あらすじ
1990年代末、オークランド・アスレチックスは資金不足から戦力が低下し、成績も沈滞していた。新任ゼネラルマネジャーのビリー・ビーンは、かつて将来を嘱望されながら夢破れてグラウンドを去った元選手。彼は統計データを用いた野球界の常識を覆す手法で球団改革を実行。チームを強豪へと変えていく――
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資金力の乏しいメジャーリーグ球団であるアスレチックスのチーム作りを扱ったノンフィクション。
結局はアービトラージを狙う手法なので、ここに書かれてしまうとその効力はなくなってしまうだろうが、それまでの伝統的な手法、誰もが当たり前と疑わない勘と経験の世界に新しい科学的な方法を持ち込むことで成功を得ることができるというのは示唆に富む話だった。
そういう話も面白かったが、データ自体に意味があるものかどうかという視点は目から鱗だった。中でも、守備のデータは信頼性がない、つまり、エラーという人の判断が入るデータは、最初から諦めてしまえばエラーにならずヒットとなるし、役に立たないという話はなるほど、と唸らされた。
野球好きだけでなく、データ分析に興味がある人は読むべき。
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夢中になって数日で読み終えてしまった。
同作品を以前映画で観たことがあり、映画ではビリー・ビーンの活躍がフィーチャーされている印象があったが、本書ではビーンの話は代表的な話だが全体から見れば一部、という印象を受けた。
ビリー・ビーンの考え方の大半は、今となっては常識的なものだが、当時それを実践するのかがいかに困難だったかが本作品によってよくわかる。
色々な読み方があると思うが、世の中で当たり前だと思われていることについて、それがいかに当たり前でないかに気づくことができる一冊だと思う。
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面白かった
データに着目し、安い契約金で、資本力のあるチームに勝っていく
そんなゼネラルマネージャーに見出され
人生が変わる選手たちの物語も面白い
何よりそんなビリー・ビーンも
それが独創ではないというのが示唆的だ
痛快だし、読む人によって何らかのメッセージを受け取る本だと思う
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野球に興味がない私でも、心から楽しめました。
というのも、題材は野球ですがビジネスのほぼ全てに通ずる経営の話だからです。
老害や、作中で『社交クラブ』と表現している存在には、私も日頃から本当にうんざりしているのです。
どんな世界のどんな国にもクソな輩が居て、そいつらを良しとしない著者の思いに、私も貢献したい。
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面白い。野球を従来ない方法で分解しそのデータを活用しやすい選手でカネをかけずに勝っていく。
カネがなくても知恵とアイデアで勝つことができることを知らしめてくれて、弱者の戦い方、カネのない者の戦い方として、この考え方は野球やスポーツだけでなくマーケティングなどビジネスでも大いに活用できる。
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野球と統計と経営のどれか一つでも興味があれば、楽しく読める。三つともならば、ハマること間違いなし。いやあ、いい本を読めたなあ。
この本を褒める文章はいろんなところで目にしていたので、いつかは読まないとと思っていた。発行からはだいぶ遅れたけど、今でも十分新しい気がする。(野球におけるデータ重視の度合いは、この本のおかげもあってか、相当進歩してると思う。)
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野球の見方だけでなく、慣習やしきたり、固定観念に対する意識が変わる一冊でした。
主人公のビリーは、それまでの野球界の常識とは異なる客観的な数字による尺度を用いて選手を評価し、乏しい資金の中で常勝チームを作り上げます。
球界だけではありません。
我々の身の回りにも慣習や、「伝統」という名の固定観念が溢れています。
最適解を求めようとしているのに、その判断基準はとても曖昧で、「慣習」からはみ出さないことを大切にして、いつの間にか最適から大きく外れたところに着地している。
慣習や伝統を見つめ直し、新たな常識を受け入れるのはとても難しいことです。
でも、変化の激しい昨今、その勇気が必要なのだとはたと気付かされました。
