そしてネットワーク理論にとってもう一つの重要なアイディアがその後すぐに物理学者バラバシらによって発表された。彼らは航空機やインターネットなどのネットワークを詳細に調べ、ハブという多数の接続道路を持っているものがいくつか存在していることに注目した。このようにある程度ランダムなつながりのネットワークの中にも、実は多数の接続を持つ中心的な役割のものが少数存在することもある。このようなネットワークをスケールフリーネットワークと呼んでいる。長いバイパス枝も短い枝も同じ1本と数えると、ある点から別の点まで行くのにたどる枝の合計数は、スケールフリーの場合、バイパスやハブの存在のために少ないものから多いものまでいろいろあって、ネットワークを特徴付ける代表的なスケールがないことからスケールフリーという名前がついた。
スケールフリーとは、簡単にいえば次のようなことだ。ある100人のクラスのテストの成績は全員異なっていて1点から100点まで分布していたとすると、このクラスにはいろいろな人がいて特徴づけができずスケールフリーになる。この場合、平均点は
50.5点だが、この数字にはほとんど意味
はない。また、高得点の人がハブに相当していると考えてよい。それに比べて、もし全員30点ならばそのクラスは「要努力クラス」と特徴づけられるのでスケールフリーではないし、また高得点者であるハブも存在しない。
<図3>を見るとそのネットワークの様子がわかると思うが、スケールフリーネットワークでは、多数の接続を持つハブとなる点がいくつか存在するのに対して、ランダムなネットワークでは全体としてとくに際立った点はなく、全体がランダムに結びついているだけだ。
航空路線図はこのようなスケールフリーのネットワークを形成しており、その他映画俳優の共演関係のネットワークもこのようになっていることが知られている。つまり一部の際立って有名な俳優がハブになっているのだ。これらの例の場合、一つの点から出ている接続枝の数がその点の「得点」だと思えば、テストの成績のたとえ話と直接対応して考えられる。
スケールフリーとスモールワールドはともに碁盤目状の規則的なものに比べてお互いの距離が近くなるネットワークだ。それではそのちがいは何かというと、まずスモールワールドにはハブは存在しない。そしてスモールワールドの場合は自分の周囲ともある程度強く結びついているのに対して、スケールフリーはそのような周囲との接続に関しては保証していないという点だ。したがってこの周囲との結びつきの強さという意味では、スケールフリーはランダムなネットワークに近い。最近では、自分の周囲ともちゃんと結びついて、しかもハブが存在するような両方の性質を備えたネットワーク
も見出され、その性質の研究が進められている。
スケールフリーのネットワークは、ハブの故障に対して弱いと考えられる。
そしてハブの不調にどれだけこのネットワークが耐えられるのか、などが理論的に研究されている。これはインターネットでの悪意のあるネットワーク攻撃に対する安全性を増す上でも重要な研究だ。
近い将来、渋滞学にこのネットワーク理論の結果が生かされて、新しい渋
滞解消システムが生まれてくることを大いに期待している。