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Posted by ブクログ
【名前も呼べない】
「どうしてそうなの、どうしてこうじゃないの、どうしてああなの、どういうことなの。答えられなければ歩くことも許されないのよ」
『私は単なる愛人じゃないと、多少なりとも役には立てているんだと、思いたかった。正しい場所に帰っていくための、潤滑剤として。』
『誰のために笑ってるの、と私に訊いたのは、それこそ誰だっただろう。覚えていない。ただ、答えられなくてやっぱり笑ってしまった自分がいたことだけは思い出せる。』
「いいじゃん。したくなけりゃ、しなければいいのよ。私もそう。手術して女になれとか職場でカミングアウトしろとかやたら言う奴いるけど、余計なお世話だよ。やりたくないことはしたくない。自分として生きてくだけで沢山だもの」
『ここに泣いている私がいて、泣き終わったら見える景色があって、それは泣き始める前と何一つ変わらなくて』
「みんなが当たり前みたいに、男と女は結婚して子どもを作るのが当然で、結婚してる男と女が近付いたら不倫で、父親の死に目にも遭わない結婚しない娘は親不孝で何かがあって、そんな目でしか物事を見ないで、見るだけならまだしも当たり前みたいに押しつけてきて、そんな中で生きなきゃいけないのが最悪って言ってるの」
【お気に召すまま】
『次に目が覚めた時、自分がどこにいるのかは考えたくなかった。ここでなければ、どこでもよかった。』
「嘘だあ。先生、何か隠してるでしょ」
「中島さん、彼氏が何か隠してるかもって思ったら、携帯電話とか見るほう?」
「えー、何ですかそれ…んー。いないから分かんないけど、たぶん見ません」
「それはどうして?」
「いいことがなさそうだから」
「正解。そういうこと。探ったってろくなことないなら、放置が一番」
「言わせておきなさいよ ー 見えるもの全部にもっともらしく理由をつけないと安心できない人なんか、放っておきなさい。そういうこともあるってだけよ」
Posted by ブクログ
2026年の1冊目。発売は2015年。どうして10年も読まずにいたのか。
まともではない父親、女手ひとつで育ててくれた母もどこか狂っていて、心はずっと救いを求めていたのだろうか。
たった一人で東京で働き、生計を立てるも保育士の仕事も夜の仕事もトラブルに巻き込まれて続けられなかった。圧倒的な不器用さ。自分を痛めつけながら生きていて、それこそが相応だと思ってしまう自己否定。
初めて心を許せた相手もまた自分を利用しただけだった。
親友のメリッサが、美青年でありながら性的マイノリティ、強さと正しさと安定を待ち合わせているのが精神的弱者にとってあまりにも救いで眩しくて、どうして主人公が惚れないのかずっと不思議だった。
結末をわかればそれも納得。メリッサがあまりにも少女漫画の王子様で、男の読者からすれば都合良すぎるのかもしれないけど、でもやっぱりずっと魅力的で私は読みながら惚れてしまった。
Posted by ブクログ
漢検一級レベルの単語がゴロゴロでてきます。
読めねぇ〜〜わかんねぇ〜〜とスマホで調べまくりでした。
前半は罪悪感に苛まれた結果、もがき続け、似た者だと感じた恋人もただの他人だと気が付き受け入れていくお話。
後半は自身の罪悪感を認識したのちに、複雑なことに何かと理由をつけて語ろうとする他人なんか放っておけと、前に進めるお話。
自他との境界をひいて、罪の所在をお互いに認めることが成熟。
責任の所在に関して、相手が悪いと決めつけてしまうことも、自分を責め続けてしまうことも、どちらもよくないんだね〜ほーんって思いました。
複雑な気持ちを理解しようと、眉間に皺を寄せながら読みました。
面白いな〜というよりなるほど〜って感じの本でした。
Posted by ブクログ
表題作は恵那を取り巻く様々な人たちのやや異色の関係が交錯する.退職後に開かれた飲み会で宝田主任に子供が生まれたことを聞かされて驚く恵那を罵倒するメリッサ.恵那は宝田の妻亮子にピアノを習っていたが,微妙な関係になっていた.メリッサは実は男で女装して活動しているものの本職は保育士.恵那と宝田の会話,メリッサとの会話,恵那の心持.どれもつかみにくい感じだ.「お気に召すまま」の方がしっくりした感じで共感を持てた.英語教師の美波は子供のころベッドの下の隙間に入り込み母の出て来いという声を無視した.程なく母は失踪し妹の有紀と父の三人暮らしだった.成長して結婚したが離婚し教師を続けている.生徒の中島文乃との会話が教師として地に着いたものを示している.父との会食での話の中にベッドの下が安楽地(save point)であったことを認識する美波.著者は弱そうだがしたたかな女性を描いたのかなと思った.
Posted by ブクログ
第31回太宰治賞受賞作。
表題作は、所謂、不倫小説なのだが、読み進めていくうちに最初に戻って読み返したくなる著者のトリックにまんまと引っかかった。
読み返してみると、著者は何も「嘘」をついていないことがわかり、ズブズブと物語にのめりこんでいってしまう。
書き下ろしの2作目も、著者特有の女性主人公があまり明るくない過去の体験をベースに、「いま」を見つめていくお話なのだが、どこか品があって、どこか救いがあるところがいいな、とおもった。
たまたまかもしれないが、『名前も呼べない』『お気に召すまま』両作品とも、どこか欠落した部分を抱え、「わたしなんて…」思考の強い主人公なのだ。わたしはこういう受け身の人間があまり好きではない。だが、その主人公に喝を入れる脇役がちゃんといるので、作品としてのモヤモヤ、苛立のようなものが、ちゃんと回収される。
『名前も呼べない』ではメリッサという親友が本当に素敵なキャラクターだった。主人公と仲良くなるエピソードは、メリッサが「それ」とわかっていても惚れてしまう。
『お気に召すまま』では、主人公自らが怒りを表現するシーンがよかった。
それも、女子高生の文乃が居たからこそ。
お風呂やベットがすこしの光をくれる。
これらのアイテムを使って、行動にうつしていく主人公の気持ちがなんとなく嬉しいというか、踏ん切りがつく。
どこかで経験のある感情たちなのだとおもう。
この小説は、映画のようにあまり予告編を吟味しないで、物語に飛び込んで味わってもらいたい。
それにしても、『こちらあみ子(今村夏子)』、『君は永遠にそいつらより若い(津村記久子)』といい、太宰治賞は骨のある女流作家を輩出するなあ。
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小説・文芸
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