中山宥のレビュー一覧

  • 死と奇術師

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    密室状態の自宅書斎で高名な博士が殺されているのが発見され、死の直前に謎の男が訪れたことがわかった。不可能犯罪に元奇術師の探偵が挑む。
    2022年の作品だが、内容は1936年ロンドンを舞台にした古き良き本格ミステリという感じで、謎解き部分は袋とじの自信作。
    正直、袋とじにするほどかとは思うが、こういうのは落ち着ける。

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    2026年08月22日
  • 空に浮かぶ密室

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    前作もそうだったが、私の理解力が低いのか、物語の展開といい探偵役の説明といい何となく都合が良すぎではないかという印象を受けた。

    この作品で感じたのはただ事件の数を増やして真相を複雑にすれば面白くなるものでもなく、一つ一つの質が高くなければならないということ。物語のメインの謎が肩透かしで少々がっかりした。期待のハードルを上げすぎた。

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    2026年03月18日
  • 空に浮かぶ密室

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    あ、これシリーズ物の2作目だったんだ。
    知らずに読んでしまった、けれど楽しめた。

    なんというか、the典型って感じだった。
    探偵がいて、少し融通の効かない警察がいて、横柄に振る舞う人だったり、気が弱そうな人だったり、綺麗なお姉さんがいて、裏のボス的な人もいて。

    4つの事件が少しずつ交差していくのは、わくわくする。
    ただ、トリック、それは解けないって。

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    2026年03月03日
  • 空に浮かぶ密室

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    SL 2026.1.29-2026.1.31
    「探偵小説の黄金時代へのオマージュ」というだけあって、現代の作者の作品というより古典作品のような雰囲気を持つ。
    読者への挑戦、フェアプレーというけど、真相は時代的な考慮が必要で、なかなかに難しい。
    それだけ楽しめたのですが。

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    2026年02月01日
  • 空に浮かぶ密室

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    ネタバレ

    読者への挑戦がはさまれているが、これで解決までたどりつくのは無理。解決編もつっこみどころ満載で、まさに不可能犯罪!と言いたくなった。読書会で挙げていったら楽しいかも。
    …と細かいことは言わずに、派手な黄金期オマージュを楽しむのが正解なのかも。

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    2026年01月07日
  • 死と奇術師

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    雰囲気としては昔ながらのミステリーという感じで好きな作品だった。殺された精神科医と3人の患者を中心に物語が展開されるが、それぞれが事情を抱えており、新事実がどんどん判明し誰もが怪しげに思える中で、複雑な要素が絡み合い一つの答えに収束していく過程は非常にわくわくした。


    だが、肝心な密室トリックの鮮やかさに欠け、むしろなぜ事件がここまで複雑になったかの原因の方が面白かった。なので、★3か★4かで迷ったが、色々と偶然の要素が多かった気がするので★3で留まった。

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    2026年01月01日
  • 死と奇術師

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    ミステリ。密室。
    奇術師が探偵役を務めるミステリ。
    一定の水準の品質はあると思うが、どこかインパクトが欠ける印象。
    不可能犯罪の解決シーンって、もっとカタルシスがあるものじゃなかったっけ?自分が慣れただけか?
    とはいえ、全体的な雰囲気は好きだし、フリント警部補のキャラクターが意外と親しみやすく、普通に楽しめた。

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    2025年05月29日
  • クレオパトラの短剣

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    1880年代のニューヨークが舞台のミステリー。主人公はヘラルド社の唯一の女性記者。ミステリの内容もだが当時の、例えば性差別を始めとして、出身国など事細かにランク付けされた社会が描かれる。社会進出さえ難しい当時に胸を張って生きるはヒロインが眩しい。内容はともかく新しく現れたヒロインに拍手したい。

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    2024年11月27日
  • 死と奇術師

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    ネタバレ

    良いところ
    今どき貴重な袋綴じの読者への挑戦
    1930年代のロンドンが舞台

    あんまりなところ
    トリックの描写が複雑過ぎる(特に落とし戸を自動的に戻すゴムシート)
    設定が荒い

    "読者への挑戦"の袋綴じっていうだけで読む価値があると思う
    でも、内容は単調で、あんまり魅力を感じない
    全員のキャラクター像も最後まで掴めなかった
    例えばウィーバー。彼が動く車のタイヤを一発でパンクさせられる程の射撃技術をもっていて、尚且つそれをあの場でできる豪胆な人物とは到底思えなかった

