千葉聡のレビュー一覧
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特に生物学に明るくない人間でも、ダーウィンや進化という言葉はそこかしこで耳にする。本を読んでいればなおさら、生物とは全く関係のないところでもダーウィン関連の話がちらほら出てきたりする。たまたまネオダーウィニズムを批判している本に出会って、そこからこの「ダーウィンの呪い」に興味を持った。
本書は、ダーウィンの進化論そのものではなく、ダーウィンの進化論(科学)が思想と融合して別の何か(ここでは主に優生学)が生み出されていく過程と事例とを、歴史を辿って丁寧に書き出してくれている。
科学は、思想には勝てないのだろうか。どんなものであれ適切な距離を保つことが重要だと思うのだけれど、思想に関してはそれが非常に難しいのだと痛感させられる。
少なくともこの本の中で再三再四繰り返されるのは、「簡単で単純な説明」ほど怖いものは無いということだ。分かりやすさにはリスクが伴う。自分たちの身近なところでは政治や経済なんか特に危ないと思う。「分からないところが多い時に決断しない」というのは、優生学に反対していた人達に共通する考え方として、私も参考にしていきたい。 -
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ネタバレ生物が進化する場合、何の影響が大きいのかを論じた本。
環境への適応と突然変異でどちらの影響が大きいのか。でも実際には簡単に割り切れないので、そのバランスを取っているものは何なのかを調査する感じの内容。陸貝のカタツムリの話を中心に話が進む。
著者やその知人のフィールドワークなどの実体験に触れつつ話が進むので、冒険譚めいていて好み。
研究もそうだがその周囲のできごとを丸ごと愛されているのだなという印象を受ける。
好きなものを楽しそうに語っている人の話を聞くのは好きなので、個人的には良かった。
たぶん2割ぐらいしか分かってないと思うが、何を起点に種が分化していくのかという話が全般的に面白かった。
人間もたぶん色々な条件で分化してるんだろうけど、行動範囲が広いし、交雑も起こりやすそうだしで研究は難しそうだななどとどうでも良いことを思った。
種が絶滅した場合、運ゲーの塊でできた種の再現の可能性は低く、同じような生物ができづらいのは盆栽の枝を根元から切り落としてしまう感じ。
ただ、結局上限のあるリソースの奪い合いでしかないので、その種とは別の生物がその空きに進出してくる気がする。そういう意味ではトータルで見れば地球というフラスコ中全体で空いた隙間が埋められていくのではないかと思った。知能とか副産物だと思うんで割とどうでも良いのかもしれない。 -
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ひょんなことからカタツムリの進化を研究することになった筆者。さまざまな場所で標本を採取しカタツムリの驚くべき進化を明らかにする。「同じ環境に置かれたカタツムリは違う場所でも同じように殻の形を変え進化を遂げる」
本書の中で生物の進化について、大家であるグールドの理論が紹介される。グールドの著作、カンブリア生物爆発について書かれた「ワンダフルライフ」はずいぶん前に読んだ。
また小笠原諸島や北硫黄島の探検行の場面では「鳥類学者だからって鳥が好きだとおもうなよ」の川上和人が登場してくる。
生物種の進化とは、という謎に、カタツムリと鳥類から挑んでいるというのがすこし立体的に見えた。
またこの謎解きにはDNA解析等技術の進歩があってこそ。科学研究の今が垣間見える。 -
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探検記を読んでいるかのようなスリル。研究者の人たちのエピソードが面白くて、そのひたむきさがほほえましい。冒険譚に吹き出すほど笑った箇所も少なくなかった。楽しく読んでいるうちに、地味なカタツムリの世界にいつのまにか引き込まれていた。
カタツムリ研究に命をかける学生さんや研究者仲間が次々に登場して、彼らの武勇伝とその結果得られる研究成果が次々と紹介される。素人から見るとたかがカタツムリなのだが、学者にとってはそれは進化研究の貴重な対象なのだ。世間とのそうしたズレが、読んでいて余計に面白い。学生さんや研究者仲間への愛情がひしひしと伝わる。
最後は将来に希望の持てて感動した。 -
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間違いなく良書であった。科学的というのが絶対に正しいということはない、というのがよく分かった。
