ジョセフ・ヘンリックのレビュー一覧
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人類は、協力し合う事で地球上の他の生き物よりも繁栄する事ができた。家族での支え合いと、更に他の集団との競争に打ち勝っていくために、親族集団の規模を拡大する必要があり、その手段として親族内での婚姻等を中心に集団の規模の拡大、そして他の集団に対する優位性を目指してきた。しかし、ヨーロッパ、特に西欧の世界ではある時期から、これとは逆の社会が築かれる方向を進めらていく事になる。カトリック教会となるキリスト教の一派が4世紀ごろから、親族間の婚姻の規制を強化する支持命令を出し続け、ヨーロッパでは親密な親族関係が解体されたからである。それにより人々は個として生きていくことが出来る社会に適合する必要性を強める社会圧がかかるようになる。親族の帰属意識よりも同じ利害関係を持つ団体(ギルド、修道院、大学、そして住民のこの権利を等しく認め、公正なルールの尊重、その担保となる西洋法やその運営のため、個々人の参加を約束する民主主義的土壌)の形成が促進される。
このような特徴を持った社会の形成は西洋特有のものであるが、西洋人は1500年以降、世界各地にいち早く進出し、主導権を握る事で、これが世界のスタンダードであるという意識を持つようになる。そして西洋人という「WEIRD」な人々が築いてきた社会と価値観が世界に普及していった。しかし、「WEIRD」な心性とは違う社会(この方が人類としてはスタンダードなのだが)に暮らして来た人々はこれに適応できず、世界各地で大きな摩擦が生じるのである。
西洋が世界で経済的優位にたてるようになったのはなぜか。著書が前著である『文化がヒトを進化させた』で主張した通り、経済を発展させるイノベーションは一部の才能ある人人の個人的なひらめきや発見によってもたらされるのではなく、いわゆる「集団脳」(他者から学び、知識や技術を蓄積し、それを関連・応用させる事で可能になる=集団の知恵の集積)により推進される。「WEIRD」な社会での都市化(都市に様々な人々が自由に集まり、活動する条件の整った社会)はこの「集団脳」の促進に良く適合するシステムである。遺伝子による進化ではなく、まさに「WEIRD」な人々が築いてきた文化との相互作用により、西洋人特有の社会進化が遂げられたのであった。 -
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世界は主に西欧とアメリカ合衆国が中心に動かして来た。これにより、西欧をスタンダードに考えがちだが。ここに大きな落とし穴がある。それら地域の居住者を著者は「WEIRD」と呼び、実は彼らの心性が世界のスタンダードからすると逆に特殊である事が考えられる。「WEIRD」とは西洋の(W)、教育水準の高い(E)、工業化された(I)、民主主義の(D)という特長を持つ人々。彼は独立心が強く、同調性が低く、分析的に物事を見、公平性を重視する。今まで、学問的に様々な実験、アンケートを行う際に学者は「WEIRD」の大学生を中心に対象として行なって来たが、これが人間の示すスタンダードな結果ではなく、世界全体的に見て、必ずしも当てはまらない事がわかって来た。では「WEIRD」の心性を築いた要因は何か。上巻ではここを中心に論述が展開される。
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面白かった!ヒトをヒトたらしめているのは文化であるということがよく分かった。ヒトはチンパンジーと比べて特別賢いわけでも生物として優れているわけでもない。すべては文化の蓄積のおかげなんだ。ヒトは文化と切り離されたら生きていけないが、それは現代人が退化したわけではなく、狩猟採集時代においても同じこと。樹上から降りて大きな集団を作り、集団内で文化を蓄積し、文化の進化とともにヒトの遺伝子も進化してきた。
また、一見不合理に思われるようなヒトの心理特性についても文化進化の面から考えると納得いくことも多かった。こうしたヒトの生得的心理に逆らうような規範が社会に根付くのは難しいだろうこともよく分かった。それならどうすればいいかは今後の社会において大きな課題になるだろう。
ヒトの集団脳を飛躍的に拡大させる可能性に満ちたインターネットについても、今や生成AIにより情報の屑まみれになりつつあるので、早急に制度や規範を整えたほうがいいだろうなという個人的な感想をもった。 -
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本の名称にある。WEIRDとは、western(西洋の)、 educated(教育を受けた)、 industrial(工業化されている)、rich(豊かな)、democracy(民主主義国)で暮らす人たちの特徴のこと。個人主義的であり、身内の利害よりも法を大切にし、集団への同調傾向が少なく、感情より理性を優先し、分析的解釈を好むというもの。日本もお手本にし、世界に広がったこの価値観によって、多くの国の法体系は作られているし、人権の尊重、個人の尊厳重視、法治主義など行動基準にもなっている。まるで、文化的な先進国に生きる人間はみんなこの基準でものを考えているとでも言いたいような。でも、実際は大きく違っていて、それはハンチントンの文明の衝突でも説明されているし、今やweirdな人たちが引っ張ってきた世界はあちこちで軋んでいるようにも見える。「鉄・病原菌・銃」でも説明できなかったことをかなり補足していると思うが、複雑なことを一面で切り取った感が否めない。テーマがテーマだけに、しょうがないかも。