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    2024年09月22日
  • マッキンゼー 世界を操る権力の正体

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    丸善にて平積みされていて興味持ち、読んでみた。

    本文だけで380ページ程。文字も詰まっていて馴染みのない業界の話もあるので、読むのはちょっと大変だった。が、様々な資料にあたり、匿名も含めた多数のインタビューを通して、どんな仕事をしているかがイマイチ分かりにくいマッキンゼーの一端を知ることはできたという意味で、貴重な一冊。かつて読んだ本でマッキンゼーのやり方に違和感を感じた著者の言葉があったが、これを読むとより解像度は上がる。

    いくら崇高な主張をしていても、クライアントと自分達の利益のためなら、企業だけでなく規制する政府とも仕事をする。一歩違えばマッチポンプとも言えるようなやり方は、倫理的に疑問符を持たざるを得ない(少なくともこの本で出た、冒頭含む15の案件は)。この辺は以前読んだゴールドマンサックスとも重なるように感じた。元マッキンゼーは、(どんな仕事してるかにもよるが)注意した方が良さそう。

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    2024年08月19日
  • 死と奇術師

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    ネタバレ

    ミステリーチャンネル、クローズドサークル小説のおすすめ20選から。
    クローズドサークルというより完全に密室殺人に重きをおいた作品だった。
    今までミステリーはそこそこ読んできたけれど好みがクローズドサークルなのもあって密室殺人ものは全く読んだ記憶がなかったので新鮮な気持ちで楽しむことができた。
    お恥ずかしながら外国のミステリーはアガサ・クリスティやティーンズ向けの冒険譚しか嗜んだことがないので本書で話題になる密室殺人もののパイオニア、ジョン・ディスクン・カー氏も初耳で機会があれば読んでみたいなあと思いました。
    内容としては登場人物みんな魅力的で全員に裏がありそうで展開がどうなっていくのかワクワクしながら読むことができて良かった。
    精神病患者のほとんどが嘘でできていたというのは都合が良すぎる気がするけど、それもある意味人間らしさなのかなぁ。

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    2024年06月07日
  • 死と奇術師

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    ポワロさんのような最後の謎解きはヘェーだらけで全く私の推理は当たらず。でも、ドラマ化したら面白いだろうなと思う良い作品。

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    2024年02月04日
  • マネー・ボール〔完全版〕

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    おなじみブラッド・ピット主演映画の原作となったノンフィクション。しかし実際のビリー・ビーンは193cmの巨漢で、手当たり次第に物に当たり散らす性格で、ぜんぜんブラピとは似ても似つかない。それでも原作を読んでから、映画をもう一度見たいと思えた。

    映画は徹頭徹尾、ビリー・ビーンの物語だったが、こちらの原作ではセイバーメトリクス(野球においてデータを統計で客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える手法)の歴史などにも焦点が当てられており、その祖が最初に出した本は自費出版で200部ほどしか売れなかったといった秘話もおもしろい。

    著者はビリー・ビーンのやり方を認めようとせずこきおろす球界の「社交クラブ」の面々を憎々しげに描写している。それでも日本人としては異端のセイバーメトリクスが草の根で少しずつ勢力を増し、ひとりのGMが採用して球界に旋風を巻き起こし、それが本や映画になって広まっていくアメリカの底力を感じずにはいられない。

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    2023年11月01日
  • 死と奇術師

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    エラリークイーンみたいに、謎解きの段階になると、読者への挑戦として、ここまでに全ての材料が提供されており、推理力だけで解決に導くことができる、という手法が使われている。
    解決編を袋とじに入れることで、雰囲気を盛り上げている。精神科医が密室となっている書斎で発見される。使用人が密室となっている経緯を証言する。被疑者は患者の3人、音楽家、女優、作家、それに被害者の娘とその許婚。誰も犯行時間帯のアリバイはしっかりしている。捜査が進むにつれ、精神科医の過去の患者で自殺した事件が浮上する。袋とじの前では謎解きはできなかったが、袋とじのなかの解説は淡々と進み、容易に犯行が可能であるように語られているが、すっきりしない。確かに、これで密室の謎を解いているのだろうが、手間がかかりすぎだし、犯行を見られるリスクを軽視している。期待した分の納得感は得られなかった。

