもたちの為に用意された架空の友人、言葉人形。それはある恐ろしい出来事から廃れ、今ではこの博物館の片隅にその名残を留めている――表題作ほか、光と星の秘密を追う研究者の実験台となった無垢な娘の運命を綴る残酷な幻想譚「理性の夢」、世界から見捨てられた者たちが身を寄せる幻影の王国が、少女王妃の死から儚く崩壊してゆく「レパラータ宮殿にて」など、世界幻想文学大賞、シャーリイ・ジャクスン賞、ネビュラ賞、MWAなど、数々の賞の受賞歴を誇る、現代幻想小説の巨匠の真骨頂ともいうべき13篇を収録。
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ジェフリー・フォードを読むのは二冊目。本書の後に出版された「最後の三角形」を先に読んでおり、順番が逆転してしまったのだけれど、特に支障はなかった。
その「最後の三角形」もかなり面白かったので、本書は期待しながら読んだ。そして期待通りの面白さで、作品によっては期待以上に面白かった。
全般的には幻想文学になるのだろうけれど、ホラーっぽいものやファンタジー、よりリアルに近いもの、ちょっとスラップスティック風のもの、と前作「最後の三角形」と同様にかなり幅広い内容になっている。
「ファンタジー作家の助手」や「レパラータ宮殿にて」はラストにほろりとさせてくれるし、「光の巨匠」は三つの世界が重層的に成り立っており、「べらぼうな犠牲だよ、きみ」と言われた主人公は、本当にべらぼうな犠牲を被ることになる。
「私の分身の分身は私の分身ではありません」はちょっとしたドタバタも含めつつのサスペンス的な展開、「理想の夢」はマッド・サイエンティストが登場するSF的な作品で、嫌な人体実験が行われる。
他の作品もどれも独特で面白いのだけれど、僕が最も好きなのは冒頭に置かれた「創造」。
リアルなのかただの妄想なのか。幼い少年は自分がモンスターを生み出してしまったことに怯える。そして父親に涙ながらに事の深刻さを伝える。すると普段は形而上的な事柄をいっさい信じない父は、「よしわかった」と少年と共に解決に向かう。そして無事に解決される。
数年後、少年も二人の男の子の父親になり、実家に帰省してくる。そして幼い頃の自分が生み出したモンスターの件について年老いた父に訊ねる。その時の父の返答が……。
僕はその返答を読んで、父と息子の愛情溢れる心情が浮かんできて思わず泣きそうになってしまった。ところが、読み方によってはこれほどに背筋がゾゾゾっとくる返答もないんじゃないかと思う。リアルなのかただの妄想なのか。このどちらを選ぶかで大きく変わってくるように思えた。もちろん作者はこういうことだよ、と説明はしてくれない。完全に読者に委ねられている。そういう面白さを含んだ作品だと思う。 -
Posted by ブクログ
ネタバレジェフリー・フォードの短編集その1。評判の良い「最後の三角形」が読みたくて、まずはこちらから。
非常に幻想味の強い作品が多く。ただ、それでも魅力的なストーリー展開の作品ばかり(いくつかは本当に訳がわからなくて、うーんていうのもあったけど。。。)。
以下、作品ごとの感想。
◯創造
木の枝や実で人形を作ると翌日にはいなくなっていた。生命を創造してしまったと考える少年の話。ラストの父との余韻が非常に良い。
◯ファンタジー作家の助手
有名なファンタジー作家の助手となった女の子の話。作家の妄想か、彼女の妄想か。本の世界が具現化する。終わってみれば、優しさに溢れた世界。
◯〈熱帯〉の一夜 ★おすすめ
昔自分を守ってくれていた二つ上の不良と、思い出深いバーで再開する。不良が歩んできた不思議な人生。冒頭からは全く想像できない意外な展開。かなりおすすめ。
◯光の巨匠
照明デザイナーの大御所(他に言い方わからない笑)にインタビューすることができた若い記者。幸運に感謝しつつも、聞かされた内容は摩訶不思議で。。。深掘りし始めると色々な発見があるのかもしれないが、結構難しい話。
◯湖底の下で
墓場の下に鍾乳洞を発見した少年少女の話だが、着地点は思った以上に情念が深い過去の悲劇に繋がっていて。合間合間に入る幻想的な風景も最後には全て繋がる。
◯私の分身の分身は私の分身ではありません
