フェルディナント・フォン・シーラッハのレビュー一覧
-
「順調なときにだけ約束を守るというのではだめだ。」
フェーナー氏が立てた誓いは、最期まで守られたのだろうか。法廷で、今でも妻を愛していると、そう誓ったからだと、話す場面が目に浮かびます。ついでに涙も
それがいつか身を滅ぼすとしても、立てた誓いを破るわけにはいかない。それは裏切りになるから。ほんと
...続きを読むうに、痛いくらい素直で泣きたくなるほど優しい人なんでしょうね
何度読んでも、『フェーナー氏』 は泣いてしまいます。
Posted by ブクログ
-
戯曲の作りで、自死の幇助についての討論会という内容。
戯曲と言えばファウストのようかと思ったら、とても読みやすくすぐに内容に入り込んで行けました。
死にたいと考える人の気持ち。そしてそれを手助けするのはどうか。手助けした後のこと。自死の方法やその周囲への影響。
とても考えさせられるものでした。
...続きを読む小説とは違う角度からとても読みやすく問題提起され、私の深い部分に波紋を残しました。
きっと皆さんの心にも、何か考えさせられるものが残るのではと思う作品でした。
Posted by ブクログ
-
『犯罪』『罪悪』に続く短編集。当初は本書を含めた三部作として構想されていたらしい。
前作および前々作と同様、描写は簡潔で、登場人物の心情はほとんど語られないため、読者の脳内で埋める余白部分が非常に多いのが著者の特徴。
幸せが一瞬のうちに奈落の底に突き落とされるような急転直下の展開が多いが、読んでいて
...続きを読む驚くと同時にどこか納得してしまうのは、余白部分を埋めるパズルのピースの取捨選択が恐らく完璧だからで、率直に凄いと思う。
バッドエンドが多いので読後感の良さを求めるのであれば本書は向かないが、緊張感のある読み心地を体験したいのであればおススメの一冊である。
やはりシーラッハは現代を代表する短編作家だと、本書を読んで再認識した次第です。
いずれ翻訳モノではない、日本語ベースで書かれたこういうタイプの作品を読んでみたい。
Posted by ブクログ
-
みんな大好きシーラッハさんの社会「観察記録(訳者あとがきより)」です。
48の章に別れたエッセイと創作が区別無く(視点の違いがヒントかも)並べられていて、それぞれが短文だからかシーラッハ独特の世界の切り取り方、視点、省略が「犯罪」「罪悪」以上に鋭く感じられ、予想以上に楽しめました。
幾つか「何こ
...続きを読むの話」という物もあれば法律や権利を題材にした重い話もあったり、虚無感を抱えながらも人間をやっていくには他人を信頼していくしかないね、みたいな価値観に共感しながら読んでいました。
また頻繁に挿入される引用も魅力的でした。シーラッハファンは必読かと。是非是非。
Posted by ブクログ
-
前作以上に短編のバラエティが豊かになり、シーラッハの才能を存分に味わえる1冊。
あまり感情を挟まない描写から、被害者や加害者の人生、言葉にできないような複雑な心の動きが、苦しいほど伝わってくる。
特に名作だと思うのは、冒頭の『ふるさと祭り』『遺伝子』『イルミナティ』。全て重量級の衝撃が胸に残る。
...続きを読むショートショートの『解剖学』『アタッシェケース』も好き。世にも奇妙な物語みたい(もっと残酷だけど)。
Posted by ブクログ
-
エッセイなのか小説のアイデアメモなのかショートショートなのか、弁護士であり小説家のシーラッハが書いた文章臭といった体の1冊。
「法律なんだから守らなければいけない」法治国家で生きる以上それはそうなんだが、法律は本当に正しいのか?そのことは常に疑問に感じていたいと思う。
戦争当時のドイツも日本も法
...続きを読むに基づいてかの戦争をしていたわけだし、戦後ついこの間までのアメリカの黒人は法に基づいて差別されていたし、今のロシアは法に基づいてウクライナに侵攻している。
万能でない人間が決めたものなんて、そんなものである。社会生活を営む以上順法姿勢は取っていても、あからさまに怪しそうな取り決めは疑ってかかるのがちょうどよい。
Posted by ブクログ
-
「物事は込み入っていることが多い。罪もそういうもののひとつだ」
序章の一文が象徴するように、この短編集は、いろいろな出来事が積み重なっていき、後戻りできない犯罪を犯す人々を描いている。
犯罪を犯す刹那は、今まで踊っていた薄氷が不意に割れて、冷たい氷の下に落ちてしまう瞬間のようだ。誰だってそうなる可能
...続きを読む性はある。
作者も言う。「幸運に恵まれれば、なにも起こらないでしょう。幸運に恵まれさえすれば」。
あくまで淡々と事実を積み重ねるクールな筆致ながら、行間に溢れ出すようなやるせなさや、切なさや、時には幸福感などの叙情を感じざるを得ない文体、ものすごく好みだった。
例えば最初の『フェーナー氏』、フェーナーの心情は一度もはっきり書かれない。フェーナーは、ラストに「しわくちゃになった封筒」から出した新婚旅行の写真の、妻の顔を親指でなでる。その写真は「保護膜がはがれ、彼女の顔はほとんど真っ白になって」いるのだ。
その描写で、フェーナーのいろいろな込み入った思いが伝わってきて、胸がいっぱいになる(読めば分かります…!)。
特に好きなのは『タナタ氏の茶碗』『チェロ』『正当防衛』『エチオピアの男』。
『チェロ』の最後、『華麗なるギャツビー』からの引用の「さあ、櫂を漕いで流れに逆らおう。だけどそれでもじわじわ押し流される。過去の方へと」も、胸が締め付けられる(こちらも読めば分かります…!)。
『エチオピアの男』は、泣ける!!
