あらすじ
技巧(クラフト)が芸術(アート)を可能にする
『ゲド戦記』『闇の左手』のアーシュラ・K・ル=グウィンによる小説家のための手引き書
「芸術には運もある。それから資質もある。それは自分の手では得られない。ただし技術なら学べるし、身につけられる。学べば自分の資質に合う技術が身につけられる。」(本書「はじめに」より)
ハイファンタジーの傑作『ゲド戦記』や両性具有の世界を描いたフェミニズムSF『闇の左手』などの名作を生み出し、文学史にその名を刻んだアーシュラ・K・ル=グウィン。
本書は、ル=グウィンが「自作の執筆に励んでいる人たち」に向けて、小説執筆の技巧(クラフト)を簡潔にまとめた手引書である。
音、リズム、文法、構文、品詞(特に動詞、副詞、形容詞)、視点など、ライティングの基本的なトピックを全10 章で分かりやすく解説。各章には、ジェイン・オースティンやヴァージニア・ウルフ、マーク・トウェイン、チャールズ・ディケンズなど偉大な作家が生み出した名文が〈実例〉として収録され、ル=グウィン自身がウィットに富んだ〈解説〉を加えている。また章末に収録されている〈練習問題〉を活用することで、物語のコツと様式について、自らの認識をはっきりと強固にすることが可能になる。
小説の執筆は、技芸(アート)であり、技巧(クラフト)でもあり、物作りでもある。執筆の楽しみを満喫することができる一冊。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
実際に作家志望者向けのクラスを持っていたル=グウィンによる、文法から徹底的に学ぶ文章講座。練習問題も多数掲載。
はじめにル=グウィンの作品を一つも読んでないことを懺悔しつつ、本書は大変面白かったです。
ル=グウィンの教えは「独りよがりな文章を書かない」という点に重きを置いていて、そのために文法を学び、描写や構文や語り手の視点が読者にどんな影響を与えるかを知ろう!という趣旨。タイトルの通りずっと文体の話をしていて、〈何を書くか〉ではなく〈どう書くか〉を学ぶための本だ(そのため、練習問題ごとにそれにふさわしい設定を考えるのがめんどくさい人間のためにアイデアをだしてくれてたりする。親切)。自分の受け持ちクラスと同様に、書く人たち同士で同じ課題に取り組み、評し合うことを推奨してもいる。
ル=グウィンの一見格式ばった語り口がまた読んでいて小気味良い。「ひけらかせ!自分の持つ見事な言葉遣いから生まれる一大楽団をあますところなく使うのだ!」と力強く励ましてくれたり、「物語内で〈ともかく〉起こることなどない。自分が書いたから起こるのだ。責任を果たせ!」と檄を飛ばしてくれたり、厳しいけどユーモラスで優しい先生なのだ。
とはいえル=グウィンの母語は英語なので、日本語にそのまま置き換えられないことや英文ならではの慣習もある。時制を扱った章は訳註が多く、対照言語学的な話に片足突っ込んでるところもあって、翻訳コストが高い!と思った。あと、こういう本で著者が「完璧な文章」と紹介して引用した例文を訳すのはプレッシャーだろうなとか、いろいろと訳者の努力が偲ばれる本でもある。
本書はすでに何かしら執筆活動を始めている人を読者に想定していると最初に宣言されるが、書く人だけでなく読む人にもやはりおすすめだと思う。一人称視点と三人称視点をさらに細かく分類して解説し、オリジナルの例文まで読ませてくれるのは本当に優しい!国語の教科書に載せとくべき。「あの本はどんな効果を狙って文体や語り手の人称を決定したのだろう」と考えることは、読書体験をより豊かにしてくれると思う。
厳格だがアツいル=グウィン先生に付いて、伝えたいものを表現するために必要な技術を身につける。〈文体の舵をとる〉ってそういうことだ。どんな文章を書くにも役立つ教えばかりだけれど、人生で一番英作文を書いていた高校時代に、この本に出会いたかったなぁ。ともかく、ヴァージニア・ウルフをもっと読もうと思います。
Posted by ブクログ
小説を書く人向けの文章指南本。より良い文章を書くための技術を様々な角度から教えてくれる。原文が英語なので日本語への置き換えだと理解が難しい箇所もあったが(特に時制の辺り)、視点(POV)など基礎的な部分から、文の響きや繰り返し表現など日本のハウツー本ではあまり見られないような内容もあり、自分の文章に積極的に取り入れていきたいと思った。内容が濃く一回読んだだけでは咀嚼しきれていないので、読み返しつつ、練習問題にも取り組んでみたい。
Posted by ブクログ
「ゲド戦記」「闇の左手」、どちらも大好きで、かつ自分の物語づくりに悩んでいた私は飛びついた。数々の難題が繰り出されてくるが、それでも取り組んで良かったと思う。ただし底に共通設定があるイマドキの「ファンタジー」ではなく、「一から物語を作り(あるいは聞き)語りたいものの話」向け(だからこそ私にはとても合ったのだが)かとも思う。