松本剛史のレビュー一覧
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本書は、昨今の私たちの生活、或いは仕事、を便利にしようとしてくれる数々の目に見えるもの、或いは目には映らないが効率的に進めようとする社会的な背景、さらに言えば思想、そして政治などについてを、主に米国人にとって親しみやすい歴史的な出来事や科学的な発明、発見、そして社会的な風習等を引き合いに出しながら考察し、実に興味深い問題提示をしてくれる書籍であった、という印象である。
ここで私が言う「問題提示」とは、まさにこの書籍のタイトル通り、最適化、或いは効率化(する為のさまざまなテクノロジー、科学、等)が、果たして人間を本当に幸せにしているのだろうか?、と言う事になろうかと思う。
電力、通信、鉄道、ハイウェイといった主要なインフラは、早いうちから張り巡らされ、そこをモノも情報もお金もくまなく高速に行き来し、またさらに「効率的に」流通、供給されるための工夫、それを考える学問、は終わりなきゴールに向かって研究、開発、実践、されている。ただそれらは最適化していけば行くほど、ほんのちょっとした事で崩れ去る(大停電であるとか)リスクをも孕んでいる。「効率的に」なればなるほど、ほんの些細な予兆を伴うきっかけで、崩れ去りうる可能性が高まる、という事を本書籍の中で著者は訴えかけているように思う。
それらさまざまな事実、現象、いま米国内で起こりつつあること、を著者が国中を移動しながら、自分の目で見た情景をそのまま記述しながら問題提示をしていく、「ロードムービー型問題提示」の体をなしているようでもあり、読み進めることに退屈さを感じさせられなかった。
私が何より親しみやすいと感じたのは、知りうる範囲での著者のこれまでの経歴とこれからどうしようとしているかという現在の生活基盤であろう。かつてシリコンバレーの第一線で働いていた彼女は、さまざまな疑問を抱き、いまはハイテクの中心から距離を置く西海岸の「島嶼部」で生活しているらしい。その「スローライフ」から俯瞰した現在も続く社会の「最適化幻想」を、時に「ロードムービー的な」手法で描き出した、良書であると思う。 -
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新潮文庫は偉い! ここのところ古いロス・トマ作品をチョイスし翻訳し、流行りの時期が過ぎたとは言え、初訳、しかも文庫での出版という、ファンとしては垂涎ものの本を供給してくれているのだ。古い時代の作家なので今更ロス・トマと言ってもわからない人は多いのかもしれないが、かく言うぼくにとっては海外探偵小説及びハードボイルドを語る上での最高レベルの作家の一人がこのロス・トーマスであり、当然ながらぼくは全作読破しており、前作に愛着を覚えている者の一人である。
ロス・トーマスの全盛期は1980年代(現在70歳のぼくが20~30代の頃)であり、パソコン通信で冒険小説&ハードボイルフォーラムを主宰していた時期に最大級に自信をもっておススメしていた作家の筆頭でもある。MWA最優秀長編賞を獲得した当時の話題作『女刑事の死』以来、邦訳が連続していた時代ということもあるが、何と言っても独特の語り口や、ストーリーテリングの裁き方などに奇妙なユーモアやアイロニーがある上、登場人物の個性が豊か過ぎて好きになってしまうキャラの多さたるや世界トップクラスの筆の冴えとしか言いようがない、等々、褒めちぎり放題の当時の状況であった。
本書はその『女刑事の死』直前の長編作とあって、ロストマらしさがやたらに発現された作品であるように思う。二人主人公作品というのはこの作家の場合全く珍しいことではないのだが、本書ではその二人の個性が際立っており、国際色も豊かで、見えるものが見えたそのままではないという妖しさや、登場人物の背景に立つ家族や関係者たちの存在までもがどこか胡散臭く見えるところなどは非常にこの作家の天才ぶりを見せてくれるものである。
語り口の妙は読み易さというところに繋がるし、見えているものが後に異なる光に投影されると全く別のものに変化してしまうというイリュージョニスト的作風もこの作家独特のものである。軽妙な語り口と猫の眼のように変わる視点と、なによりも我らが主人公たちの(本書でも主人公は二人の性格・境遇の異なる男たち)魅力的な行動力学が読書の推進力である。
ショッキングな冒頭のシーンから、様々な人物の光と影が軽妙に交錯して、ラストのどんでん返しに雪崩れ込むロストマ節をこの時代になってもまだ新作として味わえる奇跡がまさに有難い。新潮社さん、この勢いでどんどん未訳作品を世に出して頂けることを願ってやみませんよ。 -