この本は、野球の本ではなく、ビジネス書として捉えても有益な一冊ではないかと思います。
Posted by ブクログ
・不遇な選手を偏見から解き放って、真の実力を示す機会を与えた
・人間社会における理性の可能性-と限界-を如実に表す縮図
・神々は、破滅させたい人間をまず「前途有望」と名づける。
・力まかせの剛速球ではなく、打者をあざむくテクニックにある。
・スカウトはつい、必要以上に自己経験と照らし合わせて考えようとする。
・自分の体験こそ典型的な体験だと思いがちだが、実際はそうでもない。
・心の奥深くにあるカジノで、賭け金を減らし始めた。
・いままで起こっていないことは、今後も起こらない。うまく対応できなかった事柄があるなら、そもそも対応能力がなかったのだ
・結果につながらない才能なんて、才能とは呼べない。
・うやむやになっている問題点に光を当てて、新しい明かりをともす。
・主役は解釈なのだ。地球上の出来事をほんの少しでも把握可能にするような解釈。
・従来の固定観念を打ち壊せば、いままでよりはるかに効率よく物事を進められる、と。
・異端とはチャンスを意味する。
・結果じゃなくて、過程を見ているんです
・世間では、過程より結果によって判断を下す人が多いみたいですけどね
・そういう意味じゃありません。うちの選手がどう対処しようとしているかを見ているわけです。
・教え込むことも可能だが、おしめをはかせてやらないといけない
変わる勇気がなければ状況は改善しない、ビリービーンの考え方は、大いに参考になることが多かった。私にとって珠玉の言葉がたくさんありました。映画、見たくなる一冊でした。面白かったです。
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セイバーメトリクスの古典としてリスペクトされる本書ですが、「マネー・ボール」なのであって「データ・ボール」ではありません。債券トレーダー出身のマイケル・ルイスはおそらく、割高な選手を売却して割安な選手を購入し、最安値のポートフォリオで最高の成果を出そうとするビリー・ビーンの姿にこそ興味を持ったのではないか、と思われます。
その割高・割安を弾き出す手段がデータ分析。債券の世界には価格を理論的に算出するモデルがあるが野球人には勘と目利きしかない。そこでビリー・ビーンのアスレチックスはオタク通信に過ぎなかったビル・ジェイムスの知見を掘り起こし、大卒アナリストに託した。そこからセイバーメトリクスというビジネスが立ち上がり、現在に繋がっていく。
今や、出塁率は打率より得点との相関が高いとか、単純なインサイトだけで勝つことはできない。
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マネーボールという映画になった本のことは、
何年も前から知っていました。
改めて、LearnBetterを読んでいて興味を惹かれて読んでみました。
この本は、ブラッドピッドが映画にしたことからも多くの方がご存知の通り、
メジャーリーグ球団をテーマにした
球団経営を巡るテーマが主眼です。
けれども、巻末の解説にあるとおり、
もっと大きなテーマとして、
既存の考え方に捉われるな!
という大きな問題提起をしていることから
米日英など世界各国で読まれた作品になりました。
経済でも、社会でも、既存のやり方を変えられずに、
停滞が続く世界が多数存在しますが、
それを打破するために必要なやり方は、
それを変えるための仮説を持って、それを実証し、
さらに世の中にあったやり方に繰り返し変えていくこと。
他人の力に頼らず、自らの手によって。
このことをこのノンフィクションは教えてくれました。
ビジョナリーカンパニーや、
イノベーションのジレンマなど、
優れたビジネス書は多くありますが、
人間の心理面にまで深く根ざした組織論を展開する
本は決して多くないと思います。
そういう意味で、日の当たらなかったプロ野球選手に
スポットを当てつつ、貧乏球団の快進撃を記した
この著書は一読に値するビジネス書なのではないでしょうか。
子どもの教育について考えるにも、
決して悪くない客観的視点を学べる一冊だと思います。
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読書好きの友人に貸してもらった本。
2000年代、アスレチックスが20勝した時の話は胸がワクワク。そのためにアスレチックスは何をしたのか?!というお話ですな。
今ではもう一般的なのか?統計学による選手の切り売り。出塁率がとても大切らしい。大好きな阪神のバッターは2025年7月19日現在、セリーグ出塁率の10位以内に5人が入ってます。強いもんねー!
ミーハーファンとしては、新たな野球の一面を知れた気持ち!おもしろかった!
