穂高明のレビュー一覧
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穂高明『青と白と』中公文庫。
これまでの穂高明のほっこりした作品とは作風が大きく異なることに驚いたのだが、仙台市出身の穂高明だからこそ、このようなリアリティあふれる震災小説を描くことが出来たのだろう。登場人物のそれぞれが胸に抱く生き残ったことへの自責の念と、再生への想い、深い悲しみ、怒りを強く感じた作品であった。
仙台市出身で東京在住の悠子は作家の傍らアルバイトをこなしていたが、あの東日本大震災で津波により破壊された故郷を目にし、同時に大切な故郷の親戚や知人を喪う……
タイトルの『青と白と』は浅葱幕のことだったのか……
作中のリアルな描写に、あの時の哀しい記憶が呼び起こされた。余震の続 -
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ネタバレふんわりと穏やかな雰囲気が物語全体を優しく包み込む。
読んでいて何度も温かい涙を流した。
強いメッセージはないけれど、そっと静かに心に刻まれていく。
小学生の時に母をガンで亡くした民子、民子の継母の宏子、民子の亡き母の友人の祥子、民子の父の亮太4人の視点による連作短編。
大人びていて冷静な民子と、カラリと明るい宏子。
正反対の性格の、一見合わなさそうな二人が徐々に打ち解けていく様子がとても良かった。
民子の優しい祖母と宏子の豪快な母親も素敵で二人のエピソードに泣けた。
「人は生かされている」
「本当の優しさは、自分のことは自分で全部背負い込んできっちり落とし前をつける強さがないと出てこない -
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穂高明『夜明けのカノープス』実業之日本社文庫。
日本では限られた条件でしか見えない星、カノープスをモチーフにした優しさと哀しさに包まれた傑作中編小説の傑作。
この小説に描かれる主人公の映子もそうなのだが、穂高明が描く小説の主人公は皆、真っ直ぐに生きている。真っ直ぐに生きているが故に様々な壁にぶつかり、時に挫折を味わうのだが、何とかその壁を乗り越えていく。その主人公たちの生き様は非常に魅力的だ。魅力的な生き様が我々に感動と生きる力を与えてくれるように思う。
教員を目指していた主人公の映子は夢叶わず、挫折し、小さな教育関係の出版社で契約社員で働いていた。とあるコラムの企画をきっかけに14年前 -
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穂高明『むすびや』双葉文庫。
相変わらず穂高明が紡ぎ出す物語は柔らかで、温かく、心地がよい。
おむすび屋を舞台にした人びとの暖かい心に包まれる物語。大学を卒業したものの、就職活動で全敗し、家業のおむすび屋を手伝うことになった主人公の結は、おむすび作りに実直に取り組む両親の姿を見ながら、少しずつ成長していく。
主人公の結という名前とおむすび…かつての東北地方では…
穂高明という作家を知ったのは『月のうた』という、何とも言えない哀しさと温かさを感じる作品だった。次に読んだ『かなりや』は、不思議なストーリーとその中に込められた強いメッセージに驚かされた。二作ともに甲乙付けがたい傑作だと思う。 -
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文章のリズムが自分のどストライクゾーンから少し外れていて、冒頭の一頁を読み齧ったまま1年ほど積読しておりました…
2015夏、数年に一度の蔵書棚卸(不要本の仕分)作業の際「あれ?未読だったわ」と手に取ってみたところ、とても良い本でした。(これは手元に残しておこう。)
前置きが長くなりました。ここからレビューです。
主人公は民子、昭和臭漂う古臭い名前の中3。母を亡くしている。部活に打ち込むという正当な理由で煩わしいことから距離を置くなど、考え方のしっかりとしたコ。
と思いきや、次の章では主人公がバトンタッチ。
継母である宏子に代わる。
…冒頭まさか主人公が代わることを想定していなかったの -
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読みながら悲しみの涙が溢れ、読後には嬉し涙が溢れる傑作。穂高明の三作目の連作短編小説である。
鳴子で起きた車の事故で、学校の友人や教師が亡くなる中、ひとりだけ助かった橋本千春の苦悩の日々…千春の周りの弟、亡くなった友人の母親、新聞記者、伯母、洋菓子店の店主の視点で物語は描かれる。それぞれの視点で展開される物語は、全て千春の苦悩へとつながっていく。
この作品は、文庫化される前、東日本大震災の数ヶ月後に単行本で読んでいるのだが、あの時の感動をもう一度味わいたくて、再び読んでみた。解っていながらも涙がこぼれた…
東日本大震災の後、『月のうた』を読み、痛んでいた心が癒され、当時、絶版だった『かな