南木佳士のレビュー一覧
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私が南木さんを読み始めるきっかけとなった作品。SNS「やっぱり本を読む人々」の100冊文庫企画に推薦するために再読しました。
特筆すべきは96歳の老婆・おうめが小百合に答える言葉の数々でしょう。それを語らせるために、この物語は書かれたのではないかと思います。
『目先のことにとらわれるなと世間では言われていますが、春になればナス、インゲン、キュウリなど、次から次へと苗を植え、水をやり、そういうふうに目先のことばかり考えていたら知らぬ間に96歳になっていました。目先しか見えなかったので、よそ見をして心配事を増やさなかったのがよかったのでしょうか。それが長寿のひけつかも知れません。』
そして、最 -
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医療・青春小説。
新しく設立された秋田大学医学部を舞台に、四人の医学生たちの苦悩と成長が描かれていた。
著者は、実際に医師として活動。
その体験をもとにこの作品を執筆されている。
この物語では、医療現場で直面するさまざまな難題や、命の重みが心に響く。
挫折や不安を抱えながら秋田大学医学部に集まった和丸、京子、雄二、修三の四人の学生が、解剖実習や外来実習などを通じて成長し、自分の生き方を見つけていく姿が描かれている。
彼らは医者を目指しながら、失恋や妊娠、患者の死といった様々な経験に向き合い、友情を深めていく…
物語の後半では、彼らが15年後にどのように成長しているのかも描かれている。 -
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ネタバレ売れない作家の孝夫は、心の病に罹った妻の美智子の療養も兼ねて、故郷の信州に戻ることにした。
不器用ながら田舎暮らしをしていくうちに、挫折を知らないエリート医師だった妻の、病以降の屈託がほどけてゆく。
集落のはずれで村人の霊を祀るおうめ婆さん。
山の上にある小さな阿弥陀堂に住み、ほぼ自給自足で暮らしている。
役場の若い事務員、小百合がおうめ婆さんに取材しまとめたものが、村の広報誌の中のコラム『阿弥陀堂だより』だ。
おうめ婆さんから、余分な力を抜いて自然体で生きることを教わる孝夫と美智子。
病気の再発で再び死と向かい合う小百合。
小百合の治療をすることで、医師としての自信と責任を取り戻す美智子 -
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マニュアルに若干の経験を加えて診断、治療をする。治る者は治り、治らない者は治らない。よほど鈍感な医者でない限り、自分が神でないことを知るのは早い。その後、神に近づこうとする医者と、神という言葉で表現される大いなる自然の摂理に自分を含めた人間の予後をゆだねてしまう医者とに分かれる。
……2020/8 再読。20年以上前、医学部受験勉強のモチベーションを支えてくれた小説である。主人公の4人の医学生たちの専門教育過程から卒業までのエピソードを綴り、卒後15年の後日譚で締め括られる本作を、実際卒後15年の自分が、今また読み返すのも、また感慨ひとしおであった。 -
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小説家として結果を出せず苦しむ夫。優秀な医師として多忙な妻。都会で支え合いながら生活する中、妻は心を病んでいく。夫の故郷信州の山村に戻る決意をする。そこは、母を亡くし父が家を出た後、祖母と二人、自然と共に暮らした懐かしい場所だった。
都会で傷を負った二人に自然は懐が深い。妻は、以前の笑顔を取り戻していく。
タイトルの「阿弥陀堂だより」は、地元の病気で声を失った女性が“阿弥陀堂守”のおうめお婆さんに、インタビューし、その言葉を広報誌に連載している小エッセイからきている。お婆さんの飾らない、自然に同化した言葉は、人を導く力がある。
夫婦はこの山村で人生を過ごす土台を作る。生きていく為の足るを知る。 -
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タイ・カンボジアで難民キャンプでの医療ボランティアに3ヶ月従事し、病院へ戻った"ぼく"は、信州の病院に戻っても、調子の出ない日々が続いた。そんな中、終末期の患者として、千絵子が転院してくる。がんが転移し、弱った千絵子とは、高校のときに出会っていたのだった…。『冬への順応』
小説という形では有るが、おそらく医師であろう作者が経験した体験をもとに書かれている話が4篇。最後の表題作は、主人公は看護師であるが、医療と私生活という点では共通点が有る。
患者を上手くさばけず、山奥の診療所に移動して、元恋人の死に立ち会えない医師。難民ボランティアで、患者を助けきれず、そのわだかまりを -
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医学生が地方の大学の医学部で解剖学や試験などに取り組む姿を描いている。作者の自伝的な小説というだけあって、内容は非常にリアルだし、一昔前が舞台のようだが今の医学部もあまり大きくは変わっていないのだと思う、そんなに違和感なく、内容にいちいち納得しながら読むことができた。そんなにドラマチックな展開があるわけではなくて淡々とした医学生の姿が描かれていくだけなのだが、それでもなかなか面白かった。同じ時期に読んだ「泣くな研修医」もリアルという意味では似ているはずだが、この「医学生」の方がだいぶ面白かった。無理にドラマチックにしようとしていないからだろうか。