宮下遼のレビュー一覧
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主人公の過去語りで物語は進行する。大学進学費用を稼ぐために、親方について井戸掘りに従事していた頃の話だ。日が暮れると親方と語り合い、その中に父親の息子殺し、息子の父親殺しの古典寓話で、オイディプスやロスタム(ロスタムは知らなかった)が出てくる物語だ。ほかに娯楽は街に出てお茶を飲むことぐらいだ。その街で見かけた赤い髪の女に恋をしてしまう。
親方を井戸の底に置き去りにしたことを罪に感じたまま、長じて成功した主人公がたどった物語は石川達三「青春の蹉跌」を思い起こさせるが、危篤としか言いようがない方向へ展開する。やがて語り手は転じるが、その事情は父親殺しの寓話に通じたものとなり、物語は終わる。
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オルハン・パムクの本は以前にも読んでいて、静かで美しい文章と、没入できる世界を感じていて
好みだった。
本作は代表作と謳われており、期待も高かったが、あまり面白く感じれなかった。
というよりも、本作の舞台であるオスマン帝国の時代背景や細密画の知識が私にあまりにも
欠けていたためかもしれない。
オスマン帝国を舞台に、冒頭で殺された細密画師の犯人を捜すストーリーが軸となり、
登場人物が入れ替わりで語り手となってストーリーが展開していく手法は面白い。
また、東洋で花開いた細密画の文化の衰退と西洋の絵画の手法(遠近法)がもたらしたインパクト
など、東西の文明がどのように相対立し、融合していったのかに -
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オスマン帝国末期の架空の島を舞台に、ペストの惨禍と島の独立が描かれる。語り手は女性の歴史家という想定なんだけれど、下巻を読む頃には、私の中では語り手がオルハン・パムクになっていた。
疫病をめぐる諸々については、20世紀初頭の物語ではあるけれど、コロナ禍を経験した21世紀の読者にはとても身近に感じられるかもしれない。消毒と隔離、外出禁止という政策はまったく同じ。イスラム教とギリシャ正教の対立という宗教的な要素や、クレタ難民、欧州諸国の海上封鎖、帝国からの独立という筋書きがトルコらしいところ。
個人的にトルコの歴史には疎いので、どのあたりが史実とフィクションの境目なのかよくわからないまま読み進んだ -
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ネタバレ数ヶ月前に読んだ同じ著者の『赤い髪の女』がとても面白くて、ぜひ同じ著者の本を読んでみたいと思って読んだ本。歴史と美術が関係していてミステリーらしい、ということがあらすじで分かり、なんかダヴィンチ・コードみたい、ぜひ読んでみたい、と思って読んだ。「訳者あとがき」に書いてあるあらすじがとても分かりやすいので、少し引用する。
「舞台はイスラム暦一千年紀の終わりがおし迫る十六世紀末のイスタンブル。半世紀前には栄華を極めたオスマン帝国も、隣国であるサファヴィー朝ペルシアとの長い戦に疲弊し、巷には雁金が横行、人々は音曲や絵画、葡萄酒や珈琲に耽溺し、そうした不品行を過激に糺そうとするエルズルム出身の説教 -
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一人称で、人が入れ替わり立ち替わり語るという形式で、オスマン帝国の歴史に疎いこともあり、最初はなかなか頭に入ってこない。語り手は死人だったり、金貨だったりもする。
絵師を殺したのは誰なのか?という謎解きもあり、カラとシェキュレの恋物語もある。
上の真ん中くらいまで読むと、キリスト教世界の写実画とオスマンの細密画の対比が浮かび上がってくる。昔の名人の画を忠実に写すこと、人物の個性を出さずに描く細密画の理念はイスラム教の反偶像主義に裏書されており、個人の人生を一枚の絵に描き出そうとするキリスト教の画とは相容れない考え方であることがわかってくる。
細密画に描かれた人物やモノに順番に焦点を当て、 -
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ネタバレ文学作品で、作風になれるまでに時間がかかり、言葉の選び方や描写の仕方、比喩なども理解は2割もできていないくらいだが、翻訳自体は読みやすかったのでパムクの世界観に触れることができた。
タイトル通り、「わたしの名は〇〇」「わたしは〇〇」という題で章が分けられていて、ミステリーではあるものの推理するのは難しかった。
それよりも、イスラム美術のなかの細密画や、オスマン帝国期の職人たちの神に対する考え方、西洋美術の遠近法の流入などの芸術と宗教の関係性であったり、主人公?の男女の恋愛模様の描写が印象に残った。
殺したのは誰なのか、下巻ではもう少し話がすすんでくるのか楽しみ。
ルネサンスについての前 -
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トルコ・イスタンブルに暮らす少年ジェムの父は、ある日、失踪する。
ハンサムな父は小さな薬局を経営していた。父はかつて、政治活動をしていて拘束されたこともあり、今回もそれ絡みかと思われた。しかし、母の怒りはすさまじく、失踪にはどうやら政治以外の理由があるようだった。
家計は火の車となり、ジェムは大学進学の資金を稼ぐため、危険な井戸掘りの仕事に志願する。
親方は厳しくも温かく、ジェムはその姿に、どことなく父の姿を重ねるようになる。父と似ているわけではなかったが、「父性」の象徴であるように思われたのだ。
井戸を掘る現場は、イスタンブルから遠く離れたオンギョレンという田舎の地だった。
仕事が終わっ -
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ファム・ファタールものって、肝心のファム・ファタールに納得がいかないことが多いので、あんまり好きなジャンルではないのだけど(女は男性作家の女性描写には厳しいのである!!)、この表紙の女性の写真が素敵で「赤い髪の女」ってタイトルにピッタリな感じなので、手が伸びた。
あと、ついでに、最近エルドアンのおかげで何かとお騒がせな印象の現代トルコについても、訪れたことがないせいか全然イメージがわかないので、何かとっかかりになるといいなぁ、という思いもあって読んでみた。ニュースになるのはどうしてもネガティブなことが多いしね。(小説は逆にその場所への愛を感じることの方が圧倒的に多い。たとえネガティブな事件が -
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ネタバレオルハン・パムクは、ノーベル文学賞を受賞した、トルコを代表する作家です。
題名から受ける印象とは違い、この小説ではトルコにおける政治の複雑な状況が描かれています。
オスマン帝国後に誕生したトルコ共和国が国是とする共和主義や世俗主義、そしてそれに対するイスラム教や民族主義、更に社会主義や共産主義といったそれぞれの政治信条が絡み合い、主要な登場人物達の思惑が交錯します。
久しぶりに帰郷した主人公のKaは、ある事件についての記事を書く目的で地方都市カルス(トルコとアルメニアの国境付近)に来ますが、そこでかつて恋心を抱いていたイペキ、イスラム主義運動家「群青」など、さまざまな政治背景を背負った人 -
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ネタバレオルハン・パムクは、ノーベル文学賞を受賞した、トルコを代表する作家です。
題名から受ける印象とは違い、この小説ではトルコにおける政治の複雑な状況が描かれています。
オスマン帝国後に誕生したトルコ共和国が国是とする共和主義や世俗主義、そしてそれに対するイスラム教や民族主義、更に社会主義や共産主義といったそれぞれの政治信条が絡み合い、主要な登場人物達の思惑が交錯します。
久しぶりに帰郷した主人公のKaは、ある事件についての記事を書く目的で地方都市カルス(トルコとアルメニアの国境付近)に来ますが、そこでかつて恋心を抱いていたイペキ、イスラム主義運動家「群青」など、さまざまな政治背景を背負った人 -