アーシュラ・K・ル=グウィンのレビュー一覧

  • パワー 下 西のはての年代記III
    まやかしではない本当の自由。しかし、それを得るためには、矛盾した、かりそめの自由、権力をいくつもくぐり抜けなければならなかった。読後、深い深いところからの静かな喜びがこみ上げてきた。

    3部作を通して、本当に多くのものを感じた。主人公と共に生き、私も成長したのだ。物語の力がここにはあった。
  • パワー 上 西のはての年代記III
    上巻だけでは何とも言えない。ただ前2作と比べて、奴隷制というさらに難しいテーマをどう料理していくのか興味深く思う。それにしても善悪を完全に二分せず、残酷さも、幸福感も描ける手腕はさすが。
  • ヴォイス 西のはての年代記II
    前作ギフトと同じく葛藤の中を生き抜く物語。神秘性は少ないが、人間社会に対する深い洞察がある。無血に近い革命、書き言葉の文化性、言葉の了解の深度、憎しみ、ジェンダーと色々なテーマが読み取れた。スリルや躍動感もあった。人に対する信頼を描いたのが名作の所以か。
  • ギフト 西のはての年代記I
    葛藤、試行、対決、触れ合い、悲しみ、悼み。一人の青年の中に嵐が吹き荒れる。それはまさに思春期か。最終盤の引き込みは凄かった。グライがとびきり魅力的だ。
  • パワー 上 西のはての年代記III
    ああ読み終わってしまった。またしばらくしたら三部作通して読みなおしたい。幼い頃に姉とともに兵士にさらわれ、エトラという都市の館奴隷として暮らしていた少年、ガヴィアの物語。ゲド戦記では自分自身の内面の葛藤が主に描かれていたのに対し、こちらは自分だけではどうしようもない部分をも含む社会の制度や偏見や価値...続きを読む
  • ヴォイス 西のはての年代記II
    ギフトの物語からだいたい20年後の、アンサルという都市が舞台。交易で栄えたアンサルの人々は、長らく戦争をしておらず文字を持たず唯一神のアッスを信じるオルド人に攻め込まれて久しく、占領下の町で道の長に仕える少女が自分の存在と役割を理解し成長してゆくお話です。一作目『ギフト』に出てきたオレックとグライも...続きを読む
  • ギフト 西のはての年代記I
    静かで示唆的なお話。自然環境の厳しい高地に住み続け、長(ブランター)の家族に代々受け継がれる異能(ギフト)をもって一族を治める人々は、低地の町で暮らす人たちからは魔法使いと恐れられています。ギフトはその部族ごとに様々な働きをし、父から息子へ、母から娘へと伝わり、部族同士の相性により強く伝わったり弱ま...続きを読む
  • ヴォイス 西のはての年代記II
    魔法の存在する世界を描きながら、不思議な力よりも言葉の力に重きがおかれている。西のはて3部作の中でも特にこのヴォイスがいい。女の子が主人公だからか‥それにしてもオレックとグライがでてくるとなんとも言えない安心感。
  • ヴォイス 西のはての年代記II
    物語の持つ力、そして詩や物語を語ることの持つ力についてル=グウィンが精緻な筆で語っている。

    大いなる変革は言葉によって可能である。それも勇ましい言葉やわかりやすい言葉ではなく、人々が自分で考えてそれぞれの言葉で語り、互いの意思の疎通をはかっていくことで可能になる。と伝えたいようだ。

    アンサルやオ...続きを読む
  • ギフト 西のはての年代記I
    ル=グウィンといえばゲド戦記だろうけれど、「ギフト」シリーズも好きです。

    「ギフト」と呼ばれる能力を受け継ぐ領主が治める世界。
    主人公の少年オレックは領主の跡継ぎでありながら、その能力がなく……。

    ル=グウィンの描写にはいつも圧倒されます。
    私たちの前に見せてくれる物語の世界もそこに息づく人間も...続きを読む
  • ギフト 西のはての年代記I
     ハイ・ファンタジー。
     三部作です。ギフト、ヴォイス、パワー。ハードカバーでどうだったか確認してませんが、購入した河出文庫版では、パワーだけ上下巻になっていて、合計4冊。

