吉田薫のレビュー一覧
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少年マルコの逃亡劇。このネタ一本で引っ張る引っ張る。今回の事件はリアルタイムで進行していくので、過去作と比べてスピード感と緊迫感に満ちていたように思う。
アクション全開なのでミステリ色は薄め。そこが残念と言えば残念なのだが、にも関わらず最後まで面白く読めたのは、マルコのキャラが際立っていたからかな? カールとのすれ違いを繰り返すうち、どんどんマルコに感情移入してしまい、最後はオカンになった気でハラハラしながら見守っておりました。このマルコがホントにいい子なので、余計に悪役たちが人間のクズに見える。相変わらずヒール役を書くのは巧いよなあ。
Qにも変化はあり、アサドの謎がちらりと見えたりと、サイド・ストーリーも読み応えはあるのだが、肝心のカールは今回あまり活躍せず、マルコに全部さらわれた形になった。第五弾の主人公はマルコです、マルコ一色のストーリー。でも個人的には大満足。 -
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シリーズ4作目。
過去の未解決事件を扱う特捜部Qが今回手がけるのは、80年代の連続失踪事件。
失踪事件を探るうちにやがて躍進している新進政党の裏の顔に迫ることとなり、同時にデンマークの闇と社会の偏見が浮き彫りになっていきます。
劣悪な遺伝子の排除を謳って繰り返される強制中絶、不妊手術という今回の断種のテーマは大変残酷で重苦しい。女子収容所というデンマークの負の過去に対する作者の熱情が伝わるようです。
現在の捜査と交互に描かれる一人の女性の人生が悲しく、秘密組織に疑惑を向けるものの、あくまで失踪事件を追う特捜部Qがなかなか事件の全貌を見通せないのがもどかしい。
読者としても、現在と並行して語られる数十年も前の出来事が現在の状況と結びつかず、予想のできない展開にのめりこんでいきます。クライマックスに向けての作者の手腕が光るところです。
シリーズを通しての問題であるカールの事件、アサドの謎も進展を見せており、ただの変人だと思っていたローサも何やら問題を抱えているよう。
重苦しい事件ばかりですが、いつも通り冴えないカールが楽しく良い緩和剤となっていました。
ミカという新たな希望が登場したのもうれしい。
アサドの危機に涙するカールとローサにはグッときました。
今まではカールひとりがほかの二人のことに頭を悩ませていただけですが、今回、アサドとローサがカールの為に怒り、カールとアサドがローサを気遣い、カールとローサがアサドの危機に駆けつけました。
普段諍いばかりでお互い胸の内を明かさない特捜部Qですが、今作ではほんの少しだけ互いが互いに理解を深め、支えあったように思います。
シリーズは10作を予定しているということで、特捜部Qの面々の謎が明かされるのはまだまだ先のようですが、今後が楽しみなシリーズです。 -
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未解決事件を扱う「特捜部Q」シリーズ4作目。
デンマークの人気ミステリです。
書き込みが濃厚で、読み応えがあります。
カール・マークは特捜部Qに左遷されたものの、過去の事件解決に活躍中。
助手のアサドは中東系の謎の人物で、温厚で有能だが、大変な過去があるらしい。
秘書のローセもけっこう綺麗で確かに優秀だが、相当な変人。部下のはずの二人のコンビに追い立てられるように捜査にかかるカール。
1987年に失踪事件が相次いでいることに気づく。
人口500万のデンマークでは考えられない頻度。何の関連もなさそうな5人に、どんな事情が‥?
