大場つぐみのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
名前を書いた人間を殺せる「デスノート」。この一冊のノートをめぐって、使う側と捕まえる側が繰り広げる知略戦の物語。
何よりの魅力は、Lとキラ(月、ライト)という二人の天才の頭脳戦。相手の行動を推理し、さらにその裏をかく。この応酬が面白い。二人ともキャラクターとしての存在感が強く、敵同士でありながらどちらにも惹きつけられる。
個人的な推しは弥海砂(ミサミサ)だ。キラを崇拝し、自分の寿命を削ってまで月に尽くす姿に強く惹かれ、最後にはすっかりファンに。腹の探り合いが続く殺伐とした頭脳戦のなかで、彼女の明るさや天真爛漫さ(バカさ)はひときわ目を引き、重くなりがちなストーリーに華を添えている。登場するたびに空気が緩み、読んでいるこちらも和ませる存在だった。それでいて、思わぬ行動で月の計算を狂わせることもあり、知略戦のなかでの撹乱要素になっている点でも、物語上いい立ち位置にいるキャラクターだと思う。
一方で、Lの死後の展開にはやや引っかかるところが。ノートの数や所有者の移り変わりで状況がかなり複雑になっているのに、月とNの行動や考えがお互いに完全に読み合えてしまう。一つでも読みがズレれば成り立たない構図なのに、それが綺麗に噛み合いすぎていて、やや興醒めしてしまった。
この作品は、頭脳戦の面白さの裏で「正義とは何か」を問い続けている。月は大量殺人者だが、犯罪者を裁くキラを支持する世論も描かれ、実際に犯罪が減っていく世界も示される。一方のLやNも、真相にたどり着くためなら手段を選ばない。どちらが正しいのか簡単には割り切れない構造が、物語に奥行きを与えている。ただ、月の「正義」は次第に姿を変えていく。犯罪のない世界をつくるという理想から始まったはずが、ノートという絶対的な力を手にしたことで、自らを「新世界の神」と称し、邪魔をする者は捜査官であろうと容赦なく消していく。正義を掲げた者が権力を握り、やがて自分こそが正義そのものだと信じ込んでいく過程は、恐ろしくもあり、妙な説得力もある。それでも月に肩入れしてしまったのは、彼の「正義」が単純な悪として切り捨てられていなかったからだと思う。
だからこそ、結末には少し思うところがある。どんな窮地でも冷静に対処してきた月が、最後に信じられないほど取り乱す。作者の意図した描写なのは分かるが、読者としてはあのキャラクターを最後まで貫いてほしかった。月に感情を預けて読んでいた身としては、正直、勝ってほしかったという気持ちもある。
とはいえ、総じて非常によくできた推理ものだった。魅力的なキャラクターも多い。終盤は少し飽きが見え始めていたタイミングでもあったので、あの巻数でうまく畳んだことも含めて、名作と言っていいだろう。