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世界は目まぐるしく動いており、これまで感じた時間の流れがゆっくりに感じるくらい、今のそれは激流にも等しく感じる。従来からある行きすぎた資本主義とそれにより一層顕著になる貧困の問題。過度の(地球資源が抱えることのできる人間の数に対して)人口増加、そしてそれが引き起こす食糧や資源配分の問題。人間が地球を破壊に導くような極端な経済活動は、地球環境の害悪となり気温の上昇やこれまでに無い気候変動を引き起こす。富めるものが富を独占し、上位10%が富の75%を所有、下位50%は僅か2%しか所有できないような二極化する世界。それら問題に対する解答を出せるか、近年技術進歩が、シンギュラリティを超え、一年経てば全く別次元へと進化し続けるAI。労働の在り方や社会の構造までをも変化させている。更には人類のあらゆる問題を解決に導くとされる量子コンピュータの実用化に向けた各国の技術競争。過去に人類が技術進化を遂げるために重要な契機となってきたのは、戦争とそれに利用される軍事技術の開発であった事は言うまでも無いが、ロシアによるウクライナ侵攻は、正にドローンを始めとする無人兵器の躍進だ。かねてよりそうなる事は予想されてきたが、ドローンは各国の軍隊のあり方を著しく変化させた。
少し前に中国で行われたロボット技術を競う大会の映像を見たが、数年前にぎこちない動きで笑いを誘ったような人型ロボットは、人間の動きに近い滑らかでかつ人間よりも機敏に正確な動きを疲れもせずに続けることができるようになった。AIとの組み合わせで、自律的に考え行動するロボット達が、人間が行ってきた労働の一部を既に代替し始めている。確かにこの流れが加速すると、戦争で血を流す人間も居なくなるかもしれない。それと同時に技術的な優位性のみで国家間の対立は勝敗が決まるようになっていくだろう。
本書はこうした現代の最新の世界の情勢を、各国の著名な学者、研究者などへインタビューし、これまで通用した常識から新常識へと転換する瞬間を捉えたような作品だ。そのインタビューの質問にはある共通の質問が含まれる。それはアメリカのトランプ大統領の存在に関連するものだ。毎日、世界中のトップがトランプ氏一挙手一投足に注目する。先が読めない動きに対応せざるを得ない各国のリーダー達の心労も察せられる。インタビューに回答する世界の頭脳達がこのトランプ氏をどう見ているのか。大凡答えは予想できるのであるが、それぞれの専門領域からの考察は興味深い。
そして母なる地球「水の惑星」の水にまつわる問題や課題で本書は幕を閉じるのであるが、前述したような技術革新は地球外への水の探査機に向けられていく。人類が水を手に入れ水を欲しいままに使ってきたこれまでの歴史。人口が増え続け、食糧だけでなく水を奪い合う未来が見え隠れする。火星に水の痕跡を探し求めるなど、人類は常に水を探して、その勢力範囲、領域を拡大してきた歴史が示すように、水の惑星を飛び出して、最早宇宙空間も自由に行き交う時代に突入した。私が人生の幕を下ろすまで、地球は持ちこたえていて欲しいが、その時社会は一体どうなっているのだろうか。30年前には想像つかなかった今。更に30年先は益々想像できないものになっているだろう。本書は先ずは今の最新の常識に触れていく良い機会になる。 -
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もはや自由民主主義では気候変動とAIの危機に対抗できないので新たな仕組みを作らなければならないと言うスラヴォイ・ジジェク。
神の見えざる手などという嘘に踊らされて完全な自由に任せていては取り返しがつかないことが起こる(実際に起きている)と警鐘を鳴らすジョセフ・E・スティグリッツ。
西洋の白人にとっての移民問題の深刻さを主張し日本も移民に関して受け入れるか否かの問いに真剣に向き合うべきというエリック・カウフマン。
資本主義は民主主義的ではなく、何を作り何を作らないのかを一部の富裕層が勝手に決めているだけで
、社会と環境のために何を作るべきかを人々が決めるようにシステムを変えるべきというジェイソン・ヒッケル。
現在の西洋の台頭は必然でも安定的な状態でもなく、単に一夫一婦制といとこ婚を西方協会が禁じたことによって血縁が薄れ結果として産業革命がうまくいっただけの一時的な状態に過ぎないと看破するジョセフ・ヘンリック。
世界は多極化しており、これから人々は命の経済と死の経済のいずれかを選択しなければならないと説くジャック・アタリ。
量子コンピュータの夢(ガン撲滅、老化撲滅、太陽フレア予測 等)を語るミチオ・カク。
水の惑星においては水のネットワークを意識して維持しなければならないと説くジェレミー・リフキン。
博識の知性たちのインタビューは興奮と気付きがたくさんあった。
星4つ。 -
