宮下遼のレビュー一覧
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ゆっくり味わうように一日に一章か二章ずつ読んで最後の数章は一気読み。続きが気になって早く先を読みたいのだけれども、物語の世界の濃密さに足を絡め取られて「先を読むのがもったいない」と思ってしまう不思議な本でした。先が気になると寝食忘れて読みふけるタイプなのでこんな風に「先が気になる」「でもこの文章の余韻に浸りたい」という葛藤を感じる本はとても久しぶりに読んだ気がします。
殺人犯はだれなんだろうというミステリー要素や遠近法が発明されたルネッサンス期の絵画に触れたことによって生じるトルコの細密画家達それぞれが抱える苦悩、カラとシェキレの恋の行方ももちろん気になるし、一章ごとに変わる物語の語り手達の個性豊かさにもうっとりして色々楽しむことができた本でした。
またゆっくり再読したい! -
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最新の研究成果を踏まえて、西アジア、ヨーロッパ、アフリカにまたがる広大かつ多様な地域を統治した、600年余りにわたるオスマン帝国の歴史をたどる。様々な民族的出自を有する王朝への仕官者をつなぐために形成された「オスマン語」の盛衰への着目も、本書の特色である。
様々な転変を経て13世紀から20世紀までの長きにわたり継続したオスマン帝国について、政治史を中心に、丁寧にその軌跡を明らかにする500頁を超える労作であり、高校で勉強した世界史のよい復習になるとともに、知識がアップデートされた。
広大な領域で多種多様な宗教や言語を持つ諸民族が曲がりなりにも共存していたオスマン帝国が、近代に入り、汎イスラーム主義や民族主義の台頭、欧化の失敗等により、没落の一途をたどり、現代の様々な民族・地域紛争を引き起こすことになったことがよく理解できた。
また、多民族がある意味平和に共存していたというイメージもあったオスマン帝国だが、毎度のごとく皇帝の家族間での血みどろの争いや粛清があったことをはじめ、かなり流血にいろどられていたということも認識した。
著者は、歴史学者ではなく文学者ということで、読む前はオスマン帝国の通史の執筆者として大丈夫なのかなという気も若干していたのだが、文体は文学者らしく格調高いものであるものの、脚色等は感じられず、内容は歴史学的研究成果も十分に反映された信頼に足るものだと感じた。 -
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決して小難しい小説ではない。むしろ平易で、ほんの少しだけでも時代背景やイスラム教の知識があれば読むのに苦労はないはず。さらに言えばミステリーあり恋愛ありの堂々たるエンタメ小説である。それでも、まだ何か掴みきれていないように感じさせる奥行きがある。イスタンブールの丘と路地を思い起こす
偶像崇拝が禁じられている文化での絵師の立ち位置
あくまでも物語の挿絵として
細密画に絵師のサインを残すべきか否か
神の恩恵として盲目を渇望する老絵師
西洋文化への警戒と憧憬
多民族国家オスマン帝国
他視点での語り。くわえて死者が語る、物が語る、絵が語る
第4の壁をうちこわして読者へ語りかける -
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オスマン帝国における細密画絵師たちの世界。名人絵師は対象を実際に目撃することなしに描くことを良しとし、いずれは盲目になることをむしろ望んだ等々のくだりは我々の理解の範疇を超えているが、自身の個性などは超越し神の目線で描くことに徹するという絶対的な価値観には瞠目させられる。宗教の待つ矛盾や理不尽と本来誰もが持つヒューマニティの葛藤。
上巻から不穏なまま続く殺人事件の犯人探しは最後の最後に判明するが、エンディングはやはりほろ苦く悲劇的だ。歴史の理不尽さに唸らされる。
我々の常識とは全く異なる異世界と価値観世界観。読書の醍醐味を存分に楽しめる長編。
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架空の歴史物。うっかり本当の話かと思って読み始めたものの、文中で「作者は女性」といいつつ、著者近影は明らかにおじさんだったので、なるほど架空歴史ね!と気づきました。笑
とはいえ、地中海の穏やかな海と温暖な気候、豊かな自然とバラの香りに包まれたミンゲル島の景色が目に浮かぶようです。
その綺麗な景色が、感染症に侵食されてじわりじわりと変貌していく。特にその人間の心理…感染症への対策をする政府、見て見ぬ振りをする一般の人、周りの人々がなぜそんな行動をするのか理解できずに嘆く知識人……コロナ禍で散々見た光景でありながら、それを一つ俯瞰したところから見れるのが面白いです。この災厄がどう収束するのか楽しみ。
それはそうと、シャーロック・ホームズが、事件から多く離れた書斎で事件を解決する探偵の象徴のように描かれていたのは、「?」となりました笑 -
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イスタンブール旅行に行くことになったため、歴史や風習を知りたいと思い手に取った
まず気付かされたのが、ローマ帝国の東西分裂以降、イスタンブールが1600年もの間、世界帝都として存在していたこと。ヨーロッパとアジアを結び、黒海と地中海に囲まれ、貿易や政治・統治の要衝地として、誇り高い歴史を持った街であることが分かった。同時に、マスタファ・ケマルによるトルコ共和国成立以降の、西洋と融合した複雑な文化・アイデンティティーについて学ぶことができた。
