小林登志子のレビュー一覧
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シュメル人とは、古代メソポタミア文明の最古の時代(前3500頃~2000頃)に存在した民族系統不詳の人々である。その言語、シュメル語は孤立した言語と見られ、前二千年紀には話者のいない死語になっている。
彼らの使っていた言語は、歴史の教科書に出てくるような、粘土板に刻まれた楔形文字で書き表された。シュメル語は完全に解読されており、古代の人々が紡いできた物語もそこから読み取ることができる。
その中の「シュメル神話」は、オリエントの神話や旧約聖書にも影響を与えている。「ギルガメシュ(ビルガメシュ)叙事詩」や大洪水伝説などがその代表である。
本書では、そうしたシュメル神話の歴史的背景と合わせて、神話自体の内容も紹介する。
神話は「詩」の体裁であり、数行が少しずつ内容の異なる繰り返しの語句からなる「重複文形式」となっている。これは口承文学であり、「朗誦」を前提としているためである。聞き手の耳に心地よく響き、物語の世界にいざなう効果があるのだろう。例えばこういった調子である。
古(いにしえ)の日々に、古の日々に、天と地がつくられたときに、
古の夜々に、古の夜々に、天と地がつくられたときに、
古の年々に、古の年々に、運命が定められたときに、
シュメルの神々が生まれ、女神たちが娶られ、女神たちは天と地に分けられた。
全体として非常に興味深く読んだ。
「ノアの洪水」につながるような大洪水伝説は、なるほどメソポタミアの湿地帯で生まれたものとすれば理解しやすい。
シュメル神話では、人間は神の代わりに働く存在として、粘土から作られている。シュメル人は粘土からレンガを作って建物を建て、粘土板に文字を刻んだ。シュメル地方には石材も木材も鉱物資源もなかった。どこにでもある粘土を使うという発想はごく自然なものだったのだろう。
おもしろい概念に「メ」というものがある。神々が定めた掟であり、守るべき規範なのだが、一方で、宝冠や衣装のように身に着けたり、玉座のように座ったり、また持ち運んだりもできるものだったという。
通常は、神の中でも位の高い全知全能の神エンキが所有している数々の「メ」。ある時、エンキの元を、娘の神イナンナが訪れ、酒宴となる。ご機嫌になったエンキは次から次へとイナンナに「メ」を与えてしまう。英雄的精神、強気心、邪気、正直、都市略奪、哀歌詠唱、歓喜の心、反逆地、和平状態、家具づくりなどの手仕事、理解力、荘重なる沈黙、などなど(何だか脈絡がないのだが、そこは口承文学というところである)。たくさんの「メ」を持ってイナンナは意気揚々と帰っていく。酔いが醒めたエンキは顔面蒼白である。取り戻さねばと慌ててイナンナを追いかけさせるのだが、さて、ことの顛末やいかに。
このイナンナ女神でもう1つおもしろいのは、「イナンナ女神の冥界下り」と呼ばれる物語である。
イナンナはある時、冥界に興味を持ち、行ってみようと思い立つ。神殿を捨て、女神にふさわしい7つの「メ」を身にまとって出かける。冥界の女神、エレシュキガルによって殺されるかもしれないことを恐れ、従神のニンシュブル女神に「帰ってこなかったらほかの神に助けを求めるように」と言い置いていく。
冥界の7つの大門を通るたび、イナンナの「メ」は剥ぎ取られる。最後の門をくぐったときには全裸となってしまった。女神エレシュキガルは玉座からイナンナに「死の眼差し」を向け、イナンナは死骸となって鉤に吊るされてしまう。
イナンナが戻らないため、従神は神々に助けを求める。どうにか帰れたイナンナだが、これは条件付き。誰か身代わりが必要なのだ。自分に身近なものを身代わりに冥界に送ろうとするイナンナだが、誰もかれもイナンナの死を悼んでいて、身代わりにするには忍びない。ところが、イナンナの夫が死を悲しむことなくきらびやかに着飾っているのを見つけてしまい、イナンナは激怒する。こいつを身代わりにしよう!と思うのだが、果たして。
冥界行きの神話はさまざまあるが、これは古い形の1つなのだろう。いずれにしても一度行くとおいそれとは帰ってはこられないのが冥界である。なかなかおもしろい。
シュメルの都市はその後、崩壊する。これを描くような神話もある。
神々の取り決めで、都市の滅亡が決まる。都市の王たちは敗北し、人々は町から追われる。都市も城壁も瓦礫となる。神々はそれまで守護していた都市の滅亡を目の当たりにし、大声で嘆き悲しむ。しかし、一方で、新たに来た人々が都市を再建するのを見守ってゆくことになる。