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積読本は、ある日唐突に読むタイミングが訪れるのかもしれません。今回の積読本消化着手のきっかけは、9/27の報道【MLBア・リーグ西地区のアスレチックスが、本拠地オークランド・コロシアムでのラストゲームに勝利し有終の美(ラスベガスへの本拠地移転が決定済み)】でした。
そうです。本書は、アスレチックスの復活物語だけでなく、メジャーリーグの常識を覆した真実の物語です。
選手からフロントに転身、アスレチックスのGMとなったビリー・ビーン。彼はデータ重視の運営論に、貧乏球団が勝つための突破口を見出し、熱い信念と挑戦する勇気が奇跡を起こします。
アスレチックスは、かつて9度の世界一に輝きながらも、浮き沈みを繰り返し、90年代以降に成績がまた低迷します。90年代末から2000年代前半、また復活を遂げる中身が、ズバリ本書の内容です。
メジャーリーグの歴史と進化の変遷も詳細に綴られながら、攻撃力の目安となる様々な指標づくり、予算、経営など、題材は野球なのですが、内容は緻密なビジネス書の観もある印象です。
人が観ていない部分に着目し深掘り・評価するという視点は、集団の先頭に立って経営する、人材育成する上で欠かせない条件になる気がします。
チームづくりに統計学を用いる視点は、当時としては革新的なアプローチだったんでしょうね。何よりも、資金が潤沢なチームが勝つとは限らないことを証明してくれています。
原作読んでも映画を観ない派を公言してますが、ブラッド・ピット主演の映画(2011年公開)を、ネット配信で観てしまいました。やはり原作ほどの深みはないものの、これはこれで楽しめました。
Posted by ブクログ
野球に統計や経営の概念を取り入れることの優位性。
既成概念に囚われないアプローチ。
新しいことに対するアレルギー反応に臆することなく、信念を持って取り組み、それに結果も伴っているわけで、今ではOPSという概念は日本での浸透度は高い。
今年は阪神の岡田監督が四球の査定を上げたことで、優勝するまでチームが変わったことは有名である。
勝つために足りていないと思うことをインセンティブで補ったわけであるが、我々一般企業ではどう考えれば良いのだろう。
個人商店ではないので、インセンティブとは?
インセンティブでのやる気は長続きするだろうか?
モチベーションとの相関性は?
色々と考えさせてくれた。良書である。
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野球にはあまり興味ないけど、非論理的な既成概念を科学的に壊そうとするっていう話は面白い。
古い考えの他のチームの野球関係者はビリー達の理論を認めないが、彼らが認めないおかげでアスレチックスは勝ち続ける事が出来るってのが皮肉が効いてて良かった。
ただ逆に言えば理論が正しいことが認められてしまうと、結局金がある方が勝つことになってしまうという悲しさも。
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※私が読んだのはランダムハウス講談社から出版されたものです。
野球好きの上司から、マネジメント的な要素もあるよ、とお借りした一冊。
映画を見たかったのに見逃しており、興味があったので読んでみました。
野球が好きなら、試合のシーンは情景が目に浮かぶのでそれだけでも楽しめると思います。
また、メジャーリーグのトレードを目の前で覗き見してるかのような、スピード間のある描写も楽しめました。
個人的にカタカナの名前を覚えるのが苦手で読み終えるまでに時間が必要でしたが読んで満足の一冊。映画も是非見てみたいです。
終盤にあった
「どの数字を金庫の中にしまい、どの数字をクズカゴに捨てるか。大切なのは数字を万物の神として奉ることではなく、数字に意味を持たせることだ。理論武装することだ。数字の奥にひそむ真実を読み解き、時には行間にまで思索のメスを入れる。それが賢者の振る舞いだ。」
のくだりは、野球チームのマネジメントだけでなく
普通のビジネスにも通ずるものがあると思い、勉強になりました。
野球界を描いたエンターテイメント作品と
ビジネス書としての要素を兼ね備えた一冊です。
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選手として成功しなくてもGMとしてはまた別ということ。人はどういう才能があるかわからない。客観的な立場から俯瞰し、コントロールできるかということ。指導者としてはシビアな評価はしていかないといけない。
小説としてではなく、マーケティングや経済学の視点からも楽しめた。既存の野球観を覆し、新たな視点を取り込んだのは面白かった。野球においていかにアウトにならないか、出塁率を重視し、犠打は無駄だという発想などがあった。運に左右される要素もあるが、勝つ確率は高められる。非合理的なものであっても科学が入り込む余地があるのではないかと感じた。
Posted by ブクログ
メジャーリーグにそれほど興味は無かったが楽しく読めた。
