高樹のぶ子のレビュー一覧
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『作家、髙樹のぶ子が九州大学アジア総合政策センターの特認教授として、五年の歳月をかけアジアの十カ国を訪ね歩いて各国の作家や市井の人々と交流し、その成果を様々なメディアを通じて発信するというプロジェクトSIA(Soaked in Asia)の記録』、『アジアに浸る』からできた短編集、『トモスイ』。
『アジアに浸る』はどうも中途半端な印象をうけて、あまり好きではなかったのだけれど、SIA(Soaked in Asia)の活動からうまれたこの作品は、まったく違うものとなっている。
全体的に、死のイメージがつきまとう。
現実と虚構。
現在と過去。
死者と生者。
相対立するふたつの存在が1つの短編 -
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年間で10カ国を訪ねるたびに書かれた短編集。 どの短篇も予想通りアジアンな熱気や湿度を醸し出す。 喪失感や孤独感を書いているものもあるけど、どれも前向きな力があって暗くはない。女性の持つたくましさ、しぶとさが見え隠れする。 とはいえ、お話のテイストはさまざまだ。 予想通り、短篇「トモスイ」は川上弘美に近い。 とらえどころのない漂うおかしみって好きだ。 旅情や思慕が立ち込める「ジャスミンホテル」、「芳香日記」は円熟した女性の書き手らしい話だ。 静から動への意外な結末の「投」もいい。 土砂降りの台風の映像が浮かんで印象的なのが「天の穴」。この本の中での私のベスト。福岡の話だしね。 あ、今気づいたけ
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外見的には取り立ててとりえがないけど、知性があってかつ温厚な父親と家庭的な母親に包まれて幸福に暮らす主人公。
彼女の同級生である、アル中の母を抱えて貧しい中生きている、美人で早熟な松尾。その二人の友情物語。
こういう、間に男性登場人物を介在しない、「女の友情モノ」って、意外と見たことないですね。距離を詰めるとお互いが傷つく。あのあと二人が並んで語り合うことはもうないのでしょうし、「心通い合う友」にもなれなかったわけですが、けれど二人の心の一番深いところは、一瞬確かに重なり響きあったのだと思います。ラストを読んでいるときはもう涙目でした。
この作品だけなら間違いなく★5なのですが、同時収録の母娘 -
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ネタバレ11の短編。
家族写真に昔から写っている火鉢。
火鉢はどこからやって来たのか、記憶と心の冒険。
老人の妻と老人を殺して崖に落としたこと。
アラスカの自然と厳しい土地で、
かつて冒険の途中で死んだ英雄たちの姿を見るとき。
散歩で出会った蝉の幼虫にこめられた怨念。
ポンペイの発展した街と火山灰で消えた闇。
あの赤に染まった椅子と儀式。
思い出にはトマトがそばにいた人生。
一つ一つそれらを思い出しながらトマトを育てる老女。
彼との別れで行ったベネチアリド島で買った蜜蜂とバッタの置物。
30年を経て2つの置物の再会。
病気で入院している少女に渡された蚕。
繭に包まれた温かな世界とこの世 -
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久しぶりに高樹さんの作品を読んだのだが、こんな元気なヒロインは初めて。高樹作品をそれほど読んでいるわけではないので実際のところは分からないが、解説にも新鮮な作品のようなことを書いてあったのでやはり珍しいタイプなのだろう。
奈良の薬師寺で働く明日香は地名オタクで説話集の『霊異記』が愛読書、さらに懐いているカラスに編纂者の景戒の名を付けるほどハマっている。
そんな明日香に次々奇妙な事件が起こる…。
『母は殺された』という不穏な絵馬、『日本霊異記』に奇妙な書き込みを残して失踪した少女、落雷事故で父を亡くした少女の奇怪な言動などなど。
まるで『霊異記』をなぞるような展開だったり、ヒントを与えるかの -
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1968年、日本で起きたロートレックの名画『マルセル』盗難事件。新聞記者だった父が事件を追い続けていたことを、遺された父の取材ノートから知った千晶は、未解決の謎を辿り始める。
死ぬまで執着したこの事件を通して父を理解するため。
「死んだ」と聞かされていた母を探すため。
自らも新聞記者となった性から、未解決事件への興味。
ただ単純に『マルセル盗難事件』について描かれた作品と思い読み始めたけれど、どちらかというと父・母を追い求める娘の物語という面が多いのかも。
最後には、盗難事件が大きな組織犯罪へも繋がってくる。
「あれ、ここで終わっちゃうの?」感も残るけれど、この先を続けるとなると上下巻の分量 -
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全体的に昭和のノスタルジーを感じました。木造校舎のにおいがしそう。
『光抱く友よ』おとなしめの優等生涼子と出席日数不足で一年遅れの不良少女松尾の女子高生の友情物語。心理描写が細やかで繊細にていねいに書かれていて、でもくどくないところがいいですね。ハッピーエンディングではないけどしんしんと切なさが染みてきて余韻が残ります。『揺れる髪』母と娘がすれ違った後で和解する話。かえるのエピソードはちょっと気持ち悪い。母親がヒステリックに感じるところがあったけど丸く収まったのでほっとしました。でも普通あんなこと言われたら子供は傷つく。この親子この後も大丈夫なのだろうか?『春まだ浅く』心から惹かれ合いつつも結