王朝は代替わりするが、都市は死なないのだ。
1つの民族が滅びれば、神話も変わりそうなところだが、シュメル神話はシュメル人以後の人々にも語り伝えられており、学校で教えられた記録もある。敗者の神話は、ある種、哀愁をたたえながら鑑賞されていたものだろうか。
物語としても強い力を持つ神話群。さまざまに形を変えながら、長い年月を生き延びていくことになる。
*イナンナ、アッカド語ではイシュタルで、アガサ・クリスティの『ミス・マープルと13の謎』の「アシュタルテの祠」に出てくるアシュタルテの別名ですね。シュメル神話やそれに関連する物語は、欧州圏では比較的なじみ深いものなのでしょうか。 -
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1400年に及ぶアッシリアの歴史を、
豊富な史料と多くの画像、図絵、地図等を添えて、
文化や軍事、交易、それに帝国へ至り滅亡するまでを、
多角的に解説し、解き明かしてゆく。
・カラー口絵4ページ ・はじめに
・アッシリア王名一覧表 ・本書関連略年表
序章 アッシリア学事始め
第一章 「アッシリア」の三角と「ハブル三角」
第二章 アナトリアへおもむいたアッシュル商人
第三章 シャムシ・アダド一世無双
第四章 属国にされたアッシリア王国
第五章 領域国家アッシリア王国への転換
第六章 アッシュル・ナツィルバル二世カルフ市に都す
第七章 強制移住政策を推進したティグラト・ピレセル三世
第八章 センナケリブ、エサルハドン、
およびアッシュル・バニパル三代
終章 アッシリア帝国の滅亡とその後
・あとがき 主要参考文献 ・図版引用文献一覧
・アッシリア史略年表 ・索引
発掘された多くの碑文・石板・粘土板の文書・
印章・壁画等に遺るアッシリアの歴史。
それらの史料から、その歴史の変遷を辿る。
古アッシリア時代の都市国家アッシュル市。
川と地の利による豊かな農業国。加えて重要な鉱物資源。
交易に必要な交通の要衝。活動拠点にカーレムを設け、
交易を行うアッシュル商人たち。商業立国としての姿も。
シュメル・アッカド王朝の支配下だったが、エラム王国の
攻撃でアッカド王朝は滅亡。アッシュルは独立。
王権簒奪者シャムシ・アダド一世の行政と軍事の手腕で、
上メソポタミア王国と成る。が、彼の死後の混乱で崩壊。
バビロンのハンムラビ王によりアッシュル市は属国に。
中アッシリア時代は様々な国の属国となるが、
ミタンニ王国の滅亡から独立を回復、領域国家アッシリア王国に。
中興の祖アッシュル・ウバリト一世やトゥクルティ・ニヌルタ
一世などの手腕により上メソポタミア王国での地を回復し、
更なる軍事侵攻で支配権を拡大する。
だが王の暗殺での混乱により弱体化。再度版図の拡大あれど、
アラム人の侵入や大飢饉で衰退する。
鉄器時代に入った新アッシリア時代はアッシリア帝国の道。
アッシュル・ナツィルバル二世、ティグラト・ピレセル三世、
サルゴン二世などの軍事侵攻と国制強化で版図の拡大。
そしてエジプト全土を占領するまでに。
大規模な文書収集を行ったアッシュル・バニパルの世は、
帝国の最盛期となったが、その末期からは彼の死が
不明なほどに内情は混乱し、新バビロニア王国とメディア王国の
攻撃を受け、数十年後にはアッシリアは滅亡する。
歴史の変遷の流れの中に、アッシリアの王政、行政と行政州、
法制、外交、交易、軍事、水利事業、建築、文化、
信仰と儀礼などが簡潔に分かり易く説明されてもいます。
更にアッシリアの発掘や滅亡後までが書かれているのも良い。
しかしまだ、アッシュル市など、未発掘な場所があること。
これからも多くの発見があるかもしれません。
願わくば、古代から戦乱に巻き込まれてきた地に平穏が
訪れて、発掘調査ができますように。 -
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本文もわかりやすくて明快な文章が素晴らしいが、あとがきを読んで更に著者が好きになってしまった。
よくあとがきの締めくくりは「〜年 春」などと書かれるが、本書の場合は「無敗のコントレイルがダービー馬になった年(二◯二◯年)」である。これ上手すぎて笑っちゃった。古代メソポタミアの風習と、あとがきの慣習をどっちもメタったジョーク。アツい。とはいえ、2020年の1番良かったできごとがコントレイルっていうのは、やっぱりちょっと悲しいね。東京オリンピックがあった年、にはならなかったわけで。