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ネタバレ2026年の6冊目は、ロス・トーマスの「悪党たちのシチュー」です。恥ずかしながら、初めて、ロス・トーマスを読みました。1983年の作品ながら、今読んでも面白いのは、傑作の証だと思います。謀略スリラー、コンゲーム、バディ物の要素も有り、1つに括るのは、難しいです。
冒頭のシトロンの強烈な体験の回顧シーンから、ラストのヘールの場面まで、緩むこと無く進みます。
トゥカモンドに到着してから、ラストまでが本当に素晴らしいと思います。特にラストの回収シーンが大好きです。脇役の登場人物1人1人まで、きちんとキャラクターが立っているのも、流石だと思います。翌年に発表された「女刑事の死」もぜひとも、読みたい所です。
☆5.0 -
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コモディティ商社について歴史的な背景から踏まえて解説をしている。後半の参考文献のページだけでも50ぺージ以上ある。
コモディティ商社のトレーダーが表舞台に立つことなく、違法も承知の上でビジネスをして世界を動かしてきたことがよくわかる。
特に資源を安く買い付けて時間差で高く売るというようなことを繰り返してきたことが分かる。
政治的な関与はせずにあくまで経済合理性のある取引をすることがポリシーのようだが、実際にはその経済的リターンが取引相手に入ることで政治的な行動が加速されていることもよく分かる。
世界情勢に影響を与えてきたとも言え、知っておいて損はないだろう。
ただ、主に石油やアルミなどの資源の話が多いのである程度天然資源に関する知識はあった方が読みやすいと考えます。
また、最近はコモディティ商社の売り上げ構成比率も変わってきたり、かつての伝説的なトレーダーは皆死去していっているようなので今後はだいぶ流れが変わるだろうとも記載されている。
世界的には気候変動対策が叫ばれて久しいわけであり、需要がまだまだあるとは言え、コモディティ商社も変革を迫られていくのは間違いないだろうと感じました。
資源ビジネスを学ぶ観点としても世界の歴史を学ぶ観点としても有益な本だと感じました。 -
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ネタバレハンナ・ティンティ初読。ずっと読みたかった作品。文庫化を待った甲斐があった!
物語は娘ルーの成長が描かれる現在の章と、父ホーリーが初めて撃たれた時から現在に至るまでの章の二つが交互に語られる。
ルーの章は、ティーンならではの苦悩、恋愛が描かれ、所謂ヤングアダルト小説のよう。
一方ホーリーの章は、どこかで手を引いて真面目に暮らしたいと思いつつも、ついついヤバイ仕事に手を染めてしまう、ハードボイルド風小説を味わうことができる。
どちらの章も良いが、特にホーリーの章は一つ一つの完成度が高い。そして毎回、痛い目にあう笑
出版された時期的に「ザリガニの鳴くところ」と比較されそうだが、「ザリガニ・・・」ほど過酷な運命ではなく、どちらかと言うと「拳銃使いの娘」に似ているか。テイスト的にも。
欲を言えば、ある意味第3の主役である母リリーの出番がもう少しあれば良かった。美しく、気高く、強い母をもう少し堪能したかった(それはそれで彼女との別れのシーンが辛くなるが。。。)。
想像どおり、読み終えたくないほど大変楽しい読書時間でしたので、ぜひ次作の邦訳もお願いします! -
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久しぶりにディーン・クーンツさんの小説を読めた喜びに浸っている。彼の作品は、想像すらしたこともないような悪と、善良な主人公が対峙する手に汗握るミステリー的なものが多い。本作も純粋な悪と善良なる主人公との戦いが繰り広げられる。テンポよく物語が展開し、ページをめくる手が止まらなくなる娯楽作品だ。
本作品は著者の作品である『ウォッチャーズ』の続編といってもいい作品で、賢い犬が登場する。
クーンツさんの作品は、以前は書店に多数文庫本が並んでいたが、今はあまり見かけなくなってきた。本書は書店で見かけて、声を上げそうになるのを抑えて喜びとともに手にとった。原題は『DEVOTED』、辞書によると、忠実な、献身的な、という意味とあった。本書にぴったりの題名だ。
訳者のあとがきで、最近の作品とか紹介されるパターンを期待したが、残念ながら著者の近況紹介はなかった。
未訳の作品があれば、ぜひ日本語で文庫化してほしい。 -
