渡辺多恵子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレいよいよ、御陵衛士の分隊が成った。
新選組を学んでいる人にとって、この辺りの史実に不可解さを感じる人は
多いのではないだろうか。
大抵の資料やフィクションでは、あからさまに伊東一派が
近藤一派を嫌って、表面は取り繕っているがばればれの分離
と描かれていることが多いように思う。
だが、個人的にはそれがどうも納得がいかない。
そのようなあからさまな分離は、分裂を招くだろう。
試衛館のメンバーは兎も角、江戸や京で募った隊士全てと
強固な絆を結べていたとは思えない。
分裂は直ぐさま新選組自体の崩壊を呼ぶと思われる。
だからこそ、土方さんが結果を急ぎ伊東さんを暗殺しようとし
高台寺党も近藤さん暗殺に動いた、などという説もあるのだが
それよりは余程こうした展開の方が理解できるような気がした。
特に藤堂さんが御陵衛士に移ることを決めた理由は
近藤さんたちに不信感を抱いていたとか伊東さんに心酔していた
といったよくあるフィクションにある理由よりも
余程武士らしく、藤堂さんらしい清々しいものであったと思う。
追い詰められていく土方さんを、近藤さんがすくい上げてくれたところには
こちらまで詰めていた息を吐き出しほっとできるくらい感動した。
そしてこの巻でもう一点泣けたのは、斎藤さん。
副長命令でスパイとして御陵衛士に潜り込む説を採用しているのだろうが
原則的にはそうなれば表だって新選組には戻れない。
セイに振られるのを利用するというのもないではなかったろうが
やはり今生の別れかもしれないとなれば
最後に思いを伝えようと心から思っただろうことは想像に難くない。
気持ちはわかるがセイが怒り心頭になってしまったところでは
斎藤さんがあまりに哀れだったが、御陵衛士に志願したのを聞いたセイが
泣いてくれたこと、後悔はないと斎藤さんが伝えたことで
少し救われたように思った。
ただ、斎藤さんはセイを女として見て本気で好きでいてくれたのに
それが伝わらない、まだ伝えられないのは残念。
この先、斎藤さんの思いが真に伝わる時がくるのだろうか。
このあと待ち構えるのは新選組と御陵衛士との対立や暗殺及び暗殺未遂、戦い
そして時勢はいよいよ鳥羽伏見の戦いに入っていく訳で
一体新選組の歴史をどこまで描いてくれるのか
セイはどこまでどのような形で新選組に参加し
どのように終わるのか。
憂鬱になりつつも、どう描ききってくれるのかという点は非常に楽しみだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ歴史として伝わっているものが、真実であるとは限らない。
ナポレオンが言うように勝者によって作られた物語に過ぎず
こう伝わって欲しい、ことでしかないこともある。
沖田総司、労咳で池田屋で喀血
と同じくらい(と個人的には思っている)よくある、それでいて
絶対にやって欲しくない重大イベントが、
孝明天皇の病死ではなかろうか。
暗殺で描いてくれたのは非常に良いと思う。
もっと詳細に描いて欲しい気もするが、飽く迄も新選組サイドから描いているのだから仕方ない。
また、伊東一派の分離。
伊東が頭が良く立ち回り、裏切り、近藤暗殺を企て
殺され、最後の最後まで一派は新選組を裏切り続ける。
というのが残っている史料から類推される筋書きなのだが
そもこの分離を土方同意の上、として描いているのが心憎い。
正月の居続けにしても、処罰が軽い、不公平、などという
不可解な事件なのだけれど、その中でも納得がいくように
顛末をつけてあると思う。
永倉さんに対してどうしても良い印象を持てない私で
大河ドラマのお調子者だけど漢、というのがこれまで最上の印象だったが
宴会の会話で言われているように
育ちの良さ、それを失ってでも得ようとしたもののある永倉である。
風光るが、自分にとって初めて納得のいく永倉新八を描いてくれるかもしれない、とかなり期待をもった。
もっと信用されていると思っていた、という斎藤さんが可愛いし
案外これが事実だったのではないかと思わされる。
セイと沖田が主人公である以上、新選組としての行く末を
この後どこまで描いて終幕とするのかわからないが
もし会津戦争以降まで描かれるとしたら、永倉、斎藤らの行動の理由を