まずは題名よ笑。分身と一緒に分身の分身を倒そう、という話。展開は見え見えだけど、リンのキャラが良かった。
◯言葉人形
ある地域に伝わる言葉人形という儀式。全編に漂う不気味さ加減が絶妙。ちょっと難しい場面もあるが。
◯理性の夢
幻想的なSF作品。光の歩みを遅くする実験に人生をかけた研究者の話。意味不明な人体実験が怖いというより、おぞましい。
◯夢見る風 ★おすすめ
吹けば悪夢のように、色々なものが狂う風が止まる。皆がその風に怯えつつも、吹かなければ吹かないで不安が満ちる。想定外のラストが非常に良い。忘れ難い余韻。
◯珊瑚の心臓 ★おすすめ
まず珊瑚の心臓(コーラル・ハート)が剣の時点でカッコ良すぎる笑。剣を持つ戦士の冒険譚の一幕という体で、色々派生できそう。この短編だけでシリーズ化してほしい。
◯マンティコアの魔法
ある魔法使いとその弟子、そしておそらく最後のマンティコアの話。良い作品なのだが、良くも悪くも普通で、収録された作品の中では地味な方。
◯巨人国
ぶっちぎりで幻想味が強い作品。こういうものだと思って酩酊感を味わう作品なのだと思った。
◯レパラータ宮殿にて ★おすすめ
はぐれものたちが身を寄せる王国。王妃が死んで王が悲しみに沈み、王を助けんと魔法使いと呼ばれる者の助力を得るが。。。一瞬の輝きを描いた儚く美しい作品。 -
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SFが読みたい!2023より購入しました。
素晴らしい!の一言です。
文学の詳しいことはわかりません。
なので、私観的ですが
SFが読みたい!を十分満足させてくれたと同時に
SF サイエンスフィクションに入るのかどうか
は別として、満足させてくれます。
まず、言葉が、(訳が素晴らしいのもありますが)
想像に難くない表現で
とても読みやすく、
一話一話、ひたっていられる感覚です。
が、ついつい次々読んでしまいました。
そして、全話偏りない
なんでこんなに色んな話が書けるんだろうと
才能に驚きます。
短編集は、あまり好きではないのですが
短編なのに、最後の数ページで
あーそーなるのかっていう展開や、
途中からわかってる感じもあるものでも
最後の一文までしっかり読ませてくれます。
原書を読めないので、
訳者さんの努力には、本当に感謝しかないです。
出会えてよかったです。
ちなみに、まだ同作者の、言葉人形は読んでませんが
幻想小説が主だということなので、
それが私の思ってるようなものなら
読むのをためらうし、
でも、この作者のものなら
読みきれそうな気もするし
検討中です。 -
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ジャロン・ラニアーの本は毎回面白いと感じているので、深く考えずに本書も購入しましたが、期待を上回る面白さでした。本書はVRの歴史を解説した本であるとともに、VRを生み出してきたラニアー自身の幼少時からの自伝でもあります。その意味では、あたかもラニアーの人生をVRで追体験しているかのようでありました。
本書ではラニアーが考えるVRの定義がたくさん紹介されていますが、私が個人的に最も印象に残った定義は「VR=-AI」です。どういうことか。私なりの理解ですが、AIは便利ではあるものの、ある意味人間の思考能力や感性を鈍らせる存在である。それに対してVRとは、人間の世界認識能力、感性を研ぎ澄まさせる存在だというところでしょうか。VR技術が進歩してよりリアルに近づくほど、人間はそれがどこかおかしいことに気づく、つまりVRはいつまでたっても完全に人間を欺くことはできず、VRの進歩は人間の感性が研ぎ澄まさせることと軌を一にしているということです。
現在世の中ではどちらかといえばAI礼賛にあふれていますが、VR(もしくはAR)も企業経営などに活用させる余地は多々あるのではないかと感じました。とても面白かったです。 -