資金力が乏しいオークランド・アスレチックスが、少ない予算にもかかわらずなぜ年俸の高いチームと互角に渡りあうことができているのかに迫った野球ノンフィクション。
凝り固まった考えに支配されているメジャーリーグにおける選手を評価する基準や、定石と思われていた戦略、固定観念などとは正反対の戦略で、資金力の差を覆し勝利を重ねていくストーリーはとても読み応えがあった。
しかし球団運営の側から選手のトレードを見た時に、選手が商品のように売り買いされていく様子は残酷にも感じた。
Posted by ブクログ
野球がテーマだが、スポーツではなく数学者の本。
万年弱小チームをデータドリブンで改革し、全米制覇まで上り詰めた実話が基になっていて面白い。今の時代も同じで、既存領域×任意の科学技術で相性が良く、参入されてない領域に踏み込むことが今後のビジネスの鍵になりそう。
映画の方が早く観れるのでオススメ。
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プロとしての野球。勝つために何が必要か。
既成概念と異なるアプローチ方法で球団を運営する物語。
重点目標が「勝つため」である。
プロ野球である以上、「勝つ」以上に大切なものが
あるようにも思えるが、本書はとにかく「勝つ」ためである。
洋書とは思えないくらい翻訳が素晴らしく読みやすい。
セイバーメトリクスの考案者は
ホームセンターの警備員だったことが最大の驚き!
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この本を機にセイバーメトリクスについて興味が湧きました。映画ではアスレチックスの劇的な優勝に目が行きがちでしたが、本ではその真髄となる理論が詳しく書かれています。野球人は本の方がおススメです!
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★ビリー・ビーンは才能に恵まれていたが、性格が災いしメジャーリーガーとしては成功できなかった。しかしその後ゼネラルマネージャーとして大成功している。身体能力だけではダメで考え方が重要ということ、適性が大事ということがわかった。
★世間の常識を疑うこと。
★トレードのところ、そんなに赤裸々に書いて大丈夫かと心配になる。
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あらすじとしては、1990年代、メジャーリーグの選手の年俸は軒並み上がってきていたが、主人公ビリービーンがGMに就任したオークランドアスレチックスは所謂貧乏球団で、所属する地区でも最下位争いをするほどだった。しかし彼は今まで他の人達が見向きもしなかった色々な指標から選手を評価し、安く契約すると言った革新的な方法でチームを常勝球団へと導いて行く話だ。
この本を読んで、今までの常識にとらわれない柔軟な思考が新しい時代には必要であり、自分も固定観念に縛られずにこれからを生きていこうと思うようになった。
マイケルルイス著 講談社
本館3階東閲覧室(人文系)所蔵
請求記号783.7 Le
マッケン
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おなじみブラッド・ピット主演映画の原作となったノンフィクション。しかし実際のビリー・ビーンは193cmの巨漢で、手当たり次第に物に当たり散らす性格で、ぜんぜんブラピとは似ても似つかない。それでも原作を読んでから、映画をもう一度見たいと思えた。
映画は徹頭徹尾、ビリー・ビーンの物語だったが、こちらの原作ではセイバーメトリクス(野球においてデータを統計で客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える手法)の歴史などにも焦点が当てられており、その祖が最初に出した本は自費出版で200部ほどしか売れなかったといった秘話もおもしろい。
著者はビリー・ビーンのやり方を認めようとせずこきおろす球界の「社交クラブ」の面々を憎々しげに描写している。それでも日本人としては異端のセイバーメトリクスが草の根で少しずつ勢力を増し、ひとりのGMが採用して球界に旋風を巻き起こし、それが本や映画になって広まっていくアメリカの底力を感じずにはいられない。
Posted by ブクログ
この本は数字がいっぱいでてくるのに、縦書きの漢数字だから、パッと頭に入ってこなくて読むのに苦労した。
数字が多いの本は、横書きでアラビア数字にしてくれたらもっと読みやすいのに…と思った。
日本の野球界は、外部があまり入っていないイメージだし、メジャーより元野球選手の山勘と財力で回ってるいる世界なんじゃないかと思った。
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効率を重視すべきなのかどうかは世の中そうとも言い切れないと思うが、既存の常識を疑うこととかその疑いを実行に繋げる力が成功を呼び寄せるというのはそうだと思う。
Posted by ブクログ
【感想】
