宮古島が舞台の小説ということで、南の風に吹かれたいと思って、読んだ。
しかし、想像以上に深い内容で、現代の諸問題を考えさせられた。
とにかく風景描写が美しい。文体が軽やかで、読みやすい。
しかし、内容は深いのである。
この作家は藤沢周平や太宰治の影響を受けているのではないか。
最初からグイグイ惹かれ
...続きを読むていった。
いまの日本をおおっている閉塞感を打破していく物語だと思う。
どこかで聞いたことのあるような首相とその夫人の名前が出てきたときは、大笑いした。筒井康隆の「裏小倉百人一首」や「農協、月へ行く」「ヒノマル酒場」などのパロディ小説に通じる趣きもある。しかも、リリカルな趣きもある。
この作家の並々ならぬ力量を感じた。
自然とリゾート開発の関係は、沖縄では以前から大きな問題になってきた。
そこに、「水」の問題をからめている。まさに、「いま」を問うている。
米軍基地が集中する沖縄では、有害な有機フッ素化合物による河川や地下水の汚染が深刻な問題となっている。宮古島も、自衛隊のミサイル基地やリゾートホテル建設で、地下水汚染や枯渇のことが問題になった。
沖縄のなかでも最も神高い島といわれる宮古島のひとにとって、神さまとは何か、ということもこの小説のテーマになっている。
コロナ禍で、科学的な対策をとれない日本政府は、まさに竹槍でB29と戦っていた戦前の軍国日本と変わらない。
そこにあるのは、科学的思考の欠如である。
どんどんアホになっていくこの国の人びとは、論理的な考え方から逃げて、似非「スピリチュアル」な空気に逃げ出している。
そのあたりのことも、この小説は問うていると思う。
素晴らしい作品だ。
池澤夏樹のエンタメ版といってもいい。