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ネタバレ語り手としてのラウィーニア、生きているラウィーニア。読者として物語に向き合ったが、両者は、一体化したり離れたりを(よく練られた語りに!)感じさせすぎることなく、ただ、「ひとり」の人間として在ったと思う。ときどき冷静な視点が内省するところは読者/わたしにも良い振り返りどきになったし、終わりの語り手としてだけのラウィーニアの出現にはどきりとした。それにしても、後代の詩人の登場と、それによって「未来を知っている」ためのラウィーニアの嘆きや恐怖、さらにはそれを超えたところで、自分が知っていることを利用できる強かさ、その描かれ方が素晴らしい。あくまで想像だけれど、「神」と向かい合う行為から、土と血と礼拝と地続きであることから、ラウィーニアの強さは醸成されていったのだろうと思う。
ひとつだけ、ちょっと眉が上がったのが、ラウィーニアが「男」と「女」について考えるところ。これはラウィーニアの考えで、グウィンの考えではないのかもしれないが、『闇の左手』を知っているだけにひっかかるものがあった。
あと、シィルウィウィスはかわいい!! -
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ネタバレ読者を呑み込む、というのだろうか。いやそれでは乱暴に過ぎる。けれどわたしは、この物語を読んでいるあいだずっと、主人公とともに歩んでいたように思う。信じては裏切られ、また、助けられ助けてという旅路。奴隷であり、追われるものであったという「鎖が切れたと思う」という表現は前後の文脈含め完璧にひとつの「流れ」の終わりを示しているようだし、最後の機知に富んだやりとりは物語を総括して「支配」という「暴力」について見事に結論づけている。鉤括弧が多くて申し訳ないが、この物語を読んだ方ならば納得してくださると思う。そして解説がいうようにこのシリーズの原題はすべて複数形で、ちからが働くもの、働かせるもの、その働きを受けるものについて語っているようにも思えたのである。
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ネタバレこの物語には、アーシュラ・K・ル=グウィンの頭のなかには、わたしたちが自分が属すると思っている以上の集合体の声が、流れているにちがいない。
わたしは、大きな絶望感と空虚感の最中に、ほぼ偶然これを手に取って読んだ。グウィンは、むろんその腕を最大限伸ばして知識を得ただろうが、それのみに留まらず、実際に起こったであろう(グウィン自身には起きていないだろうが)ことをしずかに聞いたのだと思う。「奴隷」という人びとの受ける扱い、かれら自身が思い込むことで耐える拠り所……わたしとておおよそは本で伺い知った(そうでないところも、いちおうあるが)その考え方の構造のようなもの、そして残酷さを、ゆっくり誠実に、内なる声を聴きながら描き出している。このことはわたしに勇気をくれた。もう少しだけ、グウィンその人が別著で語ったように、「才能に人生を懸けて」みようと思う。むろん、「声」に耳を傾けながら。 -
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ネタバレグウィンの作品の中でどれが好き? という(ある意味とても酷で厄介な)問いを投げかけられたら、いまの私は「ゲド戦記」や「闇の左手」よりもこの本(「西のはて年代記」二巻)をえらんでしまうかもしれない。そのくらい気に入りで、また、わたしにはまだおぼろげにしかわからない深い霊性を湛えた本のように思う。物語そのものは、高い地位の生まれの母を持ちながら「侵略の落とし子」として生まれた少女メマーを主人公に、その目を通して進んでいく。メマーは豊かな感性の持ち主で、その考えのくるくる踊るところーーたとえば客人のための食材を用意したり、自分に半分血を入れた侵略者に強い憎しみを露わにしたり、そのひとりと「男の子」として話して憤慨したりーーに生き生きとしたこころの動きを見ることができる。そして、ゆえに、そのメマーが「語り手」として突き動かされた自分におびえること、メマーに語らせたものが何だったかについて、導き手たる「道の長」が解釈するところが気持ちに沁みる。前作に続いてオレックとグライが出てくるのもうれしい。
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あとがきまで愛に溢れて少し切ない。幅広い読者層に受け入れられると確信!