科学者自身の価値判断とどうしても無関係ではいられないし、無関係を決め込んで科学絶対主義のようになると優生学のような倫理観を破壊する方向にも傾きうる。
社会学など文系の話と科学って相反する部分もあると思っていたが、結局科学も社会的活動の一つであり、社会の中で科学者が価値観を表明しつつ、常にフィードバックをうけて変わっていくのが良いあり方なのだと理解した。
人間だからどうしても物語で分かろうとしてしまう、というのもとても共感。客観性は難しく、たぶん個人では本当に客観的になれていることなどないのだな、、と思った。 -
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ダーウィンが示したことと社会に流布している進化論的イメージや社会進化論など進化論の他分野への拡大解釈や進化論的比喩との差が大きいかということは吉川浩満『理不尽な進化』でも読んでいたが、ダーウィンの進化論の名の下に「ダーウィンが言っていた」という呪いの言葉でいかに誤った認識が広まり、社会に代償さまざまな悲劇が起こってきたか、その歴史や経緯緻密に構成した内容で良かった。特に後半の優生学については知らなかったことも多かったので読んで本当に良かった。排外主義が拡大したり、生物学遺伝学その他の学問的技術的発展、AIを始めとした他分野の発展など様々な文脈からいつでも優生学的な論理や帰結に戻ってしまう危険性がとても大きいことがよくわかる。終盤の「事実(である)から規範(べき)への飛躍があってはならない(「人間は歴史的に常に競争してきた」という事実があったからといって競争すべきと結論付けてはいけないし、「人間は協力行動や利他志向を持っている」が事実だとしてもそこから一足飛びにそうあるべきという規範を導いてはいけない)」は進化学や遺伝学分野のみならず社会のいろいろな場面で注意しなければならないシンプルだけど重要な指摘だと感じる。
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Xに、「スペース」という、音声を個人で配信できる機能があるらしい。
その「スペース」を使い、歌人の初谷むいさん、寺井龍哉さん、千葉聡さんがテーマを決めて短歌を募集。選ばれた短歌を発表、御三方で講評するという、私製ラジオのような番組を書籍化。
とても楽しく、読後は短歌というものがますます好きになった。
まず、御三方(プラス、表には出ないけれど裏方の編集者の大久保さん)の、和気あいあいとした雰囲気が心地よい。
鼎談ではなく、リスナーがいる開かれた空間という場所なので、交わされる言葉も内に籠もることなく外に向けられていて、配信している人も、聴いている人も、一緒に番組を楽しんでこう、という気遣いが感じられる。
まるで、六畳ワンルームのタコパに迎え入れられたかのようにあたたかく、嬉しい。
選ばれた短歌の解釈や思い浮かぶ情景が、歌人の御三方でもまったく違ったりするのがやっぱり面白い。
第五回のゲストの枡野浩一さんがおっしゃる通り、短歌は、読むひとそれぞれの人生の経験によって、読み(解釈)が違ってきたりする。
この歌は、千葉さんの読みに一票、とか、初谷さんの読みも素敵だな、とか、寺井さんの脳内にはそんな情景が浮かんでたんだ!とか、自分も参加しているつもりで読める。
なぜか、芋ようかんのでてくる短歌が二首も選ばれてるのが地味に面白い。
芋ようかん比率の高い書物です。
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いちばん好きだった短歌。
ものすごい色の空さえ従えてあなたがなにか話そうとする 十条坂
大きさ(空さえ従えて)と、小ささ(なにか話そうとする、だけ)の、対比がすき。
「あなた」と、この歌の主役の関係の距離感はどんなだろとか、それによって、話される内容の意味、重さが変わるよね、とか、想像をたくましくさせられた歌。 -
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ネタバレブルーバックスだけに、初心者向けの生物進化の最先端解説書だと思っていた。この手の本は素人向けとうたっていても、それは最初だけで途中からついていけないのが普通だ。これはどこまで読めるだろうかと、最初は心配していた。
しかし、大きく裏切られた。おもしろくて、どんどん読めてしまうのだ。それは、筆者の経験、研究仲間とのエピソードなど身近な実話をもとに研究内容を説明・解説しているので、陸貝とかカタツムリの殻のネジレの向きの研究など地味な話でも、退屈しないのだ。
