宮下遼のレビュー一覧

  • 赤い髪の女

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     主人公の過去語りで物語は進行する。大学進学費用を稼ぐために、親方について井戸掘りに従事していた頃の話だ。日が暮れると親方と語り合い、その中に父親の息子殺し、息子の父親殺しの古典寓話で、オイディプスやロスタム(ロスタムは知らなかった)が出てくる物語だ。ほかに娯楽は街に出てお茶を飲むことぐらいだ。その街で見かけた赤い髪の女に恋をしてしまう。

     親方を井戸の底に置き去りにしたことを罪に感じたまま、長じて成功した主人公がたどった物語は石川達三「青春の蹉跌」を思い起こさせるが、危篤としか言いようがない方向へ展開する。やがて語り手は転じるが、その事情は父親殺しの寓話に通じたものとなり、物語は終わる。

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    2025年11月11日
  • 無垢の博物館 上

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    上巻だけでだいぶいろんな展開がありましたが…下巻も楽しみです。トルコは行ったことがありませんが、この話の時代は西洋的なものへの受容が進んできた入り口の部分で、そこも読んでいて面白かったです。

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    2025年11月08日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 上

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    オルハン・パムクの本は以前にも読んでいて、静かで美しい文章と、没入できる世界を感じていて
    好みだった。
    本作は代表作と謳われており、期待も高かったが、あまり面白く感じれなかった。
    というよりも、本作の舞台であるオスマン帝国の時代背景や細密画の知識が私にあまりにも
    欠けていたためかもしれない。

    オスマン帝国を舞台に、冒頭で殺された細密画師の犯人を捜すストーリーが軸となり、
    登場人物が入れ替わりで語り手となってストーリーが展開していく手法は面白い。
    また、東洋で花開いた細密画の文化の衰退と西洋の絵画の手法(遠近法)がもたらしたインパクト
    など、東西の文明がどのように相対立し、融合していったのかに

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    2025年09月13日
  • ペストの夜 下

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    地中海の架空の島、ミンゲル島でのペストの流行。封じ込めのために各国に海上封鎖されて閉じ込められた中で毎日死者が増えていく。八方塞がりの中で有効な手を打てないオスマン帝国からの島の独立というもう一つの大きな動きがあり、しかし、その主役たちも次々にペストや政争に倒れていきます。スケールの大きな歴史小説のようなのですが、残念なことに末期頃のオスマン帝国の歴史に詳しくなく、小説がどういうふうに史実とオーバーラップしているのか分からなくて、その知識があればさらに面白く読めたような気がします。

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    2025年05月25日
  • ペストの夜 上

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    トルコのノーベル賞作家の小説。ペストが流行り始めた1900年代初めの東地中海の島で押え込みに四苦八苦する主人公たち。オスマン帝国末期の人々の様子が興味深かったです。

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    2025年05月17日
  • ペストの夜 下

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    オスマン帝国末期の架空の島を舞台に、ペストの惨禍と島の独立が描かれる。語り手は女性の歴史家という想定なんだけれど、下巻を読む頃には、私の中では語り手がオルハン・パムクになっていた。
    疫病をめぐる諸々については、20世紀初頭の物語ではあるけれど、コロナ禍を経験した21世紀の読者にはとても身近に感じられるかもしれない。消毒と隔離、外出禁止という政策はまったく同じ。イスラム教とギリシャ正教の対立という宗教的な要素や、クレタ難民、欧州諸国の海上封鎖、帝国からの独立という筋書きがトルコらしいところ。
    個人的にトルコの歴史には疎いので、どのあたりが史実とフィクションの境目なのかよくわからないまま読み進んだ

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    2025年02月19日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    ネタバレ

     数ヶ月前に読んだ同じ著者の『赤い髪の女』がとても面白くて、ぜひ同じ著者の本を読んでみたいと思って読んだ本。歴史と美術が関係していてミステリーらしい、ということがあらすじで分かり、なんかダヴィンチ・コードみたい、ぜひ読んでみたい、と思って読んだ。「訳者あとがき」に書いてあるあらすじがとても分かりやすいので、少し引用する。
     「舞台はイスラム暦一千年紀の終わりがおし迫る十六世紀末のイスタンブル。半世紀前には栄華を極めたオスマン帝国も、隣国であるサファヴィー朝ペルシアとの長い戦に疲弊し、巷には雁金が横行、人々は音曲や絵画、葡萄酒や珈琲に耽溺し、そうした不品行を過激に糺そうとするエルズルム出身の説教