野球は実際の試合を観戦せずとも楽しむことができる。各選手を表す指標が一つ一つ細かく決められているため、その数字を検索するだけで満足してしまうほどだ。OPS、IsoD、IsoP、K/BB、WHIPなど、何が何を表しているのか見当もつかない略語が続々とならび、選手をさまざまな角度からデータ分析する。
こうした指標、つまりセイバーメトリクスを選手獲得の基礎情報として導入し、球団の運営方針を「データ主義」に転換した初の球団が、ビリー・ビーン率いるオークランド・アスレチックスであった。
もともと、球団はスカウトやGM、監督の直感によって運営されていた。
しかしながら、野球ほどデータを取れるスポーツは他にない。野球はプレーが断続的であるため、投手がどの球種をどのコースに投げ、打者がどう打ち、どこにボールが落ちたのかを事細かに記録できる。打率、長打率、出塁率、コンタクト率といった各種データを引っ張ってくることで、2人の選手を詳細に比較することもできる。しかも「プレーを見る必要もなく」客観的に測定できてしまうのだ。
ということは、この指標を上手く使えば、「どの行動が勝ちにつながるか」「どんな特徴を持った選手を集めれば勝てるチームを作れるか」をあぶり出すことができる。何故球団関係者は今までの古臭い評価方法を捨て去り、宝の山を活用しないのか、と思うかもしれない。(実際ビリーはそう思っていた)しかし、野球と野球人はそう簡単にはなびかない。このスポーツには「運」がついて回るからだ。
野球はデータのスポーツだが、それと同時に、とてつもなく運が絡むスポーツだ。守備位置からして、会心の当たりが野手の真正面に飛ぶように設計されている。芯を捕らえたライナーがアウトになることもあれば、タイミングを外されたボテボテの当たりが内野安打になることもしょっちゅうだ。本書ではホームラン以外のフェア打球がヒットになるかどうかは、投手の責任ではなく運だと論じているが、まさにその通りであり、その運の良さを表す指標は「BABIP」として数値化されている。(初めてこの指標を知った時は、「運なんて測定できるのかよ!」と度肝を抜かれた)
本書でも語られるとおり、打撃指標として重視されるのは出塁率と長打率であるが、これはフォアボールとホームランが野球で数少ない「運」を排除した進塁だからだ。運が密接に絡むスポーツにおいて、運の要素をできるだけ少なくし、確率の高い行動を積み上げることで勝ちを狙っていく。これがセイバー野球の戦い方である。
セイバーという新しい概念を取り入れたビリー・ビーンに対し、古参の野球人は多くの批判を寄せた。四球を選ぶよりも安打を打つ方が偉い、盗塁や送りバントによって積極的に選手をスコアリングポジションに進めるべきだ、打球を待つのではなく初球から積極的に振っていくべきだ、などなど、いきなり現れたよそ者に「お前に野球の何が分かる」と罵声を浴びせていく。そのたびビリーはデータという動かぬ証拠のもと、試合結果という形で反論していく。
ただ、悲しいことに、こうした批判をする人たちの気持ちも何となく分からないではない。
彼らは従来の野球の正しさを信じているのと同時に、「野球の美しさ」を守ろうとしている。熱いエネルギーと気迫に満ちたプレーこそが野球の神髄なのであり、統計学のように選手を確率の道具だと見なしていては、奥に潜む神聖な何かを見失ってしまうのではないか。野球をスポーツだけではなくエンターテイメントとして運営してきた人々は心からそう思っているわけだが、ビリーはそれについては「何言ってやがる、面白い野球とは勝つ野球なんだ、勝てない球団にファンなんてつくわけがねえ」と一蹴し、とにかく安く勝てる野球を追求していく。
そのため球団に貢献してきた優秀かつ高年俸な選手を積極的に売りに出し、安い外様をチームの中心に据えるのだが、もちろん、ファンからしてみれば納得はいかないだろう。ファンと球団は一種の家族関係で成り立っている。そうした無常なトレードをひっきりなしに行っていては、勝てる勝てないにかかわらず「面白くない」という心理がつきまとうのも、当然の結果なのではないだろうか。
本書はデータ野球を一から作り上げたビリーのお話であるとともに、従来の「野球論」と「新野球論」が攻防を繰り広げるお話でもある。もちろん、どちらを味わっても面白い。野球に詳しくない人も、「野球ってこんなに数字まみれのスポーツなのか」と見識を改めることができる良い本だと思う。是非手に取って、データ野球の面白さを味わってみてほしい。
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【まとめ】
1 選手をめぐるルール
メジャーリーグでは、ドラフト指名で獲得した新人選手を、その球団がマイナーで7年間、メジャーで6年間確保し続けることができる。しかもメジャーに入って最初の3年間は賃金調停ができないため、活躍した選手であろうとも相当安い値段で契約ができる。
また、FAにより主力選手を失ったチームには、ドラフト会議で優遇措置が取られ、FA移籍先のチームの1位指名権を奪い取ることができる。この結果、2002年のアスレチックスには7人を一位指名できる権利があった。
2 いい選手とは?
