冒頭で少女が問う。
「どうして男は戦いが好きなの? なぜ男は戦うの?」
多くの場合において、暴力が人間のルールを決めてきたと思う。
戦争を縮減しようとする試みは、皮肉にも暴力によって断ち切られる。
今年もロシアがウクライナを武力侵略した。応じるほうも暴力だ。
世界は、それを認識する
...続きを読む人間によって、存在の仕方が違うと思う。
物理学者にとっては数式だらけの世界かもしれないし、
生まれたときから戦乱の中で生きる子供たちにとっては
安全か危険かの区別しか存在しない世界かもしれない。
あなたを愛する人にとっては、あなたとあなた以外の2種類しか
存在しない世界なのかもしれない。
人間は、言葉によって自分が認識する世界を他人に説明できる。
自分の世界を説明することをあきらめてはいけない。
相手の世界を知ろうとすることをあきらめてはいけない。
何を話すかということも大切だが、話をすること自体、お互いの違いを
知ること自体が大切なのだと少年と少女は教える。
少年は言う。
「自分から会話を閉ざすようなことはしたくないんだ。
例えば僕と君が違う星の人間だとして、それをつなぐのは言葉だろう。
こちらから閉ざしてしまうのはあまりにももったいない。
それに相沢さんとの会話はあまりに自分と違って、なんだかおもしろい」
冒頭で「(東くんが)何を言っているかわからない」と言っていた少女は、
終盤「私はお話の中に東くんの見ている世界が垣間見える気がして、
そこがよかった」と言う。
会話による関係性(コミュニケーション)を構築、維持し続けることによって、
互いの世界の在り方の違いを知り、自分の世界の在り方も変わってくる。
世界は普遍性を帯びてくる。
まるで別の星に住んでいるかのようだった少年と少女が、
「意外とそう大差ない」世界を認識するのだ。
小説を書きあげた少年が末尾で言う。
「恋愛小説にしたのは、それが一番人間らしさが見えると思ったから」。
この漫画が恋愛漫画なのは、作者がそれが一番人間らしさが見えると
思ったからではないか。
戦いの縮減は、語り合うことで見えてくると信じたい、そう思える作品である。