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    2023年05月30日
  • 死と奇術師

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    ほぼ読んだ経験のない、ある種ベタな謎解きミステリーをジャケ読みにてセレクトしてみたら、当たり。さくっと質の高い文章にて、謎解きが楽しめてよい。

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    2023年05月30日
  • マネー・ボール〔完全版〕

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    この本は数字がいっぱいでてくるのに、縦書きの漢数字だから、パッと頭に入ってこなくて読むのに苦労した。
    数字が多いの本は、横書きでアラビア数字にしてくれたらもっと読みやすいのに…と思った。
    日本の野球界は、外部があまり入っていないイメージだし、メジャーより元野球選手の山勘と財力で回ってるいる世界なんじゃないかと思った。

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    2023年02月10日
  • 動物学者が死ぬほど向き合った「死」の話

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    生き物に対する考え方が変わった。ただ生物が死ぬことに対して可哀そうと今まで感じていたが、生命の循環の一部、生物の集団として進化していく過程を改めて実感した。人間は考える脳を持ち、自分たちを最良の生き物と考えているフシがあるが、結局ほかの生物の進化の恩恵を受け、今があることを忘れないようにしたい。

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    2022年09月07日
  • マネー・ボール〔完全版〕

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    効率を重視すべきなのかどうかは世の中そうとも言い切れないと思うが、既存の常識を疑うこととかその疑いを実行に繋げる力が成功を呼び寄せるというのはそうだと思う。

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    2022年05月18日
  • マネー・ボール〔完全版〕

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    【感想】
    野球は実際の試合を観戦せずとも楽しむことができる。各選手を表す指標が一つ一つ細かく決められているため、その数字を検索するだけで満足してしまうほどだ。OPS、IsoD、IsoP、K/BB、WHIPなど、何が何を表しているのか見当もつかない略語が続々とならび、選手をさまざまな角度からデータ分析する。
    こうした指標、つまりセイバーメトリクスを選手獲得の基礎情報として導入し、球団の運営方針を「データ主義」に転換した初の球団が、ビリー・ビーン率いるオークランド・アスレチックスであった。

    もともと、球団はスカウトやGM、監督の直感によって運営されていた。
    しかしながら、野球ほどデータを取れるスポーツは他にない。野球はプレーが断続的であるため、投手がどの球種をどのコースに投げ、打者がどう打ち、どこにボールが落ちたのかを事細かに記録できる。打率、長打率、出塁率、コンタクト率といった各種データを引っ張ってくることで、2人の選手を詳細に比較することもできる。しかも「プレーを見る必要もなく」客観的に測定できてしまうのだ。
    ということは、この指標を上手く使えば、「どの行動が勝ちにつながるか」「どんな特徴を持った選手を集めれば勝てるチームを作れるか」をあぶり出すことができる。何故球団関係者は今までの古臭い評価方法を捨て去り、宝の山を活用しないのか、と思うかもしれない。(実際ビリーはそう思っていた)しかし、野球と野球人はそう簡単にはなびかない。このスポーツには「運」がついて回るからだ。

    野球はデータのスポーツだが、それと同時に、とてつもなく運が絡むスポーツだ。守備位置からして、会心の当たりが野手の真正面に飛ぶように設計されている。芯を捕らえたライナーがアウトになることもあれば、タイミングを外されたボテボテの当たりが内野安打になることもしょっちゅうだ。本書ではホームラン以外のフェア打球がヒットになるかどうかは、投手の責任ではなく運だと論じているが、まさにその通りであり、その運の良さを表す指標は「BABIP」として数値化されている。(初めてこの指標を知った時は、「運なんて測定できるのかよ!」と度肝を抜かれた)
    本書でも語られるとおり、打撃指標として重視されるのは出塁率と長打率であるが、これはフォアボールとホームランが野球で数少ない「運」を排除した進塁だからだ。運が密接に絡むスポーツにおいて、運の要素をできるだけ少なくし、確率の高い行動を積み上げることで勝ちを狙っていく。これがセイバー野球の戦い方である。

