君塚直隆のレビュー一覧
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19世紀後半のイギリス史は保守党と自由党の政権争い、アイルランド問題に選挙法改正、帝国主義と覇権主義とが複雑に絡み合い非常にわかりづらい時代でもあります。それを理解しやすくするためには一本の基軸を用意するのが重要なのですが、その軸となりうるのが同時代を統治し続けたヴィクトリア女王であることは間違いないでしょう。また、彼女を基軸とすることによってそれまで教科書で語られてきたようなイギリス史に別の視点からアプローチされることとなり、新たな一面を見せてくれます。例えば教科書では帝国主義的な保守党のディズレーリ内閣と自由主義的な自由党のグラッドストン内閣という構図が、ヨーロッパの勢力均衡を図り安定と平和へと向かわせるディズレーリと不干渉主義でヨーロッパの安定を崩しまた大英帝国を衰退へと向かわせるグラッドストンというヴィクトリア女王からの視点が見えてきます(もちろん彼らへの評価はどちらが正しいというわけでもなく、人により時代により見方が変わるのは言うまでもありませんが)。また本書では、60年以上もの統治期間により培われた「外交家」ヴィクトリア、ヨーロッパ王室の「名付け親(ゴッドマザー)」としてのヴィクトリア、母として妻としてのヴィクトリアから、彼女の(当たり前だが)決して完璧ではない人間性を見ることができます。大英帝国最盛期の女王として君臨してきたヴィクトリア女王、彼女の決して理想化されていない素の姿とその時代の流れを見ていく上で非常に有意な本だと思います。
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『君主制とはなんだろうか』を読みながら感じたのは、君主制とは単なる「王様のいる政治」ではなく、人類がどのように秩序を作り、維持しようとしてきたかの歴史そのものだということだった。
序盤では、王はただ贅沢をする存在ではなく、外敵から共同体を守り、豊穣を祈り、法によって争いを裁くなど、共同体の生存を支える役割を担っていたことが印象的だった。雨乞いや暦の管理などを見ると、自然・時間・価値が王に集約されていた時代だったのだと感じる。一方で、徳のある君主による統治という理想は東西で共通していたが、実際にはそれを長く維持するのは難しい。マキャヴェリが人間を信用せず制度を重視したのも理解できたし、雍正帝のような有能な皇帝でも収賄を防ぎきれない点に、人間社会の限界を感じた。
また、アレクサンドロス大王に捕まった海賊の「小舟でやれば盗賊、大艦隊なら皇帝」という言葉は非常に印象に残った。正義は立場によって変わり、力を持つ者が正義を名乗りやすいという構造は現代にも通じると思う。
後半では、フランス革命や主君押込など、既存の統治が限界を迎えたときの変化が描かれていた。革命は一度で完成するのではなく、失敗と混乱を繰り返しながらも「人民の意思を無視できない」という地点まで社会を進めていく過程なのだと感じた。民主主義と君主制の共存についても、理論上は整理できても、「平等」と「世襲」が同居していることへの違和感は残る。ただ、それでも制度を完全に壊さず、文化や歴史との折り合いをつけながら運営している点に、人類の政治の現実的な知恵を感じた。
全体を通じて、「理想的な統治者」を求め続けた歴史から、「人間は完全ではない」という前提で制度を作ろうとする歴史への流れがよく分かる一冊だった。 -
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ネタバレ名誉革命とかクロムウェルとか、オレンジ公ウィリアムとか中学生の世界史で出てきたなあなんて懐かしく読んでいました。
メインテーマは、なぜイングランドは「絶対君主制」にならず「立憲君主制」にはならなかったのか?それは、王様たちが議会と相談して政治を進めていたから。そのままだね。
天皇陛下とイギリス国王の比較が興味深かったです。イギリス国王は、国軍の最高司令官であり、イングランド国教会の最高首長を兼ねている。 イギリスの君主は現実政治に関わる権限があり、首相と定期的な会見が開催されているとのこと。それは、サッチャー元首相によると、エリザベス女王とはかなり政治深い政治的議論であったと述べている。
任期や辞職のある大統領や首相と異なり、君主たちは自身の在位中はもとより、父や祖父、あるいは子や孫の世代に至るまで、長い期間にわたって海外と交友関係を結ぶことができる。そして、国家や国民にもたらす「継続性と安定性」を象徴する。これは、天皇陛下にも言えるのではないか。 -
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“悪いやつら”が、時代を動かす。
数々の悪徳を犯した一方で、偉大な業績を残し、人々から支持されたイギリスの「悪党」たちの実像に迫る書籍。
テューダー王朝2代目の君主ヘンリ8世(在位1509~47年)は、「好色漢」で、「残虐性」「浪費癖」もすさまじかった。
その一方、ヨーロッパ国際政治において、戦争・外交両面で影響力を行使した。
