高樹のぶ子のレビュー一覧
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1983年下半期芥川賞受賞作。小説に描かれている時期はいつ頃だろうか。筆者自身の体験がもとになっているとすれば、1960年代半ばの山口県防府市ということになろうか。今でこそ普通の共学になったようだが、かつて山口県内の公立高校は長らく男女別学(校内に男子棟と女子棟がある)だった。そこでの相馬涼子と松尾勝美との交友とすれ違いとを描くが、それは結局のところ交点を結ばない。涼子は、理解しようとしたはずのクラスメート(いわゆる不良であり、特異な環境にいる)を最後までファーストネームではなく、「松尾」と呼ぶのだから。
芥川賞としてはややインパクトには欠けるか。この時の候補作では、むしろ干刈あがた「ウホッ -
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新聞記者の千晶は父が遺した取材ノートから知った、ロートレックの名画『マルセル』盗難事件。1968年、嵐吹き荒れた時代の不可解な事件を、父はなぜ追い続けたのか。謎に導かれるまま、新聞記者・千晶は、東京から神戸、京都、パリへ…。実在の未解決事件をテーマに恋愛小説の名手が贈る芳醇な「絵画」ミステリ。
いつも推理小説を読んでいるのでミステリーとしては薄い、その割に分厚い本で長かったなーという印象が残ってしまった。千昌とオリオさんの恋は微笑ましくて良かった。ラストもハッピーエンドなのかどうかよくわからないけど…ミステリー部分も私には謎が多いままだった。それが未解決の事件を引き立たせているのかも? -
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1968年(昭和43年)に、京都国立近代美術館でロートレックの「マルセル」が盗難事件に遭う。数日後、額縁だけが見つかる。時効成立後、「マルセル」は発見されるが、犯人は見つからず事件は迷宮入り。
本作は、この実際に起こった事件をベースに作られた小説。
主人公の千晶が、私と同い年なのに親近感が湧く。
また、額縁が見つかったとされる疎水沿いの小径も、おそらくあそこのことだろうと想像がつく。
そして最後に、千晶とお母さんが背中合わせで対面するオランジュリー美術館。太陽の優しい光が差し込むモネの睡蓮の部屋。私が大好きな美術館の一つ。
ストーリーも確かに面白かったけれど、私は何やら懐かしいものに再会 -
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アジア各地を舞台にした読み切りの短編小説10編を収録。まさに自在なまでの書きっぷり。著者は、九州大学アジア総合政策センター主宰で行われた「SIA」(Soaked in Asia=アジアに浸る)というプロジェクトに参加する形で、この作品を仕上げていった。五年に渡りアジア十ヶ国を訪ね、その国の文学作品を日本に紹介しがてら、その作品の背景をメディアに発信しながらの創作だったという。いかにもこのプロジェクトらしい作品は、モンゴルを舞台とした「モンゴリアン飛行」だろうか。草原に昇る満月の描写が美しい。南の島の夜の海が舞台となった表題作の「トモスイ」は、官能的でなんとも怪しい気配に満ちている。視覚だけでな