南木佳士のレビュー一覧

  • ダイヤモンドダスト

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    タイ・カンボジアで難民キャンプでの医療ボランティアに3ヶ月従事し、病院へ戻った"ぼく"は、信州の病院に戻っても、調子の出ない日々が続いた。そんな中、終末期の患者として、千絵子が転院してくる。がんが転移し、弱った千絵子とは、高校のときに出会っていたのだった…。『冬への順応』

    小説という形では有るが、おそらく医師であろう作者が経験した体験をもとに書かれている話が4篇。最後の表題作は、主人公は看護師であるが、医療と私生活という点では共通点が有る。

    患者を上手くさばけず、山奥の診療所に移動して、元恋人の死に立ち会えない医師。難民ボランティアで、患者を助けきれず、そのわだかまりを持ったまま戻ってくる看護婦など、バランスの良い不満と挫折が散りばめられた作品群である。

    個人的には最初の『冬への順応』の青さ、甘酸っぱさと渇れてしまった現実への絶望というあたりが好きである。そういう現実の退廃具合と、カンボジアでのひりひりするような体験のコントラストもよい。

    ただ、ちょっとカンボジアの体験が前のめりになりすぎていたかなと言うところもあり、もう少し会話などで薄めてくれたほうが読みやすかっただろう。

    最後の表題作は、登場人物を4人に絞ってしまって、死をイメージするような話で、芥川賞受賞作。こちらも熱さと渇れた部分のコントラストがよく読みやすい作品だ。

    その中で戦闘機のプラモデルにしろ、水車のディテイルにしろ、少し余計な描写が挟まれていることで、登場人物像が豊かになっている部分などは良かった。賞を取るために肩肘ばって書かれていないということだろう。

    芸術というものでも、とてつもないドラマがあるものでもない。ただ、なんか好きだなこれ。

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    2022年03月15日
  • 医学生

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     医学生が地方の大学の医学部で解剖学や試験などに取り組む姿を描いている。作者の自伝的な小説というだけあって、内容は非常にリアルだし、一昔前が舞台のようだが今の医学部もあまり大きくは変わっていないのだと思う、そんなに違和感なく、内容にいちいち納得しながら読むことができた。そんなにドラマチックな展開があるわけではなくて淡々とした医学生の姿が描かれていくだけなのだが、それでもなかなか面白かった。同じ時期に読んだ「泣くな研修医」もリアルという意味では似ているはずだが、この「医学生」の方がだいぶ面白かった。無理にドラマチックにしようとしていないからだろうか。

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    2021年11月05日
  • 医学生

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    風景・街の描写が丁寧で場面を容易に想像できました。また人物描写についても、それぞれの大学生のリアルさがすごく共感できるものでした。
    話の流れとしては医学生の日常ということもあり起伏は少ないですが、そこがかえってリアルさを出してるのかな、と感じました。

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    2021年10月05日
  • 阿弥陀堂だより

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    難病の小百合ちゃんがおうめ婆さんを取材して村の広報に掲載する『阿弥陀堂だより』の短くも優しい記事文が、疲れた心に沁みてくる。
    医師である主人公の妻の心を病むまでの仕事ぶりはすごいし、売れない作家でダメな感じと見える主人公の、故郷の山に移住して妻を再生させるまでの献身ぶりは素晴らしい。
    ダイヤモンドダストと違い、結末が死ではなくそれぞれの障害を乗り越えて生きていく、と言うのがまた良かった。

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    2021年07月10日
  • ダイヤモンドダスト

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    母が骨折で入院中に南木佳士さんは心の拠り所、と言っていた事からこの作家を知り、芥川賞受賞作である題名の話を含む短編集というこの作品に触れる。カンボジア難民キャンプでの医療団であったと言う作者の経験がものを言う医療現場の実情を知る事が出来た事は、今まで漠然としていた難民や医療の問題に少しでも触れる事ができた気がして良かった。今後医療や生と死に関する出来事や問題にぶっかった時、これまでとは違う受け止め方となるのではないかと思った。

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    2021年07月10日
  • 山行記

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    ここのところテレビでも本町でも、山登りのスペシャリストのような方々を目にすることが多かった。そんななかで、登山の大変さが伝わってきてとても楽しく読めた。まるで一緒に登山したような気持ちになれた。登山は苦しいし、怖いこともある。けど、登山でしか味わえないものがあるのだと改めて思い、山に行きたくなった。

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    2021年06月30日
  • 医学生

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    どう感じたんだろう…と振り返っても、どこか他人事に、面白かった〜としか言えないんだけど、でもなんだかすごく好きな小説だった。

