あらすじ
宮古島で突如湧き出した天然炭酸水。商品化にあたり宣伝広報を担うことになった真田事務所の涼太たちは、プレミアム戦略を採り、「ミヤコ炭酸水」をヒット商品に成長させた。ところが販売元のグループ会社がこの希少な水に目をつけ、採水地近くにリゾート施設の建設を計画。自然豊かで神高い土地に降って湧いた話は、村を巻きこんだ大騒動に。「大切なもの」を守るため立ち上がった〈チーム真田〉は、この計画を阻止できるか!?
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Posted by ブクログ
宮古島が舞台の小説ということで、南の風に吹かれたいと思って、読んだ。
しかし、想像以上に深い内容で、現代の諸問題を考えさせられた。
とにかく風景描写が美しい。文体が軽やかで、読みやすい。
しかし、内容は深いのである。
この作家は藤沢周平や太宰治の影響を受けているのではないか。
最初からグイグイ惹かれていった。
いまの日本をおおっている閉塞感を打破していく物語だと思う。
どこかで聞いたことのあるような首相とその夫人の名前が出てきたときは、大笑いした。筒井康隆の「裏小倉百人一首」や「農協、月へ行く」「ヒノマル酒場」などのパロディ小説に通じる趣きもある。しかも、リリカルな趣きもある。
この作家の並々ならぬ力量を感じた。
自然とリゾート開発の関係は、沖縄では以前から大きな問題になってきた。
そこに、「水」の問題をからめている。まさに、「いま」を問うている。
米軍基地が集中する沖縄では、有害な有機フッ素化合物による河川や地下水の汚染が深刻な問題となっている。宮古島も、自衛隊のミサイル基地やリゾートホテル建設で、地下水汚染や枯渇のことが問題になった。
沖縄のなかでも最も神高い島といわれる宮古島のひとにとって、神さまとは何か、ということもこの小説のテーマになっている。
コロナ禍で、科学的な対策をとれない日本政府は、まさに竹槍でB29と戦っていた戦前の軍国日本と変わらない。
そこにあるのは、科学的思考の欠如である。
どんどんアホになっていくこの国の人びとは、論理的な考え方から逃げて、似非「スピリチュアル」な空気に逃げ出している。
そのあたりのことも、この小説は問うていると思う。
素晴らしい作品だ。
池澤夏樹のエンタメ版といってもいい。
Posted by ブクログ
小さな事務所でライターとして働く涼太は、取材旅行のため、宮古島を訪れる。ある酒造を訪ねたところ、最近井戸水から炭酸水が沸き上がっているのを耳にする。味は格別で、商品化しないかと持ちかける。売り上げは上々したが、そんな時、販売元のグループ会社が、リゾート施設を建設する計画が持ち上がった。果たして、阻止することができるのか?
作者の吉村さんは、サントリーの宣伝部にいたということで、営業としてのノウハウが、色々なところに散りばめられていました。勢いだけで戦略を立てるのではなく、冷静に分析しているので、リアリティがとてもありました。
また、吉村さんの作品を見ると、お酒をテーマにした作品が多くあります。この作品はお酒がメインではありませんが、お酒も登場し、炭酸水に「寄り添う」存在で良い調和を出している印象がありました。
商品をどう活かしていくのかだけではなく、どう自然と共存していくのかも描かれています。観光業として考えると、人が来て、盛んになることで島は潤っていきますが、現地として考えると、自然が壊れるなど色んなことが「失って」しまうといった問題が発生します。
そういった問題を取り扱いながらも、コミカルでわかりやすく書いていて楽しめました。
後半からは「自然」からの反撃が始まります。てっきり涼太一同が戦略を練り、勝ち取ったんだという展開を想像していたのですが、多くの悪い偶然?で問題を沈ませることにゾワっとしたりスカッとしたものの、「微炭酸」な感じがしました。
また、あの有名政治家?が登場するのですが、少々エッジが効いている印象でした。〇〇夫人が登場することで、現場を掻き乱していますが、そこは作者の遊び心なのか、軽くディスっている印象があって、クスッとしてしまいました。