EU離脱問題を巡って英国が揺れています。メイ首相がEU側とまとめた離脱合意案は先月、下院で歴史的大差で否決されました。来月末の「合意なき離脱」が現実のものとなる可能性が高まり、どのような影響が生じるのか誰も予測がつきません。
本書は、イギリスの歴史を議会と王権の関わりを中心に論じた概説書。下巻はエリザベス1世の死去、ジェームズ1世の即位から、21世紀初頭のキャメロン政権成立まで。
私たち日本人からは、彼の国は同じ島国、アングロサクソンで大陸諸国とは一定の距離を置くジェントルマンの国、といった印象しかありませんが、本書を読むとその内実は様々な対立を抱えていたことがわかります。
一つ目は宗教上の対立。長らく英国国教会が国の宗教として位置づけられ、カトリックは認められていない中、17世紀初頭のヨーク公(後のジェームズ2世)がカトリック教徒だったことから、国王擁護派と反国王派の対立が激化。イングランド史上最初の政党、トーリとホイッグ登場の背景になりました。カトリック教徒は長らく公職に就くことができず、解消されたのはようやく18世紀後半になってからでした。
次に、アイルランド問題。グレートブリテンを構成するイングランド、スコットランド、ウェールズと比べて、アイルランドは自治が制限され、経済的にも劣位に置かれていました。そうしたことが背景にあって1845年に飢饉が発生。人口は820万人から19世紀末に440万人まで落ち込みます。100万人が餓死し、20世紀半ばまでに400万人が英国本島、北アメリカやオーストラリアに移住。その後も独立を主張する武装集団IRAのテロに悩まされ続けるなど、アイルランドの自治権付与は歴代政権にとって最大の問題であり続けました。
最後に国内の身分制度。人口のわずか5%のジェントルマン階級(地主貴族)がその他95%を支配する構造が長らく続いていました。が、第一次大戦がその構造を破壊します。大戦勃発後、騎士道精神に基づく「ノーブレス・オブリージュ(高貴なる者の責務)」から戦場に駆け付けた地主階級の若者の大半が犠牲になりました。1914年だけで彼らの19%が戦死するなど、将来の指導者層が大きな打撃を被ったことで、貴族階級と庶民の対立が政治上の課題となり、第二次大戦後の労働党政権につながっていきます。
これほどまで社会的対立を抱えながら、大英帝国を築き上げパックスブリタニカを実現できたことのほうが不思議なくらい。
英国の衰退はもちろん重要な研究テーマですが、多くの課題を抱えながら成功した要因は何かもそれに劣らず重要なテーマだと思います。
本書ではそこまで触れられていないので星は3つ。EU離脱問題を注視しつつ、他書で彼の国の来し方行く末を探りたいと思います。