    好きの理由を少しだけ掘り下げてみると…
    ・色々な設定にリアリティがある※自伝的だから
    ・キラキラしてない普通の登場人物達に親近感
    ・世の中って、働くって、ほんとそうだよね、という共感
    ・医学部ってこんな感じなのかと知ることができた
     →医者の友達が多い割に、医学部のこと、なんとなくしか分かってなかったんだなぁ。

    読書好きだなー、小説っていいなー、って思わせてくれた小説だった。

    そりゃそうか。芥川賞受賞作家の小説なんだから。

    ざっと4時間くらい、子育て中だが睡眠時間を削って夜中に読んだ。寝不足だけど、読書の世界に浸る時間が持てたことのほうが嬉しくて、寝不足なはずなのにむしろわたしは元気で過ごせる。

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    2021年06月29日
  • 医学生

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    ネタバレ

    姉が医学生で、彼女から聞く医学生の生活とよく似ていてかなり現実に即した話なんだということがわかった。
    日常を綴ったような話で特別な起伏はないけれど、登場人物の鬱屈とした気持ちなどはかなり巧みに表現されて伝わってくるため、飽きずにサクサクと読み進められた。
    青春時代に誰もが悩んだり鬱屈とした気持ちを抱えたりしたことはあるはずなので共感しやすい物語だと思った。
    また、日常の中にも登場人物の精神的な成長や変化があり、楽しめたし同世代として刺激も多少もらえた。

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    2021年04月08日
  • 小屋を燃す

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    著者の文庫本を店頭で見つけ久々に読むと、いつのまにか定年退職されて近所の人々と酒を汲みかわす人となっていた。それでも小説の内容は変わらず、この人は最後まで自分をもてあます感情からたすかろうとされるのだろうと感じた。

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    2021年04月08日
  • 医学生

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    ネタバレ

    6年間という人生においては一瞬に過ぎない時間の中で、解剖や臨床実習など医学部特有の経験を積み、浮き沈みを繰り返しながら、医師として巣立っていく脆くも頼もしい医学生達の姿に親近感を覚えた。

    作中でも取り上げられている中島みゆきの「時代」が学生達の葛藤を上手く表現していた。

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    2021年02月13日
  • 阿弥陀堂だより

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    新聞で南木さんの書いた文章を読み、興味を持って読んだ。
    コロナ禍の中で重たい内容ではあったけど、最終的には晴れやかな気分になったのでよかった。生と死、死生観。所詮、人の命も自然の一部の流れ・・。
    まあ、でも次は軽めの小説を読みたい気もする。

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    2021年01月30日
  • 医学生

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    地方の医学部という特殊な環境に集まった学生たちの決して明るくはない青春を描いた1冊。
    様々な境遇にある登場人物の交流がリアル。

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    2021年01月06日
  • 阿弥陀堂だより

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    小さな山奥の村、その山里の山の方の阿弥陀堂に暮らす老婆。祖先の霊を守ってくれる老婆にお礼として、老婆には食糧が運ばれる。
    40年、50年この閉ざされた風景から一歩も外に出ないで暮らしてきた老婆。
    都会で精神的に病んだ妻と売れない作家の自分。口の聞けない若い女性。圧倒的な大自然のなかで、生きるとは何か、考えさせられる名作。
    田舎で暮らし、病気と単なる身体の故障の違いとは、心が病んでるかどうかであると気づく妻。
    深いですね。

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    2020年11月09日
  • 阿弥陀堂だより

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    地に足がつく….というか、土地に根付いて身も心も健全に生きたくなるな。

    『器に合った分の、それもなるたけいい話を聞いていたい』
    このSNS時代にグッと来る言葉だ。

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    2020年09月24日
  • 阿弥陀堂だより

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    六川集落出身の孝夫が結婚し妻を連れて移住してくる。そこで暮らしながら出会う人との触れ合いが描かれている。
    タイトルでもある阿弥陀堂は、山の中腹にあるお堂で、選ばれたお婆さんが守っていくしきたりになっている。
    96歳のおうめ婆さんはそこに住み、祖先の霊を守っていてくれるのでそのお布施として村人は食料や燃料を運ぶ。
    病んでいた人々がおうめ婆さんと、この村での暮らしで元気を取り戻していく。
    映画化もされている。

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    2020年05月25日
  • ダイヤモンドダスト