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    2024年04月15日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    冗長な部分を読み飛ばしてしまった。
    オスマン棟梁はカラと一緒に犯人探しをしてるのかと思ったら、実はそうではなく、工房の様式を守ることに固執して?自分の眼を潰してしまうというあたり、よくわからない展開。

    確かに『薔薇の名前』に似た要素が多いけれど、視点が次々変わる形式のせいか、(写実的に描かないという細密画と同じように)制限された表現のせいか、背景に馴染みがないせいか、読みにくさがある。

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    2023年11月23日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 上

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    一人称で、人が入れ替わり立ち替わり語るという形式で、オスマン帝国の歴史に疎いこともあり、最初はなかなか頭に入ってこない。語り手は死人だったり、金貨だったりもする。

    絵師を殺したのは誰なのか?という謎解きもあり、カラとシェキュレの恋物語もある。

    上の真ん中くらいまで読むと、キリスト教世界の写実画とオスマンの細密画の対比が浮かび上がってくる。昔の名人の画を忠実に写すこと、人物の個性を出さずに描く細密画の理念はイスラム教の反偶像主義に裏書されており、個人の人生を一枚の絵に描き出そうとするキリスト教の画とは相容れない考え方であることがわかってくる。

    細密画に描かれた人物やモノに順番に焦点を当て、

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    2023年11月17日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 下

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    これは、、、ミステリーなのかな、、、。

    細密画の様式から犯人を推理していくシーンがスリリングなんだろうけど、全然分からん。

    様々な当時人物ばかりか人以外の物まで語り手として登場し、多視点で物語られる物語は、常に緊張感をはらんでいて面白い。

    背景知識が乏しかったのでよく分からないところも多かったけれど、それでも十分に面白かった。知らない世界だから面白いし、こんだけ人を惹きつけている。さすが、ノーベル文学賞作家。

    『雪』と本作、長年の積読作品がようやく読めた。

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    2023年07月29日
  • わたしの名は赤〔新訳版〕 上

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    ネタバレ

    文学作品で、作風になれるまでに時間がかかり、言葉の選び方や描写の仕方、比喩なども理解は2割もできていないくらいだが、翻訳自体は読みやすかったのでパムクの世界観に触れることができた。

    タイトル通り、「わたしの名は〇〇」「わたしは〇〇」という題で章が分けられていて、ミステリーではあるものの推理するのは難しかった。

    それよりも、イスラム美術のなかの細密画や、オスマン帝国期の職人たちの神に対する考え方、西洋美術の遠近法の流入などの芸術と宗教の関係性であったり、主人公?の男女の恋愛模様の描写が印象に残った。

    殺したのは誰なのか、下巻ではもう少し話がすすんでくるのか楽しみ。

    ルネサンスについての前

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    2021年08月04日
  • 赤い髪の女

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    トルコ・イスタンブルに暮らす少年ジェムの父は、ある日、失踪する。
    ハンサムな父は小さな薬局を経営していた。父はかつて、政治活動をしていて拘束されたこともあり、今回もそれ絡みかと思われた。しかし、母の怒りはすさまじく、失踪にはどうやら政治以外の理由があるようだった。

    家計は火の車となり、ジェムは大学進学の資金を稼ぐため、危険な井戸掘りの仕事に志願する。
    親方は厳しくも温かく、ジェムはその姿に、どことなく父の姿を重ねるようになる。父と似ているわけではなかったが、「父性」の象徴であるように思われたのだ。

    井戸を掘る現場は、イスタンブルから遠く離れたオンギョレンという田舎の地だった。
    仕事が終わっ

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    2021年05月17日
  • 世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今

