フェルディナント・フォン・シーラッハのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレタイトルのない26の掌編集。
講演会やインタビュー、プライベートな旅などで世界各地を転々と訪れる私。
具体的に「作家」という職業が言及されていたかどうかあやふやだが、なんとなく本人を想起させるようなメタフィクションめいた様相が漂う作品。
その土地土地で出会ったエピソードがシーラッハならではの研ぎ澄まされた文体で紡がれる。
読む度に毎回凄いなぁと思う。
こんなにも端的に、ある意味ぶっきらぼうとも思えるほどに余計な装飾がなく直接的な言葉の集まりなのに、その連なり、間、行間が作り出す文章に心が吸い寄せられる。
何を意味したいのかはかりかねる物語もあれば、奇妙な味風ミステリめいたオチのあるものもある。
1ページばかりのものもあれば20ページ程のものもある。
読み終えてから1週間くらい経った後にこの感想を書いているが、実は話の内容は殆ど頭の中に残っていない。
その文章を読んでいる時間そのときは凄い濃密な時間を体感していたはずなのに、さらっと過ぎ去っている。
唯一無二だわぁ。
何より毎回この雰囲気を漂わせることに成功している酒寄さんの訳に称賛を覚える。
いつか『犯罪』からまた読み直したい。 -
Posted by ブクログ
ネタバレいかにもシーラッハらしい短編集、「犯罪」「罪悪」「刑罰」で3部作らしい。とはいえ順番に読まなくても良いようにも思う。本作最後の「友人」は確かに末尾を飾るにふさわしい感じの締め方ではある。
シーラッハの魅力は言葉数が少ない事。華美や大げさな修飾はなく、必要最低限の文章で淡々と進行する物語構成が良い。和食のような「引き算の美学」なミステリー、そこには断捨離、ミニマリズムにも通じる、潔さと清潔さがある。
掲載されている「奉仕活動」なんて、凡百の作家なら胸糞描写を満載にしてくるだろし、被害者や家族の怒り憎しみももっともっと書き込みを増やしているだろうが、シーラッハは端的である。だからこそ余韻が強くて胸糞感を引きずりつつ物語の展開に集中できる。
「リュディア」や「ダイバー」も性癖やフェチな描写を大げさにしないことで、その異常さをかえって心に残して、かつ物語に集中できるようにしている。
短編の名手、ひいては巧みな小説家ってのは、過剰な修飾や大げさすぎる表現は避けるものであるけど、シーラッハはその最右翼にいる感じ。 -
Posted by ブクログ
簡潔で事実を元にしたようなドキュメンタリーっぽい文体。国際色豊かで人物の階級も多岐にわたる。難民がよく登場する。
犯罪というタイトルの通り犯罪が扱われている。複雑な人間の行動を犯罪という一面から切り取っているような小説。
本屋大賞1位も納得。ただミステリーらしさは全然ない。
『棘』『ターナー氏』『エチオピアの男』がいいが、どれも甲乙つけがたいくらい面白い。
本書はネット上で誤訳があるという指摘があるが、それはハードカバー版が加筆前のものを題材にしているのに誤訳を指摘している側が参照しているのは加筆されたバージョンのものだから、だという。私が読んだ文庫版は加筆版を元に翻訳されている。 -
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ネタバレ当然罪を犯せば罰も償いもある。形はそれぞれでも。現役刑事弁護士が書いた話題の書。犯罪小説だが軽い読み物。
作者はドイツの現役、刑事弁護士で扱った事件にヒントを得て書いた短編集。本人が実名で出てくる(^^)
文章は端正で気持ちよく切れがある。余分なものをマッシュしない、素材を形のままナイフでスパッと切って盛り付けたサラダのようで、読んだ後の感じにはおいしいドレッシングも振りかけてある。
当然罪を犯せば罰も償いもある。形はそれぞれでも。
