あらすじ
大学教授を父親に持つ、引っ込み思案の優等生・相馬涼子。アル中の母親をかかえ、早熟で、すでに女の倦怠感すら漂わせる不良少女・松尾勝美。17歳の二人の女子高生の出会いと別れを通して、初めて人生の「闇」に触れた少女の揺れ動く心を清冽に描く芥川受賞作。他に、母と娘の間に新しい信頼関係が育まれていく様を、娘の長すぎる髪を切るまでの日々のスケッチで綴る「揺れる髪」等2編。
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Posted by ブクログ
【美しさと緊張感が漂う女性同士の関係を描く名作】
大学教授を父に持つ、ごく普通の家庭で育った優等生の相馬涼子。一方、アル中で障害を抱える母親を持つ、不良少女の松尾勝美。二人の女子高生が微妙な距離を保ち、緊張感を持ちながら淡い友情を重ねていく過程を美しい文体で描いた『光抱く友よ』。美しい文体ながらも、学校でも、家庭でも緊張した空気を感じる。
淡くも儚い友情に終わる2人の関係だが、涼子の心境の変化がひしひしと伝わる。また、松尾と母とのやり取りにも緊張感が漂うが、母親に対する松尾の優しさも垣間見え、女性とは不思議なものだと考えさせられる。高樹のぶ子が芥川賞を受賞した作品ということで読んだが、彼女は思春期の女性を描くのが本当にうまいと感じた。重苦しいように感じたが、不思議とスピーディに読めたのも、彼女の筆力の賜物だろう。
その他、気の強い娘についていけない母の心理描写を描く『揺れる髪』、セックスなしの関係を交際相手と続ける主人公と真逆の友人の同居生活を描く『春まだ浅く』の2編が収録。女性の処女性についてはわからなくもないが、古いと感じてしまった。『光抱く友よ』については、読者次第かと思うが、芥川賞を取るだけの名作であると思う。
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芥川賞受賞作。少しでも不純なものを見つけたら、たちまち全てが嫌になってしまう、その時期にある葛藤を思い出した。人間の根底にある1つのドラマを見ているようだった。
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私はあんまり作家によって作風が女性的だとか男性的だとか思わないんですけど、この本に限っては本当に女性でないと描けない世界だなと思いました。
本当に繊細で心の裏側まで透け出るような奇妙な透明感があります。
個人的に好きだったのは二篇目の「揺れる髪」です。
すべてが砂糖の砦の上でのできごとかのように、
ゆらゆらとしていて。
繊細な強さのある作品たちです。
とてもオススメです。
心の底から湧いて出るきれいな涙を流せる気がします。
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道徳的な問題が善悪の判断とすれば、表題作含む三作はどれも決定不能なものに対する主体的な判断があり、倫理的次元における少女の葛藤が、若者の青春という親しみやすさ、または俗っぽさとは一線を引いて語られ、そのエモーショナルな雰囲気に誘惑されていると、どっちつかずのような問題ではない、その判断で幸か不幸が待ち受けているのではないような、その判断を自らの手で引き受けるしかないような状況が訪れるため、
インフルかコロナか分からないが体調悪いため手っ取り早く読めるものをと思って開くようなものではなかった。こう書くと堅苦しい話かと思われるかもしれないが、特に二作目の「揺れる髪」にあるような母娘の可愛らしいすれ違いなど懐かく感じる話もあるのでとても良い。
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昔の人の貞操感はかなり古臭いという感じがしなくもないけど、今の時代も人との繋がりが難しいという中、実は今の時代の若者にもこれくらいの意識を持つ人が一杯いるんかもしれない。いやもちろん全く同じじゃないだろうけど、経験がないまま年を取れば一緒だろうし。
何が言いたいんだと聞かれれば昭和の本だけど令和になっても十分に現役かもと思えるような部分も多くあって、青い春の中にあるダークサイドというかモヤッとした部分に触れるのもまた年寄りの嗜みじゃろうか。
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初・高樹のぶ子。読んでもいないのに私の中で「女性向けの作家」という思い込みがあって手を出していませんでした。
芥川賞作品を受賞した表題作の他に「揺れる髪」「春まだ浅く」の2編。
「光抱く友よ」は良いですね。
大学教授のひとり娘である主人公・涼子とアルコール依存症の母親を抱え、水商売のかたわらに高校に通う松尾の友情物語。二人のキャラも、物語の流れも良くて、芥川賞らしい凝った見事な文体がむしろ邪魔になるほど。特に松尾は魅力的で、映画化すれば良いように思いますが(かつてTVドラマ化された様です)が、40年前の作品だからもうネタとしては古いかな。
母と小学生の娘を描いた「揺れる髪」も良い短編でしたが「春まだ浅く」はちょっと期待外れ。思想を全て登場人物に語らせるような(情景や行動ではなく)手法で読み疲れてしまいました。
全体としての感想は、やっぱり「女性向けの作家」なのかな。
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久しぶりに、本当の小説らしい本をよめた。
高樹のぶ子のえがく…清冽な女性の描写が、
今どきにはない新しさをかんじさせる。
ストイックなことは結構みだらさを含んでいて、今のように性におおっぴらな時代にかえって妖しいものを見せてくれる。
フランスの哲学的な小説を思い出させられるのは自分だけかもしれないけれど。