折りしも、優生学的な政策をかかげる老人の極右政党<明確なる一線>が、票を伸ばそうとしていた。
ニーデという女性の人生が、間にさしはさまれます。
農場で育ち、教育を受ける機会もなく、恋にやぶれて‥
一度は里親に恵まれて、幸せをつかんだものの、後にその幸福も奪われてしまう。
デンマークでは1920年代から60年代にかけて、品行が悪かったり知的障碍があったりして問題となった女性を収容する矯正施設が島にあり、退所する際には避妊手術を受けさせられたという。
日本でのハンセン病療養所を連想させますね。
優生保護法は、当時のヨーロッパでは多くの国で施行されていたそう。
作者はこの事実を知って愕然とし、作品に取り上げた。
熱っぽく描かれていて、その気持ちは理解できますが、ちょっと重すぎて‥感想を書くのが遅れました。
カールを取り巻く人間たちは、相変わらずにぎやかでコミカル。
恋人モーナとは上手くいっているのが救いですが、その家族に紹介されるとこれが面倒な性格で、ギクシャク。
銃撃事件で寝たきりの同僚ハーディを家に引き取り、その事件の謎がまだカールを追ってきます。
さらに、カールの伯父の事故死にまで、なにやら疑惑が‥?
このシリーズは10作を予定しているそうなので、何がどこでどう絡んでくるのか‥?
特捜部3人の捜査は体当たり! チームが次第に強力になってくるのが、楽しみです。 -
Posted by ブクログ
シリーズ第4作。情報の少ない海外小説を読む場合、巻末解説はぼくにとって非常に重要なのだが、やはり一つ重要なことが記されていた。本<特捜部Q>のシリーズは、10作を予定しているという。一作一作、極めてダークで印象的な悪党どもとの闘いを余儀なくされている地下室の特捜部だが、気になるサイド・ストーリーの解決の方向性がこれで見えたか、といった嬉しい予感に震撼しそうなニュースだ。
カール・マークはおそらくエド・マクベインの87分署シリーズのキャレラのようにあるときから年をとらなくなる恒久的なヒーロー像にはなるまい。未解決事件捜査に専念することを旨とする本シリーズは、毎度過去の亡霊たちを現代に引きずり出して対決するばかりではなく、生々しくカールという主人公の風変わりな日常生活と心情を重視してもいる作品群であり、同時に彼を追い込み、自らの中の暗黒面としてマークが直視することすら避け続けているアマー島の失態とその謎めいた経緯についての長い物語でもあるのだから。
アマー島で失われた同僚の記臆と同様に、日々、全身麻痺という姿でカールの家に同居しているハーディはアマー島の失態をカールに毎日いやが上でも突きつけ続けているのである。こうしたシリーズの全体を覆う黒雲のような通低音をベースにいつも語られるのがこの一冊一冊の重厚な物語であるところに、本書の凄みが秘められているわけである。十作という限られた作品の中でそれらが解決を見ないわけにはもはやゆかないところまで、それらの原因と結果論については度々語られているし、そもそも特捜部Qの存在理由ですらある。
さらに謎多きレギュラーメンバー・シリア人アサドの正体についても、どこかの作品中で明らかにされるに違いない。そうでなければここまで思わせぶりな数々の奇行の描写は有り得ない。これに回答がなければもはや罪である。
さてシリーズ全体の俯瞰はともかく、本書で今回もまた取り上げられたダークな題材であるが、これまでが娯楽色が強かったのに比して、今回は国家の恥ずべき部分として、差別された女性の強制堕胎、強制不妊治療などを行うという収容所の実態である。なんとこうした信じがたい国家暴力が作者幼年の頃まで存在し続けたというこの国の歴史的事実を作者は詳らかにすべく、小説という表現を活用したのである。
巻末に作者の一文が添えられており、ショッキングな事実が明らかにされている。民族衛生法・優生法といった恐るべき法律が1920年代から30年代には欧米30ヶ国以上で公布されていた。デンマークでは1929-1967年までに1万1千人が不妊手術を受けておりそのうち半数が強制的に行われたと推測されている、とある。「そして、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ等とは対照的に、デンマーク王国は今日に至るまで、こうした人権侵害にあった人々に対する賠償金の支払いも、謝罪も行っていない」
この題材を元に、人生を棒に振った女性が復讐の鬼と化す。同時期に消息を絶った複数名の行方をたどるうち、特捜部Qは、驚くべき真実に行き当たるのだが、ミステリの謎解きというよりも、凄絶な独りの女性が理不尽な人生を送ってゆく様の描写を読んでゆくのが辛い。娯楽小説それも警察小説の形を取りながら、サイドストーリーのカラフルな衣を纏わせながらも、物語の中心に作家の乾坤一擲の真理追求の姿勢が見え隠れしてやまないところが、魅力的な骨太の女性戦記としての本書を価値づけ、忘れがたい強烈なインパクトを残しているのである。 -
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アイスランドの作家ラグナル・ヨナソンの長篇ミステリ作品『白夜の警官(原題:Myrknaetti、英題:Blackout)』を読みました。
ラグナル・ヨナソンの作品は、8年前に読んだ『雪盲』以来なので久し振りですね。
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英国でドラマ化の人気シリーズ、第3弾!
