野崎歓の作品一覧
「野崎歓」の「人類の深奥に秘められた記憶」「フランス文学を旅する60章」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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Posted by ブクログ
2025年刊。2014年に出た『翻訳教室』の改題増補文庫版。もとの10章に、「AI翻訳なんか怖くない」の章が追加されている。
語り口が軽めの、翻訳をめぐるエッセイ。音楽会に行くなどの日常も織り込みながら、仕上げたばかりの翻訳の裏話。ヴィアン『うたかたの日々』、ウエルベック『地図と領土』、ネミロフスキー『フランス組曲』も出てくる。
引き込まれたのが森鷗外。4つの章に登場する。始まりは、好んで聴くマーラーの交響曲第8番の話(翻訳作業のBGM)。この曲の題材として使われているのがゲーテの『ファウスト』。マーラーは『ファウスト』をどう曲として翻訳しているか。そこから話は、鷗外の『ファウスト』の日本語訳に及ぶ。その訳がいかに素晴らしいか。ちなみに、Symphonyを最初に「交響曲」と訳したのは森鷗外。そういうオマケもついている。
作家の森茉莉は鷗外の娘。その茉莉の息子は山田爵、長じて東大のフランス文学の教授になった。野崎歓は、学部の3・4年次に、定年間際の彼に教わった。その授業風景が描かれている。爵(じゃく)という名前はフランス語のJacques、命名は祖父の鷗外。
鷗外と言えばドイツ。しかし、フランス文学や文化にも詳しかった。小倉の左遷時代には、フランス人神父からフランス語を習っていた。娘や息子につけた名もMarie、Anne、Louis(茉莉、杏奴、類)。結構なフランスオタクだったのだ。
Posted by ブクログ
久しぶりに読む骨太の海外文学に一抹の不安を覚えながらページを捲り始めたが、すぐに作品世界に引き摺り込まれ、読破するまでは読んでいない時も心が作品世界の中に居続ける、そんな強いグリップ力の作品だった。
色んなテーマが含まれた盛りだくさんな作品だが、メインの舞台を両大戦をまたぐ時代にしたことがかなり深みを与えている。登場人物はそれぞれ固有のテーマや問いを抱え生きているが、それらも結局は大きな時代状況に巻き込まれれば、時に儚くあっけなく、その人物の生とともに消えていく。
しかしその事実は決して個人の実存の価値を損なうものではないと思う。あるいは、この作品のような文学によって表象されることでその価値が保たれているのかもしれない。
日本人は、植民地主義の加害者でありながら、西洋文化の「侵略」を免れているわけでもないという、複雑な立場にいると思う。そんな立場から、自分たちを支配し、破壊する者たちの文化や伝統に対する愛に囚われてしまった者のジレンマは他人事ではなかった。