ウェルギリウスと『アエネーイス』へのル・グウィンさんの敬意と、彼女に対する翻訳の谷垣暁美さんの敬意で二重に包まれた、温かく素敵な一冊がいま私の手元にある。
・とある国のお姫様が男に出会う
・その男は未来で叙事詩を書いたウェルギリウス
・そう。現代の我々の世界にも繋がっている
・お姫様は彼の作品に出てくる登場人物だと告げられる
・自分が二次元創作物だったなんて強展開!信じられる?!
・古典アエネーイスのスピンオフ
・けど原作知らなくてもイケる
ここらへんまでで、ライトな小説勢も面白そうだと思いませんか?
・姫は運命を受け入れながらも、自分らしく生きる
・それが人間らしく、愛情深く、聡明で爽快
・英雄アエネーアスも魅力的
・ラウィーニアを通しているからかな。愛しい人
・味方の女性陣が好き
・父のじれったい敬虔も粋
・狂った母にさえ納得感はある
・お城と深い森
・きこりの家、洞窟、狼
・海風の香り、サルサ・モラ
ル・グウィンさんファン及びファンタジーファンを喜ばせる、地に足がついた登場人物、自然と住居のありありとした描写、崇高な信仰や儀式は雰囲気たっぷり。トリップできます。
・平和と戦争のギャップがきつい
・映画化できそう、皆に知って欲しい
・でもいじくらないで。自分の感じた世界観をそっとしておいてほしい矛盾
原作勢あるある。
かつてゲド戦記に泣き、クラバートの帯に「宮崎駿絶賛」と書かれていて慄いた私です。
結局長くなってしまった。
訳者あとがきが大変秀逸なので、私が語ることは特になかった(はずなのに)。
自身も愛と感謝を込めた重めのラブレターを書きたかったが、誰も読むまい。
拙い箇条書きが誰かの読書のきっかけになれば嬉しい。
もしそうなれば文化が、本が脈々と受け継がれる歯車の一つとして、ル・グウィンさんのファンタジーに組みすることができたようで、それは非常な喜びだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ『西のはての年代記III』の上下巻。
表題はパワーだが、原題はもちろん複数形。個人の背景となる「権力」でもあり、個人の持つ「力」でもある。主人公のガヴィアは姉のサロとともに幼いときに水郷の地空奴隷狩りによって都市国家エトラの「アルカマンド」につれてこられて働いている。かれは、ひと目見たものをすぐさま覚えて暗証することができるという能力によって、アルカ家の子供達(主人一族や奴隷をふくむ)とともに学校で学んでいる。姉のサロは、その美貌と性格により、同じ学校で学ぶ主人一族の長男にギフトされる立場となっている。ここの段階でのパワーというのはまさに、権力構造そのものをさすが、主人公のガヴィアは主人一家と奴隷がともに学ぶことができる学校で学ぶことができるという学び舎で学ぶなかで、その構造的矛盾を理解できないでいる。
しかし、主人一家の子供達(嫡子や庶子)との子供なりの権力関係や主人一家と奴隷の間の根本的な矛盾に様々な出来事の中で気がついてゆく。姉のサロは、主人の一族の振る舞いにより死んでしまい、それをきっかけに、ガヴィアはオレック・カスプロの著作集を手に森に入る。釣りをするという技術しか持たないまま、森を徘徊するうちに飢えによってあやういところ、森の世捨て人クーガによって一命を取り留める。彼とともに過ごして回復し、主人の妻から姉のサロに対する償いと思える金の入った巾着をクーガに預け、解放奴隷の王国を築いているバーナの都市に移動することを決意する。
ガヴィアは、自らの持っている能力、一度知ったことばを忘れることなく語ることができるという能力(ギフトあるいはパワー)をクーガのもとでは発揮することはなかったが、バーナは、ガヴィアの類まれな能力に注目し、彼に語らせる。しかし、ガヴィアは、解放奴隷であるはずのバーナの一党による奴隷狩りによってさらわれてきたイラードとメルの姉妹と知り合うが、バーナが魅入られたイラードとの関係を疑われたガヴィアはバーナのもとから離れて、故郷と思われる水郷の地を目指す。
