穂高明のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
西條八十の童謡『かなりや』をタイトルにした四編からなる連作。四編全てが人間が生きて行く上で背負う重圧や悩み、そういう悩める人を救おうとする人々の連鎖が温かく描かれた大傑作である。最初は四編が独立した物語かと思うのだが、全てを読むと一つの物語として成立していることが解る。
実は単行本で読んでいるのだが、文庫化されたので再び手に取った。分かっているのに読みながら、じわじわと涙がにじんだ。
主人公はお寺の長男・広海。彼はどの話でも脇役のような立ち位置なのだが、非常に重要な役割を果たしている。小さな船に乗って現れる広海…
途中に童謡『かなりや』の…象牙の船に 銀の櫂…という歌詞が紹介されているが、なるほどと思った。そういえば、単行本の装丁は全体がエメラルドグリーンで、表紙には淡く浮かんだ白い船が描かれていた。文庫本の表紙には広海とサチが青空の下に佇む姿がステキなタッチで描かれている。
四編のタイトルが『アポトーシス』『インピーダンス』『マグデブルグの半球』『シュレーディンガーの猫』と物理科学の用語になっており、物語の中の面白い仕掛けになっている。
心が疲れてる人に是非お勧めしたい作品です。 -
Posted by ブクログ
穂高明さん初読みでした。生年・出身・経歴等のプロフィールを見る限り、本作の主人公にご自身が濃く投影されているのだろうと感じました。フィクションなのですが、震災を経験した者にしか描き得ない苦悩が、リアルに表現されていました。
主人公は、仙台を離れ東京で暮らす30代後半で独身の悠子。売れない作家でバイトを掛け持ちしています。7章構成で、章ごとに悠子→母親→妹と順に視点が変わり、あの日とその後の様々な人の生活や悠子への想いも描かれ、最後は悠子へ集約されます。作家として書き続けようと決意するまでを丁寧に綴っています。
震災直後、多くの作家の皆さんが感じ吐露していた「無力感」‥。穂高さんも主人公の心情を語らせていました。でも、被災地を中心に「物語を必要としている」人がたくさんいたのも事実でした。書き手も読み手も、どんなに救われたでしょう。
自分の不甲斐なさを嘆き、苛立ち、呆れ果てながらも、何ができるのか自問する悠子が、日の当たらない道を歩く人の細やかな人生を、そっと掬い上げる静かで深い物語を書くべく再出発するのでした。
紅白幕や(黒白の)鯨幕の他に、青白の浅葱幕もあるんですね。弔事に限らず神聖な場で使われるのだそう。空・海・浅葱幕の青の深さ、雲・雪・波・白鳥の白の眩しさの対比が、様々な境目を象徴しているのかのような、味わい深い余韻に浸りました。 -
Posted by ブクログ
新興宗教にのめり込み、孫は男の子で私立に通わせることを必須とする義母。そして、母親のいいなりにしか行動できない無責任な夫。妻の真知子に対する二人の行動や発言は、これはひどいなと思うことばかりでした。こんな状況のなかで、息子の怜くんの気持ちを尊重しながら対話を続けた真知子を応援しながらの読書でした。
こちらの気持ちまで晴れやかになったのは、夏休みに真知子と怜くんが野辺山宇宙電波観測所を訪れた時でした。星空の描写が、とても印象的でした。こと座のダブル・ダブルスターは、初めて知りました。
この小説では、息子の怜くんがとても聡明でしっかりしているのが救いでした。どうなるのかが気になって、あっという間に読んでしまいました。
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Posted by ブクログ
「月のうた」「かなりや」に続き。
とても久しぶりの穂高さんの作品読みました。
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バス事故で、
たった一人助かった少女。
人知れぬ心の痛みを抱えて生きる、
その先に――
彼女が成長して大人になった時、
悲しを享受して
素敵に笑う姿を想像してみる。
祈るように想像してみる。
小泉今日子さん推薦!
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2011年に刊行された作品なんですね。
忘れもしない東日本大震災のなか、
このテーマは当時の私では読めなかったかもです。
なので、このタイミングで出会えたことに感謝。
バス事故で唯一の生き残りの千春は引きこもり不登校に。
千春本人の視点ではなく、
弟、伯母、担任教師、亡くなった友人の母親、新聞記者、ケーキ店の店主と、周囲の視点で物語は進みます。
それぞれ事情があって、
それぞれ見せたい顔があって、
優しい気持ちもあって、
でも綺麗な感情だけではない。
悲劇、かわいそうだけでは終わらない。
ひとつひとつ連続短編のようになっていますが、
各話の終わり方は完全に決着をつけるようなものではなくて。
特に、伯母と新聞記者の章は好きでした。
出来事はひとつでも、見える景色や感情は違ってて。
人間らしいけれど、
できれば隠したいところを見せて、
完璧じゃないし、ままならないけれど、
それでも時は進んでいく。
千春の未来が明るいものでありますように。
そして、周囲の人たちの人生が温かいものでありますように。