伊藤朱里のレビュー一覧
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ネタバレ第31回太宰治賞受賞作品。
表題作『名前も呼べない』ほか、書下ろし短編『お気に召すまま』も収録されている。
どちらも子ども時代に負った傷を身の内に宿したまま大人になった女性が、自らの罪と対峙するというモチーフが織り込まれている物語だった。傷を負った場面の状況は詳細に描写されていない。ただその時や現在の主人公の感情が、日常生活の合間にふと現れ痛切に語られる。だから読んでいる途中相当心抉られたのだが、でも最終的には癒しの物語だと思う。
次回作も楽しみ。これは波長が合う人にはとことん合う系統の小説だと思う。孤独な女性の、生臭くない透明なリアリティがある。
以下重要な部分のネタバレ含みます。
『名前も呼べない』の方で、
「宝田主任がどうこうじゃない。みんなが当たり前みたいに、男と女は結婚して子ども作るのが当然で、結婚してる男と女が近づいたら不倫で、父親の死に目にも遭わない結婚しない娘は親不孝で何かがあって、そんな目でしか物事をみないで、見るだけならまだしも当たり前みたいに圧しつけてきて、そんな中で生きなきゃいけないのが最悪って言ってるの」(p138)
主人公のこの台詞、自分に投げつけられたような気がしてはっとした。だって、主人公の「恋人」は明示されるまでずっと宝田主任の方だと思っていたから。自分より背が小さいとか、回想での「恋人」の口調とか、あからさますぎる程本当の「恋人」は宝田主任の「妻」の方だと示されていたのに。当たり前のように「男と女が近づいたら不倫」だと思い込んで、些細な違和感を流していた。これはけっこう、かなり読者に対する強烈なパンチだと思う。衝撃を受けた。
こんなんじゃ確かに生きにくいよね、ごめんなさい。 -
Posted by ブクログ
第31回太宰治賞受賞作。
表題作は、所謂、不倫小説なのだが、読み進めていくうちに最初に戻って読み返したくなる著者のトリックにまんまと引っかかった。
読み返してみると、著者は何も「嘘」をついていないことがわかり、ズブズブと物語にのめりこんでいってしまう。
書き下ろしの2作目も、著者特有の女性主人公があまり明るくない過去の体験をベースに、「いま」を見つめていくお話なのだが、どこか品があって、どこか救いがあるところがいいな、とおもった。
たまたまかもしれないが、『名前も呼べない』『お気に召すまま』両作品とも、どこか欠落した部分を抱え、「わたしなんて…」思考の強い主人公なのだ。わたしはこういう受け身の人間があまり好きではない。だが、その主人公に喝を入れる脇役がちゃんといるので、作品としてのモヤモヤ、苛立のようなものが、ちゃんと回収される。
『名前も呼べない』ではメリッサという親友が本当に素敵なキャラクターだった。主人公と仲良くなるエピソードは、メリッサが「それ」とわかっていても惚れてしまう。
『お気に召すまま』では、主人公自らが怒りを表現するシーンがよかった。
それも、女子高生の文乃が居たからこそ。
お風呂やベットがすこしの光をくれる。
これらのアイテムを使って、行動にうつしていく主人公の気持ちがなんとなく嬉しいというか、踏ん切りがつく。
どこかで経験のある感情たちなのだとおもう。
この小説は、映画のようにあまり予告編を吟味しないで、物語に飛び込んで味わってもらいたい。
それにしても、『こちらあみ子(今村夏子)』、『君は永遠にそいつらより若い(津村記久子)』といい、太宰治賞は骨のある女流作家を輩出するなあ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ腹立つ相手がいても、「この人も誰かの大事な人なんだよな…クッソー…」と
自分を律する話は よく聞く。
そうやって自分を律することがよい と習ったわけではないけれど
この流れをよく聞くから
なんだかそうすることが正解なんだと思っていた。
このタイトルを見てまず、「確かに」と思った。
誰かの大事な人かどうかは そもそも不確かで、
どちらかというと「誰かのどうでもいい人」な場合の方が高いんだよな。
ひとつの職場の、
4人の登場人物の主観に分けて、
4章から成る本書。
ちなみに、
「君はだれかの大切な人」というフレーズは出てくるけれど
「どうでもいい人」というフレーズは、直接的には出てこない。
どの章のどこでそういう風に感じるのか、
はたまた 始終そういった目で本書を読み進めるかは、
読者にゆだねられているように思う。
もしかしたら感じない人もいるかもしれない。
最後まで「でもやっぱり、目の前の相手は 誰かの大切な人だよ」と思う人もいるんだろうな…。
誰の主観にも共感できるという内容ではなかったけれど、
客観視する『他人の様子』は
「こういう人、どんな職場にもいるよなあ」と感じさせられた。
本書に登場する"堀さん"という総務部主任·お局様。
やること、なすこと、言動…
私の職場にもかつて存在したお局様 そのままの人過ぎて吃驚した。
実在するお局には
「こんな人っているんだな~。ここまでこの状態で生きてこれたってことは 皆に大事にされてきたんだな~」
などと思ってやり過ごしていたけれど、
こんな人、どんな職場にも1人は存在するのか?!笑
どこも大変だな…と思った。
堀さんは4章で主観になるんだけれど、
実在するお局も、
もしかしたらこんな風に物事を見ているんだろうか… いや彼女に限ってそれは…
なんて思ったり。
まあ、堀さんのように思っていようが、思っていまいが…
それは彼女に対して 私がとやかく言っていい理由にはならないよな。と
改めて思ったり。 -
Posted by ブクログ
SNSなどネット関連の話が中心の短編集。
全4編で、登場人物が少しずつ重なっていたり、『サンダーボルト』という4人組韓国アイドルが全編通して関係していたりと群像劇っぽさもあります。
ネットにはあまり明るくないですが、それでも、あ~こういうコメント、YouTubeで見るな〜など、現実を切り取っている感じがありました。
妊活や炎上、整形のような難しいテーマが散りばめられているのと、強めな言葉も続出するので、読み終わって疲労している感じは…ありました。
でも、こんなに誰かの心の中や気持ちの変化を見て取れる小説もなかなかないので面白く読みました。