Posted by ブクログ
-
シーラッハ「珈琲と煙草」tsogen.co.jp/sp/isbn/978448…
あー海外作家で今たぶん一番好き。短編とも言い難い断片的な約50の作品集で、たとえば4行だけの作品もあり、全体に犯罪と死と孤独が漂ってる。話はどれも陰鬱で思索的なのに描写が瑞々しくて映像的で、そのギャップがシーラッハだよ
...続きを読むなー好きだなー
Posted by ブクログ
-
罪とは何か。これがシーラッハ文学の中心テーマだ。
…「罪」という漢字を分解すると「目に非ず」と読める。「現実」を把握するのに「百聞は一見にしかず」というが、こと「罪」に関してはこれが通用しない。なぜなら「罪」に見入る者は心の闇を覗くことになるからだ。
ー訳者あとがきより
ブラック・クリスマス、タダ
...続きを読むジュンさんのおどろおどろしいながらも目が離せない絵に惹かれて読んだ。
たった三遍が載った100ページにも満たないお話。
けれど読みやすい比較的短い文章で綴られた罪に満ちた三つの物語は、その主人公たちの末路はどれもじわじわと衝撃的で、けれど、ああ、これは私たちの物語だ。と思わされた。
主人公たちはカオスに魅入られて、罪を犯してしまう。淡々と描かれる文章に、タダジュンさんの大胆でこちらが飲み込まれそうな黒の挿絵が、不思議なカオスと禍々しさを生み出していた。
そのカオスは、いつ我が身に降り注いでもおかしくない。そのことに戦慄し、その事実を淡々と印象的に描くこの物語たちにゾクゾクした。
どの話を特にピックアップするのは無理というか、三遍とも全て同じくらいゾクゾクするので、甲乙つけ難いのです。
シーラッハの書く物語を、網羅したい気持ちに駆られた作品。
そう思わせてくれるのに、作品そのものはもちろん、充実した訳者あとがきが何役もかってくれたので、ぜひこの本の全部を読んで欲しい。
目次
パン屋の主人
ザイボルド
カールの降誕祭
訳者あとがき
Posted by ブクログ
-
初のフェルディナン・フォン・シーラッハ。
短編集。巻末の解説から、実は「犯罪」「罪悪」との三部作で完結作とのこと。失敗しました。
作品全体にだが、余計な文章が全くない。
登場人物の感情がほとんど描かれておらず、その辺りは読み手が推察することになる。
ここまで徹底するのは凄い。
犯した罪と、その罰
...続きを読むのバランスが取れているのか、ということが主題だったと思う。
おすすめは、参審員、逆さ、小男、友人。
Posted by ブクログ
-
「物事は込み入ってることが多い。罪もそういうもののひとつだ」。当事者でない人たちがいくら物語を作ろうともそれは真実ではない。。
それでも、作者は現役の刑事事件弁護士なので(こういうこともあるかも…)のリアルさがあります。冷静だけど冷徹ではなくて、情緒もあるけど大仰ではない文章、好きです。
お話は特に
...続きを読む「ハリネズミ」「緑」「エチオピアの男」が好き。
怖いのは「正当防衛」「愛情」。「愛情」には佐川一政の名前が出てきてタイムリーでした。世界的にも有名なんだな。
「棘」も、一人の人が壊れていく過程が描かれててゾッとしました。職務怠慢だ。。
“弁護人が証人に尋問する場合にもっとも重要なのは、自分が答えを知らない質問は絶対にしないということだ”…これにはしびれました。裁判は検察と弁護人どちらが場や流れを支配するかバトルもあるのだろうからそれはそうなんやろけど。
「タナタ氏の茶椀」(わんの字が出ない)も、、5人よりタナタ氏側の方が裏社会って事だったんだろうな。チンピラ3人が小心者で良かった…一人、ギリシア人なのにフィンランド人だと言い張ってる人はどうかしていて面白かったです。「家族はみんなギリシア人だけど、俺まで一生ギリシア人になってうろつきまわることもないだろ」(???)