    セイバーという新しい概念を取り入れたビリー・ビーンに対し、古参の野球人は多くの批判を寄せた。四球を選ぶよりも安打を打つ方が偉い、盗塁や送りバントによって積極的に選手をスコアリングポジションに進めるべきだ、打球を待つのではなく初球から積極的に振っていくべきだ、などなど、いきなり現れたよそ者に「お前に野球の何が分かる」と罵声を浴びせていく。そのたびビリーはデータという動かぬ証拠のもと、試合結果という形で反論していく。

    ただ、悲しいことに、こうした批判をする人たちの気持ちも何となく分からないではない。
    彼らは従来の野球の正しさを信じているのと同時に、「野球の美しさ」を守ろうとしている。熱いエネルギーと気迫に満ちたプレーこそが野球の神髄なのであり、統計学のように選手を確率の道具だと見なしていては、奥に潜む神聖な何かを見失ってしまうのではないか。野球をスポーツだけではなくエンターテイメントとして運営してきた人々は心からそう思っているわけだが、ビリーはそれについては「何言ってやがる、面白い野球とは勝つ野球なんだ、勝てない球団にファンなんてつくわけがねえ」と一蹴し、とにかく安く勝てる野球を追求していく。
    そのため球団に貢献してきた優秀かつ高年俸な選手を積極的に売りに出し、安い外様をチームの中心に据えるのだが、もちろん、ファンからしてみれば納得はいかないだろう。ファンと球団は一種の家族関係で成り立っている。そうした無常なトレードをひっきりなしに行っていては、勝てる勝てないにかかわらず「面白くない」という心理がつきまとうのも、当然の結果なのではないだろうか。

    本書はデータ野球を一から作り上げたビリーのお話であるとともに、従来の「野球論」と「新野球論」が攻防を繰り広げるお話でもある。もちろん、どちらを味わっても面白い。野球に詳しくない人も、「野球ってこんなに数字まみれのスポーツなのか」と見識を改めることができる良い本だと思う。是非手に取って、データ野球の面白さを味わってみてほしい。

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    【まとめ】
    1 選手をめぐるルール
    メジャーリーグでは、ドラフト指名で獲得した新人選手を、その球団がマイナーで7年間、メジャーで6年間確保し続けることができる。しかもメジャーに入って最初の3年間は賃金調停ができないため、活躍した選手であろうとも相当安い値段で契約ができる。
    また、FAにより主力選手を失ったチームには、ドラフト会議で優遇措置が取られ、FA移籍先のチームの1位指名権を奪い取ることができる。この結果、2002年のアスレチックスには7人を一位指名できる権利があった。


    2 いい選手とは?
    アスレチックスのゼネラルマネージャーであるビリー・ビーンが重視するのは出塁率だ。一方で、パワーがあるけど当たらない、今は芽が出ていないが改造すればいい選手になる、といった要素は嫌う。高校生よりも大学生(即戦力)を好むのもビリーの特徴だ。

    足の速さ、守備のうまさ、身体能力の高さは、とかく過大評価されがちだ。しかし、野球選手としてだいじな要素のなかには、非常に注目すべきものとそうでないものがある。ストライクゾーンをコントロールできる能力こそが、じつは、将来成功する可能性と最もつながりが深い。そして、ストライクゾーンをあやつる術を身につけているかどうかの指標が四球の数なのだ。大学時代に選球眼がいい選手は、たいていプロに入っても選球眼がいい。また、打撃能力を評価する際は、打率よりも出塁率や1打席あたりの投球数が重要になってくる。

    伝統を守りたがるスカウトたちは、ビリーやポールの流儀を実績重視型、と呼ぶ。スカウトの仲間内では軽蔑的なニュアンスの言葉だ。新人選手はあくまで心の眼で見て評価すべき、というのが旧来の野球人の常識だ。なのにビリーらは、野球選手のだいじな部分はほぼすべて、場合によっては性格までも、データのなかに見いだせると断言する。

