吉田健一のレビュー一覧
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父親が吉田健一のファンだった。だから、この人の作品は意図的にこれまで読むのを避けていた。それなのに、なんで今回手に取ったのかというと、あるアンソロジーに収録されていた吉田健一による、幽霊の出てくる短編がなかなか良かったからだ。
で、近々遠いところへの出張も控えているのでこの文庫本を選んだのだけれど、「併し兎に角、旅行している時に本や雑誌を読むの程、愚の骨頂はない(後略)」(p27)という吉田健一とは、そもそも私は旅についての認識が違うのであった。そして、彼があちらこちらを旅しては、酒を飲み、肴に舌鼓を打つのをひたすら読まされても、面白くもなんともないのであった。
だが、後半に収められた短編小説「東北本線」(pp151-180)は、たまたま隣り合わせた乗客とウイスキーを飲みながら雑談するだけの物語だが、なかなか良かった。随筆じゃなくて小説を、もう少し読みたいな。 -
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昔のボンボン、お嬢さんが書いたエッセイは楽しい。
情報が少なかった時代だからこそ、感じたままが素直に表現されていて、切り口が面白いからこそ、今も書店で手に入る。『ヨーロッパ退屈日記』(伊丹十三著)、『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(石井好子著)あたりが代表格か。
育ちの良さという意味では、吉田茂を父に持つ著者の吉田健一氏は究極だ。本書には、酒といえば日本酒(九州だと焼酎か)という時代の庶民には「???」であったろう、洋酒の数々も登場する。
この手のエッセイは、時代ごとの価格や評価を知るための“歴史資料”的な読み方をするのも楽しい。
酒税法が今の体系になる以前、洋酒は高かったのだが、1960年代に書かれたエッセイに「日本で西洋料理を食べに出掛けることを思えば、葡萄酒だけで、四、五千円を覚悟しなければならない」とのくだりがある。
今の物価は、当時と比較して4倍ちょっとだから、2万円くらいか。なかなかのお値段だ。
一方、カクテルやウイスキーの地位は異様に低い。カクテルは「洋酒の安ものを色々と混ぜて作ったもの」「まずい洋酒を旨く飲ませる方法」、ウイスキーは「ただ酔うだけが目的ならばウイスキーというものがあって」といった具合。
まあ、あんまりいいリキュールやウイスキーが日本に入ってきていなかったからかもしれないが、高額のウイスキーやらクラフトジンがもてはやされる現代からすると隔世の感がある。一方で、日本酒はもはや大衆の酒からマニアのものになりつつある。 -
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収録作中9編は創元推理文庫『ポオ小説全集』で既読だが、
訳が違うので新鮮な感動を味わう。
吉田健一セレクトの短編集+
ポオの覚え書き「マルジナリア」収録。
■ベレニイス(Berenice,1835)
青年エギアスは従妹ベレニイスと共に育ち、
長じて彼女を愛するようになったが、
その美貌は病によって損なわれた。
やがて……。
■影‐一つの譬え話‐(Shadow,1835)
プトレマイスの屋敷に集ったオイノスたち
七人だったが、部屋には若いゾイロスの遺体が。
そこへ帳(とばり)の後ろから現れた影――。
■メッツェンガアシュタイン(Metzengerstein,1836)
反目し合う名家ベルリフィツィング家と
メッツェンガアシュタイン家。
後者の若き新当主フレデリックの前に現れた馬は
火事になったベルリフィツィング家の厩舎から
逃げてきたかと思われたが……。
■リジイア(Ligeia,1838)
聡明で美しい妻リジイアを亡くした「私」は
放浪の果てに出会ったロウィーナを娶ったが、
彼女もまた病に臥してしまった。
ある晩「私」は部屋の中に奇妙な影を見出し……。
■沈黙(Silence,1839)
《魔鬼》が墓の前で《私》に語った寓話。
■アッシャア家の没落(The Fall of the House of Usher,1839)
旧友ロデリック・アッシャアからから
手紙を受け取った語り手《私》は彼の許へ。
神経をすり減らした彼の心の慰めになればと
思ったものの、
不調の原因は二卵性双生児である妹マデリンが
重病に伏していることだった。
ある晩、とうとうマデリンが亡くなり……。
■群衆の人(The Man of the Crowd,1840)
語り手《私》は秋のロンドンのコーヒー店で
窓辺に座り、通りを行く人々を観察していた。
雑踏の中に一人の老人を見出した《私》は、
その人物の挙動が気になり、後をつけた。
すると……。
■赤い死の舞踏会(The Masque of the Red Death,1842)
疫病から身を躱そうと、
臣下と共に城に閉じ籠もったプロスペロ公。
■アモンティラドの樽(The Cask of Amontillado,1846)
amontilladoはシェリー酒の一種。
語り手こと《私》=モントレゾルは
自分を侮辱した酒好きのフォルテュナトに復讐するため、
大樽を入手したと偽って……。
■シンガム・ボップ氏の文学と生涯~
『グースゼラムフードル』誌元編集長の自叙伝
理髪師の息子シンガム・ボップ氏は
いかにして文壇に名を馳せ、
また有名文芸誌の編集長になったか。
■覚書(マルジナリア)
ポオが蔵書の余白に書き込んだメモ。
切れ味鋭い箴言の数々。