アーシュラ・K・ル=グウィンのレビュー一覧
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実際に作家志望者向けのクラスを持っていたル=グウィンによる、文法から徹底的に学ぶ文章講座。練習問題も多数掲載。
はじめにル=グウィンの作品を一つも読んでないことを懺悔しつつ、本書は大変面白かったです。
ル=グウィンの教えは「独りよがりな文章を書かない」という点に重きを置いていて、そのために文法を学び、描写や構文や語り手の視点が読者にどんな影響を与えるかを知ろう!という趣旨。タイトルの通りずっと文体の話をしていて、〈何を書くか〉ではなく〈どう書くか〉を学ぶための本だ(そのため、練習問題ごとにそれにふさわしい設定を考えるのがめんどくさい人間のためにアイデアをだしてくれてたりする。親切)。自分の -
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ネタバレ語り手としてのラウィーニア、生きているラウィーニア。読者として物語に向き合ったが、両者は、一体化したり離れたりを(よく練られた語りに!)感じさせすぎることなく、ただ、「ひとり」の人間として在ったと思う。ときどき冷静な視点が内省するところは読者/わたしにも良い振り返りどきになったし、終わりの語り手としてだけのラウィーニアの出現にはどきりとした。それにしても、後代の詩人の登場と、それによって「未来を知っている」ためのラウィーニアの嘆きや恐怖、さらにはそれを超えたところで、自分が知っていることを利用できる強かさ、その描かれ方が素晴らしい。あくまで想像だけれど、「神」と向かい合う行為から、土と血と礼拝
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ネタバレ読者を呑み込む、というのだろうか。いやそれでは乱暴に過ぎる。けれどわたしは、この物語を読んでいるあいだずっと、主人公とともに歩んでいたように思う。信じては裏切られ、また、助けられ助けてという旅路。奴隷であり、追われるものであったという「鎖が切れたと思う」という表現は前後の文脈含め完璧にひとつの「流れ」の終わりを示しているようだし、最後の機知に富んだやりとりは物語を総括して「支配」という「暴力」について見事に結論づけている。鉤括弧が多くて申し訳ないが、この物語を読んだ方ならば納得してくださると思う。そして解説がいうようにこのシリーズの原題はすべて複数形で、ちからが働くもの、働かせるもの、その働き
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ネタバレこの物語には、アーシュラ・K・ル=グウィンの頭のなかには、わたしたちが自分が属すると思っている以上の集合体の声が、流れているにちがいない。
わたしは、大きな絶望感と空虚感の最中に、ほぼ偶然これを手に取って読んだ。グウィンは、むろんその腕を最大限伸ばして知識を得ただろうが、それのみに留まらず、実際に起こったであろう(グウィン自身には起きていないだろうが)ことをしずかに聞いたのだと思う。「奴隷」という人びとの受ける扱い、かれら自身が思い込むことで耐える拠り所……わたしとておおよそは本で伺い知った(そうでないところも、いちおうあるが)その考え方の構造のようなもの、そして残酷さを、ゆっくり誠実に、内な -
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ネタバレグウィンの作品の中でどれが好き? という(ある意味とても酷で厄介な)問いを投げかけられたら、いまの私は「ゲド戦記」や「闇の左手」よりもこの本(「西のはて年代記」二巻)をえらんでしまうかもしれない。そのくらい気に入りで、また、わたしにはまだおぼろげにしかわからない深い霊性を湛えた本のように思う。物語そのものは、高い地位の生まれの母を持ちながら「侵略の落とし子」として生まれた少女メマーを主人公に、その目を通して進んでいく。メマーは豊かな感性の持ち主で、その考えのくるくる踊るところーーたとえば客人のための食材を用意したり、自分に半分血を入れた侵略者に強い憎しみを露わにしたり、そのひとりと「男の子」と
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あとがきまで愛に溢れて少し切ない。幅広い読者層に受け入れられると確信!
ウェルギリウスと『アエネーイス』へのル・グウィンさんの敬意と、彼女に対する翻訳の谷垣暁美さんの敬意で二重に包まれた、温かく素敵な一冊がいま私の手元にある。
・とある国のお姫様が男に出会う
・その男は未来で叙事詩を書いたウェルギリウス
・そう。現代の我々の世界にも繋がっている
・お姫様は彼の作品に出てくる登場人物だと告げられる
・自分が二次元創作物だったなんて強展開!信じられる?!
・古典アエネーイスのスピンオフ
・けど原作知らなくてもイケる
ここらへんまでで、ライトな小説勢も面白そうだと思いませんか?
・姫は運命 -
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ネタバレ『西のはての年代記III』の上下巻。
表題はパワーだが、原題はもちろん複数形。個人の背景となる「権力」でもあり、個人の持つ「力」でもある。主人公のガヴィアは姉のサロとともに幼いときに水郷の地空奴隷狩りによって都市国家エトラの「アルカマンド」につれてこられて働いている。かれは、ひと目見たものをすぐさま覚えて暗証することができるという能力によって、アルカ家の子供達(主人一族や奴隷をふくむ)とともに学校で学んでいる。姉のサロは、その美貌と性格により、同じ学校で学ぶ主人一族の長男にギフトされる立場となっている。ここの段階でのパワーというのはまさに、権力構造そのものをさすが、主人公のガヴィアは主人一家 -
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ネタバレル=グウィンの『ゲド戦記』シリーズのあとしばらくたった書かれたファンタジー。少年オレックと少女グライの物語。
オレックはカスプロマントの跡継ぎで、代々「もどし」のギフトを継承することが期待されている。グライは隣国のロッドマントの生まれで、母から「呼びかけ」のギフトを継承している。「呼びかけ」のギフトは動物たちを呼び寄せるもので、動物たちにとって狩られるという負の部分と人間に飼いならされるという正の部分をもっている
オレックの母のメルは低地の生まれで、オレックの父カノックが「もどし」のギフトと交換に手に入れた低地から贈られた「ギフト」でもある。低地の人々から、カスプロマントなど「高地」の人々 -
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ウェルギリウスの叙事詩「アエネーイス」にほんの少しだけ触れられているアエネーアスの妻ラウィーニアを語り部として「アエネーイス」の物語を描く。
といってもウェルギリウスの「アエネーイス」なんて、世界史の知識としてしか知らず、トロイの木馬で有名なあの戦争の負けた方の人の話というぼんやりとした知識のまま読み始めたが、これがまたとても面白い。
ラウィーニアについてウェルギリウスがほんの一言程度しか触れなかったのを逆手に取り、ラウィーニアは自分の意思のまま語り、行動し、時空を超えてウェルギリウスと語る。自分の運命を知ってもただ流されるのではなく、それとは違う方向に(そして自分の望まない方向に)物事が流れ