世の中には部屋の中でもアトラクション気分を味わえる本ってのがたくさんありますよね。
これもそんな本。内容は決して簡単ではないけれど書き手の知識とストーリテラーとしての能力で読ませるんだなぁ。
まずタイトルからしていい。偶然動植物やコンテナについて来ましたよーではなく、人間が「故意に」「良かれと思っ
...続きを読むて」「よりによって」導入した外来種の罠(当初夢見た物語と隠れた罠という方が正しいですかね)を冷静かつドラマチックに紹介していく。
メインから外れた小さなエピソードながら心にチクっと刺したものがある。第4章「夢よふたたび」の中のものだ。オーストラリアでの毒蛇対策として、またネズミ対策として持ち込まれたアナウサギが増殖しすぎたため、大量のマングースが放たれた。外来天敵を駆逐するためにまた大量の外来天敵を。。ということでオーストラリアの生態系に深刻なダメージを与えそうなものだが、オーストラリアの気候がマングースの生育にマッチしなかったことに加え、アナウサギの捕獲と駆除を請け負っていた業者が自身の雇用保全のためにマングースを放った側から駆除したためとのこと。
(10章のアフリカマイマイも似た話)
まさに第4章冒頭で紹介される「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし。」だ。
成功は時に他人の悪意が功を奏した偶然の結果だったり。そうよね。てかそうなの。世の中。人生。
また第6章、英国からハワイに学術調査のため派遣されたナチュラリストの昆虫学者は、自身の名を冠した昆虫がオーストラリアからハワイに輸入されたサトウキビについて被害を出していたため、害虫駆除の任を得る。
ここも巡り合わせの不思議。人生。
物語が展開する場所的にも割かれたページボリューム的にもここが山場か。第7章「ワシントンの桜」米国農務省昆虫学者チャールズマーラット(1863-1954)とスタンフォード大昆虫学者桑名とのナシマルカイガラムシの原産バトル、米国農務省植物学者デヴィッドフェアチャイルド(1868-1954)の2000本桜、国務長官と日本政府のやりとり、東京市長のジョークなど「直接聞いた?」的に実に生き生きと描かれている。
特にマーラットの半年に及ぶ日本各地の調査記録は瑞々しい表現力で、当時の一般の日本人の姿が差別なく描かれていて読んでて楽しい。(と、何も考えないパッパラパーの日本人の私は自慰感覚で読めます。がしかし。後半で作者はこれらの描写を「当時の米国上流階級のロマン主義的な影響を割り引くべきだし、これらの自然な姿は安価な労働力と膨大な作業量に支えられており、自然と調和した美しい景観は貧困、過酷、疫病、危険と一体である」としている。)
幸運による成功も賞賛すべき。但しそこから何かを学ぶのは控えめに。我々が学ぶべきところな必然の失敗である。
第10章11章は著者自身の小笠原諸島で経験した固有種を絶滅に追いやる天敵との死闘を詳細かつドラマチックに書く。
「天敵導入(もしくは駆除)の壊滅的な失敗の歴史」を通じて生態系への理解の変遷を教えてくれるとともに「自然のバランスなんて便利なもんはねぇ」と結論。
毎度毎度これを結論に書いて申し訳ないがこの本も中高生に是非読んで欲しい。
「自然のバランスなんてないよね(あるかも知れないけれど人間になんて分からない→絶対に理解できないならないも同然では)」「ルール無用、生態系の複雑極まるメカニズム」「20世紀後半であっても驚くスピードでの絶滅(人間加担)」これだけでも十分ですがもっと具体的かつ細かいことでは、小笠原諸島でのニューギニアヤリガタリクウズムシが防護壁に流れている電流で胴体が焼かれた際、頭が胴体を食い引きちぎって頭だけ柵の向こう側に落ちて身体を再生&繁殖って読んだだけで、この世はルールや計画なんてなさそうだなーなんでもありの無差別試合だなーと少なくとも一神教の訳の分からないものに不必要に傾倒するリスクを軽減出来るのでは。(カタツムリの生態を落ち着いて考えても似たような感想ですねどね)