     まさにこういうファンタジーを読みたかったのだ、という異世界ファンタジーでした。生きているうちに出会えたことを感謝したい。ル...続きを読む
  • ヴォイス 西のはての年代記II
    「西の果ての年代記」の第二部、『ヴォイス』。
    これは名作だった。『ゲド戦記』を読んだときの感動がよみがえって、涙が出た。
    一神教の軍事国家に侵略された自然崇拝に近い多神教の国が舞台。
    文字が邪悪なものとされ、禁書の地となっている。

    ル=グウィンは、自身の問題意識をふんだんに盛り込みながら、ファンタ...続きを読む
  • 暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて ル=グウィンのエッセイ
    ル=グヴィンの生前最後のエッセイ集だと本屋で見て購入。

     でも、最初だけ開いて以降、数年、続きを読む事ができなかった。気力がないという理由で。

     それが久しぶりに開いて見ると、するする読めるようになっているのは、ようやく、人の話をちゃんと聞ける自分になって来たせいなのかもしれない(だといいな)。...続きを読む
  • いまファンタジーにできること
    ファンタジーを何らかのメタファーでなくファンタジーそのものとして読むことに意味がある。そのように受け取り、それは日ごろ思い抱いていることなので力強く響いた。
    ファンタジーの魅力を伝えるための大いなる力を得た気分。
  • ギフト 西のはての年代記I
    グウィンの編んだこの物語には、読み終えて符合に気がつき驚くところがいくつもあった。まさに細部に神は宿るといったところか。その人その人でなければ見えないことが語られている、その意味に至って「ああ!」と思うーーその、主人公たるひとりの少年の成長に絡んでいく繰り返しが、かれが決意を定めるシーンに繋がって大...続きを読む
  • いまファンタジーにできること
    ファンタジーを愛するすべての子どもと大人へ。

    ゲド戦記のル=グウィンがファンタジーについて語ったエッセイ集。ファンタジーをよく読む人はぜひ手に取ってもらいたい。なぜ子どもはファンタジーを愛するのか、ファンタジーは子ども向けなのか、ファンタジーとは何か。よくあるファンタジーへの問いかけにル=グウィン...続きを読む
  • いまファンタジーにできること
    ゲド戦記のル=グィンによるファンタジー評。
    寓話やメッセージを分かりやすく伝えるツールとしてのファンタジーではなく、もっと本質的なファンタジーでしか描くことができないことを語るウィットに富んだテキストはとても素晴らしい。
    動物物語について語る章が特に興味深く、いくつかの類型に小説の中の動物の描き方を...続きを読む
  • 文体の舵をとれ
    アーシュラ・K・ル=グウィン氏による創作指南書。初めに書いてあるとおり実践的な一冊で、創作初心者向けではなく、ある程度書き慣れている人向け。練習問題も豊富に掲載してあります。紛れもなく創作論の作品ですが、優れた文学作品への手引書とも呼べる内容でもあります。文章のリズム感や人称と時制といった文法の問題...続きを読む
  • ラウィーニア
    ローマの詩人、ウェルギリウスの『アエイーネス』に発想を得た作品。トロイアから逃れたアエイーネスがローマの建国の前史に関わったというが、本作のタイトルとなっているラウィーニアという女性については詩人ウェルギリウスの言及は少ないという。ラティウムの王女のラウィーニアは兄弟を失い、否が応でも王国の後継者と...続きを読む
  • 暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて ル=グウィンのエッセイ
    ゲド戦記の著者という事だが今の時点でゲド戦記は読んだことがなく、ジブリのアニメを一度観ただけで「あらすじ」の様なものしか理解していない自分にとっては、先入観もなくタイトルが気になって手に取った。
    いろんな事に触れている。この人のきっぱりした口調が好きだ。経済の成長については全く同意見で、同じ意見があ...続きを読む