アイスランド北部の町、ソイズアールクロークル近くの建設現場で、撲殺された男性の死体が発見された。
被害者は建設業者のエリアス・フレイソン。
シグルフィヨルズルに住民登録をしていたため、アリ=ソウルが捜査に駆り出される。
慈善事業にも関わっていたというエリアスだが、自宅からは大金の入ったスポーツバッグが見つかり、同僚からは陰の仕事に手を染めていた可能性を耳打ちされる。
一方、首都レイキャヴィークのニュース編集室に勤める女性ジャーナリスト、イースルンがこの事件の調査のため北に向かう。エリアスの元妻によれば、被害者は金や女性関係に汚かったらしい。さらに捜査関係者は、エリアスが行っていた不正の先で、ある少女が命の危機に瀕していることをつかむ。
その頃、アリ=ソウルの同僚であるフリーヌルに、脅迫めいたメールがいくつも届いていた。ある過去を抱えていたフリーヌルは、精神的に追い詰められていく。
噴火の影響で火山灰雲が垂れ込めるアイスランドの、白夜の二日間――。
捜査の先に見えたのは、日の沈まない極北の町に隠された暗い記憶の数々だった。
解説/小島秀夫
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2011年(平成23年)に発表された作品……首都レイキャヴィークより北極圏に近く、環状に連なる山とフィヨルドに囲まれて、空はいつも雲に覆
われ灰色にくすんでいて、かつては漁業の中心地として栄え、特にニシン漁は最大の漁獲量を誇ったこともあるという、アイスランド北端の人口1,200人ほどの小さな港町・シグルフィヨルズルを舞台にしたダーク・アイスランド・クライムシリーズ の第2作目です。
建設現場で撲殺された男性の遺体が発見される……アリ=ソウルは事件の背後にある人間関係の影を追い、レイキャヴィークからやって来た女性記者イースルンンは、別の角度から真相の断片に触れていく、、、
複数の視点が交錯しながら、町に眠る秘密が少しずつ輪郭を現していく……そんな構成が本作の魅力のひとつです。
警察小説としては十分に愉しめる内容でしたね……小さな町の人間関係、自然環境がもたらす不安、そして過去の出来事が静かに現在へ滲み出してくる構図はシリーズらしい味わいがありました、、、
ただ、個人的にはアリ=ソウルの公私混同”ぶりがどうにも馴染めませんでした……彼の若さゆえの未熟さ、と言ってしまえばそれまでですが、事件の捜査と私生活の問題が絡み合う場面では、どうしても引っかかりが残りましたねー もちろん、それが彼という人物の弱さであり、シリーズを通して描かれる成長の一部なのかもしれませんが、読者としては少し距離を置いて眺めてしまうところがありました。
アリ=ソウルのキャラクターにどこまで寄り添えるかで読後感は変わりそうですが、静かに進むミステリが好きな方、北欧の風土が生む独特の空気感に惹かれる方には、しっかり応えてくれる一冊だと思います。 -
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アイスランドの作家エヴァ・ビョルク・アイイスドッティルの長篇ミステリ作品『軋み(原題:Marrid i stiganum、英題:The Creak on the Stairs)』を読みました。
アイスランドの作家の作品は、1年半前に読んだアーナルデュル・インドリダソンの『緑衣の女』以来なので久し振りですね。
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CWAニュー・ブラッド・ダガー賞受賞作!