・ヘンリ8世は海軍を整備し、勢力拡大を進めた。しかし、スコットランド侵攻に失敗し、対仏戦争でも惨敗を喫した。さらに、戦費がかさんだことで、宮廷は破産寸前となった。
・ヘンリ8世は、結果的にはイングランドの強国化に失敗した。しかし、ローマ教皇庁と決別して教会を国家の下に置いたこと、「勢力均衡」というイングランド外交の基本路線を築いたことなど、イギリスにとって大切な遺産を残した。
ウィンストン・チャーチルは、生粋の帝国主義者で、アジアやアフリカの人々に差別意識を持っていた。その一方、ヒトラーから世界を救った、第2次世界大戦の英雄でもあった。
・1940年、チャーチルの首相就任当時、ヨーロッパの大半がナチスの軍門に降くだっていた。孤立無援の状況下で、彼は演説で国民を力づけ、アメリカやソ連と協力関係を築くため奔走した。もし彼がいなければ、イギリスもヨーロッパもナチスの軍門に降り、世界史は大きく変わっていただろう。
・チャーチルが第2次世界大戦で発揮した指導力のあり方には、単にイギリスの将来にとどまらない、全人類的な平和の構築という考え方がみられる。その考えは「大英帝国」というグローバルな世界が育んだものであり、その意味
で、彼は「最後の帝国宰相」といえるかもしれない。 -
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下巻は、清教徒革命から2012年のエリザベス2世在位60周年まで(キャメロン政権)。
小学校のとき、イギリスの正式名称が「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」だと知って、その名前の長さにテンション上がったが(今になって思うと日本語で議論してもしょうがない話題…)、どうして「連合王国」なのかよく分かる。
清教徒革命で一時は共和制になったものの、すぐに王室が復活するので、フランスや日本と違ってこれぞというイベントがないまま、本を読んでいてもどこが転換点か分からない感じで議会が発展していったのはイギリス特有のように思う。
著者自身が言っているように、本国中心に書かれているので、植民地の話がほとんど出てこないのは違和感あった。また、この後のBrexitのドタバタや新型コロナの話も読みたいが、それは現在進行形だからな。。 -
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EU離脱問題を巡って英国が揺れています。メイ首相がEU側とまとめた離脱合意案は先月、下院で歴史的大差で否決されました。来月末の「合意なき離脱」が現実のものとなる可能性が高まり、どのような影響が生じるのか誰も予測がつきません。
本書は、イギリスの歴史を議会と王権の関わりを中心に論じた概説書。下巻はエリザベス1世の死去、ジェームズ1世の即位から、21世紀初頭のキャメロン政権成立まで。
私たち日本人からは、彼の国は同じ島国、アングロサクソンで大陸諸国とは一定の距離を置くジェントルマンの国、といった印象しかありませんが、本書を読むとその内実は様々な対立を抱えていたことがわかります。
一つ目は宗教上の対立。長らく英国国教会が国の宗教として位置づけられ、カトリックは認められていない中、17世紀初頭のヨーク公(後のジェームズ2世)がカトリック教徒だったことから、国王擁護派と反国王派の対立が激化。イングランド史上最初の政党、トーリとホイッグ登場の背景になりました。カトリック教徒は長らく公職に就くことができず、解消されたのはようやく18世紀後半になってからでした。
次に、アイルランド問題。グレートブリテンを構成するイングランド、スコットランド、ウェールズと比べて、アイルランドは自治が制限され、経済的にも劣位に置かれていました。そうしたことが背景にあって1845年に飢饉が発生。人口は820万人から19世紀末に440万人まで落ち込みます。100万人が餓死し、20世紀半ばまでに400万人が英国本島、北アメリカやオーストラリアに移住。その後も独立を主張する武装集団IRAのテロに悩まされ続けるなど、アイルランドの自治権付与は歴代政権にとって最大の問題であり続けました。
最後に国内の身分制度。人口のわずか5%のジェントルマン階級(地主貴族)がその他95%を支配する構造が長らく続いていました。が、第一次大戦がその構造を破壊します。大戦勃発後、騎士道精神に基づく「ノーブレス・オブリージュ(高貴なる者の責務)」から戦場に駆け付けた地主階級の若者の大半が犠牲になりました。1914年だけで彼らの19%が戦死するなど、将来の指導者層が大きな打撃を被ったことで、貴族階級と庶民の対立が政治上の課題となり、第二次大戦後の労働党政権につながっていきます。
これほどまで社会的対立を抱えながら、大英帝国を築き上げパックスブリタニカを実現できたことのほうが不思議なくらい。
英国の衰退はもちろん重要な研究テーマですが、多くの課題を抱えながら成功した要因は何かもそれに劣らず重要なテーマだと思います。
本書ではそこまで触れられていないので星は3つ。EU離脱問題を注視しつつ、他書で彼の国の来し方行く末を探りたいと思います。