南木佳士のレビュー一覧
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海外の危機に対して無関心であることの罪悪感を
「対岸の火事なのか」などと言って煽り立てることは
間違ってるとまでは言わないにしても
しょせん富める者の傲慢にほかならない
それらがけして、真善美に値するものでないということは
忘れられるべきではないだろう
施しは時に偽善であり
忘却は時に必要悪である
もちろん偽とはいえ善、悪とはいえ必要、なんだ
「ワカサギを釣る」
ポルポト政権下のカンボジアから逃亡してきた難民
つまりインテリである
そのインテリ難民が、日本のインテリの傲慢さに対する怒りを
押し殺すというシーンが、なんともいえないものだ
「ダイヤモンドダスト」
死期の決定した人の生を無意味に -
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10年ぶりの再読。
この作品にはパニック障害だとか鬱病の話は出てこないと思ったら、まだ発症する前の初期作品なのですね。
それでも全体の重く沈んだような静謐感はあります。タイ・カンボジア国境での難民医療チームへの参加などを題材にしていても、どこか暑さや弾けるようなエネルギーは無く、メランコリックな挫折感や諦念のようなものが顔を出します。
それが私の好みなのですが。
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05-042 2005/04/17 ☆☆☆☆
ダイヤモンドダストは芥川賞受賞作。
確かに良い話です。凛とした気品のようなものが漂います。
あとがきの中に、著者本人が自分の事 -
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デビュー作ともいえる短編、文学界新人賞受賞作の「破水」の続編です。
最近は趣味で始めた山行物が多かった南木作品ですが、今回は元に戻って医療現場を題材にした作品。「破水」では独身のまま子供を産む若い女医だった陽子ですが、この作品では既に還暦を迎え、前線から一歩引いた人間ドックの診療医です。
そんな陽子の元に届けられたのは元の同僚医師・黒田の半生記風に書かれた奇妙な「病歴要約」。診療の合間にその病歴要約を読み進める陽子の一日が描かれます。
そこには様々な医師たちの懊悩があります。例えば、黒田は志願して僻地診療に赴き、結果として妻子に去られ、さらには一つの事をきっかけに当の農村の住民にあっさり疎まれ -
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【本の内容】
火の山を望む高原の病院。
そこで看護士の和夫は、様々な過去を背負う人々の死に立ち会ってゆく。
病癒えず逝く者と見送る者、双方がほほえみの陰に最期の思いの丈を交わすとき、時間は結晶し、キラキラと輝き出す…。
絶賛された芥川賞受賞作「ダイヤモンドダスト」の他、短篇三本、また巻末に加賀乙彦氏との対談を収録する。
[ 目次 ]
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読 -
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南木さん、初作品です。
信州の山里で祖母に育てられた主人公・孝夫が医者である妻と連れて
故郷へ戻って来たところから物語は始まりました。
その村には、村人の霊を祀る「阿弥陀堂」があり、
一人身の高齢者がその堂を守ることになっていました。
孝夫が幼い時から阿弥陀堂守をしているおうめ婆さんは
質素な生活をしつづけている高齢者です。
孝夫の天寿をまっとうした祖母もこのおうめ婆さんも
おかしくなるぐらいに欲がなく、
あきれるほどしぶとく大地に根付いた生活をしていました。
医者の妻は心の病を持っていましたが、、
村でのんびり生活をして、
新鮮な野菜と澄んだ空気のある毎日を過ごすうちに、
だんだんとた -
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ネタバレ高校時代に学生運動に没頭する仲間たちに嫌気がさした事から知り合い、結婚した夫婦の話。夫はどこか浮世離れしていて幼少期に「花見百姓」と祖母に評される。文学部に進学し編集者になるが退職し小説家に転身。新人賞を受賞後はほとんど書けず、妻の稼ぎで生活を立てる。妻は高校時代から「毎日を生活」することを分かっている。医学部に進み、第一線で活躍する医者になるが、心を病み、夫の故郷の信州で暮らす事を決意する。信州で話の中心となる阿弥陀堂の96歳のおうめ婆さん、ガンで口がきけなくなった24歳の小百合、そして夫婦2人がそれぞれ面白い。夫はなんだか自分と重なる。「体を動かしてさえいれば一日をなんとかうっちゃれる。」
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舞台となるのは開設したて(1970年代)の秋田大学医学部、
主人公はその医学部の二期生4名(男性3名女性1名)。
コノ4名がご都合に入り混じった三角関係かな、
なんてありがちな想像をしながらページを繰ってましたが、、
そんなに単純な話ではありませんでした、面白かったです。
-それぞれの始まり、それぞれの想い、それぞれの道、そして、15年後。
言葉で綴られている情景が、映像イメージとして頭の中にも自然と浮かんでくる、
その中で登場人物たちが躍動している、そんな物語に出会えたのは久々でした。
久々に、学生時代の友人と酒を飲みたくなった、そんな一冊。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ先日読んだ『山影の町から』(笠間真理子著)に、下記の記述があった。
「南木佳士が小説やエッセイに描く信州の人々を思い出させるところがあって、山の人間の感じなのだろうか。」
著者作品はエッセイにしか触れていない。小説を読んでみようと旧い作品だが手にしてみた。なにより、そのエッセイでは「いまは小説を書いていない」とあった(『猫に教わる』(2022年3月刊))。新作は今後の楽しみとしよう。
小説の良さは、筆致による読みやすさ、表現の豊かさも楽しみたい部分であるが、登場人物の暮らし、その時代や舞台をいつまでも楽しんでいたいと思えるかどうかも大切。
起承転結が明確で、昨今喧しい伏線と回収に