Posted by ブクログ
-
止むに止まれぬ心情から繰り出された犯罪の瞬間を描いた傑作短編集。
短い文章で、ことの顛末を描き出す見事な描写に毎回唸るしかない。その犯罪に対して、司法がどのように対峙したのかも描かれる。ドイツの司法制度ではあるが、法の解釈、考え方を学ぶ場にもなっている。
夢中になって一気に読み切った。今のところ翻訳
...続きを読むされているシーラッハ作品は全て読んでいる。どの作品も好きだ。
次回作も首を長くして待つことにする。
Posted by ブクログ
-
中編ほどのページ数で、わずかな登場人物。それでいて、ちょっと何かを触れるとネタバレになりそうなくらいの緊張感を含んだ良質のミステリー。
これは素晴らしい!しかもこの本が売れたことで、本国ドイツでは現実が動かされ始めているという。
こんな本、日本では絶対出ないだろうなぁ。書ける作家は要ると思うが、
...続きを読む大手出版社は絶対躊躇する(統一教会がらみですらもあの朝日が汚れるんやで)やろし、まして現実が動くなんて根性座った政治家も法律家もちょっと見当たらへんなぁ。
Posted by ブクログ
-
法律論を、マッティンガー vs. ライデンの痛快な法廷劇に仕立てつつ、戦時の罪について現在とつながった話として問い続ける。
Posted by ブクログ
-
きました
待ってましたノシーラッハ‼️最後の作品、どーいう意味なんだろう。前作に続いての心に残る感じ。次が楽しみだ
-
精神科をやっているからかもしれないけど、こういうことは本当にありうるし、現実でも息を飲むことがある。それをミステリーに変えて商品化した本としてはすごいとおもう。りンゴねぇ。
Posted by ブクログ
-
戯曲なので、読みやすい。逆に読みにくいと感じる人もいるかもしれません。
有罪か無罪か。正義なのか、命の選別なのか、とても難しい問いかけに明確な答えはありません。考え続けるしかないのです。
そもそも、発端はテロ行為です。如何なるテロ行為も許すまじ、神の名の下であっても!という著者の思いに共感しました。
Posted by ブクログ
-
テロリストに乗っ取られ、7万人が居るサッカー場に突っ込もうとしていた航空機を撃墜した軍人は有罪か無罪か・・・
いままさに生じてもおかしくはない出来事ですね。この作品の秀逸なところは、その結末。有罪と無罪の結末、両方が書かれています。読者に考えさせると言う事なんですね。
あっという間に読み終わりま
...続きを読むしたが、中身は物凄く濃いです。
Posted by ブクログ
-
法廷もの。しかも過去と現代を行きつ戻りつするのにすごく読みやすくておもしろかった。
映画化されてますね。顛末をわかっていても観てみたくなります。
「やがて来る者へ」というイタリア映画に第三帝国時代のドイツの蛮行が描かれています。
併せて観るとコリー二の無念さがより浮かび上がってくると思います。
Posted by ブクログ
-
主人公・ライネンは、弁護士になってやっと42日。
初めて殺人犯の国選弁護人になったが、容疑者、いや、犯人は犯行を認めるものの、動機を明かさない。
犯行に至るまでのどんな背景が事件にはあったのか、そして、なぜ犯人は動機を明かそうとしないのか。
何を書いてもネタバレにかすってしまうので、感想を書くの
...続きを読むが難しいなあ。
これから読もうと思う人は、この先を読まないでね。
いまだにドイツに影を落とし続けているのが、ナチス時代に行った数々の非道。
犯人であるコリーニがなぜ殺人を犯さなければならなかったのか。
それもまた、現在に残るナチスの影のせい。
ナチの生き残りが作った戦後ドイツの法律が、ナチの犯罪をなかったことにする。
余談だが、この小説の出版がきっかけで、ドイツはナチの過去再検討委員会を立ち上げたという。
小説が政治を動かしたのだ。
閑話休題。
犯人は結局最後まで多くを語ることはなかった。
作者としては、その存在が、訴えたいことのすべてだったのかもしれない。
そもそもなぜイタリア人の犯人は、ドイツに暮らし続けたのか。
ずっと癒えない傷を忘れないためにそうしていたのか。
犯人の心のうちにあったものは、恨みだったのだろうか、それとも今は亡い人たちを慕い続ける思いだったのだろうか。
生涯独身を貫いた犯人は、愛する人を持つことはなかったのだろうか。
自分自身を生きることはできたのだろうか。
多くの疑問が頭の中をぐるぐる回るけれど、簡単に答えを出すことではないとも思う。
「わたし、すべてを背負っていかないといけないのかしら?」
「きみはきみにふさわしく生きればいいのさ」
それほど長い作品ではないのに、ずっしりと重い読後感が残された。
Posted by ブクログ