高校世界史でもよく取り上げられる王朝や王の流れをわかりやすく書いているから、スマホのメモ帳に適宜メモを取りながら読んだ。
写真や地図も豊富に掲載されているから、飽きずに読める。古代メソポタミア、さいこ〜!!! -
Posted by ブクログ
紀元前3500年から500年までのメソポタミア、アッシリア・アッカド・バビロニア地域の歴史。中国の歴史を上回る民族と地域の動乱。ユーフラテス河領域には紀元前4000年頃からシュメル人が都市を作り、紀元前1800年ごろバビロンができた。ウルクが中心都市となる、ウルク古拙文字が楔形文字の前身として生まれる。またギルガメシュ叙事詩が書かれた。
都市国家群を統一したのがサルゴン率いるアッカド王朝で、その後しゅメル人のウル王朝が引き継ぐ。
その後は、北部のアッシリアと南部のバビロニアのメソポタミア地域の覇権争いが起こる。ハムラビ王もここで出てくるが、アッシリアのシャムシ・アダド一世はそれを超えるゆう雨力な王だった。
それぞれが西部のアナトリアやエジプトとも交易、侵攻をおこなり広域化が進む。
最終的にはヒッタイト、ササン朝ペルシアに滅ぼされることになり、その後はアラブが席巻し、メソポタミア国家がグローバルな覇権争いには絡まなくなる。 -
Posted by ブクログ
ギリシア、北欧などの神々やキリスト教やイスラム教、ヒンズー教の神などについては時々目にするが、古代オリエントの神々についてはよく知らなかったので、とても面白かった。
絵本で読んだギルガメッシュ王も実は、冥界の神だと知って驚いた。神仏習合は日本で顕著なのかと思っていたが、世界各地で行われていたことも知り、興味深かった。
昔の人々は大地や海を女神と考えることが多いと感じた。何かを生み出すという概念と、子どもを産む女性との連想が各地で共通であることも面白い。
古代オリエントについては、今では紛争地帯となってしまい、貴重な資料が次々となくなってしまっていることに暗澹たる思いがする。この状況を変えて少しでも人類の民俗的学問が進んでいくことをねがう。 -
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単なる神々の紹介にとどまらず、オリエントの人々が神々とどのように関わっていたのか、後の宗教にどのような影響を与えたのなど多岐にわたる内容で非常に面白く、あっという間に読み終わってしまった。ところどころ横道にそれるが、全く無関係な話ではなく、むしろオリエント文化の奥行きを感じさせるものであった。特に「ブランコに乗る女性小像」から始まるブランコの話は面白かった。ブランコはもともと豊穣儀礼であり、インドからオリエント、日本を含めた多くの地域へ豊穣儀礼として伝播したとのこと。基本的に横道に逸れるのは好きではないが、このように主題の奥行きを感じさせたり、深い関連を示すものであれば歓迎である。
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Posted by ブクログ
ネタバレ[ 内容 ]
いまから五千年前にティグリス、ユーフラテス河畔に栄えた人類最古の都市文明シュメル。
粘土板には多くの神話が残され、ギルガメシュ叙事詩や大洪水伝説など、後世に伝えられたものも多い。
これらの神話の世界では、酔っ払う大神、死後の国を覗こうとする女神、蛮族を征服する王、怪獣など、様々なキャラクターがいきいきと活躍している。
代表的な神話のストーリーを紹介し、神神の役割や性格、舞台背景などを詳説する。
[ 目次 ]
序章 粘土板に書かれた物語―シュメル神話の基礎知識
第1章 「創世神話」―人間はなぜ創造されたか
第2章 神々が送る大洪水の物語―伝説はシュメルにはじまる
第3章 「楽園神話」と農耕牧畜比較論
第4章 シュメル世界の規範「メ」と神々の聖船
第5章 エンリル神とニンリル女神の性的ゲーム―成人向け神話
第6章 大地母神と死んで復活する神―イナンナ女神冥界降下顛末記
第7章 大王エンメルカルと「小さな王」ルガルバンダ
第8章 『ギルガメシュ叙事詩』成立縁起―ビルガメシュ神の英雄譚
第9章 王による王のための神話―英雄神の怪物退治
終章 大河のほとりで―シュメル人国家の終焉とその後の伝承
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]