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定期的に読みたくなる種類の新書。最新状況の確認というか、自分の認識のアップデートとしてのルーティンみたいなもの。世界の知性と言われ、リーダーたちのメンターとしても一目置かれている方々。哲学、経済学、人口学、物理学などの各分野から、社会や政治、技術がどうなっているかを解説してくれている。共通しているのは、「現代」が将来から見たときに、分岐点だったと言われる時代ではないかということ。民主主義、資本主義、宗教などの変化や、AIの台頭などで、過去100年より驚異的なスピードで格差が広がっているということ。もう一つは、フラット化しつつあるにもかかわらず多くの国々が独自の価値観をより重視し、配慮なく振る舞う傾向が強まっていること。ある点では手を握るが、別の点では激しく対立する、などが表面化している。日本の外交は、良くも悪くも曖昧戦略と言われるが、このようなご時世、案外これは生存戦略としては効いてくるのかもしれない。
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厳しい環境に適応するために遺伝子が変化してきたというこれまでの典型的な進化論的アプローチとは異なり、生き残るために文化が形成され、それに適応してきた結果、ヒトが遺伝的にも進化してきたという新たな進化論を、様々な事例を挙げながら解説している本書。正直「卵が先か、ニワトリが先か」のような話かと思っていたが、読むと非常に説得力があり、大変興味深かった。
人類が地球上でもっとも繁栄してきたのは、単に知能が高いからではない。他の動物との決定的な違いは「文化」があること。環境に適応していく中で文化(毒抜きや調理法、狩猟方法、道具の作り方、タブー、儀式、風習、ルールなど)が生じ、それに基づいて社会が形成される。社会の中では規範や道義を守り、集団に属することが生存にかかわってくる。逸脱者は集団内に居場所がなくなる=生存できないが、逆に集団内でプレスティージを得ている者は、その利他的な行動で他者を感化し、良いモデルとして模倣の対象となる。結果、文化や道義を遵守する社会規範ができ、ヒトはより向社会的・協力的な生き物となった。
この社会規範という部分で特に印象に残ったのが、赤ん坊を対象として行われたパペットの道徳劇の実験。まだ言葉もわからないような赤ん坊が、反社会的な者に対してネガティブな反応を示しただけでなく、反社会的な者を罰する者を支持する傾向が見られたのは、ヒトが社会的な生き物であるということがDNAレベルで刻まれているという証であり、大変興味深く思う。
トウガラシの例と同じで、ルールに縛られることはおそらく生物としては不自然なのだが、逸脱者には制裁が加えられ、規範を守る者には報酬が与えられてきたことで、人間は規範順守を直感的に喜びと感じるようになった。つまり文化がヒトを進化させたのである。「人類の家畜化」という言葉に納得した。
これまでヒトが繁栄してきたのは、ヒトが模倣する生き物だからであるが、この模倣により、発明(インベンション)せずに革新(イノベーション)を生み出すことができるとのこと。つまり、模倣するヒトはさらに進化する可能性があるということだ。今後どのように変わっていくのだろう。人間は本当に面白い生き物だと改めて思う。 -
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人間とチンパンジーの何が違うか、から始まる本書。つかみから面白い。ちなみに違いは模倣力の高さが挙げられていたが、逆にその模倣癖が災いしランダム選択がしづらくなっているという知識も楽しい。
人間は、共同体で模倣による知的ノウハウを積み重ねることで文化を作り、今や地球で1番強い生物になっている。共同体というのがミソで、孤立すると持っていたノウハウは失われる。個人が集まり重なって過ごせる能力の高さが、人間の強さの元とわかる。
進化してきたこと全てが文化進化の働きと言われていることに全面同意はできないが、内容は概ね納得できるものが多い。心理実験から民族の話等、多岐に渡る内容のため、単純に様々な知識を得たい時にもおすすめしたい本。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ難しいテーマは丸々1冊だと読み切れないけど、インタビュー形式で読みやすい。
人口動態が変わっていわゆる白人中心・優位な時代が終わりつつあり、多極化やトランプ政権など国際政治の状況も様変わりで、価値観や政治が不安定化している、という現状分析が多かったかと。世界がどこにどう向かうのか、帯の「「常識」の時代は終わった。「力が正義」の時代が始まる」は暗澹とするけど、ある程度ニューノーマルとして現実を認識する必要はあるのだろうな。
興味深かったのは、ジョセフ・ヘンリック(人類学者)のパート。
・WEIRD(西洋の、教育水準の高い、工業化された、裕福な、民主主義の)な特性(個人主義、他人への信頼、傾向性主義、分析的思考)は世界的には少数派。
・日本人や韓国人は欧米化著しいかと思いきや、相手との関係性によって態度を変える。
・宗教の中でも西方教会がいとこ婚を禁じたことで、氏族社会が解体。親族ベース制度から一夫一婦制の核家族→人が移動しやすくなったり、血縁以外の共同体が生まれたりして、ヨーロッパの発展・産業革命の基礎となった。
・「子ども時代に引っ越しを繰り返した若者は、友人と初対面の相手をあまり分け隔てしなくなるという」←個人的に思い当たる。
量子コンピュータ(ミチオ・カク)の話は異色、そして難しい…
水が基礎インフラ(ジェレミー・リフキン)、これ最近よく聞くな。