小笠原諸島が世界自然遺産に選ばれるにあたり、筆者の千葉先生の研究成果が大きく寄与したが、そのエピソードも書かれている。感動秘話もあり、ぜひ多くの人に読んでもらいたいと思う。 -
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歌人の初谷むいさん、寺井龍哉さん、千葉聡さんの三人が「短歌を紹介するラジオ番組があったらいいな」と思い番組を作ってしまおう!と考えXのスペース(音声配信システム)で新しい短歌を募集し、紹介することを思いついたそうです。
2024年4月から9月まで三人は月に一度90分間の「スペース短歌」を開いたそうです。
この本は、「スペース短歌」で繰り広げられたトークをまとめたものだそうです。
私は短歌の読解力がないので、この本は全部の短歌にお三人の解説(トーク)で説明があるので非常にわかりやすく面白かったです。
お三人の他にゲストで服部真里子さん、枡野浩一さんも登場されます。
番組に投稿された歌は、私が毎月読んでいる『NHK短歌』、Xでフォローさせていただいている方々の歌もたくさんあり楽しかったです。
プロの歌人の方の歌も載っています。
その中からプロではない方(と思われる方・間違えてたらすいません)の歌を少し載せます。
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春はあけぼの。毛布のやわらかいところ。そしてシーツのつめたいところ 黒井いづみ
朝の陽とマーマレードをひと匙に乗せたスプーンが手に添ってくる 藤原はるか
みそ汁にトマトを入れることを知るようにわたしを拡げていこう 森井恵
きみはまだ知らないでしょう真昼間に浴びるシャワーの澄んだあかるさ 菊智七星
一面が蛍光ピンクの愚痴だった 西陽のなかの交換日記
霧島あきら
わたしは荷台あなたは運転席だった百年前でも夢でもそうだった 湯島はじめ
海は好き、だけどびわ湖は好きじゃないみたいなことを言われフラれた ケムニマキコ
傷跡は傷じゃないのに柄なのにわたしを見るとみんな痛がる 黒井いづみ
ぬか漬けのことをみんなが責めているときは黙っていることにした 森井恵
寝静まる住宅街で僕だけがよく噛んで歌舞伎揚げ食べてる タカノリ・タカノ
地球から左右の靴をはがすたび夜のファミマが近づいてくる 山下ワードレス
わたしのわたしの余地を愛する自転車でたったひとつの栗買いにゆく 湯島はじめ -
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歌人の千葉聡さんの自伝とその時の短歌集です。
千葉聡(ちばさと)さんは新聞販売店を経営する家に生まれます。
将来の希望は国語の先生になり作家になることでした。
29歳の時第四十一回短歌研究新人賞を受賞されます。
31歳で中学の国語の先生になります。
最初のころは生徒に「ちばさとキモい」と言われたりされますが、だんだんに生徒たちが変わっていき「ちばさとの授業になると教室が飛び跳ねるんだよ」と言われるようになります。
<さよならを素直に言えない子が俺の肩を殴って走って消えた>
<わからないことを放っておく勇気なくて駆け込む有隣堂へ>
<「詩を作れ、書け」ではなくて「詩になれ」と教えた俺の恥ずかしいこと>
<トイレにはトイレの匂い その中にさっき泣いてた誰かの匂い>
<空を見るなら放課後がいちばんだ「あこがれ」の「あ」の口をしてみる>
<夢なんて、あるよ ピアノの鍵盤のフェルトのカバーを投げ上げながら> -
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千葉聡こと“ちばさと”は、今横浜サイエンスフロンティア高校で教えている。相変わらず、生徒たちと熱血しているらしい。そのちばさとが、千葉聡から“ちばさと”に生まれ変わった上菅田中学校での体験をつづった「飛び跳ねる教室」に、今の高校での日々のエッセイと短歌を合わせたのが「飛び跳ねる教室・リターンズ」である。中身も熱いが、俵万智の帯も枡野浩一のあとがきも熱い。誰より、ちばさとにインタビューしたことをきっかけに、この本の編集を決断した時事通信社出版局の大久保昌彦さん、あなたが一番熱い。
夢なんて、あるよ ピアノの鍵盤のフェルトのカバーを投げ上げながら -
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世の中には部屋の中でもアトラクション気分を味わえる本ってのがたくさんありますよね。
これもそんな本。内容は決して簡単ではないけれど書き手の知識とストーリテラーとしての能力で読ませるんだなぁ。
