フェルディナント・フォン・シーラッハのレビュー一覧
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刑事事件の専門弁護士である著者が描き出す、奇妙な事件の話が15話収録されている。ふるさと祭りの最中に、給仕していた少女への集団暴行事件を描く「ふるさと祭り」、寄宿学校で秘密結社にかぶれる男子生徒による事件を描く「イルミナティ」、麻薬売買の現場に自宅を提供していた老人と、自分の運命から逃げられなかった男を描いた「雪」など、弁護士の「私」はさまざまな罪の形を語る。
ふるさと祭り
「私たちは大人になったのだ。列車を降りたとき、この先、二度と物事を簡単には済ませられないだろうと自覚した」
ふるさと祭り、がお気に入りです。
法で捌けない罪というのはミステリーではよく登場しますが、怒っても、泣いても、 -
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ネタバレ<(前略)私には参審裁判所で裁判長を勤めたおじがいました。故殺や謀殺などの殺人事件を扱っていました。おじは私たち子どもにもわかる事件の話をしてくれました。でも、いつもこういってはじめたものです。「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」
おじのいうとおりでした。私たちはさまざまな物事を追いかけています。ところが物事の方が速すぎて、どうしても追いつけないものです。私の話に出てくるのは、人殺しや麻薬密売人や銀行強盗や娼婦です。それぞれにそれぞれがたどってきた物語があります。しかしそれは私たちの物語と大した違いはありません。私たちは生涯、薄氷の上で踊っているのです。氷の下は冷た -
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(2013/5/27)
「ドイツの法律を変えた!」という書評に興味を持って読んだ。デイキャッチで豊崎さんが絶賛してた。
結末を読んで思ったのは、この事件、記憶にある、ということだった。
結末のどんでん返しがこの小説のすべてなので、ネタバレは避けたほうがいいのだろうが、、、
どの書評も結末は書いてない。
どう描いていいかわからないから、まずはDBから。
内容(「BOOK」データベースより)
2001年5月、ベルリン。67歳のイタリア人、コリーニが殺人容疑で逮捕された。
被害者は大金持ちの実業家で、新米弁護士のライネンは気軽に国選弁護人を買ってでてしまう。
だが、コリーニはどうしても殺害動機 -
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自殺を考えたことがある人間としては安楽死が制度化されることは反対という立場で本作を読んでいた。
問題を提起したおじいさんの弁護士の言葉には一理あると思いつつもとてもイライラさせられた。
というのも、私は手段も場所も選んで実行しようとしたことがある。ただし、実行することはできなかった。自殺を考えるまでとそこからでは必要な精神力がまるで違った。死にたいけれども、実際に死んでしまった際に悲しむだろう人たちの顔が浮かんでくるものだ。だからこそ、実際に死ぬ部分のハードルを他人に託すことはとても恐ろしいことに思える。それに、人を殺すという業の深いことを他人にやらせるというのも罪深いことに思える。
解説に -
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ネタバレ・あらすじ
78歳のゲルトナーは3年前に妻を亡くした。
身体的にも精神的にも健康な状況であるが、妻を亡くし人生に意味を見出せなくなったため医師による自死の介助を求めた。
ドイツの倫理委員会主催の公開討論会で様々な専門家が医学、神学、法学的に議論する。
・感想
ここ数年よく考える事柄が題材だったのでとても興味深く読んだ。
自己決定権、自由意志、一般的人権、尊厳とは。
生と死についての定義づけと線引きすることがいかに不可能かということ。
印象に残ったのはドイツの憲法では神について言及されているということ。個人的にはそんな「神」なんて存在するかどうかもわからないものを憲法に挟むなんてあり得ないと -
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『犯罪』『罪悪』に続く短編集。当初は本書を含めた三部作として構想されていたらしい。
前作および前々作と同様、描写は簡潔で、登場人物の心情はほとんど語られないため、読者の脳内で埋める余白部分が非常に多いのが著者の特徴。
幸せが一瞬のうちに奈落の底に突き落とされるような急転直下の展開が多いが、読んでいて驚くと同時にどこか納得してしまうのは、余白部分を埋めるパズルのピースの取捨選択が恐らく完璧だからで、率直に凄いと思う。
バッドエンドが多いので読後感の良さを求めるのであれば本書は向かないが、緊張感のある読み心地を体験したいのであればおススメの一冊である。
やはりシーラッハは現代を代表する短編作家だと -
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みんな大好きシーラッハさんの社会「観察記録(訳者あとがきより)」です。
48の章に別れたエッセイと創作が区別無く(視点の違いがヒントかも)並べられていて、それぞれが短文だからかシーラッハ独特の世界の切り取り方、視点、省略が「犯罪」「罪悪」以上に鋭く感じられ、予想以上に楽しめました。
幾つか「何この話」という物もあれば法律や権利を題材にした重い話もあったり、虚無感を抱えながらも人間をやっていくには他人を信頼していくしかないね、みたいな価値観に共感しながら読んでいました。
また頻繁に挿入される引用も魅力的でした。シーラッハファンは必読かと。是非是非。 -
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ネタバレエッセイなのか小説のアイデアメモなのかショートショートなのか、弁護士であり小説家のシーラッハが書いた文章臭といった体の1冊。
「法律なんだから守らなければいけない」法治国家で生きる以上それはそうなんだが、法律は本当に正しいのか?そのことは常に疑問に感じていたいと思う。
戦争当時のドイツも日本も法に基づいてかの戦争をしていたわけだし、戦後ついこの間までのアメリカの黒人は法に基づいて差別されていたし、今のロシアは法に基づいてウクライナに侵攻している。
万能でない人間が決めたものなんて、そんなものである。社会生活を営む以上順法姿勢は取っていても、あからさまに怪しそうな取り決めは疑ってかかるのが