中学校までの同級生だった青砥と須藤は、時を経て50歳を過ぎてから再会します。
会わないでいた年月は長く、その間に、ふたりは苦労や失敗や過ちも重ねながら大人になっていました。
辛酸をなめた過去を他人に知られたくないという気持ちと、誰かには話したい、聞いてもらいたいという気持ち、両方が存在しています。
...続きを読む再会して間もない頃のふたりは、お互いの存在を優しく照らす月明かりに包まれているように思えました。
何気ない会話を交わしたり、一緒に飲みに行ったり、買い物をしたりする様子は、ささやかだけど尊くて幸せな時間を感じさせます。
文中で「好きなような、好きとは言い切れないような、弾力のある好意を抱いている。昔、駄菓子屋で売っていた、短いストローでふくらます、虹色の風船みたいな好意がふたりのあいだで呼吸していた」と表現されている、ひと山超えた大人の穏やかな関係です。
でも、山を一つ乗り越えると、また次の山が現れます。
次々と現れる山を最後まで超えていくのが人生なんだろうなと思いました。
青砥も須藤も、いくつになっても熱い思いを抱え、コントロールできず、妥協できず、それが切なかったです。
文中の言葉ですが「(胸の)もっとも柔らかな一点めがけて手を伸ばし、ずっと掴んで放さない」この世にひとりしかいない人を求める姿が強く胸に刺さりました。
平場の人生を生きるふたりがきれいごとなく、ありのままに描かれ、まるで本当にどこかに存在しているのではないかという気持ちになりました。