上間陽子のレビュー一覧
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1972年(S.47)に沖縄は本土復帰を果たした。
「その後沖縄はどうなったか?」普天間で暮らす著者が現状を綴ったエッセイです。幼い娘を持つ母の思いも伝わってきました。
息が詰まるような書き出しでした。
「食べられなくなるほどの苦しみ」を受けた彼女が書く作品を、最後まで読まなければならないと思いました。
美しい沖縄の海。人は海に住む生きものと暮らし、亡くなればまた海に帰っていく。
シマ(今帰仁村)では、祖父の遺骨をお墓に納めた後、海に入り、海の彼方(ニライカナイ)に皆で声をかける。
旧暦の12月8日には、家族の健康や無病息災を願い、ムーチー(鬼餅)を作る。
沖縄に残る風習は親から子へと受け -
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ご飯が好きな沖縄で暮らす母と娘の話かな〜くらいに読み始めたら全然違った。心にガツンと来る内容だった。
沖縄と聞けば、旅行、青い海、リゾート、バカンスといったイメージばかり。SNSでもそういう明るい沖縄の姿しか見かけない。でもこの本を読んで、中学の修学旅行で初めて訪れた沖縄のことを思い出した。初めての沖縄の記憶は、戦争、白百合学徒隊、防空壕、、、そんな重い思い出ばかり。大人になってリゾートとして沖縄に行くいくようになってからは、その部分をすっかりと置き去りにしていた。
どうしても身近にない出来事は、日常の中でリアルには感じにくい。でも、この本をきっかけに、あの暗い防空壕の中で感じたことを思い -
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勝手にラブ&リスペクトしている岸政彦さんの『調査する人生』で岸さんと上間陽子さんとの対談を読んで、上間さんのことも同じくらい全力でラブ&リスペクトしていこうと決めた。
社会学者として第一線で活躍されていながら、自分のやり方は本当にこれで正しいのかと悩んだり、ずっと悔やんでいる過去の「失敗」があることを明かしたり、同僚への圧倒的な尊敬の念を吐露したり、なんて真摯で謙虚で素晴らしい学者の方だろうと思った。
沖縄出身の上間さんは、東京の大学へ行くも現在は沖縄に戻り、主に現地の少女たちに聞き取り調査をしている。
彼女たちの多くが、十代半ばで子どもを産み、その後シングルマザーとなり、キャバクラなどの風俗 -
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真藤順丈さんの『宝島』と並行しながら読んでいたのですが、両作品から、己の無知さや無関心さをひしひしと痛感させられました。
無意識に基地を押し付けている。これを差別と言わずに何と言うんだ?
そう訴えかけられているようで、どちらも読んでいて終始苦しかった。
本島に生まれ、基地のない場所で暮らす自分こそ、沖縄のことに関心を持ち、彼らの抱える問題や歴史について知ろうと能動的にならなくてはいけないと感じました。住まう人々の苦しみを全てわかることが出来なくても、それでも海の向こうにある遠い出来事と思わず、これは自分たちにも繋がっている問題なのだと、そうやって無関心や無知という加害性を自覚することが、その土 -
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カウンセラーの信田さよ子さんと、沖縄の社会学者の上間陽子さんの対談集。とても読み応えがあった。信田さんは、カウンセラーのこれまでの歴史、精神科医との向き合い方の違い、そして性加害者、依存症への対処の遅れの指摘があった。昭和の男性は自らの性を語るとみな渡辺淳一になるという言葉には爆笑!カウンセラーとして、安易な共感はせず、抽象語にまとめてしまうことを許さず、体験を具体的に語らせる、語った言葉から構築できた事のみに対峙するという姿勢がかっこよい。上間さんは、家庭的に恵まれず虐待や性加害のあった少女・少年たちが、安心して被害を語れる場・機会に恵まれていないこと、加害者の卑怯さへの怒りが語られる。DV
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読みながら思い出したのが、海街ダイアリーの作者の吉田秋生の「ラヴァーズキス」と「河よりも長くゆるやかに」という作品でした。どちらにも、性被害を受けた後、性非行に走っていた少女が出てきます。
知識として、性被害を受けた人が、その後に性行動を活発化させやすいというということは、「裸足で逃げる」を読む前から知っていました。
ただ、それはあくまで独立した知識として知っていただけで、具体的な像としては結んでいなかった。だから、そうした「知識」と、それ以前に読んでいた吉田作品のキャラクター造形は結びついていなかった。
もちろん吉田作品のキャラクターはあくまでもフィクションなのだけれど、作者の性被害とい -
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沖縄で、家庭の問題(DVなど)で生活の問題を抱えている女性の生活史調査の本。筆者自身、そうした人々を支援する立場にあるとのことなので、研究書というよりは、ある意味ノンフィクション小説に近い感覚を抱いた。
以前、読んだ岸雅彦さんの本でこの本が挙げられていたので読んでみたが、ディティールがすごい。
ディティールとは、読者との間で理解を再現しようとする試みであるが、細かい組み立てが非常に面白く、印象に残る。
私自身、知らない世界であり、そこも含めて印象に残った。
例えば、「カバンにドレスを詰め込んで」という章では、DVを受け、障害のある子を産んだシングルマザーの話だが、生まれた当時はカバンに夜職 -
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何を言えばいいかわからない。読むべき。読ませたい。読んでほしい。娘をかわいいと思うすべての人が。小さな女の子のかわいさを愛するひとが。沖縄で暮らすということが、女であるということが、女が娘を育てるということが、差別の中に暮らし、育てるとはどういうことなのかを。想像させてくれたし、想像させられてしまったから辛くて辛くて、動揺させられて、差別する側にしかいない自分が(行動しないのは現状を仕方ないとして容認することでしかないのではないか?)しんどくて、でももちろん行動なんかしたくなくて、他人事にしておきたいのに、それはやっぱりゆるされないと思う。
描かれているのはきちんと生きている明るい日常であっ -
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ほんとうに、これは読むことのバトンを渡したいと思う本だ。
沖縄で小さな娘の成長を見守りながら描かれたエッセイ、という形で届けられた、優れたノンフィクション。
柔らかな感受性の中に、きちんとした芯が感じられて、言葉がすーっと入ってくる。
生活と人柄のぬくもりが伝わる、いいエッセイだなと思う。
上間さんが抱えた傷、娘である風花ちゃんへの愛情は、舞台が沖縄でなくても普遍的に共感できる。
でも、沖縄に住むからこそ伝えたい現実があるのだと知るほど、深く言葉が刺さってくる。
沖縄での出口が見えない問題に押しつぶされそうな呻き声が散りばめられている。
差し出された海を、土砂で濁った海を拒絶するわけにはいか