どう描いてくれるかと思うと胸が熱くなる。
セイが箱館までついていき、生き残るのだとしたら更にすごいのだが。
ちょっと先の展開を妄想してしまう。
少なくとも伊東一派とのこの後は描かれることだろうから
続刊もとても楽しみである。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ伊東さんと土方さんの間に色々な思惑があったのでは
とは、歴史をひも解くと色々と思うことはあるものの
伊東さんのキャラクターをこのような設定にした上で
土方さんと手を組もうとした、というのは面白い。
ただただ敵対していたというより余程面白い展開。
土方というキャラクターも、個人的には
アーティスト気質で繊細な人だったと思っているので
繊細で存外素直、という設定に非常に納得する。
また、時代の流れの中で写真を撮るシーンを入れるフィクションは
他にもいくらでもあると思うが
きっちりと写真師や写真の話を出した上で
そこに志士派と新選組とのやりとりを入れ込むというのは
巧いやり方だなと感じた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの作品のお春のキャラクターはかなり好き。
兎角変人として描かれがちな彼女だけれど
現代の常識で言えばただただ至極普通の女の人だっただけだろう。
たとえば映画タイタニックのローズのような。
男勝りで新選組にも幕吏にも動ぜず、セイを助けにやってくる
という破天荒ぶりが微笑ましく、恰好良い。
彼女がひとり残されて泣く日がくると思うと悲しいが
それはセイちゃんも同じなのだな。
土方さんの幼少期の話は面白い。
基本的に史実通りで、変に美化しておらず
かと言ってただの女狂いとして描くわけでもなく、良いと思う。
あとがきで、自分はご先祖様いじりをしている、という言葉があって
とても共感した。
作家や歴史家には、まるで事実を見て来たかのように
「彼はこうだったから」と、その子孫の方に偉そうに話す人まで時にはいて
私としては不快なことがときどきあるが
基本的に、事実を知っているわけでもなく子孫でもなんでもないのだから
先祖いじりであって、そのあたりの謙虚さは
いくら史実を調べて知った気になっても、持ち続けているべきだと思う。
その点でも筆者の立場や考え方は非常に好き。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの河合さんについての伝わるエピソードは
少なくとも現代の我々にとっては非常に後味の悪いものだろう。
どうにも、それだけのことで死ななければならないのか、と思ってしまう。
それで、「いや、河合さんにはもっと処断されて然るべき理由があったのだ」
と
理由を見つけてやっぱり悪い人だったのだ、としようとする歴史家や作家が多い中
本当にお金をきっちり管理できなかっただけで殺された、としたのには
言い方は悪いが少女漫画なのに天晴れ、という感じ。
士道不覚悟だった、という理由は一応ついているし
犯人を捜す為の画策だったとして土方さんの非道っぷりをフォローしてはいるものの
少なくとも個人的にはこの史実のあたりはちょっと後味が悪い。
深雪のエピソードで、髪型をもってくるところには非常に唸らされた。
きっちり調べぬいて研究している作者ならではの構成だ。
あとがきの火打石の話もとても興味深かった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ将軍家茂がまだ数えで二十歳という若さであり
愛される人だったことが描かれておりとても好き。
また、慶喜や深雪など一癖あるキャラクターも登場。
深雪はあまり史実として資料がそんなに残っていないし
慶喜はいろいろとあるものの、それだけに信用度が微妙。
そんな中でそれぞれこのようなキャラクターに昇華させたのがすごい。
慶喜は個人的にはどうも好きではないのだけれど
それでも一定の魅力ある人物として描いてくれている。
将軍の東帰を止めようとする局長は非常に恰好良い。
また、良順や当時の世情と絡めつつ写真を出すのがうまい。
自分としては、白塗りで写真を撮った近藤局長を道化のように描く
某有名歴史小説より、こちらのエピソードの織り込み方の方が
納得いくし面白いと思った。