初版は2011年で、その時点での最新の宇宙論をわかりやすく解説した本。
様々な宇宙論の中でも、特に、暗黒物質と多元宇宙論について詳しく掘り下げている。
ページ数が限られているブルーバックスの本なので、あれもこれもとあちこち解説しているのではなく、現代の研究では、どのような理論に基づいて、どのようなことが判明しているのか、というところにフォーカスして、詳しく説明されているのが良かった。
文章はあまり上手ではなく、なんでもっと上手い喩えがなかったんだろう、というように思うところや、言葉の使い方がおかしいと思うところはあり、その点は、読んでいて興奮が醒めてしまうところがある。
各章の終わりに載せられている質疑応答コーナーは、あまりFAQ的な内容ではなく、誰もが感じる素朴な疑問というよりは、筆者が説明をしたいことに自問自答しているような感じで、もっとみんなが疑問に思うようなことに対して答えればいいのにという気がした。
宇宙論の進化の時系列に沿って、最初から順番に説明をしていっていて、後半では、かなり新しい知見がたくさん含まれている。
最新の理論になるほど、実際に観測出来ない、想像のレベルに入っていって、哲学的な領域になってくるのだけれど、そういう話しのほうが、読んでいて面白かった。
【印象に残った内容】
・重力が他の力(電磁気力)などに比べて極端に弱いのは、別の次元に力がにじみ出てしまっているからという説が有力である。
・現代では、質量保存の法則やエネルギー保存の法則が成り立たない現象が観測されているので、それらは普遍的な法則ではなくなった。
・CERNがおこなっているLHCの実験では、ブラックホールが生まれる可能性があるが、小さく、すぐに蒸発するものなので、危険はないとホーキングが予言している。
重さがあるということはエネルギーがあるということです。何もしていないのにエネルギーをもっているということは、不思議なことです。
暗黒物質が異次元から来たという説は、この疑問を解決することができます。実は、この重い素粒子は、私たちからは見えない次元を走っているのだと考えるのです。私たちからはその次元は見えないので動いているとは思えず、止まっているように見えます。しかし、3次元より高い次元から見ると、その素粒子は走っているのです。(p.90)
暗黒エネルギーについては、エネルギー保存の法則や物質の保存の法則というのは成り立たないということになるのでしょうか?
物質保存の法則は、実はもう成り立っていません。核反応や加速器を使った実験をおこないますと、反応の前後で物質の量が増えたり減ったりすることがありますので、物質だけでは保存しないことがわかっています。(p.127)
私たちが暮らしている3次元空間を膜のようなものだと考えると、その周りにあるのが異次元ということになります。電磁気力はこの三次元空間の中にへばりついているので、二つのものを離していっても、3次元空間の中だけでしか強弱がついていきません。ですが、重力は異次元の方向にも出られるとすればどうでしょう。二つのものを引き離していくと、重力は三次元方向だけでなく、異次元の方向にもにじみ出ていくので弱くなっていくということが起きると考えられます。(p.148)
私たちが真空だと思っているものにはエネルギーがたくさんあるのかもしれません。このエネルギーのことを真空エネルギーと呼んでいます。
『般若心経』の中に、「色即是空、空即是色」という言葉があります。色というのは物質的な世界という意味です。空は空っぽという解釈でもいいのですが、仏教的な意味としては色、つまり物質的な世界を成り立たせるための法則のようなものであるらしいです。(p.182)
最新のひも理論の考えでは、宇宙はいわば試行錯誤だということになります。なぜだかはまだ分かりませんが、宇宙は「とりあえず」100の500乗個の解に対応して10の500乗個できたのかもしれません。ほとんどのトライは「失敗」します。つまり真空のエネルギーが大きすぎてすぐさま引き裂かれて人類は生まれません。真空のエネルギーの大きさだけではなく、大きくなった次元の数、いろいろな素粒子の質量、四つの力の強さ、いろいろな物理量がそれぞれの宇宙で異なっています。「たまたま」うまくいった宇宙に限って私たちは生まれたということになります。(p.192)