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「ミステリアムとは何なのか」を調べず、前作を読んだ直後に読み始める。
ここ2週間ほど仕事が忙しく、落ち着いた時間も取れずつらつらと読み進めるがこの本がどうにも面白く、少しずつだと読後感にも影響が出そうで読むのがもったいなくなり「読みたい」けど「まとまった時間でドップリ読みたい」という葛藤を繰り返していました。
何故かはわからないが人間の言葉を理解し、そんな自分のことを理解してくれている飼い主と暮らす犬のキップ
高機能自閉症であり、言葉を発しないが特別な頭脳を持ち「事故死した父親の謎」を調査する少年、ウッディ
その彼を愛し、苦難に立ち向かう
ウッディの母親、メーガン
キャンプ地で虐待を受けそうになっているキップを助けた元軍人で作家のベン
突如莫大な遺産と不思議な犬を預かることになった女性、ローザ
ある研究で事故に遭い、身体能力が劇的に飛躍した企業のCEO、シャケット
もう、ひとりひとり主人公で作品描いても成り立つ感じなんですよね、濃いな…
研究の事故として生まれた邪悪な存在に、危険を知った賢い犬と人々が協力して立ち向かっていくのは前作と同様ですが、現代版に仕上げられています。
単純に「賢い犬なら見世物にしてどうにか金に変えてやろう」みたいな考えでサイコな殺し屋とかは出てこないのですが、いつの時代も変わらず短絡的に仕事として暗殺を行う人や、より賢く冷酷に人を支配しようとする人々が出てきます。
自分達も経緯はわからぬまま進化やそこからの地球に暮らす生命としての発展にまで想いを巡らす者達、他者よりも強く素早く凌駕しようと駆け上っていく者達の対比が描かれているように見えました。
犬を飼っている人が読むと、またちょっと深く楽しめる部分もあるのかもしれない。(私も飼っていたが逃亡し、のちに意外な形で再開を果たすが、それはまた別の話) 作者の犬への想いが伝わってきます。
「ウォッチャーズ」について「前作」と書いているけれども「正統継承作品」と言った方がしっくり来る。
読んでると感動が大きくなる部分はある。ネタバレではないのだが、ある者たちがたどり着けない謎(過去の出来事)=ウォッチャーズでの出来事というだけで「読んでいると更に楽しめる!」というやつでした。
比較すると前作には「ストーカーサイコ野郎」と「悲しき怪物」が出てきますが、今回はソレのハイブリッド版が出てきたり、キップとベンのやりとりは前作の主人公を彷彿とさせる感じがあったり
「嗚呼、まだ物語は続いてたのね…」と、続編の良さというか喜びを感じました。
(※本の発売は前作から30年近く経ってます。私が前作から今作を読むまでは数日しか経ってないのですが…)
読んでて「コレどうやって終わらせるんだ???」と心配になった部分もあり、詰め込んだ感もありましたが、面白かったです。
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唯一無二のシブさに痺れちゃう!政治の裏側で生きる悪党たちの犯罪&政治諜報小説 #悪党たちのシチュー
■あらすじ
アフリカの刑務所に収監されていたジャーナリストのシトロン、帰国後に政治家の資金調達係であるヘールに雇われる。ライバル政治家が不利になるゴシップ情報を収集すべく行動するも、様々な利害関係者がふたりを襲う… 国をつかさどる悪党たちの犯罪&政治諜報小説。
■きっと読みたくなるレビュー
この唯一無二な感じ、さすがロス・トーマスですよ。古き良きアメリカンクライムムービーを観てるみたい。
まず物語の冒頭、最初のシーンで一気にストーリーに引き込まれますよね。主人公のひとり、ジャーナリストのシトロンがアフリカの刑務所で強烈な体験をするのです。
めっちゃ不愉快なプロットなんだけど、緊迫感やカッコよさも同時にあるという不思議さ。これから何がおこるか分からないというワクワク感も押し寄せてくる。いやー、さすがですね。
このシトロンは無茶で退廃的な人生を歩んできた影のある人物なんです。謎の男っぽさがモテる秘訣なんだよなー。しかもまた母親も実力者らしく、裏社会では暗躍してそう。でも親子関係には暗い過去があって… といったように、人間性に厚みがあり過ぎんのよね。
もうひとりの主人公、政治屋のヘールもシブイ。狡猾で抜け目ないイメージ、彼もきっとモテるに違いない。この二人がどう絡み合うかってところが読みどころなんすよ。そんなモテそうな二人には当然イイ感じの女性がいる。もちろんロマンスの描き方も小綺麗でセンス抜群でした。
物語の筋としては、政治的ライバルを陥れるためにゴシップ情報を手に入れようとする前半。中盤以降は、様々な権力者が登場して犯罪もスケールアップ。さらには中南米の政治家、将軍との駆け引きが拡大していく。