アスレチックスのゼネラルマネージャーであるビリー・ビーンが重視するのは出塁率だ。一方で、パワーがあるけど当たらない、今は芽が出ていないが改造すればいい選手になる、といった要素は嫌う。高校生よりも大学生(即戦力)を好むのもビリーの特徴だ。
足の速さ、守備のうまさ、身体能力の高さは、とかく過大評価されがちだ。しかし、野球選手としてだいじな要素のなかには、非常に注目すべきものとそうでないものがある。ストライクゾーンをコントロールできる能力こそが、じつは、将来成功する可能性と最もつながりが深い。そして、ストライクゾーンをあやつる術を身につけているかどうかの指標が四球の数なのだ。大学時代に選球眼がいい選手は、たいていプロに入っても選球眼がいい。また、打撃能力を評価する際は、打率よりも出塁率や1打席あたりの投球数が重要になってくる。
伝統を守りたがるスカウトたちは、ビリーやポールの流儀を実績重視型、と呼ぶ。スカウトの仲間内では軽蔑的なニュアンスの言葉だ。新人選手はあくまで心の眼で見て評価すべき、というのが旧来の野球人の常識だ。なのにビリーらは、野球選手のだいじな部分はほぼすべて、場合によっては性格までも、データのなかに見いだせると断言する。
アルダーソンがアスレチックスに浸透させた打撃の鉄則は次の3つだ。
①打者は全て、一番バッターの気構えで打席に入り、出塁を最大の目標とせよ。
②打者はすべて、ホームランを放つパワーを養え。本塁打の可能性が高ければ、相手ピッチャーが慎重になるので、四球が増え、出塁率が上がる。
③プロ野球選手になれるだけの天賦の才がある以上、打撃は肉体面より精神面に深くかかっていると心得よ。
ビリーは勝率と関係が深いデータとして、出塁率と長打率を取り上げていた。むしろ、重要なデータはこの2つしかないと断言している。この2つを足した数字は「OPS」と呼ばれる。
また、出塁率と長打率を比べたとき、「出塁率の方が長打率より3倍重要だ」と考えている。出塁率とはすなわち「アウトにならない確率」「スリーアウトにより攻撃が中断されない確率」にほかならず、以後、アスレチックのフロントは、出塁率に異常なほどこだわるようになった。
3 セイバーメトリクスの誕生
ビル・ジェイムズは野球をデータによって分析しようと試み、これを「セイバーメトリクス」と命名した。
当時、メジャーリーグの公式データは貧弱であり、野球のインプレーデータは球界の関連企業に独占されていた。ジェイムズは、内部関係者に頼らずにメジャーリーグを分析しようという計画をプロジェクト・スコアシートと名づけ、着手する。ほどなく、STATS社がこのプロジェクトに同調した。STATS社もかなりよく似た目標を持っていて、クレイマーいわく「野球の試合中に起こるおもな出米事をできるかぎり完壁に記録する」ことをめざしていた。
しかし、報酬をもらってプロチームの監督をやっている人間が、こういったデータの重要性を認識していなかった。科学的に分析するための情報を集めようとさえしない。STATS社がせっかくの情報を見せても、試しに無料で提供しても、ほとんど関心を示さなかった。
立ちはだかっていたのは、社会的、政治的な壁だった。いくら弱小球団とはいえ、プロ野球経験のないものが、監督やスカウトや選手をさしおいて、まったく新しい野球術を押しつけるわけにはいかない。