話の締めには、なんだか大岡裁きのような情愛が感じられる部分もあって、評判のよさの一端もこういうところにあるのではないかと感じた。
題名が硬いしデザインも暗いので、大きな犯罪小説のように見えるが、犯罪の元は貧困だったり、無知、劣悪な環境、男女の縺れ、など身近なところで起きた事件がおおく、ドイツという国の法、裁判制度の現状がかいまみられるのも面白い。
フェーナー氏
フェーナー氏はイングリットと知り合い結婚を誓った。彼は模範的な開業医で、信頼も厚かった。だが次第にイングリットが大声でののしりはじめ、それは絶え間なく続いた。72歳になるまで結婚の誓いを思い出して耐えた。そして斧を振り上げた。私には弁護の余地がなかったが、懲役三年の判決を受け、開放処置がとられた。夜は刑務所で過ごし、職さえ持てば昼間は自由に行動できた。彼は趣味の園芸から手を広げ林檎を作り、果実販売を始めた。私のところにも赤い林檎が届いた。
タナタ氏の茶碗
サミールと二人の友達はタナタ邸に盗みにはいって、金庫の中から金と茶盌を盗んだ、タナタ氏は激怒した。サミールと二人の悪事は続いたが、茶碗は巡りめぐってタナタ氏のもとに帰った。
この間の様々な出来事が面白い。
チェロ
建築会社の二代目は娘テレーザのチェロを聞かせるパーティーを開いた、音楽は理解できないし、教育には関心がなかったので看護師が厳しくしつけた。テレーズは音楽大学に入ると家を離れた、大学には行かず弟と旅をして暮らした、二年後弟が事故で廃人になり、テレーズは看病を続けた。痛みが増してきた弟を風呂場で殺した。私は独房にいる彼女に面会に行ったが、いつも本を読み聞かせてくれるだけだったが。
ハリネズミ
犯罪一家に八人の似た顔をした兄弟がいた、皆そろって出来が悪く前科があった。そのうち一人が窃盗で逮捕された。裁判ではまたかという空気だったが、タリムが証言台に立って口を開いたので驚いた。彼は兄弟の中に隠れてはいたが、別部屋で勉強し知能の高さを誰にも見せなかった。彼は非常に面白い証言をした。
幸運
イリーナは戦争でベルリンに逃げてきた。そこで体を売っていたが、カレと言う青年と知り合って同棲した、そこに客だった男が来るようになり、部屋で死んだ。カレはイリーナを助けるために解体して埋めた。イリーナが逮捕されたがカレは助けたかった。
かれはイリーナに弁護士をつけた。カレは自白したが。私は過去の判例を持ち出した。
サマータイム
素行の悪いアッバスはついに麻薬の売人になった。だがボスに知られて指を切られ、恐れて足を洗った、シュテファニーと知り合ったが生活のアテが無く、彼女はこっそり客をとるようになった。その 中の一人で実業家がアッバスに殺された。事件を追う警察は手がかりがない、アッバスの証言は揺るがなかった。私は調べを進める。携帯電話、防犯カメラ、現代の道具が役に立つ、込み入った話が面白い。
正当防衛
ベッグと仲間は地下鉄で男をみつけて襲ってみたが一瞬のうちにやられてしまった。男は逮捕された。私は弁護を依頼された。男は黙秘を続けていた。この顛末と結びが面白い。
緑
店のまえに血のついたナイフを持った若者が立っていた、通報して逮捕されたが、彼は羊を殺して目玉を集めていた。女の子が行方不明になっていた、彼に誘拐されたのではないか、だが彼女は帰ってきて彼は釈放された。私は羊を殺した彼の話を聴く。
棘
警備員の仕事に就いたが、係りがローテーションのカードを入れ忘れてしまった。結果、彼の仕事は毎日同じ部屋に詰める事だった。気分転換にさまざまなことをして時間を潰したが、とうとう切れた。
愛情
パトリックは愛しすぎて彼女の背中を刺してしまった。軽い傷害罪だったが精神科の診察を拒んで姿を消した。私はカニバリズムを思い浮かべたが彼の弁護を降りた。
エチオピアの男