本著では有名なモスクからマニアックなカトリック教会まで、建設当時の歴史を深い洞察で説明されていてとても勉強になり、興味深かった。実際にイスタンブールに言ってみて、その歴史を体感したいと思う。 -
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ネタバレトルコで初のノーベル文学賞受賞者となった小説家による2016年の小説。ギリシャの古典『オイディプス王』と、ペルシャの古典『王書』で共通して描かれるテーマが描かれる作品。読む前に悲劇、というのは知っていたけど、思ってたのとは違う形で悲劇が用意されていた。
これも雑誌「英語教育」のアジア文学特集で紹介されていて読んでみたいと思ったが(「井戸掘り職人」なんて職業の小説、なんか東大の小説問題で出てきそう、とか思ったり)、この前のタイの小説、『パンダ』の時よりもインパクトが強く、この小説家の作品をもっと読んでみたいと思った。あとこの翻訳した人が本当に違和感ない日本語にしているところも読みやすい。
(ここから多少、ネタバレに近いものがあります)悲劇、というのは知ってたから、どこで事件や事故が起こるのかを考えつつドキドキしながら読むけど、たぶんこういうことだろうな、という予想していて、そしたらそうじゃなかったのか、という驚きと、そういう悲劇が起こったのか、という展開だった。そして最後に、この設定全体がそうなってるのか、という驚き、そして訳者による解説で、実はタイトルや元になっている2つの古典についても実は…という事実があったりして、なんか作者に手玉に取られる感と、文学の読解って色々知ってないと難しいんだな、と思った小説だった。でも個人的に「どんでん返し」が楽しめた感があって、好き。あとは井戸掘り途中でやめられない、なんて認知バイアスのコンコルド効果ってやつだよなあ、とか、最後で語られる母の息子への思いってすごいリアル過ぎて、ある意味こっちの方が怖いかもな、とか関係ないこと思ってた。(24/02/12) -
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ー 「絵や挿絵、美麗な書物に耽溺するあらゆるハーンや王、皇帝たちの関心には三つの季節があるのだよ。はじめの季節には、物おじせず夢中になって、心惹かれる。そして、他人に見せるためや、名声のために絵を求める。
最初の季節で絵についての見識を深めたなら、第二の季節には自分好みの絵を描かせるようになる。 絵を眺めるという真摯な喜びを学び、名声もおのずと高まり、死してのちも語り継がれるような事績をこの世に残そうと、それに見合った書物を集めはじめるのだ。
しかし人生の秋が訪れる。もはや、いかなる皇帝もこの世における不死には興味を示さなくなる。この場合の不死とは、続く世代や子孫たちの記憶に留まるという意味合いだ。しかしな、細密画を愛する君主たちはわしら絵師に自らの名を記させ、あるいはその事績を綴らせた書物によって、もとよりこの世における不死を獲得しているのだよ。だというのに老齢を迎えると、此岸ではなく彼岸での不死まで望むようになり、そのためには細密画が邪魔だと考えるようになる。
わしを悲しませ、苛立たせるのはまさにこのことよ。サファヴィー朝のタフマースブ王は自らも名人絵師として、若い時分には細密画工房で過ごしたというのに、死期が近づくや工房を閉鎖し端倪すべからざる腕前の絵師たちをタブリーズから遠ざけた。作らせた写本は散逸し、後悔の念に苛まれたという。なぜ人々は、絵画が天国の門への妨げとなるなどと考えるのだろうか?」 ー
読んだことのないタイプの新感覚な作風。
面白いけど、ミステリなのかな?第二の事件も起きたからミステリなんだろうけど、いったいどうなるんだ…。
続きが気になる。 -
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ネタバレp11
ところで話は変わるが、そもそも私たちがよく口にする「考える」という行為はいったい何なのだろう?
p15
辺りにはまだ甘い火薬の匂いが漂っている。
p150
イラン人は、西欧化するあまりに過去の詩人たちや物語を忘れてしまったトルコ人とは違うんですよ、と彼女は言いたかったのかもしれない。確かに彼らイラン人は詩人のことを決して忘れないから。
p163
つまるところ私は、頼りがいのある父親から、人は何をすべきで、何をすべきではないのかを教えて欲しかったのだ。
p167
私たちはいまさら勇者とかロスタムとかが出てくる古い物語を読んで喜ぶような世界で暮らしていないもの。
p264
どちらがどちらを殺したところで、私には涙が残されるだけなのだから。
トルコのノーベル文学賞作家の本作。
父と子、母と子、東と西、井戸と文明化、父殺しと子殺し、詩人と作家、罪と罰、いくつもの切り口で語れそうな作品。
トルコの小説を読むのは初めて。
キャリアの長い作家らしく、翻訳もうまいので、異国の匂いや情景や人々の暮らしが香ってくるかのような文章。
第一部は寓話的な語り口、第二部で時の流れと静かに老いていく様子を淡々と描いている。妻と作った会社の名はソフラーブ。子が父を殺し、妻から取り上げるのは。
途中出てきた夢に関する本は、ボルヘスかと想像したが不明。あとは、どちらが原点かわかりませんが、テヘランの死神に似た話もトルコに伝わっているのだな、と。
死神に会った召使いはテヘランに逃げるが、死神はテヘランで会う予定だったと言う。運命からは逃れられない。むしろ運命に引き寄せられるように物語は進む。
すべてが必然という小説としてはかなり緻密に、手堅く作られている印象を持ちました。偶然は男と女が出会うときに使われる。そして、それも運命。
訳者あとがきの「赤い髪」の表記が地毛ではなく、染められた髪という解説も納得。ぼかされた邦題が良い塩梅です。