系譜の記憶を持たなかったが、やがて、親族と出会う。水郷の地におけるがヴィアの持つ記憶と語りの能力は、狩猟をして予言をするという能力とみなされることとされるが、彼は納得がいかない。おばの予言(助言)により、北に向かい2つの川を超えると開放されるとの言葉を信じ、故郷と思われた水郷の地をさって、オレック・カスプロが住まうという大学の街、メサンをを目指すことになった。クーガに預けた巾着を思い出して、取り戻すべく再びクーガの森にはいるが、クーガの朽ち果てた遺骨を発見する。そして、バーナの街が都市国家軍によって破壊されたという離脱者のことばによって、バーナの地に戻るが、そこであったのはメルであった。
メルとともにメサンを目指す。そして、様々な試練を経て目さんでオレックに出会い、彼とともに暮らして、視力の衰えたオレックのもとで、その援助者としての未来が語られて長い物語が終わる。
本書のタイトルの「パワー」は、複数形である。主人と奴隷の権力関係であり、解放奴隷の救世主であるはずのバーナが持つ、権力であり、その権力による犠牲者の一人のメルとともに旅をする。また、ガヴィアのもつ能力が発揮される(パワーを持つ)場もあればそうでない場もある。様々はパワーとの出会い、一筋では理解できないパワーと遭遇の物語でもある。
この物語の背後には多様性について、著者の理解が込められているように見える。父のアルフレッド・クローバーはカリフォルニア・インディアンの一部族の最後の一人となったイシを保護し、博物館に住まわせ、イシから部族の物語を聞き取って記録に留める。しかし、この一族の滅亡を止めることはできず、むしろ、失われた一族の知識あるいは記憶を止めようとした。その娘のル=グウィンは、本書を含む『西のはての年代記』を残す。これらは、いずれも連関しているように思えるのだが・・・・。 -
Posted by ブクログ
ネタバレル=グウィンの『ゲド戦記』シリーズのあとしばらくたった書かれたファンタジー。少年オレックと少女グライの物語。
オレックはカスプロマントの跡継ぎで、代々「もどし」のギフトを継承することが期待されている。グライは隣国のロッドマントの生まれで、母から「呼びかけ」のギフトを継承している。「呼びかけ」のギフトは動物たちを呼び寄せるもので、動物たちにとって狩られるという負の部分と人間に飼いならされるという正の部分をもっている
オレックの母のメルは低地の生まれで、オレックの父カノックが「もどし」のギフトと交換に手に入れた低地から贈られた「ギフト」でもある。低地の人々から、カスプロマントなど「高地」の人々は魔法使いとみなされていたが、その低地からやってきたエモンという流れ者とオレックとグライの会話から物語が始まる。
「もどし」のギフトを継承できているのかどうかオレックには自信がない。「もどし」のギフトは眼差しを対象に向けると対象を破壊してしまうという暴力的なギフトだ。ある時、オレックには自覚がないままに、飼い犬を殺し、蟻塚とその周辺を破壊してしまう。父がそばにいたのだが、父はその眼差しを封印しなければ危険だという。カッダートという偉大な祖先は荒ぶるギフトを封印するために目隠しをしたという故事にならってオレックは目隠しをして暮らすことになる。
敵対する隣国ドラムマントとの応酬で、その支配者のオッゲの「すり減らし」のギフトによって母メルは衰弱死し、オッゲを「もどし」のギフトで殺すが、自らも矢を受けて命を失った父カノック。父の死をきっかけにオレックは新たな旅立ちを決意する。
狩りのために動物を呼び寄せるために「呼び寄せ」のギフトを使いたくないグライと自分自身が父からギフトを継承していないことを自覚し、母から受け継いだ物語を記憶し、創り、語る力を自覚したオレックは、彼らの能力を「低地」で活かして暮らしてみないかというエモンの言葉に導かれるように、ふたりで新たな旅立とうとするところで、年代記Iが終わる。
次の物語が楽しみだ。ただ、ギフトというと、贈物という訳語を思い浮かべてしまうが、賜物つまりは、才能という意味も含んでいることがこの物語の重要なポイントである事を忘れてはならない。