ミハルカは見掛けも悪く智恵もない孤児で、引き取られた家でも厳しく小言を言われながら育った。仕事もクビになったり盗難事件の犯人にされたりした。娼婦館で雑用係になったがそこでも懸命に働いた。娼婦のために借金をして返せなくなり逮捕された。生活資金を得るのに銀行に入った。手に入れた金でバスに乗り、アデスアベバまで行って住み着いた。彼は勤勉で珈琲作りにも向いていた、育て方や運搬方法や販売ルートを改善し、村人に感謝されて村も彼も裕福になり家庭を持った。当局に身元を知られドイツに送られた。家族も村人も泣いた。5年の禁錮刑になった。ミハルカは村の名前を知らなかったので連絡も取れなかった。だが、、、。心温まる話。 -
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2025年の翻訳大賞とってたので、初めてシーラッハ作品を読んだ。確かに不可解なパートもあるし、哲学とか歴史とかの話も入るので教養のない自分には難しく思えたけれど、やはり大賞獲るだけあって訳された日本語の美しさが心地よかった。
全体をとおしてドラマチックで詩的な文章がとても好き。
訳者あとがきの「エッセイ未満の創作」は言い得て妙だし、エッセイと思ってもう一度読み返すと感じ方が変わるかも。
個人的には(エルメスのいない)「キノの旅」感あるなあと思ったけど、異論は認めます。
どんでん返しほどではないにせよ章末で急にハンドル切ってくるこの感じがクセになる。
この方のほかの作品も読んでみよう〜。 -
Posted by ブクログ
続けてドイツ人作家の小説。本作の著者フェルディナント・フォン・シーラッハは、ナチ青少年最高指導者の孫だと云う。そんなの関係ねー!と思いつつ、不穏感が湧いてくるのが正直なところ…。
著者は弁護士の傍ら小説を書き始め、デビュー作の本作でドイツのクライスト賞、日本で2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位を受賞。11篇の連作短編集ですが、それぞれにつながりはありません。
タイトル通り、罪を犯した人々の物語です。著者が実際に携わった刑事事件から着想を得たそうで、まるで11の刑事事件の実録?というほどリアルな印象です。しかし、ただの事件の羅列ではなく、描かれるのは人間の挫折・罪・素晴らしさです。
一般的な推理小説とはまるで別物です。弁護士の〈私〉から見た犯罪者を、加担も非難もせずに、淡々と誇張のない簡潔な筆致で綴る各短編は、極力無駄を削ぎ落としながら客観事実を重ね、犯罪者たちの人生が凝縮されたような描写です。
犯罪者もかつては「ただの人」だったはずで、私たちは一歩誤ると犯罪の道へ足を踏み入れてしまう危うさを孕んでいることに気付かされます。
そんなの関係ねー!と前述しましたが、弁護士として人の罪を検証し、調書を元にしてできた小説の行間に、祖父がナチ高官だったという出自がもたらす贖罪と孤独が潜んでいる、と考えるのは勘ぐり過ぎでしょうか?
著者は、人としての道徳心と法の境界線で、法制度の限界と人間への愛情を示している気がしてなりません。もはやミステリーではなく、濃密な人間ドラマと思える珍しいタイプの短編集でした。 -
Posted by ブクログ
刑事事件の専門弁護士である著者が描き出す、奇妙な事件の話が15話収録されている。ふるさと祭りの最中に、給仕していた少女への集団暴行事件を描く「ふるさと祭り」、寄宿学校で秘密結社にかぶれる男子生徒による事件を描く「イルミナティ」、麻薬売買の現場に自宅を提供していた老人と、自分の運命から逃げられなかった男を描いた「雪」など、弁護士の「私」はさまざまな罪の形を語る。
ふるさと祭り
「私たちは大人になったのだ。列車を降りたとき、この先、二度と物事を簡単には済ませられないだろうと自覚した」
ふるさと祭り、がお気に入りです。
法で捌けない罪というのはミステリーではよく登場しますが、怒っても、泣いても、解決することができない物事があることに気づくというのはやるせないものです。
描写が調書のように丁寧に、かつ端的で鮮烈に表現されています。読みやすいだけでなく、記憶に残ります。