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    東南アジアに難民医療のため一時派遣されたときの経験・出会った人についての短編が三つ。最後の一編はベトナム戦争で空軍パイロットだった牧師が死の床について語る言葉、「乗り物は早くなるほど罪深くなる」が印象的。

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    2019年09月23日
  • 山行記

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    新穂高から笠ヶ岳と槍を通る周回や、北岳から農鳥までの大縦走が書かれていますが、声高になる事なく静かに淡々と時が流れて行きます。山行記ではありますが文学作品。良い本だと思います。

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    2019年04月11日
  • 医学生

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    新設間もない秋田大学医学部で解剖実習でチームを組んだ4人の物語。皆医者になっていく過程で考え方を変えながら一人の医師として成長していく。青春物語。

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    2018年01月31日
  • 医学生

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    裏表紙に曰く"軽やかに爽やかに綴る永遠の青春小説"と。
    ナヌー!!南木佳士が"軽やかで爽やか"だと!!!というわけで、興味津々、読んでみました。
    確かに"軽やかで爽やか"ですね。ええ、あくまで南木作品としては、ですが。普通の人なら普通の作風くらいでしょうね。
    "意識して大衆小説にした"と作者自身が言ってる様に、普通の南木作品とは大きく違います。自己の経験を下敷きにしては居ますが、主人公も"自分"では無いようです。しかし、別の言い方をすれば"らしさ"が消えて、平凡な作品になってしまったと言えるかも知れません。
    しかしさすがにまとまりは良く、また終わり方はポジティブで綺麗でした。

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    2017年10月30日
  • 阿弥陀堂だより

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    ネタバレ

    映画化もされた名作。わたしはこの作家の作品を読むのは3回目であるが、やはりこの静謐な世界は非常に好みである。作家である主人公とパニック障碍を患って田舎の診療所に赴任してきた女性医師の夫婦をメインに描いていて、これは完全なフィクションかとも思ったのだが、一部は実体験を取り入れた、半私小説なのかもしれない。著者が病気になったということは知っていたのだが(そのため後年登山に傾倒するようになり、近年の山岳小説につながる)、Wikipediaによれば著者の年齢はちょうど学園紛争激しい頃に受験を控えていたという作中の設定と合致するし、なにより著者の本名は「霜田(しもだ)」らしいので、まったく無関係に上田姓を登場させるわけもあるまい。作家としてスランプだった時期の経験を夫に、医師として多忙を極め身体に異常を来した経験を妻にそれぞれ仮託して書き上げたものと推察される。さて、そういった背景はともかくとして、作品自体も非常にすばらしいと思う。谷中村は都会に生まれ育ち、パソコンやスマートフォンをバリバリに使いこなすわたしからしたらとんでもない田舎でしかないが、それでもそんな田舎でさえも嫌悪感を覚えさせず、むしろ憧憬すら抱いてしまうのはやはりこの筆致のなせる業であろう。阿弥陀堂に住まうおうめ婆さんの設定がまたすばらしく、たとえば美智子は病を患っており、ほんらいであれば暗いムードが物語を支配してもおかしくないところ、それを中和させるような不思議な雰囲気を放っている。一言一句にも含蓄があり、無学で貧困なのであろうが、人生の手本にしたいようなすてきな老婆である。時代劇によくべらんめえ口調でなにごともガハハと笑い飛ばして片づけてしまうようなキャラクターが登場するが、おうめ婆さんも性質は違えど役割的にはおなじような感じであろう。このような魅力的なキャラクターを造形する筆者には頭が上がらない思いである。小百合ちゃんもおなじく魅力的である。ただ、単純にハッピー・エンドで良いのかという疑問はある。執筆当時になかった言葉を使えば、この作品の舞台は「限界集落」である。もちろん戦時中でも一般家庭には時として笑顔があったように、限界集落でも毎日の通常の営みがあり、そこには喜怒哀楽さまざまな表情があるであろう。しかし、長期スパンでみれば絶対に「暗い未来」が待っているような場所であって、そういったところでもひたすらニコニコ、というのはリアルであろうか。わたしは、あえて小百合ちゃんか、おうめ婆さんか、誰かが亡くなっても作品としては良かったのではないかと思う。最後に妊娠までされてしまうと、読者としてはこのあと元気な子供が産まれ、ついでに主人公もとうとう作品を書き上げて雑誌に掲載され、というような絵に描いたような平和な明るい未来しか想像できなくなってしまうが、『阿弥陀堂だより』という小説をずっと書いてきて、伝えたかったメッセージははたしてほんとうにこれで良いのであろうかという疑問は拭えない。

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    2017年09月05日