実際に作家志望者向けのクラスを持っていたル=グウィンによる、文法から徹底的に学ぶ文章講座。練習問題も多数掲載。
はじめにル=グウィンの作品を一つも読んでないことを懺悔しつつ、本書は大変面白かったです。
ル=グウィンの教えは「独りよがりな文章を書かない」という点に重きを置いていて、そのために文法を
...続きを読む学び、描写や構文や語り手の視点が読者にどんな影響を与えるかを知ろう!という趣旨。タイトルの通りずっと文体の話をしていて、〈何を書くか〉ではなく〈どう書くか〉を学ぶための本だ(そのため、練習問題ごとにそれにふさわしい設定を考えるのがめんどくさい人間のためにアイデアをだしてくれてたりする。親切)。自分の受け持ちクラスと同様に、書く人たち同士で同じ課題に取り組み、評し合うことを推奨してもいる。
ル=グウィンの一見格式ばった語り口がまた読んでいて小気味良い。「ひけらかせ!自分の持つ見事な言葉遣いから生まれる一大楽団をあますところなく使うのだ!」と力強く励ましてくれたり、「物語内で〈ともかく〉起こることなどない。自分が書いたから起こるのだ。責任を果たせ!」と檄を飛ばしてくれたり、厳しいけどユーモラスで優しい先生なのだ。
とはいえル=グウィンの母語は英語なので、日本語にそのまま置き換えられないことや英文ならではの慣習もある。時制を扱った章は訳註が多く、対照言語学的な話に片足突っ込んでるところもあって、翻訳コストが高い!と思った。あと、こういう本で著者が「完璧な文章」と紹介して引用した例文を訳すのはプレッシャーだろうなとか、いろいろと訳者の努力が偲ばれる本でもある。
本書はすでに何かしら執筆活動を始めている人を読者に想定していると最初に宣言されるが、書く人だけでなく読む人にもやはりおすすめだと思う。一人称視点と三人称視点をさらに細かく分類して解説し、オリジナルの例文まで読ませてくれるのは本当に優しい!国語の教科書に載せとくべき。「あの本はどんな効果を狙って文体や語り手の人称を決定したのだろう」と考えることは、読書体験をより豊かにしてくれると思う。
厳格だがアツいル=グウィン先生に付いて、伝えたいものを表現するために必要な技術を身につける。〈文体の舵をとる〉ってそういうことだ。どんな文章を書くにも役立つ教えばかりだけれど、人生で一番英作文を書いていた高校時代に、この本に出会いたかったなぁ。ともかく、ヴァージニア・ウルフをもっと読もうと思います。