旧態依然とした野球チームの態度に見切りをつけたかのように、ジェイムズは自作のデータ集である『野球抄』の発行を辞めてしまう。それにようやく目をつけたのは、10年後、アスレチックスのゼネラルマネージャーに就任したビリー・ビーンであったのだ。
4 常識外れのドラフト戦略
2002年のドラフトで、他球団と全く違う基準で選手を測ったアスレチックスは、20人の指名候補選手のうち13人を獲得することに成功する。
アスレチックスの資金は4000万ドルだが、ヤンキースはその3倍の資金がある。元手がないからには、お買い得の選手、例えば無名の若い選手か、過小評価されているベテラン選手を狙わなければならない。この独自のドラフト戦略により、他球団と総年俸が大きく差がついている状態にも関わらず、2001年に102勝しプレーオフに進出している。
5 グラウンド全てをデータ化する
AVMシステムズ社――アスレチックスが選手評価のアルゴリズムを作る際に真似をした会社――は、球場におけるすべての出来事を数値化する企業だった。打点やセーブといった、状況に付随するデータを無視したのはもちろんのこと、従来方式の記録はいっさい使わなかった。AVMのコンピューター内部には、ひとつの試合が膨大な派生状況の集合体というかたちで登録され、現実世界とはくらべものにならないほど的確な、別次元の選手評価が可能になった。
仮に、軌道Xで速力Yのライナーが地点九六八に落下したとしよう。過去10年のデータと照合すると、ほぼ同じ打球が8,642例ある。うち92パーセントが二塁打、4パーセントが単打、4パーセントが捕球されてアウトだった。打つ前は得点期待値が0.50の場面だったと仮定する。実際にはまだ何も起きていないうちから、打者には得点の可能性が0.50、投手には失点の可能性が0.50あったわけだ。ここで先ほどの打球が飛んで、ジョニー・デイモンがお得意のジャンピングキャッチでみごとに捕球したとする。デイモンは0.50を0に抑え込んで、チームに貢献したことになる。このように、打撃や捕球がどんな意義を持つかは、場面に応じて客観的に決まる。過去10年の平均と比較してどのぐらい良かったか悪かったかで、各プレーの価値を判定できるというわけだ。
6 トレード戦線
資金の乏しいアスレチックスがなぜこんなに勝ち続けるのか、その理由の一端は、シーズン途中の巧みな戦力補強にある。成績不振の球団が望みを捨て、コストを削減したくなり、選手を売りに出す。供給がだぶつき、値段が下がり、いい選手がお買い得になる。そのときアスレチックスはじたばたと電話をかけまくり、ありとあらゆる提案をして、トレードを実現させようとする。“流し釣り作戦、とビリーは呼んでいるが、つまりほかのゼネラルマネージャーと何げないおしゃべりを楽しんでいるようでいて、内心、相手のふとした言葉の奥にある大きな情報をつかもうとするのだ。それぞれのゼネラルマネージャーは各選手をどう評価しているのかが、トレードの成功に役立つ。駆け引きの構図としては株式売買と大差ない。よりよい情報を持っている者が優位に立てる。
7 DIPSと「運」
投手の成績データは、毎年安定しているものもある。与四球、被本塁打、奪三振あたりは、増減の波が小さいだろう。だが、被安打率はどうも変化が激しい。
ここから大胆な仮説が導かれる。
①ホームラン以外のフェア打球は、ヒットになろうとなるまいと、投手には無関係なのではないか?
②いままで投手の責任とみられていた部分が、じつはただの運なのではないか?