まずタイトルからしていい。偶然動植物やコンテナについて来ましたよーではなく、人間が「故意に」「良かれと思って」「よりによって」導入した外来種の罠(当初夢見た物語と隠れた罠という方が正しいですかね)を冷静かつドラマチックに紹介していく。
メインから外れた小さなエピソードながら心にチクっと刺したものがある。第4章「夢よふたたび」の中のものだ。オーストラリアでの毒蛇対策として、またネズミ対策として持ち込まれたアナウサギが増殖しすぎたため、大量のマングースが放たれた。外来天敵を駆逐するためにまた大量の外来天敵を。。ということでオーストラリアの生態系に深刻なダメージを与えそうなものだが、オーストラリアの気候がマングースの生育にマッチしなかったことに加え、アナウサギの捕獲と駆除を請け負っていた業者が自身の雇用保全のためにマングースを放った側から駆除したためとのこと。
(10章のアフリカマイマイも似た話)
まさに第4章冒頭で紹介される「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」だ。
成功は時に他人の悪意が功を奏した偶然の結果だったり。そうよね。てかそうなの。世の中。人生。
また第6章、英国からハワイに学術調査のため派遣されたナチュラリストの昆虫学者は、自身の名を冠した昆虫がオーストラリアからハワイに輸入されたサトウキビについて被害を出していたため、害虫駆除の任を得る。
ここも巡り合わせの不思議。人生。
物語が展開する場所的にも割かれたページボリューム的にもここが山場か。第7章「ワシントンの桜」米国農務省昆虫学者チャールズマーラット(1863-1954)とスタンフォード大昆虫学者桑名とのナシマルカイガラムシの原産バトル、米国農務省植物学者デヴィッドフェアチャイルド(1868-1954)の2000本桜、国務長官と日本政府のやりとり、東京市長のジョークなど「直接聞いた?」的に実に生き生きと描かれている。
特にマーラットの半年に及ぶ日本各地の調査記録は瑞々しい表現力で、当時の一般の日本人の姿が差別なく描かれていて読んでて楽しい。(と、何も考えないパッパラパーの日本人の私は自慰感覚で読めます。がしかし。後半で作者はこれらの描写を「当時の米国上流階級のロマン主義的な影響を割り引くべきだし、これらの自然な姿は安価な労働力と膨大な作業量に支えられており、自然と調和した美しい景観は貧困、過酷、疫病、危険と一体である」としている。)
幸運による成功も賞賛すべき。但しそこから何かを学ぶのは控えめに。我々が学ぶべきところな必然の失敗である。
第10章11章は著者自身の小笠原諸島で経験した固有種を絶滅に追いやる天敵との死闘を詳細かつドラマチックに書く。
「天敵導入(もしくは駆除)の壊滅的な失敗の歴史」を通じて生態系への理解の変遷を教えてくれるとともに「自然のバランスなんて便利なもんはねぇ」と結論。
毎度毎度これを結論に書いて申し訳ないがこの本も中高生に是非読んで欲しい。
「自然のバランスなんてないよね(あるかも知れないけれど人間になんて分からない→絶対に理解できないならないも同然では)」「ルール無用、生態系の複雑極まるメカニズム」「20世紀後半であっても驚くスピードでの絶滅(人間加担)」これだけでも十分ですがもっと具体的かつ細かいことでは、小笠原諸島でのニューギニアヤリガタリクウズムシが防護壁に流れている電流で胴体が焼かれた際、頭が胴体を食い引きちぎって頭だけ柵の向こう側に落ちて身体を再生&繁殖って読んだだけで、この世はルールや計画なんてなさそうだなーなんでもありの無差別試合だなーと少なくとも一神教の訳の分からないものに不必要に傾倒するリスクを軽減出来るのでは。(カタツムリの生態を落ち着いて考えても似たような感想ですねどね)
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Posted by ブクログ
人類が神という存在を発明したのと同じように進化論は発明だと感じると思います。
進化の意味には退化も内包することを噛み砕くために、HGウェルズの『タイムマシン』を引用するくだりは最高です。
進化の意味合いがいつの間にか拡大解釈され、進化と進歩が同一視されていってしまう過程。進化論がやがて優生学と結びついていく社会現象。
納得感のある歴史の流れを紹介しながら、最後に導びく“呪い”の説明は人間がもつ道徳と感情でした。
この帰結が気になり調べたら不思議な関連を発見。
アダムスミス『道徳感情論』1759年出版
ダーウィン『種の起源』1859年出版
呪いをとくには『種の起源』と『道徳感情論』を読まねばならいかもしれません...
オカルトっぽい『ダーウィンの呪い』というキャッチーなタイトルでしたが流石の新書本でした。