正直なところ途中途中のディティールはよくわからなくなるんだけど、丁寧に説明しないところが魅力なんだよね。本筋は犯罪&政治諜報小説だと思うんだけど、冒険小説でもあり、人間ドラマでもあり、まさしくシチューのごった煮です。でも終盤にかけてはちゃんと清々しさもあって、長い映画を楽しんだような気分を味わえますよ。
偉大な小説家ロス・トーマスの新翻訳、1983年の作品。もちろんクラシックな作品ではありますが、無類の独自性があって、いつも新しさを感じさせてくれるんすよね。さらに混沌とした政治の裏側を描くところなんか、まさに現代こそ読んでおきたいですね。
■ぜっさん推しポイント
めっちゃシブい作品でしたね~。背中で魅せるカッコ良さがあるんですよ。あと洋画のラブシーンって、やたらカッコイイじゃないですか。あんなのを文字で楽しめるってのがイイすよね~
以下、本文引用 110頁。こんなクールな文章は、他ではなかなか味わえないと思うの。
――魅力的で身なりのいい女とひどく悲し気な顔の男を眺めた。ただの政治関係の仲間というだけじゃない。たぶんベッドもともにしている仲だ。そう思いながら、自分のことを認めているのに気づいて少し驚いた。何かを認めたり、認めなかったりするのは、少なくとも二年ぶりのことだった。 -
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相変わらずザカリアの文章はとても面白い、確かに面白いのだが、今作はなんだかしっくり来ない。いくつか理由があるように思う。
本書では、オランダ、イギリス、フランス、アメリカの4つの革命を取り上げ、ここから何らかの示唆が出そうとする。ただ、その4つを取り上げた理由は判然としない。普通に考えればロシアか中国が入るべきではないか?ザカリアは、イギリスでは「ボトムアップ的変化」が成功した一方、フランス革命では急進的な「トップダウンの変革」が恐怖政治と混乱を生んだと対比するが、では日本の明治維新は何だったのかとも思う。
後半は、テクノロジーの進化やグローバリゼーションについて論じるが、特にテクノロジーについての記述は前後の文脈とあっていなくてちぐはぐな感じがするし、現代で見られるポピュリズム的な機運についての議論も、あまり前半の分析(過去の革命について)と繋がっていないような気もする。
総じて、これは私の読み方のせいかもしれないが、最初の8割くらいで色々と面白い話を聞いた後、最後の2割でいきなり足元の問題に切り込む感じがして、読み終わった後にこれは何の本だったんだろうなという感じがした。(その感想は、日本語版向けに追加された章で「むしろトランプ政権は文革と近似性があるのでは」と本編と無関係な話をされたことでより深まった。)
とはいえ、過去の革命から示唆を出す、それを現代の問題に当てはめるというチャレンジングな活動は評価されていいと思う。そして何より、読み物としては非常に面白かった。 -
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原題 THE TWELVE LIVES OF SAMUEL HAWLEY
Life can only be understood backwards,
人生は後ろ向きにしか理解できないが、
過去の回想と現在進行形の物語が紡ぎ出す、未来。最終章でルーが撃ち上げる先に待ち受けるものはなんなのか。明るく、または暗く、あるいはぼんやりと、読み手の立ち位置によって違ってくると思います。いずれにせよ、ホーリーは解放されるんじゃないかなぁ。ルーはもう大丈夫。
前を向いてしか生きられない、のです。
but it must be lived forwards.
-Søren Kierkegaard -
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”目的”を持つことが人生を豊かにするだけでなく、物理的にも科学的にも医学的にも役に立つことが、心理実験などのデータを交えて紹介される。
いずれも目新しい事ではないが、”目的の力”にフォーカスされているので分かりやすい。
特に”SPACE”の5つ「Sleep(睡眠)」「Presennce(マインドフルネス)」「Acetivity(運動)」「Creative(創造=文化的活動)」「Eating(食事)」が重要であるという視点で構成されている。
実の娘との死別で文章が始まるが、全体的にエッジの効いたユーモアがあちこちにあり、哲学的な考察もありながらも平易な文章で最後まで楽しんで読める。