150年のあいだ、グラウンド内のフェアゾーンへ飛んだ打球(つまり、ファウルとホームラン以外の打球)が安打にならないようにするのは投手の能力だと評価されてきた。だが、ホームラン以外のフェアボールは、ヒットになろうとなるまいと、投手の責任ではない。これが「DIPS(守備的要因を除く投手力数値)」の誕生のきっかけだった。
8 データ野球の果てに
毎年、ビリー・ビーンひきいるアスレチックスがプレーオフ進出を決めると、ふたつの事態が進行し始める。第一に、ごく一部のスタッフが新聞の力を利用して、待遇の改善をそれとなく求める。もう一つ、プレーオフ進出決定後にいつも始まるのが、コーチ、選手、報道陣がいっせいに、バントも盗塁もしないという基本方針について不満の声を挙げることだ。足が遅い遷手までが、ポストシーズンでは「積極的に仕掛けていくべきだ」「流れを自分たちで作っていく必要がある」と言い始める。盗塁必要論の再燃、とビリーは呼ぶ。
アスレチックスがポストシーズンで負けると、誰も彼も盗塁のせいにし、「得点を作り出そうとしない」と批判の声を上げる。しかし、実際はレギュラーシーズン中の平均得点4.9点よりも、プレーオフ5試合の平均得点5.5点のほうが高い。真の敗因はその逆で、シーズン中の失点が一試合平均4.0だったのに対し、プレーオフでは5.4点取られたことにある。
5試合しかしないプレーオフはシーズンよりも格段に運の要素が強いため、最後の最後でツキがないと、「科学頼みの野球なんてやっぱり無意味」と批判されてしまうのだ。
ビリーの心にはひとつの不安があった。いつの日か、ポールとふたりでさらに効果的な方法を見つけて少ない資金で輝かしい球団を生み出すかもしれない。が、ワールドシリーズの優勝記念指輪をひとつかふたつ持ち帰らないかぎり、誰も気にかけてくれないだろう。そしてもし優勝できたとしても、たった一時もてはやされ、やがて忘れられる。たとえほんの一瞬でも、自分が正しくて世界が間違っていたのだということは、誰にも理解してもらえない……。
しかし、一見奇妙なかたちをしたアイデアの数々は、アスレチックスの選手を着実に成長させているのだ。
Posted by ブクログ
金にものをいわせて有望と思われる選手を獲得する球団に対し、選手を科学的に分析して長所を探り出し適材適所に使用するアスレチックスに焦点を合わせた内容。
独自の視点(目的)を持って分析する重要性を理解できた。
Posted by ブクログ
科学的考え方で球団運営を行い、弱小チームを強化した GM の話。
あと、大リーグ界隈の統計データを理解せず、事実を事実としてとらえられない人達の愚かさもよくわかります。
(特に出版後日談に出てくる人物たちの愚かしいことよ。)
日本の球団なんかも、ちゃんとこの本を読んで参考にすべきだと思いますね。できれば、高校野球の指導者あたりにも読ませたい感じ。
それはそれとして、選手のエピソード 2 つがとても良かったですね。
フィールド・オブ・ドリームスとか、川原の野球ものでみることのできるような幸福感が最高。(^^
Posted by ブクログ
慣習や直感の世界にデータで勝負を挑む野球チームの話.
資金繰りに苦労するあるプロ野球チームが思い込みではなく現実(それを示すデータ)に目を向け,仮説検証をすることでチームの勝利に本当に必要な選手や作戦を独自に見出し,実際に実践することでその強さを示していく話.
主観ではなく客観である分野に挑む姿勢は当然野球以外でも見習える.
物語としての面白さもあるが,要旨だけを掴もうと思ったら少し冗長かも.
Posted by ブクログ
独自の統計データに着目し、低予算でオークランド・アスレチックスを常勝集団へと変えたゼネラルマネジャー、ビリー・ビーンが主人公。ビリーの球団運営方針の原点は、ビル・ジェイムズが70年代から80年代にかけて自主出版した書籍「野球抄」に遡る。ジェイムズは野球のデータ研究を、SABR「アメリカ野球研究協会の略称」からセイバーメトリックスと命名した。
セイバーメトリックスの専門家ピート・バーマーの計算では、選手の技能の違いによって生じる得点差よりも、運の違いによって生じる得点差は4倍。短期決戦だと、つきの要素のほうが大きい。ポストシーズンを勝ち抜くことがいかに大変なのかを示唆しており、今年のCSの結果で落ち込んでいたが多少溜飲が下がった。