夜汽車のレビュー一覧
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坂口安吾 安吾忌
こちらは初読、1952「夜長姫と耳男」
飛騨の匠の弟子の仏師、耳男。
乙女の本棚になるまで、知らなかった作品です。
耳男の語りの説話体。
長者に乞われて夜長姫の護身仏を彫る。
耳男は、夜長姫の何かが秘そむ無邪気な笑顔に囚われて、化け物を彫る決心をする。
蛇の生き血を飲みその死骸を吊るす。
それさえ美しいと思う夜長姫。
好きなものは、呪うか殺すか争うか。
なかなかの狂気と幻想の世界観。
飛騨という土地への坂口安吾の思い、飛騨の匠への敬意。命惜しまぬ作品へのリスペクト。
夜汽車さんの作品は、可愛さもあり、まるで乙女の童話に擬態しているけど、ストーリーは鳥肌もの。 -
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「乙女の本棚」シリーズ、私の5冊目。このシリーズで大好きになってしまった夜汽車さんのイラストと、少し前に読んだ「桜の森の満開の下」で有名な坂口安吾のコラボであり、どんな作品なのか興味津々で読み進めていったが、正直、恐ろしすぎて、このイラスト無しではかなりキツかった。イラストが恐ろしさを妖しさという美しさに変換してくれて本当によかった。この作品も「桜の森の満開の下」も、残酷さと、魔性の女に魅入られるところが似ていて、坂口安吾の作風はこのようなものが多いのか気になった。決してもう一度読みたいと思えるわけではないのだが、心が凍っていく恐怖感は、他の作品ではまだ味わったことのないものであり、印象に残る
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ネタバレ「乙女の本棚」3冊目。グロテスクな作品が多いと聞いていた江戸川乱歩。幸せな新婚生活から一転、どんな人でなしにイケメンの夫が成り下がってゆくのか、ハラハラ期待して読み進めたが、なんてことはない、ただの人形愛玩者であっただけであった。そんな夫を受け入れてあげる度量があれば、違った道も歩めたかもしれないのに、一番恐ろしかったのは、嫉妬に狂う妻、そして自ら命を絶ってしまう夫の、人間の狂気。「人でなしの恋」は当初、夫の人形への恋を意味しているのかと思っていたけれど、あんな強行に出た妻の夫への恋、両方のことを示しているのかもしれないと思い直した。
相変わらず、夜汽車さんの絵が美しすぎる。私のコレクション兼 -
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門野という美男子のところへ嫁いだ19歳の奥さまが、夜な夜な母家の裏手にある土蔵の二階に通う夫の行動を訝しんで尾行する。
夫曰く一人で書見をしているらしいが、室内からは何やら仲睦まじげな男女のささやき声。
夫はもしやほかの女性と不貞をはたらいているのでは? 我慢できなくなった恋する奥さまが、そろりと部屋の中をのぞいた先でみつけたものは……。
という、江戸川乱歩による妖しさ満点の短編。『人でなしの声』というタイトルに合点がいった。夜汽車さんによる繊細で可愛らしいイラストが、この短編の魅力を何倍にも膨らませているよう。
まだ始まったばかりのこの夏、早速テレビの心霊番組で因縁物として紹介される人形の恐 -
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ネタバレ乙女の本棚シリーズから、坂口安吾さんと夜汽車さんのコラボ作品「夜長姫と耳男」です。少女マンガのように可愛くて鮮やかな着物を纏う姫が印象的なんだけど、よく見ると骸骨とか蛇も描けれているし(;・∀・)
師匠からの推薦を受けヒダから夜長姫のもとを訪れた耳男…。依頼された仏像の制作には3年間を要し、夜長姫の無邪気な笑顔の裏にある残虐性に対抗すべく、耳男は蛇の生き血を飲み残りは制作した仏像に浴びさせ、亡骸を天井から吊るす…狂気じみた期間を過ごす。その後も、夜長姫の仏像制作の依頼を受けこの地に逗留していたが、村に疫病が流行り村人が次々と命を落とす…。その様子を高楼から見ては楽しむ夜長姫…耳男は夜長姫 -
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文豪の名作と人気イラストレーターがコラボしたという、乙女の本棚シリーズ。
魅惑のラインナップの中で、ちょうど谷崎の刺青が発刊されたばかりだったのでこちらから読んでみました。
清吉という凄腕の若き彫物師は、理想とする美しい女に自分の魂を彫りたいと切に願っている。
そして漸くその娘に出会え、眠らせて背中に女郎蜘蛛を彫ってしまう。
激しい苦痛に耐えて目覚めた娘は、臆病な心を捨ててすっかり妖艶に生まれ変わっており、清吉は真っ先に娘の肥料(こやし)となっていたのであった、という話。
いかにも谷崎らしい耽美さ。女の美しさを描写する際の、圧倒的美を前に屈服するかのような丹念な文章表現は、何度繰り返して読 -
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"それはまだ人々が「愚」と云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように激しく軋み合わない時分であった。"
という書き出しが抜群に好きです。
谷崎特有の狂気じみたエロス、フェティシズムが、蝋燭の火のようにゆらゆらと妖しくゆれる。作中にも記されるように、美しきものが強者、醜きものが弱者、まさしく耽美主義を宣言するような作品である。
ただし本書のレビューとしては純粋に谷崎の刺青についてではなく、夜汽車さんのイラストとのコラボレーションとして論じなければならない。イラストは間違いなく美しい。個人的には、朱色の帯と、和紙の巻物が絡み合うところに、一条の光が射す、そのページが特に美しい