同居していた恋人との関係が唐突に終わり、エルマは長年勤めたレイキャヴィーク警察を辞め、故郷アークラネスに戻った。
地元警察に職を得て間もなく、観光名所であるアークラネス灯台の麓の海岸で女性の不審死体が見つかる。
所持品はないに等しく身元の特定が進まなかったが、数日後、妻が行方不明になったという届け出がある。
死体はクヴァールフィヨルズルに住むエリーサベトというパイロットのものだった。
夫によると、エリーサベトは死体となって発見される前日からカナダ便に搭乗し、三日後に帰宅する予定だった。
だが航空会社に確認すると、フライトの朝エリーサベトは自ら職場に病欠の連絡をし、行方をくらましていたという。
さらにエリーサベトは子どもの頃アークラネスで過ごしていたが、なぜそこへ行ったのかがどうしても腑に落ちないと言った。
「妻はあの町に行くのを嫌がりました。いくら誘っても絶対に行かなかった。
だから買い物に行くのはいつもレイキャヴィークかボルガルネースでした。
アークラネスに行くほうがずっと便利なのに。異様なほどあの町を嫌っていた。
憎んでいたといってもいい。」
エルマは過去を掘り始めた。
小さな港町ゆえの濃密な人間関係――時の堆積の中に深く埋もれていたエリーサベトの死の理由とは?
CWAニュー・ブラッド・ダガー賞(英国推理作家協会賞新人賞)受賞! 期待の新鋭による北欧アイスランド・ミステリの新たな傑作が登場!!
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2018年(平成30年)に刊行された作品です。
恋人との関係が唐突に終わり、エルマはレイキャヴィーク警察を辞め故郷アークラネスに戻った……地元警察に職を得て間もなく、灯台付近の海岸で不審死体が見つかる、、、
被害者はクヴァールフィヨルズに住むエリーサベトという女性パイロットだった……彼女は幼少期をアークラネスで過ごしたが、なぜ今そこへ行ったのか分からないと夫は言う。
「妻はあの町に行くのを嫌がりました。憎んでいたといってもいい」 エルマが辿り着いたエリーサベトの死の理由とは……? 英国推理作家協会新人賞受賞作、、、
期待の新鋭による、北欧アイスランド・ミステリの新たな傑作が登場! 英国推理作家協会新人賞受賞作!
小さな町アークラネスの灯台の麓の海岸で女性の遺体が見つかり、故郷に戻ってきた刑事エルマが捜査にあたる……という静かな導入ですが、物語は、現在の捜査パート(主にエルマ視点) と被害者女性の少女時代の語りが交互に進み、2つの時間軸が少しずつ重なり合い、やがて軋みを立てながら真相へと近づいていく、、、
少女時代のパートは特に胸に迫るものがありましたね……淡々とした語り口なのに、行間に押し込められた恐怖や孤独がじわじわと広がり、北欧ミステリらしい展開だと感じました。
一方、エルマの捜査パートは冷静で手続き的……彼女自身の過去が少しずつ滲み出すことで、被害者の人生とエルマの人生がどこかで共鳴し、物語に深みを与えている印象でした……アークラネスという町の描写も印象的で、海風の冷たさ、灯台の孤独、住民同士の距離の近さと、その裏に潜む見えない壁という土地の空気が、物語の雰囲気を決定づけているように感じました。
派手な展開はありませんが、静かに、しかし確実に心に残る結末でした……誰が悪いのか、という単純な話ではなく、なぜ誰も止められなかったのか? そんな問いが、心の中に静かに沈んでいく作品でしたね。