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書かれた年代が随分昔ではあるけれども、毒親の内容・・・。描き方がとても丁寧で、その時代の家の感じなどを想像しながら読み進めました。
女同士の友情が描かれています。
感情面は特に描かれていないのですが、切なさがとても伝わってきました。いい作品ですね。
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09/8/05〜09/8/16 ゆっくり読んだ。「光抱く友よ」が一番鮮烈な印象。(読んでいて、灰谷さんの、『少女の器』を思い出した) でも好きなのは、「揺れる髪」。
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外見的には取り立ててとりえがないけど、知性があってかつ温厚な父親と家庭的な母親に包まれて幸福に暮らす主人公。
彼女の同級生である、アル中の母を抱えて貧しい中生きている、美人で早熟な松尾。その二人の友情物語。
こういう、間に男性登場人物を介在しない、「女の友情モノ」って、意外と見たことないですね。距離を詰めるとお互いが傷つく。あのあと二人が並んで語り合うことはもうないのでしょうし、「心通い合う友」にもなれなかったわけですが、けれど二人の心の一番深いところは、一瞬確かに重なり響きあったのだと思います。ラストを読んでいるときはもう涙目でした。
この作品だけなら間違いなく★5なのですが、同時収録の母娘の話はあまり響かなかったので、★4に。
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タイトルにひかれて手に取った。
表題作「光抱く友よ」は優等生の涼子と不良の松尾、全然違うタイプの出会いと別れ。ずっと涼子のほうが追いかけてたし好きって言ってるし恋愛でなくとも二人の関係は特別。でもハッピーエンドにはならない。そこがよかった。
全体的に昭和ノスタルジックだが、本筋はそれを気にせず読める。表題作が1番好みだった。
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今は離れてしまった郷里防府の地が舞台だ。作中、郷里の情景描写が巧みで味わいがあった。
そして女の友情の物語、作者は二人の女子高生に限りない優しさをもって描いている。大学教授を父に持つ相馬涼子は早熟の不良少女松尾勝美に言う。「うちは、なんで松尾さんみたいな皆がよく言わんひとに近づいたのか自分でもわからん。ただ松尾さんは、これまでの十七年間、うちの心がきちんと片づいとったところを引っくり返したんよ」と。青春の中での友人の位置をどのように評価しているか作者の心中を推し量れる。
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全体的に昭和のノスタルジーを感じました。木造校舎のにおいがしそう。
『光抱く友よ』おとなしめの優等生涼子と出席日数不足で一年遅れの不良少女松尾の女子高生の友情物語。心理描写が細やかで繊細にていねいに書かれていて、でもくどくないところがいいですね。ハッピーエンディングではないけどしんしんと切なさが染みてきて余韻が残ります。『揺れる髪』母と娘がすれ違った後で和解する話。かえるのエピソードはちょっと気持ち悪い。母親がヒステリックに感じるところがあったけど丸く収まったのでほっとしました。でも普通あんなこと言われたら子供は傷つく。この親子この後も大丈夫なのだろうか?『春まだ浅く』心から惹かれ合いつつも結婚するまでは性的な繋がりを持たないことにこだわる短大生と大学生カップル。うーんこんなに深くややこしく悩まなくてもいいのではないか?でもこういう時代だったのかな。容子の気持ち分からなくもないけど、容子の友達の貴子にまであれこれ言われて恒夫は複雑な女心に悩みが深くなってしまったのではないか?お気の毒に、と正直思った。
Posted by ブクログ
1983年下半期芥川賞受賞作。小説に描かれている時期はいつ頃だろうか。筆者自身の体験がもとになっているとすれば、1960年代半ばの山口県防府市ということになろうか。今でこそ普通の共学になったようだが、かつて山口県内の公立高校は長らく男女別学(校内に男子棟と女子棟がある)だった。そこでの相馬涼子と松尾勝美との交友とすれ違いとを描くが、それは結局のところ交点を結ばない。涼子は、理解しようとしたはずのクラスメート(いわゆる不良であり、特異な環境にいる)を最後までファーストネームではなく、「松尾」と呼ぶのだから。
芥川賞としてはややインパクトには欠けるか。この時の候補作では、むしろ干刈あがた「ウホッホ探険隊」の方が良かったかもしれない。高樹のぶ子にはまだ次があり得た。
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うーん結局の所、何が言いたかったのか私にはとらえ切る事が出来ませんでした…。
表題作を含め三作品で成り立っています。
表題作の、光抱く友よのアル中の母、何とも生々しくて
かなりの嫌悪感を抱いてしまいました。
ドラマ化もされているみたいなので、映像で見たら又違った捉え方が出来るかも!
Posted by ブクログ
『光抱く友よ』は、優等生の主人公と不良少女との関係という、青春小説によくあるようなテーマである。それに、味気ない、淡々とした文章で始まるため、読み始めはとっつきにくい感じがする。
しかし、最後まで読むと、この味気ない文章とテーマが、ものすごく良く見えてくる作品になる。
この変化には驚いてしまう。
特に面白いという作品ではないし、テーマもありきたり。
だが、作品名の『光抱く友よ』にピッタリのストーリーとクライマックスであった。
Posted by ブクログ
書かれてからかなりの時間が経っている本だが、その時間を感じさせるどころか、良質な文学を読んだ時に感じる爽やかな読後の印象が残った。作者の漢字使いのセンスがよかった。(2005.7.18)