    アルダーソンがアスレチックスに浸透させた打撃の鉄則は次の3つだ。
    ①打者は全て、一番バッターの気構えで打席に入り、出塁を最大の目標とせよ。
    ②打者はすべて、ホームランを放つパワーを養え。本塁打の可能性が高ければ、相手ピッチャーが慎重になるので、四球が増え、出塁率が上がる。
    ③プロ野球選手になれるだけの天賦の才がある以上、打撃は肉体面より精神面に深くかかっていると心得よ。

    ビリーは勝率と関係が深いデータとして、出塁率と長打率を取り上げていた。むしろ、重要なデータはこの2つしかないと断言している。この2つを足した数字は「OPS」と呼ばれる。
    また、出塁率と長打率を比べたとき、「出塁率の方が長打率より3倍重要だ」と考えている。出塁率とはすなわち「アウトにならない確率」「スリーアウトにより攻撃が中断されない確率」にほかならず、以後、アスレチックのフロントは、出塁率に異常なほどこだわるようになった。


    3 セイバーメトリクスの誕生
    ビル・ジェイムズは野球をデータによって分析しようと試み、これを「セイバーメトリクス」と命名した。

    当時、メジャーリーグの公式データは貧弱であり、野球のインプレーデータは球界の関連企業に独占されていた。ジェイムズは、内部関係者に頼らずにメジャーリーグを分析しようという計画をプロジェクト・スコアシートと名づけ、着手する。ほどなく、STATS社がこのプロジェクトに同調した。STATS社もかなりよく似た目標を持っていて、クレイマーいわく「野球の試合中に起こるおもな出米事をできるかぎり完壁に記録する」ことをめざしていた。
    しかし、報酬をもらってプロチームの監督をやっている人間が、こういったデータの重要性を認識していなかった。科学的に分析するための情報を集めようとさえしない。STATS社がせっかくの情報を見せても、試しに無料で提供しても、ほとんど関心を示さなかった。
    立ちはだかっていたのは、社会的、政治的な壁だった。いくら弱小球団とはいえ、プロ野球経験のないものが、監督やスカウトや選手をさしおいて、まったく新しい野球術を押しつけるわけにはいかない。

    旧態依然とした野球チームの態度に見切りをつけたかのように、ジェイムズは自作のデータ集である『野球抄』の発行を辞めてしまう。それにようやく目をつけたのは、10年後、アスレチックスのゼネラルマネージャーに就任したビリー・ビーンであったのだ。


    4 常識外れのドラフト戦略
    2002年のドラフトで、他球団と全く違う基準で選手を測ったアスレチックスは、20人の指名候補選手のうち13人を獲得することに成功する。
    アスレチックスの資金は4000万ドルだが、ヤンキースはその3倍の資金がある。元手がないからには、お買い得の選手、例えば無名の若い選手か、過小評価されているベテラン選手を狙わなければならない。この独自のドラフト戦略により、他球団と総年俸が大きく差がついている状態にも関わらず、2001年に102勝しプレーオフに進出している。


    5 グラウンド全てをデータ化する
    AVMシステムズ社――アスレチックスが選手評価のアルゴリズムを作る際に真似をした会社――は、球場におけるすべての出来事を数値化する企業だった。打点やセーブといった、状況に付随するデータを無視したのはもちろんのこと、従来方式の記録はいっさい使わなかった。AVMのコンピューター内部には、ひとつの試合が膨大な派生状況の集合体というかたちで登録され、現実世界とはくらべものにならないほど的確な、別次元の選手評価が可能になった。
    仮に、軌道Xで速力Yのライナーが地点九六八に落下したとしよう。過去10年のデータと照合すると、ほぼ同じ打球が8,642例ある。うち92パーセントが二塁打、4パーセントが単打、4パーセントが捕球されてアウトだった。打つ前は得点期待値が0.50の場面だったと仮定する。実際にはまだ何も起きていないうちから、打者には得点の可能性が0.50、投手には失点の可能性が0.50あったわけだ。ここで先ほどの打球が飛んで、ジョニー・デイモンがお得意のジャンピングキャッチでみごとに捕球したとする。デイモンは0.50を0に抑え込んで、チームに貢献したことになる。このように、打撃や捕球がどんな意義を持つかは、場面に応じて客観的に決まる。過去10年の平均と比較してどのぐらい良かったか悪かったかで、各プレーの価値を判定できるというわけだ。