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    忙しい時は読んではだめ。読みたい本が山のように増えてしまうのです。知既知の本も未知の本も、こんな読み方あるのだと、今すぐ手に入れたくなりました。本で世界を巡りたいならガイドブック代わりにぴったり。

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    2020年08月08日
  • 赤い髪の女

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    東洋とも西洋の間で揺れ、都市化の波が押し寄せる地で、「オイディプス王」「王書」のそれぞれを手がかりに父殺しについて考える作品。
    強く感情移入しきれない部分もあったが、それはトルコにおいては子が父親を殺すことの意味が、日本とは異なるセンテンスを持っていることが要因だと思う。
    章が細かく別れており読みやすかった。

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    2020年02月11日
  • 赤い髪の女

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    ノーベル賞作家の最新作。3部構成で、それぞれに受ける印象が異なる。第1部は学費を稼ぐため井戸掘りの見習いとして働く少年の体験談。第2部は大人になった彼が過去と向かい合う話。第3部は語り手が変わり、すべての真実が明かされる。神話や叙事詩に描かれた父殺し、子殺しのエピソードが繰り返し語られ、物語もその方向に沿って進むが結末がどうなるのかはわからない。トルコという国をほとんど知らないので、読み解くのはむずかしいと思った。

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    2019年12月22日
  • 赤い髪の女

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    ファム・ファタールものって、肝心のファム・ファタールに納得がいかないことが多いので、あんまり好きなジャンルではないのだけど(女は男性作家の女性描写には厳しいのである!!)、この表紙の女性の写真が素敵で「赤い髪の女」ってタイトルにピッタリな感じなので、手が伸びた。

    あと、ついでに、最近エルドアンのおかげで何かとお騒がせな印象の現代トルコについても、訪れたことがないせいか全然イメージがわかないので、何かとっかかりになるといいなぁ、という思いもあって読んでみた。ニュースになるのはどうしてもネガティブなことが多いしね。(小説は逆にその場所への愛を感じることの方が圧倒的に多い。たとえネガティブな事件が

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    2019年12月11日
  • 世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今

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    知らない作家読んでない本が沢山、そして読みたい本も沢山。
    まずはやはりブッカー賞あたりから制覇すべきか、それともエルサレム賞あたりか。

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    2019年03月05日
  • 雪〔新訳版〕 下

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    ネタバレ

    オルハン・パムクは、ノーベル文学賞を受賞した、トルコを代表する作家です。

    題名から受ける印象とは違い、この小説ではトルコにおける政治の複雑な状況が描かれています。

    オスマン帝国後に誕生したトルコ共和国が国是とする共和主義や世俗主義、そしてそれに対するイスラム教や民族主義、更に社会主義や共産主義といったそれぞれの政治信条が絡み合い、主要な登場人物達の思惑が交錯します。

    久しぶりに帰郷した主人公のKaは、ある事件についての記事を書く目的で地方都市カルス(トルコとアルメニアの国境付近)に来ますが、そこでかつて恋心を抱いていたイペキ、イスラム主義運動家「群青」など、さまざまな政治背景を背負った人

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    2018年11月10日
  • 雪〔新訳版〕 上

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    ネタバレ

    オルハン・パムクは、ノーベル文学賞を受賞した、トルコを代表する作家です。

    題名から受ける印象とは違い、この小説ではトルコにおける政治の複雑な状況が描かれています。

    オスマン帝国後に誕生したトルコ共和国が国是とする共和主義や世俗主義、そしてそれに対するイスラム教や民族主義、更に社会主義や共産主義といったそれぞれの政治信条が絡み合い、主要な登場人物達の思惑が交錯します。

    久しぶりに帰郷した主人公のKaは、ある事件についての記事を書く目的で地方都市カルス(トルコとアルメニアの国境付近)に来ますが、そこでかつて恋心を抱いていたイペキ、イスラム主義運動家「群青」など、さまざまな政治背景を背負った人

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    2018年11月10日
  • 世界の8大文学賞 受賞作から読み解く現代小説の今

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    名前は聞いた事があっても、どういう賞か知らない。
    有名な賞8つ。
    それぞれの過去の受賞作が紹介されている。
    かまえずに読んでみようと思う。

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    2018年09月06日