    6 トレード戦線
    資金の乏しいアスレチックスがなぜこんなに勝ち続けるのか、その理由の一端は、シーズン途中の巧みな戦力補強にある。成績不振の球団が望みを捨て、コストを削減したくなり、選手を売りに出す。供給がだぶつき、値段が下がり、いい選手がお買い得になる。そのときアスレチックスはじたばたと電話をかけまくり、ありとあらゆる提案をして、トレードを実現させようとする。“流し釣り作戦、とビリーは呼んでいるが、つまりほかのゼネラルマネージャーと何げないおしゃべりを楽しんでいるようでいて、内心、相手のふとした言葉の奥にある大きな情報をつかもうとするのだ。それぞれのゼネラルマネージャーは各選手をどう評価しているのかが、トレードの成功に役立つ。駆け引きの構図としては株式売買と大差ない。よりよい情報を持っている者が優位に立てる。


    7 DIPSと「運」
    投手の成績データは、毎年安定しているものもある。与四球、被本塁打、奪三振あたりは、増減の波が小さいだろう。だが、被安打率はどうも変化が激しい。

    ここから大胆な仮説が導かれる。
    ①ホームラン以外のフェア打球は、ヒットになろうとなるまいと、投手には無関係なのではないか?
    ②いままで投手の責任とみられていた部分が、じつはただの運なのではないか?

    150年のあいだ、グラウンド内のフェアゾーンへ飛んだ打球(つまり、ファウルとホームラン以外の打球)が安打にならないようにするのは投手の能力だと評価されてきた。だが、ホームラン以外のフェアボールは、ヒットになろうとなるまいと、投手の責任ではない。これが「DIPS(守備的要因を除く投手力数値)」の誕生のきっかけだった。


    8 データ野球の果てに
    毎年、ビリー・ビーンひきいるアスレチックスがプレーオフ進出を決めると、ふたつの事態が進行し始める。第一に、ごく一部のスタッフが新聞の力を利用して、待遇の改善をそれとなく求める。もう一つ、プレーオフ進出決定後にいつも始まるのが、コーチ、選手、報道陣がいっせいに、バントも盗塁もしないという基本方針について不満の声を挙げることだ。足が遅い遷手までが、ポストシーズンでは「積極的に仕掛けていくべきだ」「流れを自分たちで作っていく必要がある」と言い始める。盗塁必要論の再燃、とビリーは呼ぶ。
    アスレチックスがポストシーズンで負けると、誰も彼も盗塁のせいにし、「得点を作り出そうとしない」と批判の声を上げる。しかし、実際はレギュラーシーズン中の平均得点4.9点よりも、プレーオフ5試合の平均得点5.5点のほうが高い。真の敗因はその逆で、シーズン中の失点が一試合平均4.0だったのに対し、プレーオフでは5.4点取られたことにある。
    5試合しかしないプレーオフはシーズンよりも格段に運の要素が強いため、最後の最後でツキがないと、「科学頼みの野球なんてやっぱり無意味」と批判されてしまうのだ。

    ビリーの心にはひとつの不安があった。いつの日か、ポールとふたりでさらに効果的な方法を見つけて少ない資金で輝かしい球団を生み出すかもしれない。が、ワールドシリーズの優勝記念指輪をひとつかふたつ持ち帰らないかぎり、誰も気にかけてくれないだろう。そしてもし優勝できたとしても、たった一時もてはやされ、やがて忘れられる。たとえほんの一瞬でも、自分が正しくて世界が間違っていたのだということは、誰にも理解してもらえない……。

    しかし、一見奇妙なかたちをしたアイデアの数々は、アスレチックスの選手を着実に成長させているのだ。

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    2022年10月23日
  • 〈脳と文明〉の暗号 言語と音楽、驚異の起源

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    言葉を理解するということは脳の進化によるもの。基本的には生活音を聞き取る能力が発達したもの。それは音楽を聴くことも同じで、元を正せば生活音のリズムを聴いていること。言葉を聞いて理解できることを何も不思議に思わずに生活してきていたので、脳の神秘さを理解するとともに、まだ脳は進化の過程なんだろうなと思う。

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    2021年05月03日